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【日本代表候補合宿】みんな上を見ている。青木恵斗ら6人の現在地
力強いプレーの連続性を追求する青木恵斗。(撮影/松本かおり)
2025.06.11
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【日本代表候補合宿】みんな上を見ている。青木恵斗ら6人の現在地

田村一博

 みんな、いくつかのハードルを越えてそこにいた。
 6月4日から11日にかけて、長野・菅平で日本代表候補合宿(15人制男子トレーニングスコッド合宿)が実施された。

 5月に大分でおこなわれたJAPAN XVの活動で評価を得た選手と、リーグワンでエディー・ジョーンズ ヘッドコーチの目に留まり、シーズン終了後に招集された選手たち(トップ4は除く)。
 選手たちは菅平合宿で持っている力をさらに精査され、次ステージに進む権利を得た者は、マオリ・オールブラックス戦(6月28日)、ウェールズ戦(7月5日、12日)と、インターナショナルの戦いへ挑む。

 誰もが上を見てハードワークを重ねた高原での日々。選手たちの声を拾った。

 2024年度シーズンに帝京大を全国大学選手権4連覇に導いた青木恵斗は、アーリーエントリーでトヨタヴェルブリッツに加わり、第10節でリーグワンデビュー。
 その後、第18節の最終戦まで8試合連続でピッチに立った。

 6月14日に23歳になる若者はタフ。青木は、5月10日にリーグワンの戦いを終えた後、すぐにJAPAN XVの活動に参加する。
 そして、NZU(ニュージーランド大学クラブ選抜)との2試合、ホンコン・チャイナ代表戦と、3試合すべてに出場して、活動の場所を菅平に移した。

「(キャンプ中は)毎日のスケジュールも詰まっていてハードですが、学びも多い。ラグビー選手として成長できていると思います」と話す青木は、ジョーンズHCが自分に求めているものをよく理解している。

「はやいテンポで仕掛けるアタックは難しいです。でも、ここにいるからにはそれを求められている。くり返し、何度もスプリントする動きにフィットしたいと思っています」
 スペースにボールを運ぶスタイルのおもしろさを感じていた。「それを、これから戦う、強豪相手にも通用するまでレベルを高めないと」。

 セレクションへの視点も明確だ。
「日本人バックローとはタイプが違います。自分がこのスコッドの中で争っているライバルは外国出身選手。その中で生き残るには繰り返し、何度も、強いキャリーができたり、強くブレイクダウンに入れるか。それが求められています。1回だけの強さではなく、くり返し強さを出せるところをアピールしたいですね」

 リーグワンでクボタスピアーズ船橋・東京ベイのマルコム・マークス(HO)、東芝ブレイブルーパス東京のシャノン・フリゼル(FL)などワールドクラスの選手のコリジョンの強さを体感したのは、自分のコンタクトレベルの現在地を知るのにいい経験になった。
「特にフリゼルは強かった。スピードにのっていない状況でも、痛いというか、踏ん張りがきかずのっかられてしまいました。上には上がいる。もっと工夫して頑張らないといけません」

 その経験のお陰か、大分でのパフォーマンスは高かった。特に最終戦のホンコン・チャイナ戦は指導陣からも高評価。超速ラグビーを実現させるために必要なアクセル(加速)の回数がJAPAN XV合流時の2倍以上の数値を示した。
 本人は、超速のスタイルに「フィットしてきた。どう動いたらいいか慣れてきたからだと思います」と自己分析した。

超速ラグビーの理解を深める土永旭。(撮影/松本かおり)


 土永旭(どえい・あさひ/SH)も大分で3試合に出場(すべて先発)した後、菅平合宿に参加した。
 合宿メンバーに、プレーオフトーナメントに出場していた選手たちも加わったことについて、「(SH間競争の)レベルが上がり、緊張感も増しています」と話した。

 ゲームコントローラーのひとりとして「ホンコン・チャイナのような大きな相手にも超速は通用した」と話すも、これから対戦する相手には、さらにクオリティーを高める必要があると気を引き締めた。
 そして、対強豪国のキーとなる点について「ブレイクダウンの精度は必要不可欠」と言い、菅平合宿でもそこに注力する練習が多いとした。

 SHは超速ラグビーのテンポを作り、描く攻防のスタイルを体現するために重要なポジションだ。周囲をコントロールし、コミュニケーションを取り続けることを求められる。
 本人は「疲れが出る時間帯もコールを絶やさないようにしないといけない」と話し、タフになることを誓う。

 競争の中で他のSHと差をつける武器のひとつに左足からくり出すボックスキックを挙げた。京産大時代から得意としていたテクニックに横浜キヤノンイーグルスでファフ・デクラークに教わったものを付け加え、強みはさらに磨かれている。

「ファフにはクロスに蹴る技術を教わりました。あまり得意ではなかったのですが、いまはうまく相手のプレッシャーを避けられるし、思うところに落とせるようになってきました」

 パスワークも高速で、仲間を走らせるプレーにも長ける。スペースがあれば自ら走る感覚も高い。そして何より、超速ラグビーの理解度が進んでいることはアドバンテージ。
「自分の持ち味を伸ばして競争していきたい」と話す。

フィジカリティーの強さとフィットネスに自信あり、の竹澤正祥。(撮影/松本かおり)


 菅平合宿には、昨季まで代表活動とは縁のなかった選手たちもいた。
 例えばイーグルスのWTB竹澤正祥は、明和県央、日大時代に年代別代表、同候補の経験もなかった。また、三重ホンダヒートのCTB岡野喬吾(きょうご)も常翔学園、同志社大時代は竹澤同様、代表に縁がなかった。

 そんな中で竹澤は今回、JAPAN XVでの活動を経て菅平合宿にも招集された。
「選ばれたことは嬉しいのですが、それで満足せず、次につなげないと」と話す足腰の強さに自信のあるウインガーは、「毎日新しいことばかりで、楽しくやれています」。
 武器であるコンタクトプレーは、攻撃時も防御時も周囲に負けていない体感は得たけれど、「ポジション的に、トライを取り切る力をつけないといけない」と自分にベクトルを向けた。

 日本代表を意識し始めたのは大学3年時だったという。卒業後にトップリーグ(当時)でプレーする意欲が高まった頃だった。
 その思いは日野レッドドルフィンズ、イーグルスとキャリアを重ねるうちに膨らむ。沢木敬介監督から赤白のジャージーを着ているWTBと自分の差を指摘してもらったりしながら自信を磨き、力を蓄えていった。

 今回の活動中にはジョーンズHCから、「SO周りなど、もっと積極的にボールをもらいにいくように」と言われた。
 イーグルスのラグビーでは、WTBが外に残っていることも多い。このチームではそのスタイルから離れることを求められ、自分のプレーの幅が広がっていくことを感じた。

遂行力の高さで評価を得る岡野喬吾。(撮影/松本かおり)


 2023-24シーズンの途中にヒートに加わった岡野は、実質ルーキーイヤーとなった今季、入替戦を含む14試合に出場(13番で8試合、12番で2試合先発)してブレイクした。
 菅平行きを知ったのは、入替戦後のことだったという。

 その知らせを聞いたとき「おっ」と心を躍らせた。自分がこの場所に呼ばれた理由について、チーム内での「遂行力の高さ」についての評価が認められたようだと話す。
 今季多くの出場機会を得たのも、「最後まで走り続ける意識を持ったことが、遂行力につながりました」。
 そして、「空いているスペースに走り込めるようになった」ことも飛躍の要因のひとつと自己分析した。

 合宿に参加して感じたのは、「自分が入れるレベルではないと思っていましたが、思っていたより通用する部分がありました。頑張ればついていけるかな」との手応え。
「呼ばれたからには、(高いレベルの)試合に出られるぐらいまで力を伸ばしたい」と貪欲さも見せた。

 三菱重工相模原ダイナボアーズからは、若い2人のHOが菅平で競い合っていた。
 2024-25シーズンのプレシーズンが始まると同時にバックローからHOに転向した佐川奨茉(しょうま)は、2023-24シーズンの途中にアーリーエントリーで日大から加わった。大学時代は主将も務めた若者は、「自信のある運動量を活かし、HOで日本代表を目指したい」と、自らフロントローを望んだ。

 FW第3列でプレーしていた時は、「スクラムにあまり関心がなかった」という。しかし相手とぶつかり合うようになって、その面白さにあらためて気づいたそうだ。
「横とのコネクションとか、自分の姿勢によっていい組み方ができたり、崩れたり。ラグビーの面白さも、さらに感じるようになりました」
 リーグワンでの出場も、まだ2試合だけ。伸びしろはいくらでもある。

ダイナボアーズの若きHOふたり。佐川奨茉(左)と安恒直人。(撮影/松本かおり)


 もうひとりのダイナボアーズからのHOは安恒直人。2025年1月に早大からアーリーエントリーで加わったばかりで、リーグワンの試合への出場はまだない。

 福岡高校から早大へ入学した当時はSOも、FLに転向し、その後HOに。同期で主将も務めた佐藤健次(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)の存在もあったため、なかなか先発起用、確定したポジションでのプレーはままならなかった。
 しかし、代表首脳陣の視線が大学時代のパフォーマンスにも届き、今回の招集につながった。

 合宿に参加し、「一つひとつのプレーの精度とコンタクトのレベルが高い。動き出しの速さも」と、周囲の選手たちの力を感じた。JAPAN XVも含め、「正直、今回の招集には驚いています」と言うが、「たくさんの刺激を受けています」と成長できる環境にいられることを喜ぶ。

 合宿でも「低いプレーを求められているし、自分としてもそこを磨きたい」という安恒は、配属された職場の人たちから「頑張ってきて」と送り出されたと笑顔を見せた。
 相模原で働く同期30人との食事会にも参加し、そこでも激励の言葉をもらった。

「ここで学んだことを活かしてダイナボアーズでのファーストキャップも得たいし、こういう合宿にも、また呼ばれるように、信頼される力をつけたいですね」

 6月12日には日本代表のメンバーが発表される。菅平合宿に参加した選手の中から何人の名前がそこにあるだろう。ウェールズ代表戦に出場できる選手はいるだろうか。
 約束されているのは、大分、菅平で過ごした時間が、そこにいる選手たちの血肉となっているという事実だ。


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