logo
【観戦がより楽しく、深くなる】マオリ戦士の愛と絆、誇りと素顔を知る。
【写真左上】左からロス・フィリポHC、カート・エクランド主将、サム・ノック、リヴェズ・ライハナ。(撮影/松本かおり、以下同) 【写真右上】少年ファンにマオリ式の挨拶 【写真左下】新ジャージーをまじまじと見るザーン・サリヴァン 【写真右下】左からアイザイア・ウォーカー=レアウェレ、ジャレド・プロフィット、ザーン・サリヴァン

【観戦がより楽しく、深くなる】マオリ戦士の愛と絆、誇りと素顔を知る。

田村一博

 わかっていそうでそうでなかったことが、指揮官の話で理解できた。
 6月26日、マオリ・オールブラックスの試合出場メンバー発表の記者会見の席だった。

 チームの指揮を執るロス・フィリポ ヘッドコーチが言った。
 立場上、マオリ・オールブラックスはオールブラックスの手前にあり、選手にとっては、正代表へと続く階段の途中にあるものという前提で質問を受けることが多いそうだ。
 そうではない。そこを理解してほしいと伝えた。

「このチームには、マオリの血を引いており、DNAを持っていないと入ることができません。それが、世界の他のどのチームとも一線を画す点です。例えば、どこかの国に何年か住んだから(選ばれる)資格を得られるというものではない。選ばれた選手たちは、国、家族(や仲間たち全体)や(自分たちのカルチャーなど)あらゆるものを代表してプレーします」

エクランド主将(左)、ノック(中央)、ライハナは、ファンの歓迎ぶりに感激していた。(撮影/松本かおり)


 6月28日(土)、秩父宮ラグビー場でおこなわれるJAPAN XV対マオリ・オールブラックスは、迎える側にとっては、翌週から始まるウェールズ代表とのテストマッチ2連戦へ向けた、強化上とても重要な位置付けにある。
 しかし、マオリ・オールブラックスにとってはあらためて自分たちのアイデンティティを強く感じ、仲間と共有、その価値を発信する機会でもある。

 今回のツアーでキャプテンを務めるフッカーのカート・エクランドも、ただ試合をしに来ただけではないと言った。
 同主将は、成田空港に到着した時、ホテルに入る際にも日本のファンが出迎えてくれたことに感激し、日本ではいつもそうなんだ、と笑顔を見せて言った。

「こういう空気感を感じられるのがいいんです。応援してくれている人たちの前でプレーするのが楽しみ。週末の試合ではジャパンを応援する人が多いと思いますが、両方のチームをサポートしてくれたらいいですね」

 会見に出ていたスクラムハーフのサム・ノックも「(日本とマオリは)お互いをリスペクトしていると思います。それを直接感じられるのがいい」と話し、スタンドオフのリヴェズ・ライハナも「相手への尊敬や長く付き合うところなど、日本とマオリの文化は似ているところがあるな、と来るたびに感じます」。
 ライハナは練習会場にも多くのファンが来てくれたと話し、主将同様、その人たちの前でのプレーを楽しむとした。

 試合前日には、プロップのジャレド・プロフィット、ロックのアイザイア・ウォーカー=レアウェレ、フルバックのザーン・サリヴァンがファンサービスしている時間に出会った。

 今回のツアーで着用するジャージーは、昨年のものとは違う。アディダス製という点は同じも、新ジャージーは「Te Tauihu Matua」(テ・タウイフ・マトゥア)と名付けられたもの。ンガーティ・トゥファレトア族の現代マオリアーティストであり、タ・モコ彫師、ハカ作曲家、ラグビーコーチでもあるカフランギ・ファラオア氏によって手掛けられたそうだ。

マオリの魂をそれぞれ話した3人。照れながらコリンズ愛を語るウォーカー=レアウェレ(左上)と、落ち着いているプロフィット(右上)と、爽やかなザーン・サリヴァン(左下)。マオリ・オールブラックス(右下)のジャージーは2年ごとに更新され、ンガティ・トア族およびテ・アティアワ族のトフンガ(精神的指導者)立ち会いのもと、伝統儀式によって正式に送り出される。(撮影/松本かおり)


 マオリ文化におけるwhakapapa(血統)、つながり、アイデンティティを力強く象徴したデザインとなっていることについては、説明がなくとも3人はすぐに分かった。
 サリヴァンに、「俺ってマオリだなあと感じる瞬間はどんな時?」と尋ねると、「いつでも」と返ってきた。

 プロフィットは新ジャージーを見て、「このチームでプレーをしてきた歴代の選手たちとのつながりを強く感じるデザイン」と話した。
 サリヴァンとウォーカー=レアウェレは、ジャージー前面の下の方にある湖に関心を示し、「そこにワカが浮かんでいるよね」と指を差した。

 ワカとは、マオリが使うカヌーのことだ。サリヴァンは、「みんなが同じワカに入る。一緒に戦うんだ、というものが感じられます」。ウォーカー=レアウェレは自身のラグビー人生について、「プレーヤーとして、ワカに乗って前へ進んでいるとイメージしてやっています。そして、それは世界中のマオリの人たちも運ぶこと、と解釈しています」。
 本当に絆が深い。

 3人は、自分たちのこともいろいろ話した。
 31歳にして初めてマオリ・オールブラックスに選ばれたプロフィットは、その喜びを「怪我をしたシーズンもあった中で、今回選ばれました。自分も家族も、とても誇りに感じています」と話した。

 タラナキ代表として実績を積み重ねていたものの、ハリケーンズでスーパーラグビーにデビューしたのも27歳と遅かった。
「若い選手たちに追い越されていく。それを辛く感じたこともあったけれど、自分なりのゴールを定め、それを見つめ続けたからたどり着けた」と人生観を口にした。

 ラグビーだけで食べていくことはすぐに叶わなかったから、高校卒業後しばらくは、車のガラスを修理する会社を興した。
「でも、本格的にラグビーに打ち込めるとなったときに仕事のことを問われて、すぐに畳んだ」
 そう言って愉快そうだった。

 日本のスクラムは低い。対応策について問うと、「日本の選手は内ももがぐっと開いて、関節が柔らかい。それで低くなれると思う。羨ましいけど、負けず僕たちが押します」。
 自分と家族の誇りを背負って、セットプレーで貢献したいと力強かった。

 サリヴァンは、今回ともにツアーメンバーに選ばれている兄・ベイリンとの間柄について、「お互い年齢を重ねているだけで関係性は昔と一緒。絆も強いし、どこにいても支え合っています」と言って、自分の右手首を指差した。

 そこには、兄弟が手をつないで歩いているタトゥーがあった。
「ドラゴンボールです」
 ふたりは幼い頃から仲が良くて、家の中でラグビーごっこをしていたらしい。

ザーン・サリヴァンの右手首のタトゥー。兄弟愛が強い。(撮影/松本かおり)


 自分がマオリであることに強く誇りを感じているサリヴァンは、このチームに入って戦える喜びについて、「ファミリーを代表して戦い、いろんなことを表現して伝えられるところ」とする。
「戦士であり、強く、家族を尊重し、文化性が高い。それがマオリです」

 197センチ、122キロの巨漢ロックで、昨年の日本ツアーにも参加して2試合に出場したウォーカー=レアウェレは、この時期の日本の気候について、「ニュージーランドにこの暑さはないですね。フィジーみたい」と苦笑した。

 パワフルなボールキャリーが持ち味の28歳はギズボーン生まれ。プレーの激しさと違い、とても穏やかだった。
 髪の色がゴールドでかっこいい。染めた理由について尋ねると、「子どもの頃からジェリー・コリンズに憧れています。それで彼を真似ています」と話した。

「私の小学校を訪問してくれたことがあり、それから好きになりました」
 相手を薙ぎ倒して前に進むプレースタイルもお気に入りだけど、子どもの時代の記憶は一生ものだ。

 人間味あふれるメンバーたち。そして力強い。さらにあったかい。
 ラグビー王国からやって来た戦士が結束したとき、とんでもないパワーが生まれそうだ。
 JAPAN XVだって猛練習を経てまとまっている。互いのプライドとチーム愛がぶつかり合う熱い夜は、もうすぐだ。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら