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【Just TALK】「『選ばなあかんな』と思われるように」。奥井章仁[日本代表/トヨタヴェルブリッツ]
178センチ、105キロ。23歳。リーグワン2024-25シーズンは9試合に出場(7番、8番で8戦先発)。5月のJAPAN XVでも2試合でプレーした。(撮影/松本かおり)
2025.06.15
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【Just TALK】「『選ばなあかんな』と思われるように」。奥井章仁[日本代表/トヨタヴェルブリッツ]

向 風見也

 6月12日に発表されたラグビー日本代表の宮崎合宿参加メンバー37選手にあって、初選出となった16名のうちのひとりに奥井章仁がいる。身長178センチ、体重105キロの23歳だ。

 主将を務めた大阪桐蔭高では2年時に高校日本一に輝き、2023年度には帝京大の副将として大学選手権3連覇(現時点で4連覇中)を達成。いまはトヨタヴェルブリッツのフランカーとして、ワークレートとリーダーシップを示す。

 パフォーマンスとともに物事への態度が買われたのだろうと思わせるシーンが、6月7日、長野・菅平高原であった。

 参加していた代表候補合宿で汗を流すさなか、県内のラグビースクール生向けのクリニックに出席。タックルの部門を任され、明快な指導を重ねる。

 今回、覚えてほしいことはひとつだと切り出し、バインドに焦点を絞って実演する。

 緩衝材を持った他のコーチ役選手を倒しにかかる瞬間、掴んだ相手の下半身を自身の手元へ引き込む。そのまま後方のマットへ倒す。

 ドスン、という音で喝さいを集める。

「受講生」が列をなしてぶつかり始めると、奥井は「いいね」「いいね」とひとりひとりを褒める。セッションが一段落すると、生徒からの質問にも率先して答えた。

6月7日におこなわれた菅平でのラグビー教室にて。(撮影/向 風見也)


——うまくなるには何をすべきか。

「僕がやっているのは、相手の腰を見る——という練習」

 ハンドダミーを持って左右にステップを踏む走者役と対峙し、刺さる動作をする。相手のランコースを読みながら間合いを詰める際、胸元や足元ではなく「腰」を狙うのが肝だ。

「下(半身)を見過ぎると頭が下がって飛び込んじゃう(かわされやすくなる)し、上(半身)ばかりを見ていると姿勢が高くなって飛ばされちゃう。だから腰を。高くもなく、低くもなく、自分のいい姿勢で入れるから。そういう練習をしてくれたら」

 拍手がわく中、別な少年が挙手する。
 
——タックルへ入るためにしゃがむのは、動き出してから何秒目が目安ですか。

「まず(ターゲットをめがけて)3歩、前に出る。あと、相手が強い姿勢を作ってくるときに、低くなる、というのが目安かな。あまり『何秒』と考えすぎちゃうと、相手が動いてくるなかだと成功しづらい。相手の当たりそうな時に、しゃがむ。で、ここ(腰)を見て、タックルする、というのがいいかもしれない」

 防御ラインをせり上げるか、その場で外側へ流すかの判断についても、一緒に指導にあたっていた別な選手の力も借りて手本を示した。

 終了後、地元のテレビ局などの取材に応じた。コーチングとパフォーマンスの繋がりについて述べた。

——この機会を振り返って。

「僕も小さい時にこういう方々(出会ったトップ選手)にいろんなことを教わって育ってきている。僕が教える立場になれたことは嬉しいです。いいサイクルが回っていったらいいなと思っています。

 こうして教えた子が育って——どこの舞台かはわからないですけど——一緒に(プレー)できるとしたら…ということも願っていました」

——伝えたいメッセージは。

「僕は小学校(1年)から枚方ラグビースクールで(競技を)始めているんですけど、その時のラグビーがすごく楽しく、やり続けたいと思って、どんどん本気になっていった。ボールを持って、走って、ぶつかってという楽しさを味わって欲しいです」

——あらためて、過去に指導経験は。

「オフシーズンに地元に帰ったら、通っていたラグビースクールで。あとは、トヨタでもクリニックのようなもの——小学校でタグラグビーを教えたり、ラグビースクールに行ったり——がありました」

——教え方、上手でした。

「いやいや…。僕自身も、自分のプレーを理解して、繰り返して、見て、やっていくことが大事だと思っています。それを、どう小学生に伝わるようにやるかも大切です。

 自分のなかでわかっていても、他の人に伝えられなかったら、(本当の意味では)自分のものにもならない。自分が持っているものをしっかり言葉で伝えることは、自分のなかで大切にしていることです」

——積極的な声かけが目立ちました。

「試合中も喋ることを意識しています。声を出すと味方にも(意図が)伝わりますし、相手にプレッシャーをかけることもできる。自分の経験上、無言でやるよりかは声を出してやっていったほうがいいなと」

 その日の午前中は、セレクションで重視されそうな実戦形式のメニューがあった。

「日本代表とあってハードトレーニングですが、なかなか経験できないことを経験できていることでの充実感があります。(大変だと)言っていられないということもあるので、目の前のセッション、目の前のセッションを全力でやっていくだけです」

帝京大、ヴェルブリッツでの1歳後輩、青木恵斗(右)と磨き合う。(撮影/松本かおり)


 日本代表のフランカー、ナンバーエイトの位置は激戦区だ。

 ワールドカップ4度出場のリーチ マイケルら、大柄な海外出身者がひしめく。ちょうど選出前だった奥井は、タフなサバイバルレースへの意気込みも口にしていた。

「競争率が高いところはありますけど、相手ばかりを気にするんじゃなく、自分の持ち味、パフォーマンスをどう見せるかにフォーカスしています。菅平では、充実したいい日々を送れています」

——エディー・ジョーンズヘッドコーチと1対1で話すことはありましたか。

「たまにあります。(チームが)自分にやってほしいこと、サイズ的に求められることを聞き、フォワードコーチの方とも話しながら、自分はどうなのか(要求に応えているか)をかみ砕きながらやっている最中です。

 なかなか言い方が難しいですが、外国人の方が日本語を覚えるのは大変なこと。それでも(ジョーンズは)ミーティングで英語と日本語を交えながら話している。『寄ってくれている』というわけではないと思うのですが、僕らからも話しかけやすく、エディーさんからも話してくれる。いい関係性が築けているのかなと」

——現体制の初年度は『超速ラグビー』をコンセプトに掲げていました。

「低く、速いプレーは自分の武器でもある。それをトップに持っていかないと。ブレイクダウン(接点)周りの仕事量も増やしたいですし、タレント(才能)ではできない泥臭さをアピールしていき、秀でて、『選ばなあかんな』と思ってもらえるように頑張っていきたいです。

 必死に毎日、やっていくだけ。その先に日本代表がある。これは自分の経験にもなって、トヨタに戻ってからも活かせる。限られた(候補の)人数に選ばれたことでの責任もありますし、1日、1日、本当に頑張っていきたいと思っています」

 6月12日にアナウンスされたスコッドは、同16日より宮崎で合宿。6月28日には場合により複数の追加選手を交え「JAPAN XV」を編成し、東京・秩父宮ラグビー場でマオリ・オールブラックス戦に挑む。

 7月5日、12日には正代表として、世界ランクで1つ上の12位、ウェールズ代表とテストマッチ2連戦をおこなう(場所はそれぞれミクニワールドスタジアム北九州、ノエビアスタジアム神戸)。


※当初、奥井選手の出身スクールが豊中ラグビースクールとなっていましたが、枚方ラグビースクールです。お詫びして、訂正いたします。







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