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12年前にも同じような光景を見た。
2013年6月15日。あの時は灼熱の秩父宮ラグビー場が舞台。史上初めて、日本代表がウェールズ代表を倒した。
23-8。当時は第1次エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(HC)体制の2年目。チームはその試合の勝利から上昇の道を歩み始めた。
2025年7月5日は日本ラグビー史の中に新たに刻まれる、ターニングポイントの日となるだろうか。
今回の舞台はミクニワールドスタジアム北九州(福岡)。24-19のスコアでウェールズ代表に勝った日本代表を率いるジョーンズHCは、「若いチーム、選手たちにとって、この勝利は大きい」と言った。
日本代表がティア1と呼ばれてきた伝統国に勝ったのは、2019年のワールドカップでアイルランド、スコットランドに勝って以来。ウェールズを倒したのは2013年以来、史上2回目の勝利となった。

試合は気温34度前後の午後2時にキックオフとなった。
バックスタンドの後方は穏やかな海。青い空には白い雲がいくつか浮かんで、のどかな空気が漂っていた。
そこだけを切り取れば絵葉書のようだけど、ピッチの上には緊張感があった。
日本代表とウェールズ代表、どちらにとっても絶対に勝ちたい試合だった。
2024年は11のテストマッチを戦って4勝7敗。特に強豪国相手には大量失点をくり返した日本代表が上向きになるには勝つ以外に手はなかった。
ウェールズはテストマッチ17連敗中。伝統国の歴史の中でも、最も長いトンネルの中でチームはもがいている。日本と同様の境遇だった。
その中で日本代表が勝利をつかんだ。
ジョーンズHCは7-19とリードされた前半を振り返り、「エリアもポゼッションも上回られ、ハンドリングエラーも目立ち、簡単に相手にボールを渡していた」。
前半4分のトライは反則後のPKからラインアウトに持ち込まれ、モールで押してくるかと構えたら、テンポ良くボールを動かされた。NO8タウルぺ・ファレタウの前進をサポートしたCTBベン・トーマスがトライラインを越えた。

20分にはノックフォワードで与えたスクラムからの攻撃で崩され、インゴールに蹴り込んだボールを競い合う途中で反則。ペナルティトライと判定される。
その直後にはリスタートのキックオフでダイレクトタッチ。与えたスクラムからあっさりと攻略されてWTBトム・ロジャースに走り切られた。
3トライを重ねられて19失点を喫した。
しかし日本代表は、前半16分にラインアウトからサインプレーを仕掛けたらトライを奪えた(コンバージョンキックも成功)。
前半30分過ぎからのディフェンスの時間帯には中盤で何度攻められてもしつこく守り、最終的には確信のないドロップゴールを狙わせるなど、我慢比べで勝った局面もあった。
ジョーンズHCはハーフタイムにロッカールームで見た光景を、こう話した。
「選手たちの目を見ると、後半なにをすべきか、これからどう戦うべきかを確信しているような光を見た。それでいけると思いました」

後半について指揮官は、「リーチ マイケル主将がしっかりとリードしてタフな戦いを繰り広げてくれました」と言った。
「ディフェンスで相手を崩し、スピードを持ったプレーを出して、セットピースも安定していたと思います」
後半の40分間、新しいデザインのジャージーを着た日本代表の選手たちは相手に得点を許さず、2トライ(2G)と1PGで17点を奪い、失点はなかった。
スクラムで圧力をかけて反則を誘い、ラインアウトでも相手にクリーンキャッチさせずセットプレーで上回る。ディフェンスも前に出て止め続けることができた。
ウェールズは試合前から、60分から80分の時間帯はタフになると予想していたけれど、分かってはいても、対抗できなかった。
ラインアウト後の攻撃でボールを動かし続け、13フェーズを重ねてFB中楠一期がトライを挙げたのが後半19分。日本代表はその後も敵陣に攻め込んでいたことが生き、同24分にはPGで17-19と迫った。

逆転は後半30分だった。
スクラムで得たPKをウェールズ陣深くに蹴り込み、ラインアウト後にモールを組む。
結束を固めて前へ出て、最後にトライラインを越えたのは途中出場のWTBハラトア・ヴァイレア。SO李承信のGも決まり、ファイナルスコアを刻んだ。
リーチ主将は、「満員のファンの前で日本代表の勝利を見せることができてよかった」と最初に笑顔を見せ、笑顔でフルタイムを迎えるまでのプロセスについて語った。
「前半はプラン通りにはいかなかった」と認めた上で、「今日の勝利の要因は準備。暑さ対策だったり、どうやってこの試合に勝つのか、細かく話し合ってきました」とした。
そして、「この試合の重要性はみんな分かっていました」と付け加えた。
前半の失点も、その場でトライを許した原因こそ話し合うも、焦りはなかったという。一喜一憂せず、80分でどう攻め、どう守るかのイメージが明確だったからだ。
「前へ出てダブルタックル。プレッシャーをかけ続けることだけをやり続けようと」

序盤は不安定だったスクラムは、レフリーとコミュニケーションを取って自分たちの流儀に引き込み、最終的には日本スタイルを出せた。先発のフロントローが3人とも(紙森陽太、原田衛、竹内柊平)ピッチに立ち続けられたのも大きかった。
ディフェンスで前に出続けたから、蹴ったキックも有効だった。
今季が始まる前、ジョーンズHCは「今年はトップ10に入っているチームを倒したい。それができれば選手には、自信とチームに対する信念が生まれ、チームの成長は爆発的に上がります」と言っていた。
「(現状を)ブレイクスルーする試合が必要です」と。
この試合のウェールズ代表はワールドランキングで12位も、歴史と重みを考えれば、この試合の勝利によって選手たちが得られるものは自信、確信、そして勢いなど、いくつもある。
指揮官は「次(7月12日の対ウェールズ第2戦)は、もっと良い試合をして勝ちたい」と言った。