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2年の時を経て、再び決勝で激突する。
スーパーラグビー・パシフィック2025は、頂点を決める戦いを残すのみとなった。
決勝の舞台に立つのは準決勝で壮絶な激戦を制し、ホームでのプレーオフの連勝記録を「31」まで伸ばしたクルセイダーズ。2年ぶりの王座奪還を目指す。
迎え撃つは、レギュラーシーズンを首位で駆け抜けたチーフス。準々決勝でブルーズに苦杯をなめるも「幸運の敗者」として這い上がってきた。3年連続で決勝の舞台に立つ。
準決勝での両軍のパフォーマンスは、決勝の激闘を予感させるものだった。シーズンを締めくくる一戦を目前に、ニュージーランド(以下、NZ)国内は大きな盛り上がりを見せており、チケットはあっという間に完売した。
見ごたえのあった準決勝の2試合を振り返り、決勝の展望をする。
◆ファイナルの激戦を予想させた準決勝×2
【準決勝/6月13、14日の結果】
●クルセイダーズ21-14ブルーズ
死闘と呼ぶにふさわしい一戦だった。
キックオフから両軍がスイッチ全開で激しい攻防を繰り広げた。ブルーズが序盤を優勢に進め、21分までに2トライを奪い14-0とリードする。しかしクルセイダーズの逆襲が始まり、24分、37分とトライを挙げて14-14の同点で折り返した。
後半は両者譲らず、スコアが動かぬ緊迫した展開に。試合終盤の70分、クルセイダーズは敵陣深い位置でのラインアウトからFW戦に持ち込み、最後はFBウィル・ジョーダンがラックサイドを潜り込み、この試合2つ目となるトライを挙げて21-14と勝ち越した。

残り時間は僅か。さらにブルーズにシンビン(一時退場)が出たため勝負あった、と思われた。しかし80分を超えてから約7分間のロスタイムは圧巻だった。同点を目指して猛攻を仕掛けるプルーズ。クルセイダーズは執念のディフェンスで阻む。最後はブルーズが力尽きた。
大事な場面で規律が乱れた敗者に対し、クルセイダーズは粘り強いディフェンスで決勝行きの切符をつかんだ。
●チーフス 37-17 ブランビーズ
序盤にLOトゥポウ・ヴァアイのシンビンで数的不利となったチーフスは、ブランビーズに先制トライを許した。しかしSOダミアン・マッケンジーが正確なペナルティゴール(PG)で着実に得点を重ね、19-12とリードしてハーフタイムを迎えた。

後半に入り、一時は19-17と追い上げを許すも、マッケンジーがPGを重ねてスコアボード上で着実にプレシャーをかけ続ける。67分に生まれた途中出場のSO/FB、ジョッシュ・ジェイコブのトライは決定打となったか。37-17と突き放した。
トライ数は3本ずつと同数ながら、ブランビーズの反則が目立ち、マッケンジーの正確なキック(6PG、2Gの22得点)が勝敗を分けた。その背番号10はミスタックルでトライを許す場面もあったが、大事な場面で素晴らしいトライセーブも。チームを勝利に導いた。
ブランビーズが自信を持つセットピース(スクラム、ラインアウト)にしっかり対抗できた事も勝因となった。
◆実力者が並ぶ両チームが激突する決勝。それぞれの状況は?
【決勝プレビュー】クルセイダーズ×チーフス
6月21日(土)NZ時間7:05 PM/日本時間4:05 PM /アポロプロジェクツ・スタジアム(クライストチャーチ)
今季両軍の対決は、今回で3度目になる。レギュラーシーズンでの対戦は、2節(2月21日)にハミルトンで49-24、13節(5月10日)はクライストチャーチで35-19と、いずれもチーフスが強さを見せて勝利している。
13節の対戦時はクルセイダーズが19-7と前半をリードも、後半に入るとチーフスの猛攻が始まり、クルセイダーズを無得点に抑え込む。見事な逆転劇だった。
ただこの試合のクルセイダーズは、FBジョーダンを膝の負傷により前半途中で失った。そのことを忘れてはいけない。
●クルセイダーズ/PRウイリアムズが復帰で万全体制
クルセイダーズのメンバーは、準決勝から2人の変更があった。NZのスポーツニュースを賑わせたのは、準々決勝で膝を負傷したPRタマティ・ウイリアムズが回復し、背番号1で先発メンバーに復帰したことだ。オールブラックスの1番に定着しつつある巨漢PRの復帰は明るい材料だ。
ジョージ・バウアーがベンチに回ったことも心強い。バウアーは、準決勝ではウイリアムズの穴をしっかりと埋めた。その働きは、指揮官のロブ・ペニーが「(バウアーが)先発出場できないのは本当に不運だが」と言うほどだった。
もう1つの変更点はWTB/FBのチェイ・フィハキに代わり、マッカ・スプリンガーが先発することだ。フィハキは準決勝をヘッドクラッシュで途中退場。脳震盪のため今週は欠場となった。スプリンガーは15節(5月23日)のハイランダーズ戦以来のメンバー入りで、11番を背負って先発する。
このWTBのセレクションに関してペニーHCは、「マッカ(スプリンガー)は裏で懸命に練習を積んできた。選手たちには常に “チャンスは来る、準備しておけ” と言っている。その時が来た。彼は準備万端だよ」と語った。
今季、5節(3月19日)のキッズラウンドで5トライを記録しているスプリンガーが大一番でどんなプレーを見せるか。
先発メンバーに10人のオールブラックスが並び、ベンチにも5人のキャップホルダー(ワラビーズも含む)が控えるなど、非常に強力な布陣となっている。

●チーフス/先週の勢いを継続、先発メンバー変更なし。
チーフスは、先週のHIAで途中退場したFBのショーン・スティーヴンソンの出場許可が出たことにより、先発メンバーは準決勝から変更なしとなった。ベンチに若干の変更があり、PRエイダン・ロスが17番のジャージーを着て、今季ケガで出場機会が少なかったWTBエテネ・ナナイ・セトゥロが決勝の舞台でベンチ入り。後半からのインパクトに期待がかかる。
こちらも10人のオールブラックスが先発メンバーに並ぶ。クオリティーが高く、将来有望な選手が控えており、後半にギアを入れて戦える布陣となっている。
メンバー発表後に指揮官のクレイトン・マクミランは、「シーズンを通して確かな継続性を築いてきたので、クライストチャーチでもそれが活きるでしょう。クルセイダーズは決勝戦で実力を発揮する。それを何度も証明してきたチーム。彼らは的確で冷静で、そしてホームでの戦績に誇りを持っています。私たちは決勝戦に向けて、良い戦いができる準備ができている」と語った。
プレーオフを知り尽くしているクルセイダーズをリスペクトしながらも、今季は自信があるのだろう。その様子がうかがえる。
◆決戦80分の展望と注目ポイント。
互いに負けられない決戦。また、クライストチャーチの冬の気候を考慮すると、やはり試合はキッキングゲームになる可能性が高い。キックの精度とキック処理に注目がいく。
準決勝ではチーフスの10番、マッケンジーのゲームコントロールが光っていた。ブルーズに敗れた準々決勝から学んだようだ。決勝でも彼のゲームメイクが注目される。
クルセイダーズは、10番リヴェス・ライハナの成長が印象的で、対面のマッケンジーとの対決が楽しみ。
準決勝では、両軍ともセットピース(スクラム、ラインアウト)が相手を上回っていた。今回の試合でも、その局面での優位性を見極めたい。そして一番の注目となるのが、ブレイクダウンでの激しいバトル戦。両軍FW第3列の戦いから目が離せない。
どちらが勝つのか想像がつかない、見どころ満載の試合となるだろう。歴史に残る一戦となるかもしれない。両軍ともレベルの高い選手がひしめき合っている。オールブラックス同士の対面対決をはじめ、ほとんどのポジションが注目マッチアップとなる。
オールブラックスのスコッド発表が決勝の2日後(6月23日)に控えている。当落線上にある選手は、この決勝の大舞台でのアピールが代表入りの可能性を高める。
初の代表入りとなりそうな、PRノリス、NO8リオウィリー、WTBカーター、そして代表復帰が濃厚のCTBトゥパエアらのパフォーマンスに注目してみたい。
【注目マッチアップ】
・フレッチャー・ニューウェル×オリー・ノリスのPR対決
・クリスチャン・リオウィリー×ウォレス・シティティのNO8対決
・リヴェス・ライハナ×ダミアン・マッケンジーの10番対決
・デイヴィッド・ハヴィリ×クイン・トゥパエアの12番対決
・セブ・リース×リロイ・カーターのWTB対決
・ウィル・ジョーダン×ショーン・スティーヴンソンの15番対決

◆高まる両軍のモチベーション。「カウベル」持ち込み禁止で物議も
決勝は、クルセイダーズのホーム、クライストチャーチで開催される。準々決勝でチーフスが敗戦した事により、シードが入れ替わったからだ。その結果、クルセイダーズが主催者権限を活かし、チーフスの応援に欠かせないCowbell(カウベル)の持ち込み禁止の発表をした。
この決定はまたたく間にSNSやトークバックラジオ、TVのニュースでも大きく取り上げられる事態となった。これに対し、チーフスは、「バーチャルカウベル」を作成し、スタジアムに駆け付けるファンにダウンロードを呼びかける対策に出るなど、試合前から両チーム間に火花が飛び散っている。
NZダービーでの決勝ということで大きな盛り上がりを見せているが、両チームには、特別なモチベーションがある。
クルセイダーズにとっては本拠地、アポロ・プロジェクト・スタジアムでの最後の試合となる可能性がある。来年の4月に、屋根付き新スタジアムがオープンする予定があるからだ。2011年の大地震以降、14年間にわたりホームとしてきたスタジアムで、有終の美を飾りたいと強く願っている。
現スタジアムでの日々を振り返ると、オールブラックスの指揮官、スコット・ロバートソンがクルセイダーズの指揮を執り、7連覇を達成した黄金期と重なる。何度かの優勝時にはロバートソン氏が、ブレイクダンスを披露し、選手、そしてファンを沸かせていた。
※来季のシーズン序盤、アポロ・プロジェクト・スタジアムでホームゲームを開催する可能性は排除されていない。
チーフスは、今季限りでチームを退団し、アイルランドのマンスターのHCに就任するマクミランHCの花道を優勝で飾りたいと強く願っている。そして何といっても、決勝で2年連続涙を呑んできた選手たちだ。「今年こそ」という気持ちはこれまで以上に強い。
過去の決勝での対戦は、2021年(スーパーラグビー・アオテアロア)が24-13、2023年は、激戦の末25-20と、いずれもクルセイダーズが勝利している。
クルセイダーズが絶対王者の名を取り戻し、2年ぶりに王者の座に返り咲くのか。チーフスが「3度目の正直」で2013年以来の栄冠をつかむのか。
白熱間違いなしの決勝となる。