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【日本代表メンバー発表】「やる気がある選手だけ選んだ」。ノンキャップは大学生ひとり含む16人
日本ラグビー全体、ジャパンファーストで、と訴えた。2024年はテストマッチ11試合を戦って4勝7敗。現在のワールドランキングは13位。(撮影/松本かおり)
2025.06.13
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【日本代表メンバー発表】「やる気がある選手だけ選んだ」。ノンキャップは大学生ひとり含む16人

田村一博

 新しく掲げたコンセプトは『超速 AS ONE』。
 この国には、才能豊かな若者たちがいるのだから、すべての力を結集して、ファンが前のめりになるような魅力ある日本代表を作ろう。
 エディー・ジョーンズ ヘッドコーチの、そんな思いが詰められていると説明があった。

 6月12日、日本代表が発表された。選出された選手たちは6月16日から宮崎で合宿に入り、6月28日のマオリ・オールブラックス戦を経て、7月5日、12日におこなわれるウェールズ代表とのテストマッチに挑む。

 ジョーンズHC体制2季目の最初の日本代表には37人が選ばれた。
 FWが20人、BKが17人。9人のフロントローの合計キャップ数は33で6人がノンキャップと、若い選手たちで構成される。

 キャップホルダーは昨季初キャップから経験を積んだHO原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)、PR為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)と、昨季の主戦タイトヘッドプロップだった竹内柊平(シーズン終了後に浦安D-Rocksから退団)だけ。
 スピアーズからは1番の紙森陽太、2番の江良颯も選ばれた。

 リーグワンで連覇したブレイブルーパスの木村星南のほか、菅平合宿でいいスクラムを組み、機動力もある東京サントリーサンゴリアスの小林賢太の名も。サンゴリアスからは、リーグワンでの出場は2試合だけの木原三四郎も選ばれた(JAPAN XVでホンコン・チャイナ戦には先発出場)。
 木原に関してジョーンズHCは、テストマッチレベルにはまだ達していないものの、取り組む姿勢とポテンシャルの高さを評価したと話した。

 フロントローに若い選手たちの抜擢があったのは、昨季テストマッチに出ていた岡部崇人(横浜キヤノンイーグルス)やオペティ・ヘル(スピアーズ)が怪我で代表活動に参加できない現状も理由のひとつだ。

 指揮官は岡部やヘルと同じように、選出予定も怪我が理由で参加できなかった選手たちとして、姫野和樹(FL・NO8/トヨタヴェルブリッツ)、長田智希(CTB/埼玉パナソニックワイルドナイツ)、ジョネ・ナイカブラ(WTB/ブレイブルーパス)、ルアン・ボタ(LO)、立川理道(CTB)、木田晴斗(WTB)、根塚洸雅(WTB)のスピアーズ勢やサウマキ アマナキ(FL)、ティエナン・コストリー(NO8/以上、スティーラーズ)、池田悠希(CTB/リコーブラックラムズ東京)、矢崎由高(FB/早大)らの名前を挙げた(計13人)。

 FWバックファイブで選ばれたノンキャップの選手は、ワイサケ・ララトゥブア(スティーラーズ)、ヴェティ・トゥポウ(静岡ブルーレヴズ)、奥井章仁(ヴェルブリッツ)。この3人の中で、ララトゥブアに関しては高い機動力を評価し、6番、4番での起用を考えているとした。

ワールドカップは2027年大会から24チームが参加し、6プール×4チームでプールステージを戦う。そのプール組分け抽選会は、全24の出場チームが出揃った2025年12月におこなわれる予定。その際、11月のテストマッチシリーズ終了時のワールドランキングを利用してシード順が決められる。高いランキングでプール組分けの日を迎えられれば、有利なプールに入ることができる。各プールの4チームは、ランキング1位〜6位のバンド1、7位〜12位のバンド2、13位〜18位のバンド3、19位〜24位のバンド4と、各バンドからの1チームずつで構成される。13位以下となれば、同じプールに自分たちよりランキングが高いチームが2つ入ることになる。(撮影/松本かおり)


 そしてトゥポウに関しては、まだまだ鍛えなければ、としながらも、「菅平合宿でいい練習を重ねていた」と話し、学ぶ姿勢の高さを愛でた。
 このセレクション理由からも伝わるように、今回貫かれていた選出基準ではマインドも重視された。
 ジョーンズ監督は「やる気のある選手だけを選んでいる」と言い切った。

 バックスでは、昨年6月から9月のテストマッチシリーズでSOを任せることが多かった李承信について、引き続き10番として起用することを示唆した。
 所属するスティーラーズではほとんどの出場機会がCTBだった。しかし、まもなく始まる合宿では司令塔の位置で、ゲームコントローラーとしてのフィット感を高めることに時間が費やされる。

 松永拓朗(ブレイブルーパス)、中楠一期(ブラックラムズ)に加え、初招集のサム・グリーン(ブルーレヴズ)も含め、SOとFBでプレーできる選手は多い。
 昨シーズンは10番を固定できなかったことも、攻守に安定感を欠いた理由のひとつ。テストマッチへ向けての準備期間の中、急ピッチで適性を見極める必要がある。

 バックスリーには2022年に1キャップを得ているメイン平のほか、石田吉平(イーグルス)、ハラトア・ヴァイレア(スピアーズ)、植田和磨(スティーラーズ)とノンキャップの選手が揃いフレッシュ。ただ、石田と植田は2024年のパリ五輪メンバー。国際舞台の経験がある。

 石田に関して指揮官は、「コルビになれる」と言って、南アフリカ代表、サンゴリアスで実力を示す世界的ランナーの名を挙げた。
「合宿中にタックルを受けにいくようなシーンがあったので、指一本触れさせずに抜け、と言ったら、そのプレーをやってみせた」というエピソードも披露した。

 今回大学生で唯一選ばれたFB竹之下仁吾(明大3年)についても、「ファンタスティックなアティテュード」と褒めた。
「向上心が素晴らしい。ボールを持っていない時の動きもいい」と話し、体作りとナレッジの向上を実現し、さらに潜在能力を高めたい意向を伝えた。
 竹之下についてはJAPAN XVでの活動中、年上の選手たちにオフ・ザ・ボールの動きの大切さについて呼びかけた勇気にも感銘を受けたようだった。

 フランス、トップ14に所属するSH齋藤直人は、シーズン終了と同時に帰国し、合宿に参加する見込み。
 JAPAN XVとして戦うマオリ・オールブラックス戦は、今回発表した代表メンバーの中でシーズン中のプレータイムが少なかった選手や、今スコッドには入らなかったが、菅平合宿やJAPAN XVの活動に参加していたメンバーを何人か招集したチームで戦う。

 2024年のテストマッチでは失点が大きかったことから、ディフェンスについての考えも口にした。
 昨季は6月のイングランド戦で52失点、7月のイタリア戦で42失点、そして秋はオールブラックスに64点を奪われ、フランス代表、イングランド代表相手に52失点、59失点だった。

 ジョーンズHCは、「日本のラグビーは高校、大学、リーグワンを見ても、アタック重視のチームが多い。唯一ディフェンスに特化しているのはパナソニックぐらいです。クルセイダーズ流で、ディフェンスからキックに対応し、リゲインしてアタックする」と言って続けた。
「他のチームはアタックマインドセットが強い。選手たちはそこから(日本代表に)入ってくるので必然的にアタックマインドが強いと思います」

 そして、「日本代表も力強いアタックをアイデンティティとしています」という前提の上で、ディフェンスの意識を高めていくと話した。

「もっとディフェンスにこだわらせる、その重要性を理解させる、どういうディフェンスを求めているかというと、タックルして、すぐに起きて、スペースを埋めることをやり続けるしかない」
 そのために取り組もうとしているのが、「対価を与える」考え方だ。
 いいプレーを数値化、見える化し、分かりやすくする。さらに際立たせるため、それをチーム内で発表していく。

 今春U23代表でオーストラリアへ遠征した際に出た数値を、赤とゴールドに分けて示した。
 その時、悪い数値を表す赤は165。選手が、起き上がった時に歩くことが癖になっていることを表していた。
 そこを指摘して意識させると、その数値は65に減ったという。
「300パーセントの改善です。そこから他国のデータをとって比較し、自分たちがいまどこにいるのか知れたし、差がどれくらいか明確になりました」

 そういったアプローチによって、選手たちは、どういう役割を持って働き、どういう意気込みでディフェンスをしないといけないのか理解が進んだという。
「数値を用いて(現状を)クリアにできれば、いいコーチングができる」とした。

 ただ昨季のディフェンス担当コーチ、デイビッド・キッドウェルが抜けたポジションは空いたままだ。後任に関しては未だ人選中の状況で、確定には時間がかかるかもしれない。
 コーチ陣の中にはクリタウォーターガッシュ昭島のピアーズ・フランシスの名前もある。キッキングコーチとして短期間指導にあたる。

【写真左上】87キャップでスコッド中最多のリーチ マイケル。【写真右上】学ぶ姿勢も、激しいプレーも評価されるヴェティ・トゥポウ。【写真左下】コルビになれる、と言われた菅平合宿中の石田吉平。【写真右下】明大3年生の竹之下仁吾。(撮影/松本かおり)


 キャプテンは未確定。日本選手と海外出身選手という2つの文化をつなぐことが重要と考えれば、昨シーズン序盤にチームの先頭に立ったリーチ マイケルも候補のひとりだろう。
 同選手についてジョーンズ監督の要求は高い。プレーヤーとしてナンバーワンであること、と言った。

 また、以前はアタッカーの様相が強かったものの、いまはディフェンス力が高くなったと賞賛し、「まずはディフェンス面で引っ張ってほしい」。
 そして、(国際的に)高いレベルで勝った経験があるのはリーチぐらいしかいなくなったと語り、そういうことを成し遂げるためには何が必要なのかを伝えてほしいとした。
 上限を決めがちな若い選手に対し、それを取り除く役目も果たしてほしいようだ。

 ただ、多くの選手たちがハードなシーズンを終えたあとで、メンタル的に疲れているだろうと予想。実際に顔を見て、接した後に、トレーニングの強度やチーム作り、それぞれに託す役目を決めていくようだ。

 相手がテストマッチ17連敗中のウェールズとはいえ、この若いメンバーで勝利をつかめるのか不安は残る。
 昨季は周囲の期待に応えることができなかった世界的指導者が、いまも勝負師として先頭グループにいるか問われる。


◆日本代表 宮崎合宿参加メンバー
【FW】20名
紙森陽太(PR1/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/近大/172、105/26/-)
小林賢太(PR1/東京サントリーサンゴリアス/早大/181、113/26/-)
木村星南(PR1/東芝ブレイブルーパス東京/東海大/175、105/25/-)
原田 衛(HO/東芝ブレイブルーパス東京 ※2025年6月4日に同クラブより退団発表/慶大/175、 101/26/10)
江良 颯(HO/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/帝京大/172、 106/23/-)
佐藤健次(HO/埼玉パナソニックワイルドナイツ/早大/177、108/22/-)
竹内柊平(PR3/浦安D-Rocks ※2025年6月1日に同クラブより退団発表/九州共立大/183、115/27/13)
為房慶次朗(PR/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/明大/180、108/23/10)
木原三四郎(PR3/東京サントリーサンゴリアス/専大/181、108/22/-)
ワーナー・ディアンズ(LO/東芝ブレイブルーパス東京/流経大柏/201、117/23/21)
エピネリ・ウルイヴァイティ(LO/三菱重工相模原ダイナボアーズ/ラトゥカンダヴレヴスクール/196、122/28/6)
ワイサケ・ララトゥブア(LO・FL/コベルコ神戸スティーラーズ/東海大/193、120/27/-)
リーチ マイケル(FL・LO/東芝ブレイブルーパス東京/東海大/189、113/36/87)
下川甲嗣(FL/東京サントリーサンゴリアス/早大/188、105/26/14)
ベン・ガンター(FL/埼玉パナソニックワイルドナイツ/ブリスベンボーイズカレッジ/195、120/27/9)
ヴェティ・トゥポウ(FL/静岡ブルーレヴズ/摂南大/190、121/25/-)
奥井章仁(FL/トヨタヴェルブリッツ/帝京大/178、105/23/-)
ジャック・コーネルセン(NO8/埼玉パナソニックワイルドナイツ/クインズランド大/195、110/30/20)
マキシ ファウルア(NO8/ クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/187、112/28/15)
ファカタヴァ アマト(NO8/リコーブラックラムズ東京/大東大/195、118/30/13)

【BK】17名
齋藤直人(SH/仏・トゥールーズ/早大/165、73/27/24)
藤原 忍(SH/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/171、76/26/10)
福田健太(SH/東京サントリーサンゴリアス/ 明大/173、83/28/1)
李 承信(SO/コベルコ神戸スティーラーズ/大阪朝高/176、86/24/18)
サム・グリーン(SO/静岡ブルーレヴズ/ブリスベングラマー高/178、85/30/-)
ディラン・ライリー(CTB/埼玉パナソニックワイルドナイツ/ボンド大/187、102/28/28)
シオサイア・フィフィタ(CTB/トヨタヴェルブリッツ/天理大/187、105/26/16)
中野将伍(CTB/東京サントリーサンゴリアス/早大/186、100/28/7)
チャーリー・ローレンス(CTB/三菱重工相模原ダイナボアーズ/ハミルトンボーイズ高/171、90/27/-)
マロ・ツイタマ(WTB/静岡ブルーレヴズ/スコッツカレッジ/182、91/29/7)
メイン平(WTB/リコーブラックラムズ東京/御所実/178、90/24/1)
ハラトア・ヴァイレア(WTB/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/日体大/185、104/26/-)
石田吉平(WTB/横浜キヤノンイーグルス/明大/167、75/25/-)
植田和磨(WTB/コベルコ神戸スティーラーズ/近大/177、87/22/-)
松永拓朗(FB・SO/東芝ブレイブルーパス東京/天理大/172、82/26/4)
中楠一期(FB・SO/リコーブラックラムズ東京/慶大/174、84/25/-)
竹之下仁吾(FB/明大3年/報徳学園/180、86/21/-)

※カッコ内はポジション、所属、出身校、身長・体重、年齢、キャップ数の順

【スタッフ】
チームディレクター/永友洋司(日本協会)
ヘッドコーチ/エディー・ジョーンズ(日本協会)
コーチングコーディネーター/ニール・ハットリ—(日本協会)
アシスタントコーチ/オーウェン・フランクス(日本協会)
アシスタントコーチ/伊藤鐘史(日本協会)
アシスタントコーチ/ダン・ボーデン(日本協会)
アシスタントコーチ/麻田一平(日本協会)
テクニカルアドバイザー/ヴィクター・マットフィールド(日本協会)※1
アシスタントコーチ/ピアーズ・フランシス(クリタウォーターガッシュ昭島)※2
ハイパフォーマンスコーディネーター/ジョン・プライヤー(日本協会)
ヘッドS&Cコーチ/太田千尋(日本協会)
アシスタントS&Cコーチ/新田博昭(日本協会)
アシスタントS&Cコーチ/岩田駿亮(日本協会)
ヘッドアナリスト/須藤 惇(日本協会)
アシスタントアナリスト/村上健一(日本協会)
メディカルディレクター/高澤祐治(順天堂大学)
チームドクター/高橋完靖(甲南医療センター)
チームドクター/草場洋平(横浜市大附属病院)
アスレティックトレーニングディレクター/久々知修平(日本協会)
ヘッドアスレティックトレーナー/大岡 茂(日本協会)
アスレティックトレーナー/萩原章雄(ナズー)
アスレティックトレーナー/櫛田慎一(日本協会)
チームマネージャー/松下忠樹(日本協会)
アシスタントマネージャー/林 優子(日本協会)
アシスタントマネージャー/松永武仁(日本協会)※3
アシスタントスタッフ/金子将也(日本協会)
アシスタントスタッフ/豊田アレキサンダー(日本協会)
通訳/ジョシュ・ウェストブルック(日本協会)※4
通訳/佐藤秀典(日本協会)
メディアマネージャー/一色崇典(日本協会)

※1/6月30日まで、※2/7月3日まで、※3/6月20日まで、※4/6月28日まで

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