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ボスになれ。ボスになる。福田健太[日本代表/SH]
173センチ、83キロ。28歳。明大4年時は主将で日本一に。(撮影/松本かおり)
2025.06.28
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ボスになれ。ボスになる。福田健太[日本代表/SH]

田村一博

 リーグワン2024-25ではチームの全19戦中16試合に出場するも、先発は2試合だけ。総プレータイムは300分を少し超えるぐらいだった。
 その数字だけをセレクションの材料とするなら、福田健太(東京サントリーサンゴリアス)は日本代表に選ばれなかったのかもしれない。

 しかしエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)がスクラムハーフに求めているものは、チームの負けじ魂に火をつける闘志であり、勝利に導く賢さ。
 同HCは宮崎での日本代表合宿中、福田に期待するものとして、体の大きさに関係なく魂でプレーし、タフで、チームを引っ張る存在になれる素養があると期待を寄せた。

 その時、目指してほしい9番として名前を挙げたのは田中史朗だった。
 日本代表キャップ75を持ち、2013年のウェールズ代表戦勝利や2015年ワールドカップ(以下、W杯)での南アフリカ撃破、2019年W杯の8強進出に貢献した。小柄も気持ちで負けず、強気のゲームコントロールが持ち味だった。

 指揮官の期待が大きい28歳が、6月28日におこなわれるJAPAN XV対マオリ・オールブラックスで先発し、副将を務める。
「超速ラグビーでスクラムハーフの役割は大きい」と理解する。チームが描くラグビースタイルを実現するためには、「全員がアライブし続けること」と言う。

「例えばブレイクダウンを作らないでいいところではそう指示する。状況を見極める。パスやキックも大事ですが、判断や、周囲とコミュニケーションをとりながらのゲームコントロールをしていきたいですね」
 ジョーンズHCも名を挙げた先輩の名前を福田も出して、「フミさんのような、常にフォワードを支配してスマートに戦える存在になりたい」と言った。

ジョーンズHCはユーモアを交えながら高いことを求める。(撮影/松本かおり)


 トヨタヴェルブリッツから移籍1年目の今季、サンゴリアスでのパフォーマンスは思い描いているようなものではなかった。
 しかしシーズン中からジョーンズHCとはコンタクトを取り、桜のジャージーへの思いを途切らせることはなかった。

「エディーさんにも、(思うように試合に出られないからといって)自分のパフォーマンスを伸ばすことをやらなかったら終わる、と言われていました」
 その中で菅平合宿に呼ばれた。与えられたチャンスを必死につかみにいった。

 代表選出が叶った直後、シーズン中のプレータイムが短い自分に対してSNSに厳しい意見が上がったことも知っている。しかし、そういうことも「代表で戦うとはそういうこと。注目されているのだから当然」と真摯に受け止める。

 そんな状況に関係なく、その取り組み方について、宮崎合宿中もマオリ戦前日も、「背水の陣、という表現が正しいかどうか分かりませんが、覚悟を持って必死にやっています。明日もやる、ではなく、毎セッションに全力で取り組んでいます」。

「アタックでもディフェンスでもボスになれ」など、ジョーンズHCから言われることを徹底的に意識し続けたことでレベルアップ。その結果が、マオリ戦での先発起用であり、副将指名につながったと感じている。
 進化のスピードを緩めることはない。ウェールズ戦、その先に向けて、心身をさらに高める。

 サンゴリアスではプレータイムに恵まれない時期も成長し続けられた自負がある。もっとも長く9番のジャージーを着た流大のプレーや言葉は、自身を成長させるエナジーとなった。

 例えば菅平での実践的練習で好キックを蹴ったあとに話した。
「ナギーに、常に80点を出せる選手になればいいと言われ、それが腑に落ちたんです」と、その言葉で失敗を恐れている自分に気づいた。
「100点を求めすぎず、思い切って判断し、キックしたことがいい結果に結びつきました」

 マオリ戦では、数週間の合宿の間に培ってきた10番、サム・グリーンとの関係性をプレーに反映させる。
「オフ・ザ・フィールドでもコミュニケーションをとり、信頼を深めてきました。パスもできるし、走ることもできる。彼のいいところも引き出すゲームコントロールをします」

マオリ・オールブラックス戦の前日、キャプテンズランにて。(撮影/松本かおり)


 超速ラグビーにおけるスクラムハーフは、「ただテンポを上げるだけでなく、落ち着かせるところは落ち着かせ、ディフェンスでもしっかりと(全体を)コントロールしないといけない」と肝に銘じてプレーする。
「それができれば自然とボールが(自分たちに)戻ってくる。ターンオーバーボールを攻撃につなげます」

 テストマッチではないけれど、「日本を背負って戦います。目の前の小さな勝利を重ねて、チームとしての勝ちをつかみたい」と誓う。
「合宿でやってきたことは頭に入っています。パフォーマンスにこだわってきたことを出したい」

 シーズン中のプレータイムの短さから、ジョーンズHCに「ジュップン(10分)」と呼ばれてからかわれている。
「マオリ戦前も10分出られるかと言われたので、20分は出してください、と言いました」

 リラックスして迎えるキックオフ。最初からピッチのボスになって、酷暑の中でチームを勝利に導く。





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