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オールブラックス初のオランダ出身、ホランドも先発。対フランス第1戦メンバー決まる。
左からオールブラックス初選出のFLデュプレッシー・キリフィ、LOファビアン・ホランド、CTB/WTBティモチ・タヴァタヴァナワイ。(Getty Images)

オールブラックス初のオランダ出身、ホランドも先発。対フランス第1戦メンバー決まる。

松尾智規

 いよいよ今週末、ラグビー王国ニュージーランド(以下、NZ)に熱狂のシーズンが到来する。オールブラックスがフランス代表を迎え撃つ3連戦(7月5日、12日、19日)を前にNZ国内のラグビーファンの熱気が高まっている。

 しかし初戦を目前に控え、NZ国内はざわついている。元オールブラックスのレジェンドたちが今回のフランスの選手選考に対して厳しい言葉を投げかけたのだ。
 毎週日曜日にSKY Sport で放送されるラグビー番組の中で、ジェフ・ウイルソン、ミルズ・ムリアイナ、ジャスティン・マーシャルの3人が、フランスが平均9キャップ(代表戦出場数)、さらに約半数が代表キャップ無しという経験の浅い選手でスコッドを構成したことついて、「馬鹿げているし失礼だ」、「正直に言って、本当にがっかりしている」、「代表の試合を軽視している」などと強く非難した。

 この、いわゆる「Bチーム」をNZに送り込んでくる噂は、昨年の日程発表時からささやかれていた。それが現実のものとなり、レジェンドたちの苛立ちを招く結果となった。
※フランスラグビー連盟とフランスのプロクラブチームの統括団体であるLNRの間には、スター選手の放出と十分な休息の確保に関する合意があるようだ。しかし、6月28日におこなわれたトップ14の決勝から5人の選手を選ぶことができるという例外が設けられ、第2テストと第3テストには出場する可能性は残されている。

フランス協会の公式「Instagram」より

 レジェンドたちの苛立ちがある中、NZ国内のラグビーファンの間では、初戦のセレクションについて大きな盛り上がりを見せている。今年で2年目を迎える指揮官、「レイザー」ことスコット・ロバートソンの初年度の成績は、14試合を戦い10勝4敗だった。ラグビー王国と名がつくチームの代表において、この成績は決して満足のいくものとは言えなかった。
 それでもファンは、ロバートソンHCの2年目の采配に大きな期待と興奮を隠せない様子だ。

◆念願叶ったキリフィ。新人5名。選考のキーワードは「一貫性」と「品性」


 スーパーラグビー・パシフィックの決勝戦で、クルセイダーズが王者として復活を遂げたわずか2日後の6月23日、今年最初のオールブラックスのスコッド32名が、北島に位置するタラナキの「Coastal Rugby Club」で発表された。キャプテンは昨年に引き続きLOスコット・バレット、バイスキャプテンは、FL/NO8アーディー・サヴェアとCTBジョーディー・バレットの2人体制となった。

 昨年は、PRパシリオ・トシのサプライズ選出があったが、今年は目立ったサプライズはないと言える。今回新たに選ばれたのは、PRオリー・ノリス(チーフス)、HOブロディ・マカリスター(チーフス)、LOファビアン・ホランド(ハイランダーズ)、FLデュプレッシー・キリフィ(ハリケーンズ)、CTB/WTBティモチ・タヴァタヴァナワイ(ハイランダーズ)の5選手だ。
※のちにFL/NO8ウォレス・シティティ、PRタマティ・ウイリアムズの離脱発表があり、それに伴い、ケガ人のバックアップメンバーに入っていたFL/NO8クリスチャン・リオウィリー(クルセイダーズ)が正スコッドに昇格。また、ウイリアムズの代わりとしてジョージ・バウアー(クルセイダーズ)が追加招集された。

 スコッド発表の会場には、キリフィ、ホランド、タヴァタヴァナワイの3選手が出席。16歳でNZに渡り、初のオランダ出身のオールブラックスとなったホランドの選出や、ブラックジャージを夢見てモアナ・パシフィカから昨季ハイランダーズに移籍し、ついに代表入りを果たしたタヴァタヴァナワイの選出も盛り上がった。
 FWコーチのジェイソン・ライアンはホランドについて「私たちは彼が大好きだ。彼はとにかくコンテストが好きで、ボールを持っているかどうかに関わらず、どこにいてもフィールド上でコンテストを仕掛ける」と高く評価している。
 
 新人の中でも最も注目を集めたのはキリフィだった。会場では、新人選手に恒例のインタビューがおこなわれ、「選出の知らせを受けた時、どこにいて、誰から連絡があったか、そしてその時の気持ち」を尋ねられる。この質問に対してキリフィは、「家にいて、私のパートナーのネットボールの試合の中継を見る準備をしていた時に、レイザー(ロバートソンHC)から電話がかかってきた。本当に特別な瞬間だった。そのあと、父と母とパートナーに素敵な電話をかけることができてとても幸運だった」と満面の笑みを浮かべながら「夢が叶った瞬間」を事細かに語ってくれた。

 セレクター陣もキリフィを絶賛した。
 ライアンFWコーチは、「オールブラックスになるために絶対的な願望と努力を続けてきた。バランスが取れており、ウエリントンとハリケーンズでリーダーとして多くのことを学び、彼の最高の力を引き出した」と熱く語った。

 今回の選考で印象的だったのは、コーチ陣が繰り返し使った、「Consistency (一貫性、安定感)」、「effort(努力)」、そして「Character(品性)」という言葉だ。
 これらはライアンFWコーチが常々強調しているポイントであり、優れた技術やプレーだけでなく、精神的な強さや人間性が重要であることを強調している。「オールブラックスのフォワードを選考するうえで、最も激しい局面でこそ発揮される品性が不可欠なんです」。この言葉こそが、近年のキリフィのパフォーマンスと見事に重なる。
 キリフィ自身も、今回のインタビューに限らず、スーパーラグビーのシーズン中にも「一貫性」という言葉を何度も口にしていた。そして「私の(スーパーラグビー)シーズンをとても誇りに思っている」と、自身のパフォーマンスに胸を張るコメントも印象的だった。長年この瞬間(オールブラックスになる事)を待ち続けた人の言葉には重みがあった。

写真左上から時計回りに、クリスチャン・リオウィリー、トゥポウ・ヴァアイ、アーディー・サヴェア、クイン・トゥパエア。(撮影/松尾智規)


 また「一貫性」は、選ばれてもおかしくない選手の落選にも用いられていた。クルセイダーズのFL/NO8イーサン・ブラカッダーは、スーパーラグビーのプレーオフで鉄壁のディフェンスを見せ、優勝に大きく貢献したものの、選考外となりメディアを騒がせた。
 コーチ陣は「非常にタフな選択だった」とした上で、「彼はケガにより、シーズンを通して一貫して出場することができなかった。プレーオフだけの活躍で選ぶわけではない」と説明した。

◆ホランド、リオウィリーが先発デビュー。注目は6番ヴァアイ、イオアネは左WTB


 2025年度のオールブラックスの初戦は、7月5日(土曜日、現地時間19:05キックオフ)にダニーデンでフランスを迎えておこなわれる。
 7月3日に試合出場予定メンバーの発表があった。いきなり新人のLOホランドとNO8リオウィリーが先発メンバーに名前が挙がった。また、PRノリスとFLキリフィがベンチ入り。出場すれば代表デビューとなる。

 メディアやファンの間で特に注目され、議論の的となったのは、バックローとセンターのポジションだった。
 バックローの布陣は、6番/トゥポウ・ヴァアイ、7番/アーディー・サヴェア、8番/リオウィリーの組み合わせとなった。本職がLOのヴァアイの6番起用は、若干サプライズとなったが、「彼(ヴァアイ)は2つのポジション(LOと6番)をこなす能力があり、スキルと十分なスピードを備えている」とロバートソンHCが説明をした。
 現代ラグビーにおいてバックローのラインアウトがますます重要視されている。機動力のあるヴァアイの6番起用は納得がいく。

 新人のリオウィリーが初戦からNO8の先発を任されたのは、2025年シーズンを通して見せた安定したパフォーマンス、特にプレーオフでの活躍が高く評価された結果のようだ。この起用により、サヴェアを本来最も力を発揮できるとされる7番で起用する布陣が可能になった。

 CTBのポジションは、12番ジョーディー・バレット、13番ビリー・プロクターのコンビが選ばれた。ここまで数年間13番を担っていたイオアネは、もともとのポジションの11番(左WTB)で先発となった。「リーコ(イオアネ)は、どちらのポジションでも有能だ。今回は彼がウィングに入って、フィニッシュを決めてくれるチャンスだ。ワクワクするね。彼もやる気に満ちており、チームにとって何がベストかということを考えている」と、ロバートソンHCがコメントしている。

オールブラックスの公式「X」より。スコッドメンバーとフランス戦(第1戦)試合出場予定選手


 10番ボーデン・バレットが先発し、ダミアン・マッケンジーはベンチスタートとなった。2022年に膝の大怪我を負い、長らく代表から遠ざかっていたCTBクイン・トゥパエアがベンチ入りし、本人のみならずファンにとっても嬉しいニュースとなった。

 今季のスーパーラグビーでワンランク上のプレーを見せたウィル・ジョーダンが15番に入り、全体的にバランスの取れた布陣で今季の初戦を迎えることになった。ファンの期待も例年以上に高まっている。
 一方のフランスは、スコッドの約半分が代表未経験者という若くて経験の浅いチームを送り込んできた。それでも、近年U20の大会でも好成績を収めており、選手層の厚さがあると言われている。Bチームと言えども、今回の遠征メンバーの選手たちは、スコッド定着を目指して必死に挑んでくることは間違いない。
 ロバートソンHCもそうしたフランスに対し「彼らが最も危険なのは、おそらく過小評価されているときだ」とコメントし、相手へのリスペクトと警戒を忘れてはならないと語った。

 オールブラックスとしては、いわゆるBチームと言われている相手に負けるわけにはいかない。3試合とも「マストウィン」である。実際オールブラックスは、2021年、2023年、そして2024年の対戦でフランスに3連敗中、まずは連敗を止める必要がある。

 指揮官2年目のロバートソンHCは、昨年より落ち着いた印象に見える。今年はどんなラグビーを見せてくれるのか。
 いよいよ、オールブラックスのシーズンがキックオフだ。





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