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150キャップと通算最多トライ新記録。クルセイダーズのドラモンド、リースが偉業
SHミッチェル・ドラモンドは180センチ、87キロの31歳。ネルソンカレッジ出身。(撮影/松尾智規、以下同)

150キャップと通算最多トライ新記録。クルセイダーズのドラモンド、リースが偉業

松尾智規

「私の初めての試合は、90秒だった。WTBでの出場で、ボールも触ってない、タックルもしてない。のちに(スーパーラグビーで)150試合出場するとは、まったく思っていなかった。(今週は)とてもスペシャルな週になったよ」
 そう語ったのは、クルセイダーズのSHミッチェル・ドラモンドだ。自身の専門とするポジションでない場所でのデビューからここまでの道のりを、試合後のピッチの上で興奮気味に語った。

 ドラモンドは、クルセイダーズでスーパーラグビーにデビュー。2014年のことだった。そのシーズンは、2試合にベンチ入りして出場したのは1試合のみ、僅か90秒のプレーだった。
 2015年以降は、毎シーズン15試合前後の出場を果たし、着々と試合数を積み重ねた。2025年度のレギュラーシーズン第15節(5月23日)、ホームのクライストチャーチで節目の150試合出場を果たした。100試合達成するのも容易ではないレベルで、そこからさらに50試合を上積みした。

 クルセイダーズで150試合超える大記録を達成したのは、ドラモンドを入れて8人のみ。これまでの達成者は、ワイアット・クロケット、コリーン・フリン、アンディー・エリス、ライアン・クロッティー、サム・ホワイトロック、キアラン・リード、オーウェン・フランクスといった豪華な顔ぶれが並ぶ。ここに挙がっている選手のほとんどは、オールブラックスでも活躍し、多くの代表キャップを持っている。
 しかしドラモンドは、2018年の日本代表戦で獲得したわずか1キャップのみ。ある意味エリートとは異なる。そんな男がスーパーラグビーで150試合出場を達成した価値は大きい。派手さはないものの、正確なパス、抜群の状況判断を武器に努力と堅実さで大記録に届いた。

ドラモンドの写真を手に、花道に並ぶ子どもたち


◆今季2度目のフルハウス。サザン・ダービーは接戦へ


 15節は、クルセイダーズのレギュラーシーズン最後のホームゲームだった。ニュージーランド(以下、NZ)の南島のチーム同士が対決する「サザン・ダービー」でダニーデンからハイランダーズがクライストチャーチにやって来た。
 本拠地のアポロプロジェクツ・スタジアムは、13節(5月10日)の首位攻防戦だったチーフス戦(35-19でチーフスの勝利)に続き2試合連続でチケットが完売した。試合の1週間ほど前に発表された『2人分の座席で1人分の料金』というスペシャル価格の設定も、チケットの売れゆきを加速させた要因かもしれない。
 そして、何よりもクルセイダーズが昨季の大不調から完全復調した事が観客増員に繋がったのは間違いないだろう。

 150試合出場の節目ということで、この日の主役であるドラモンドは、チームメイトに先駆けて1人でロッカールームから姿を現した。これまでの思い出を噛み締めるかのように、50メートルほどのトンネルをゆっくりと歩いてピッチに向かう。その先にはスタンディングオーベーションで迎える観客がスタンドで待っていた。
 普段は冷静なイメージのドラモンドが、この日は感情が溢れているように見えた。時折り、下を向いての涙をこらえながらの入場に観客は大きな拍手を送った。スタジアム全体がドラモンドの150試合の重みを感じ取った瞬間だった。
 試合は、ロースコアの展開となり、クルセイダーズが1トライ、1ゴール、1PG(ペナルティゴール)、ハイランダーズが1トライでクルセイダーズが10-5のリードでハーフタイムを迎えた。

  後半に入っても、引き続きロースコアは続く。51分、10番テイン・ロビンソンのトライ(Gも成功)でハイランダーズに逆転された(10-12)クルセイダーズだったが、相手を勢いに乗らせることはなかった。
 残り時間8分の72分、クルセイダーズは今の時代には珍しく、タイトヘッド(右プロップ)のポジションでフル出場を果たしたタマティ・ウイリアムズが力強いトライを奪い、15-12と再逆転。そのまま勝利をつかむかと思われた。

 しかし迎えた80分、クルセイダーズぱ自陣でペナルティを与える。ハイランダーズに同点のPGを狙われた。正面からの難しくない位置。決めれば延長戦に持ち込まれる大事な局面だったが、途中出場のハイランダーズSOのキャメロン・ミラーはこれを決めることができなかった。その瞬間、クルセイダーズの勝利が確定した。 

右が50試合のハイランダーズPRサウラ・マウ。左は仲良しのクルセイダーズNO8リオ・ウィリー


 スタッツは、ハイランダーズが大きく上回るも、今季の課題でもあるチャンスを活かしきれない得点力不足がこの試合でも痛手となった。ゴールキックの精度も試合を通じて思わしくなく、スコアボード上で相手にプレッシャーをかけることができなかった。その結果が惜敗だった。
 クルセイダーズ側からすれば、内容で押されながらも結果として勝利が転がってきた。
 指揮官ロブ・ペニーHCは試合後のSky sportのインタビューで「非常にがっかりした」が第一声。厳しい言葉を使った。スタッツが示したように、ハイランダーズに多くの時間、主導権を握られたことがペニーHCの評価につながった。プレーオフを見据え、あえて厳しめのコメントになったようだ。

◆150、50と節目の選手が並ぶ。リースは66トライ目


 ドラモンドは150試合出場を達成する間、クルセイダーズの7連覇(2017~2023年。2020,2021年のスーパーラグビーアオテアロアも含む)にも大きに貢献した。しかし今季は、昨年代表デビューを果たしたノア・ホザム、新人のカイル・プレストンの活躍で出場機会が少なくなっていた。いわゆる3番手のSHの位置付けで、このハイランダーズ戦が今季初先発。残りの6試合もベンチから出るのは後半20分を過ぎた頃からになっていた。

 節目の150試合目の前、試合を外から見る事が多くなった自身の役割の変化について、ドラモンドは、「これまでは他の選手がその役割を担う必要があった」と話した。
「私は、ほとんど毎週プレーする機会がありました。今季はチームを準備させるのが私の役割です。正直なところ、プレーしたい気持ちはありますが、相手チームをじっくり観察し、チームを最高の状態にするにはどうすればよいか深く考える機会を得られた。そのことを、本当に楽しんでいます」
 31歳のハーフバックは、胸の内を謙虚に話した。

 ペニーHCはドラモンドについて、「彼は他の2人の選手(ホザムとプレストン)が素晴らしいプレーをしている中で、自分がその立場にいることに気づいています。しかし本質を変えることはなく、それどころか彼は今、目の前にいる選手たちを惜しみなく自分の持っているものを与え、指導し、支えています。頭が下がります」と絶賛した。
 この試合の最大の主役はドラモンドだったが、他にも2人の選手が節目を迎えた。
 クルセイダーズでは途中出場したCTBダラス・マクロード、そしてハイランダーズではPRサウラ・マウが記念すべき50試合出場を達成した。

試合後にインタビューを受けるクルセイダーズWTBセブ・リース


 祝福される選手が何人もいたこの試合では、スーパーラグビーの歴史も動いた。
 TJ・ペレナラ(元ハリケーンズ/現リコーブラックラムズ東京)と通算最多トライ記録(65トライ)で並んでいたクルセイダーズのWTBセブ・リースが通算66トライ目を挙げ、単独トップとなった。 

 記録を塗り替えた5点は、トライライン目前のラックの最後尾から、リースがボールをつかみ、サイドをもぐる形で生まれた。オンフィールドの判定はノートライだったが、TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)での確認の末に新記録が生まれた。

  試合後のピッチの上でのSky Sportのインタビューでは、元オールブラックスのコメンテーターたちから愛のあるいじりを受けたリース。しかし、素直に記録更新の喜びを口にした。
「コーナーにかっこよくダイブするか、走り抜けるトライがしたかった。でも、トライはトライだから。ここクライストチャーチで家族やファンの前で決められたのだから、これ以上の事はないよ」
 TMOを挟む微妙な判定のトライになったため最高の形ではなかったかもしれないが、喜びは隠せない様子だった。

 辛くもサザンダービーを制したクルセイダーズは、好調を維持しレギュラーシーズン最終戦を目前にチーフスに次いで2位の位置につけている。最終戦は敵地で強豪ブランビーズとの対戦(5月30日)が待っている。この試合に勝利すれば2位以上が確定。そうなると準々決勝はもちろん、ホームでの準決勝開催のアドバンテージも得ることができる。その先には、絶対王者の復活も見えてくる。

 150試合を達成したドラモンドが今後ピッチに立つ可能性は低いだろう。
 しかし、プレッシャーのかかるプレーオフにおいてドラモンドの経験値は、たとえ試合に出場しなくても計り知れない価値がある。






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