![【Just TALK】人が喜んでいる姿を見るのが好き。「グッときた」。リッチー・モウンガ[東芝ブレイブルーパス東京]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/06/01_20250601_final_BL-S_06817BA.jpg)
Keyword
リッチー・モウンガは別格だった。
ニュージーランド代表56キャップの31歳は、6月1日、東京・国立競技場でジャパンラグビーリーグワンのプレーオフ決勝を戦った。
加入2季目で2連覇を手にしたい東芝ブレイブルーパス東京のスタンドオフを務めた。
前半8分には敵陣ゴール前左で球をもらい、パスダミーを交えてフィニッシュした。
後半7分には自陣深い位置のスクラムからのアタックで、鋭いランを披露。ウイングの森勇登のトライと自身のコンバージョン成功をもたらした。
総じて鮮やかな連続攻撃を先導し、18-13と我慢比べを制した。
すべてが終わると、驚くべき事実が発覚した。ヘッドコーチのトッド・ブラックアダーが明かした。
「(右手を)骨折していて、1週間、まったく練習をしておらず、それでも頭の中でのイメージをしてくれて、前日のキャプテンズランで初めてボールを触り、キャッチとパスができて…と」
そういえば5月24日の準決勝では、好キックを重ねてコベルコ神戸スティーラーズを31-3で下しながら、会場の東京・秩父宮ラグビー場での取材エリアに顔を出さなかった。
チームの広報担当者は「コンディションの理由」と、他の関係者は「軽い怪我」とそれぞれ説明していた。
その実、本人は骨を折っていたのだ。指揮官は「先週から今週にかけ、(決勝にモウンガは)7割方、出られないと思っていた」とし、続ける。
「きょうのことで、彼がいかにタフな選手なのかがわかったと思う。骨折を感じさせないパフォーマンスは、彼のチームメイトへのコミットメントの表れです」
決勝2日前の公開練習にも、司令塔の姿はなかった。ナンバーエイトのリーチ マイケル主将は、準備期間をこう振り返った。
「(都内の病院で)酸素治療に3日連続で一緒に入って、そのおかげで腫れもひいて、いい状態で来られました。奇跡です。レントゲンを見た時は無理だと思ったんですけど、戻りたいという彼の意欲があった。あらためて、すごい選手だなと」
厳しい状態でファインプレーを繰り出し、頂点に立ったモウンガ。メインスタンドの真下あたりで報道陣に応じた。

——骨折していたようですが。
「神戸とのセミファイナルの終盤に。折れたことは仕方がない。ラグビーではよく起こることです。運が悪かった。そこを飲み込んで、しっかり準備してプレーできました」
——プレーに影響はなかったのですか。
「少し痛いくらい。全体的なプレーの幅はあまり変わらないです。(試合中は)あまり考えないようにしていました。影響はなかった」
——その言葉通り、前半、後半に1本ずつ、スコアに直結する走りを披露されました。
「ラグビーをしただけです。自分の勘に従って。何度も同じ経験、同じシーンでのプレーをしてきているので」
——痛みを抱えてよい働きができるのはなぜですか。
「子どもの頃からラグビーが大好き。スーパーラグビー、ヨーロッパのラグビーも全部、見るくらい。いまは夢に見たような状態です。その情熱があるのです。怪我をしていようが何だろうが、関係なくプレーできます」
——過去に骨折したままプレーした経験は。
「右手の骨折がトータル3回。左手も1回です。そのうち1回は序盤に怪我をしたのですが、残り時間すべてプレーできた。今回は決勝という特別な機会で、出ることが不可能じゃないのはわかっていた。プレーするつもりでした」
——とはいえ指揮官のブラックアダーさんは、モウンガさんが出るのは難しいと見ていました。
「トディ(ブラックアダー)は自分に対して不安があったと思いますが、自分自身では初めからプレーする気持ちでした」
——そこで、リーチさんの紹介で酸素カプセルを重用したと。
「カプセルは初めてではありませんでしたが、凄く助かりました。今季序盤に股関節を痛めた時もよく使っていました」
——リーチさんと一緒にカプセルに入ったそうですね。どんな会話がありましたか。
「会話したかったですが、すぐ、眠ってしまいました! カプセル内では膨らむマスクをつけるのですが、リーチのそれはへこんだまま。生きているのか不安でした!」
——あらためて、スピアーズとの対戦を振り返っていただけますか。
「自軍フォワードの働きぶりは素晴らしかった。スピアーズの強いモール、スクラムに対抗してくれた」

——ブレイブルーパスへの思いは。
「東芝のことは大好きです。(移籍前にいた)クルセイダーズと似た部分があります。派手なチームではありませんが、謙虚でハードワークする。スタッフ全員が協力し合って、チーム全体で勝っています」
——試合が終わった瞬間、どんな光景が目に映りましたか。
「まず見たのはマイケルさんの顔でした。彼は自分にとってお兄さんみたいな存在です。彼は自分だけではなく、東芝の外国人選手、全員の面倒を見てくれている。日本での生活をすごくやりやすくしてくれている。彼が喜ぶ姿を見るのはいつも嬉しいです。同時に、誇らしいです」
今回のノーサイドの瞬間、瞳を湿らせていたような。そう問われ、応じた。
「試合前から骨折という障害物があり、今週1度も練習できませんでした。そこを乗り越えられました。またメディカルスタッフをはじめとしたチームの皆がサポートしてくれたおかげで試合をし、優勝できました。そこにグッときました」
前所属先のクルセイダーズでもスーパーラグビー7連覇を達成したプレーメーカーは、「優勝は特別。何度もできることじゃない。だから皆に言っています。『この瞬間、瞬間をかみしめて』と。スタッフ、選手の努力が実り、報われていること、人が喜んでいる姿を見ることが好きです」と述べた。