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【ストーリー満載 車いすラグビー/日本選手権・予選(福岡大会)】今季公式戦本格スタート! 東北ストーマーズが1位通過
「全員が戦力になれるように準備したい」と日本選手権に向けブラッシュアップを誓った東北ストーマーズの中町俊耶(左)。(右:草場龍治・福岡ダンデライオン)。(撮影/張 理恵)

【ストーリー満載 車いすラグビー/日本選手権・予選(福岡大会)】今季公式戦本格スタート! 東北ストーマーズが1位通過

張 理恵

 新たなシーズンを迎えた車いすラグビー。
 今年もまた、クラブチームのプライドをかけた戦いの火ぶたが切られた。

 6月7日と8日、「第27回 車いすラグビー日本選手権予選 福岡大会」が福岡市障がい者スポーツセンター(福岡市)で開催された。
 今大会には、TOHOKU STORMERS(福島)、Fukuoka DANDELION(福岡)、SILVERBACKS(北海道)、GLANZ(東京)の4チームが出場し、TOHOKU STORMERS(1位、3戦全勝)とFukuoka DANDELION(2位、2勝1敗)が本大会への切符を獲得した。

 4チーム総当たりでおこなわれた全6試合のうち、最高潮の盛り上がりを見せたのが、TOHOKU STORMERS対Fukuoka DANDELIONの一戦だ。
 昨年12月の日本選手権では3位決定戦で対戦し、TOHOKU STORMERS(以下、ストーマーズ)が6点差で勝利を収めている。

 試合は、予想を超える凄まじいデッドヒートとなった。
 ストーマーズのスターティング・ラインアップは、パリ・パラリンピック金メダリストの中町俊耶と橋本勝也、リオ・パラリンピック銅メダリストの庄子 健、日本代表強化指定選手の横森史也。
 対するFukuoka DANDELION(以下、ダンデライオン)は、パリ金メダリストの乗松聖矢と草場龍治、日本代表強化指定選手の堀 貴志、そして韓国代表として活躍した朴 雨撤(パク・ウチョル)をスタメンに起用した。

「日本選手権のリベンジを果たそうと、課題を修正してこの試合に臨んだ」というダンデライオンは、立ち上がりからトップギアでストーマーズを追い込み、堅いディフェンスでターンオーバーを奪うと、第1ピリオドを1点リードで終える。
 第2ピリオド開始直後にはストーマーズが逆転し、一進一退の気の抜けない攻防が続く。
 スペースを広く使い展開するストーマーズのラグビーに対し、そのスペースを走力で埋めるダンデライオン。拮抗した状況のまま、20-19とストーマーズのわずかなリードで試合を折り返した。

前回大会では準決勝で敗退し、悔しさをあらわにした東北ストーマーズの橋本勝也。初優勝に向けめらめらと闘志を燃やす。(撮影/張 理恵)


 課題としてきた、トライライン手前の「キーエリア」でのオフェンス強化に取り組んだダンデライオンは、トライ成功率からもその成果がうかがえる。ポイントゲッターとして大きな役割を担うハイポインター(障がいが比較的軽い選手)が入っていないラインアップで、これほどのパフォーマンスを繰り出すのは容易ではない。

 だが、それを上回ったのが、国内トップ3の実力を誇るストーマーズの適応力だった。
「相手のオフェンスに対応するのに時間がかかり、第3ピリオドまでは自分たちの形が見つけられなかったが、相手の動きに対して細かい変化をつけたことでうまくいった」
 キャプテンの中町が語るように、相手のトライを阻止するキーエリアでのディフェンスは、時間帯が深まるにつれ強度を増し、スコアを遠ざけただけでなくミスをも誘い、ターンオーバーへとつなげた。
 そうして、じりじりと点差を広げ40-34で勝利し、1次予選(福岡大会)1位通過を果たした。

 ゲームの中で解決の糸口を見出し、「細かい変化」で適応するに留まらず、形勢を逆転させる。チーム結成から7年で2度の日本選手権・準優勝を遂げた、ストーマーズの地力を示すかのような戦いぶりだった。
 しかし、スタメン4人のフル出場に終わり、一度も選手交代ができなかった課題を中町は指摘し、「全員でプレーできるようにもっともっとやらないと、チームとしての厚みがなくなる。優勝という目標を達成するためにはそこが重要だと思う。みんなが戦力になれるように準備したい」と、気を引き締めた。

 前回の日本選手権では準決勝で破れ、どのチームよりも大きな悔しさをにじませたストーマーズ。
 今シーズン掲げるスローガンは「精進」の二文字だ。
 チーム初となる優勝に向け闘志を燃やす絶対的エース・橋本は、力強く意気込みを口にした。
「日本一を獲ることしか見ていない。やるべきことはたくさんあるが、質のいい練習をしていこうとチームで話している。日本選手権での戦いを楽しみにしていてほしい」

ミッドポインターとして高いパフォーマンスを発揮した福岡ダンデライオンの朴雨撤(右)。乗松聖矢(左)はチームの成長を感じつつも厳しく予選での戦いを振り返った。(撮影/張 理恵)


 対照的に、硬い表情で試合を振り返ったのは、ダンデライオンの乗松。
「チームは成長しているし、練習の成果が出てステップアップはできていたと思うが、スコアの質を見ると、1センチ、1ミリずれていたらトライできなかったというような、ぎりぎりのスコアが多い。この試合で6点の差を生んだのは、ストーマーズにある『賢さ』。それを盗めたらこの点差を詰められる。今年度のチームスローガン『賢くなる』を意識して、選手権に向け改善したい」
 地道にチーム力を積み上げていくダンデライオンが、今年こそは表彰台に立つのか。2次予選、そして本大会での戦いにも注目だ。

 大会2日目、ともに2敗で迎えた、GLANZ 対 SILVERBACKSの一戦では、ピリオドを重ねるごとに10点差、18点差、31点差…と相手を引き離したGLANZが76-44と大勝。チーム設立2年目にして初勝利をつかみ、喜びに沸いた。

 GLANZ(グランツ)は、日本代表として活躍した渡邉翔太を中心に、2024年に結成。
 メンバーのほとんどが、埼玉県にある国立障害者リハビリテーションセンター(以下、国リハ)のラグビー部出身で、渡邉以外は車いすラグビー初心者レベルからのスタートだった。

 救急救命士を目指し大学に進学した渡邉は、大学1年生のとき、ライフセービングの部活中に頸椎を損傷し障がいを負った。国リハに入所して車いすラグビーに出会った自身の経験から、その後クラブチームで本格的に競技を始めてからも、原点であるラグビー部との交流を続けていた。
 しかし、コロナ禍の影響で3年間交流が中断。3年分のOBや在籍者が、ラグビーをやりたくても、できていないという現実をもどかしく感じていた。
 若手を受け入れる、若手がラグビーを始められる環境が少ないことが、自分の中ですごく引っかかったという渡邉は、その環境を整えたいという一心で「やるしかない」と腹をくくり、チーム立ち上げに向け奔走した。

 もちろん、選手としてのモチベーションも落としてはいない。トップレベルの選手たちが集まる練習に参加し、日本代表への復帰を目指している。
 ヘッドコーチを兼任する今、「大変ではあるが、こういう若手たちが育っていくんだと思うと、大変もがんばれる」と笑顔を見せ、「(若手が育って)トップ選手とのギャップが埋まっていけば、日本ラグビーの成長にもつながるはずだ」と先も見据える。

熱い思いを持ってチームを立ち上げた渡邉翔太。グランツは結成2年目で初勝利を収めた。(撮影/張 理恵)


 ドイツ語で「輝く」を意味する「GLANZ」。
 障がいを負って落ち込んでしまう人も多いが、こういう明るい世界もある。一歩踏み出し、体を鍛えることで生活レベルも上がる。ラグビーだけでなく、人生のいろいろな場面を明るくさせるチームでありたい。そんな思いをチーム名に込めた。

 2年目となる今シーズンは、強力“助っ人”でも話題を呼んだ。
 昨年のパリ・パラリンピックにも出場した現役カナダ代表の3選手がメンバーに加わった。
「伸び盛りのうちに、若い選手たちにはしっかりとした知識をつけてもらいたい」と、親交のあった神田・リオ・コバックに渡邉がオファーし、プレーヤーとしてだけでなくコーチングでも力を貸してほしいとサポートを頼んだ。
 快諾したコバックはカナダ代表のチームメートにも呼び掛け、そうして、サプライズなラインアップが実現した。
「競技を始めたばかりの選手にいろいろな事を教えて、彼らのプレーレベルを引き上げたい」
その言葉通り、コートでは司令塔としてポジション取り等の指示やアドバイスを送り、ベンチではムードメーカーとして誰よりも大きな声でチームを鼓舞した。

 13歳のとき、日本のクラブチームで車いすラグビーを始めたコバックは、その2年後にカナダに渡った。父親も現役の車いすラグビー選手で、埼玉を拠点とするクラブチーム(AXE)に所属している。
7、8年ぶりとなった日本でのプレーに「ナツカシイ」と表情がゆるんだコバックだが、国際大会ではベストプレーヤー賞を獲得するほどの実力と才能の持ち主だ。
「日本はパラリンピックで金メダルを獲得した。(日本選手権に出場して)世界トップレベルの選手たちと対戦したい」
 GLANZの一員として、自身の目標を意気揚々と語った。

【写真上】世界の舞台で頭角を現す神田・リオ・コバックのパフォーマンスが光った。(撮影/張 理恵)
【写真左下】カナダ代表としてパラリンピック4大会に出場したトラヴィス・ムラオ(中央)
【写真右下】パラリンピック2大会出場のアンソニー・トレーノー(右)


 初勝利を収めたGLANZは1勝2敗の3位で1次予選を終え、本大会出場をかけプレーオフに臨む。5チームが出場するプレーオフで、本大会への切符を獲得できるのは2チーム。GLANZがその1枚を勝ち取ることができるのか、今後の伸びしろに期待だ。

 車いすラグビー日本選手権の1次予選は、6月28~29日に兵庫大会(南あわじ市文化体育館・元気の森ホール)、7月5~6日に高知大会(高知県立障害者スポーツセンター)がおこなわれる。
その結果をもとに、1次予選の1位同士、2位同士、3・4位チームが2次予選(北海道、埼玉、神奈川の3会場)を戦い、12月の本大会に出場する8チームが決定する。

 チーム一丸となって高みを目指す、チームへの思いがほとばしる、クラブチーム日本一決定戦への道のりに注目だ。

【試合結果】
◆大会1日目
TOHOKU STORMERS ○ 81 – 23 ● SILVERBACKS
Fukuoka DANDELION ○ 50 – 30 ● GLANZ
TOHOKU STORMERS ○ 83 – 28 ● GLANZ
Fukuoka DANDELION ○ 66 – 31 ● SILVERBACKS
◆大会2日目
GLANZ ○ 76 – 44 ● SILVERBACKS
TOHOKU STORMERS ○ 40 – 34 ● Fukuoka DANDELION


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