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【Just TALK】人が喜んでいる姿を見るのが好き。「グッときた」。リッチー・モウンガ[東芝ブレイブルーパス東京]
連覇達成の瞬間。スピアーズの反則で得たPK後、自ら外に蹴り出して歓喜のフルタイムを迎えた。(撮影/松本かおり)
2025.06.02
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【Just TALK】人が喜んでいる姿を見るのが好き。「グッときた」。リッチー・モウンガ[東芝ブレイブルーパス東京]

向 風見也

 リッチー・モウンガは別格だった。

 ニュージーランド代表56キャップの31歳は、6月1日、東京・国立競技場でジャパンラグビーリーグワンのプレーオフ決勝を戦った。

 加入2季目で2連覇を手にしたい東芝ブレイブルーパス東京のスタンドオフを務めた。

 前半8分には敵陣ゴール前左で球をもらい、パスダミーを交えてフィニッシュした。

 後半7分には自陣深い位置のスクラムからのアタックで、鋭いランを披露。ウイングの森勇登のトライと自身のコンバージョン成功をもたらした。

 総じて鮮やかな連続攻撃を先導し、18-13と我慢比べを制した。

 すべてが終わると、驚くべき事実が発覚した。ヘッドコーチのトッド・ブラックアダーが明かした。

「(右手を)骨折していて、1週間、まったく練習をしておらず、それでも頭の中でのイメージをしてくれて、前日のキャプテンズランで初めてボールを触り、キャッチとパスができて…と」

 そういえば5月24日の準決勝では、好キックを重ねてコベルコ神戸スティーラーズを31-3で下しながら、会場の東京・秩父宮ラグビー場での取材エリアに顔を出さなかった。

 チームの広報担当者は「コンディションの理由」と、他の関係者は「軽い怪我」とそれぞれ説明していた。

 その実、本人は骨を折っていたのだ。指揮官は「先週から今週にかけ、(決勝にモウンガは)7割方、出られないと思っていた」とし、続ける。

「きょうのことで、彼がいかにタフな選手なのかがわかったと思う。骨折を感じさせないパフォーマンスは、彼のチームメイトへのコミットメントの表れです」

 決勝2日前の公開練習にも、司令塔の姿はなかった。ナンバーエイトのリーチ マイケル主将は、準備期間をこう振り返った。

「(都内の病院で)酸素治療に3日連続で一緒に入って、そのおかげで腫れもひいて、いい状態で来られました。奇跡です。レントゲンを見た時は無理だと思ったんですけど、戻りたいという彼の意欲があった。あらためて、すごい選手だなと」

 厳しい状態でファインプレーを繰り出し、頂点に立ったモウンガ。メインスタンドの真下あたりで報道陣に応じた。

抜群のトライ感覚で、この日もチームが挙げた2トライの両方に絡んだ。自らトライラインを越え、ラストパスも放った。(撮影/松本かおり)


——骨折していたようですが。

「神戸とのセミファイナルの終盤に。折れたことは仕方がない。ラグビーではよく起こることです。運が悪かった。そこを飲み込んで、しっかり準備してプレーできました」

——プレーに影響はなかったのですか。

「少し痛いくらい。全体的なプレーの幅はあまり変わらないです。(試合中は)あまり考えないようにしていました。影響はなかった」

——その言葉通り、前半、後半に1本ずつ、スコアに直結する走りを披露されました。

「ラグビーをしただけです。自分の勘に従って。何度も同じ経験、同じシーンでのプレーをしてきているので」

——痛みを抱えてよい働きができるのはなぜですか。

「子どもの頃からラグビーが大好き。スーパーラグビー、ヨーロッパのラグビーも全部、見るくらい。いまは夢に見たような状態です。その情熱があるのです。怪我をしていようが何だろうが、関係なくプレーできます」

——過去に骨折したままプレーした経験は。

「右手の骨折がトータル3回。左手も1回です。そのうち1回は序盤に怪我をしたのですが、残り時間すべてプレーできた。今回は決勝という特別な機会で、出ることが不可能じゃないのはわかっていた。プレーするつもりでした」

——とはいえ指揮官のブラックアダーさんは、モウンガさんが出るのは難しいと見ていました。

「トディ(ブラックアダー)は自分に対して不安があったと思いますが、自分自身では初めからプレーする気持ちでした」

——そこで、リーチさんの紹介で酸素カプセルを重用したと。

「カプセルは初めてではありませんでしたが、凄く助かりました。今季序盤に股関節を痛めた時もよく使っていました」

——リーチさんと一緒にカプセルに入ったそうですね。どんな会話がありましたか。

「会話したかったですが、すぐ、眠ってしまいました! カプセル内では膨らむマスクをつけるのですが、リーチのそれはへこんだまま。生きているのか不安でした!」

——あらためて、スピアーズとの対戦を振り返っていただけますか。

「自軍フォワードの働きぶりは素晴らしかった。スピアーズの強いモール、スクラムに対抗してくれた」

ブレイブルーパスでの2連覇以前にも、ニュージーランドのNPCカンタベリーで4回、クルセイダーズで7回(7連覇)と、多くの優勝を経験している。(撮影/松本かおり)


——ブレイブルーパスへの思いは。

「東芝のことは大好きです。(移籍前にいた)クルセイダーズと似た部分があります。派手なチームではありませんが、謙虚でハードワークする。スタッフ全員が協力し合って、チーム全体で勝っています」

——試合が終わった瞬間、どんな光景が目に映りましたか。

「まず見たのはマイケルさんの顔でした。彼は自分にとってお兄さんみたいな存在です。彼は自分だけではなく、東芝の外国人選手、全員の面倒を見てくれている。日本での生活をすごくやりやすくしてくれている。彼が喜ぶ姿を見るのはいつも嬉しいです。同時に、誇らしいです」

 今回のノーサイドの瞬間、瞳を湿らせていたような。そう問われ、応じた。

「試合前から骨折という障害物があり、今週1度も練習できませんでした。そこを乗り越えられました。またメディカルスタッフをはじめとしたチームの皆がサポートしてくれたおかげで試合をし、優勝できました。そこにグッときました」

 前所属先のクルセイダーズでもスーパーラグビー7連覇を達成したプレーメーカーは、「優勝は特別。何度もできることじゃない。だから皆に言っています。『この瞬間、瞬間をかみしめて』と。スタッフ、選手の努力が実り、報われていること、人が喜んでいる姿を見ることが好きです」と述べた。


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