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すでにご存知の方も多いかもしれないが、4年に1度編成されるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズにはユニークな慣習がある。チームに帯同するライオン・ビル(BIL)のお世話を最年少の選手がしなければならないのだ。
ライオンといっても、もちろんぬいぐるみ。トレーニングや試合はもちろん、チームのイベントなどにも連れて行く責任を担う。一見、簡単そうに思えるが、悪い先輩たちがイタズラを仕掛けるので、なにかと苦労する。
ちなみに、ビルの前はレオという別のライオンがマスコットだったが、20年近く役目を果たした後、2013年に引退させられ、チーム名の頭文字(British & Irish Lions)を取ったビルが新たに登場した。前回のパンデミック渦で行われたツアーでは、現在NFLのジャクソン・ジャガーズに所属中のルイス・リース・ザミット(Louis Rees-Zammit)がお世話係を務めた。
今回の遠征で、最も若い選手はヘンリー・ポロック(Henry Pollock)。188センチ、105キロのイングランド代表フランカー。まだ20歳だ。
ライオンズは日本時間の6月16日未明、ポルトガルでのキャンプの様子が収められた約19分のVLOG(ビデオブログ)をYOUTUBEで公開。チームミーティングでキャプテンのマロ・イトジェ(Maro Itoje)からビルを託されるポロックが映っていた。
「ヘンリー、君にビルを託すことを光栄に思うよ。君はいつ何時も、どのトレーニング・セッションでも、キャンプ中のホテルでも、そばに連れておかないといけない。ビルが行方不明になったり、どこか徘徊することになったりしたら、君には罰があるだろう。要は、ビルは君の新しい彼女みたいなことだよ。おめでとう!」
実は、イトジェも2017年のニュージーランド遠征に22歳で参加した際、ビルのお世話係として痛い目に遭った過去がある。元スコットランド代表スチュアート・ホッグ(Stuart Hogg)にビルを隠されてしまい、翻弄された。ちなみにそのホッグも、かつてはお世話係だった。過去に、イングランドのスポーツメディア Planet Sportの取材に対して「あのライオンを抱くのは悪夢です。ビルのたてがみのおかげで目が痒くなり、花粉症が悪化しました」と語っている。
もしビルを失くしてしまったらどうなるのか?
イギリスのスポーツ専門チャンネルSky sportsのインタビューで、今回ライオンズとして2度目のスコッド入りを果たしたスコットランド代表デュハン・ファン・デル・メルウェ(Duhan van der Merwe)は答えている。
「必ず見つけないといけません。絶対に。でも、確実に何回か見失うことになるでしょう。僕たちによって、直にわかることになります。彼にとっては大変な仕事になりますね」
その予言通り、トレーニング前、グラウンド脇に置かれたビルをアイルランド代表バンディ・アキ(Bundee Aki)が発見。早速、トレーニングルームにあるロッカーの裏に隠す様子がVLOGに収められている。外から見えないよう、他の荷物や用具で周りを固める周到ぶりだ。
ポロック :この辺のどこかに置いたんだ!
チームメイトたち:どこか? そりゃ把握しておかないといけないだろう
ポロック :いや、あそこに置いてトレーニングから戻ってきたんだ…あなただろう!(指をさす)
アキ :そりゃとんでもない言いがかりだな!(笑)
ポロックは「見失わないために、ビルの体内にAirTagを入れて縫合しようかと思った」とテクノロジーの力を借りようと考えたことも明らかにしている(Planet Sports)。セッションからの帰りには、ビルを脇にしっかり抱えて帰るポロックの姿があった。
また、このVLOGには、元アイルランド代表ジョナサン・セクストン氏が、イングランド代表マーカス・スミスにゴールキックをコーチングする場面も映っている。自身も2013年、2017年のツアーに参加し、今回のツアーにはアシスタントコーチとして関わっている。
そんなユニークな一面を持ち合わせるライオンズの初戦は、いよいよ6月20日(日本時間/6月21日 午前4時キックオフ)に迫る。アルゼンチン代表ロス・プーマスとアイルランド・ダブリンで対戦。その後、オーストラリアへ移動し、スーパーラグビーのチームやNZ・AUS連合軍(ANZACインビテーショナルXV)と対戦する。
オーストラリア代表ワラビーズとの初戦は、7月19日(土)。もちろん、目の前にある一つ一つの試合がすべてだ。
ただ、今までのツアーでも試合を重ねる中で、結束や調子が格段に上がっていくのが目に見える。シックスネーションズではバチバチにやり合い、異なる歴史と背景を持つ4つの国から集まった選手たちがひとつになっていくのは、ライオンズを見る面白みの一つだと思う。
1か月後には、どんなチームになっているのだろうか。