![「何をしたらいいか分からない」日々に溜めるエナジー。流 大[サンゴリアス]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/05/KM3_7698_2.jpg)
Keyword
流大(ながれ・ゆたか)が、「何をしたらいいか分からない」と言ったのは5月18日だった。
その日、東京サントリーサンゴリアス(レギュラーシーズン6位)はリーグワンのプレーオフトーナメントの準々決勝を花園ラグビー場で戦い、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(同3位)に15-20と敗れる。2024-25シーズンを終えた。
同じ相手と同じ場所でレギュラーシーズン第15節(4月13日)を戦ったときは10-30と完敗。準々決勝の前節には埼玉パナソニックワイルドナイツと戦い、17-60と大敗していた。
それらの結果から考えるとこの日は、負けはしたが、長く常勝の看板を背負ってきたチームの意地が感じられる試合内容だった。
前半は1PGを許しただけの0-3。トライラインを背にしてのディフェンスで粘りを見せた。
後半は数少ないチャンスを生かし、キックをチェイスしたWTBチェスリン・コルビと、ラインアウトのムーヴからFLサム・ケインがトライを挙げた。
最後の10分間のポゼッションは79パーセントと、試合終了のホイッスルが鳴るまで動き続けた。
流はいつものように、的確なパスと効果的なキックでチームを前に出した。そして、後半32分にベンチに下がる。フルタイムのホイッスルはピッチの外で聞いた。
試合後、記者に囲まれて「前半、もう少しアタックの機会を作りたかった。自分たちのエラーでボールを失ってしまい、ポゼッションやテリトリーをスピアーズに渡してしまった」と振り返った。

それでも終盤まで競る展開に持ち込めたのは、チームとして体を張り、賢く戦えたからだ。
「事前からハイパントを蹴る戦術ではなかったのですが、スピアーズの防御が固かった。オーバーアタックになってしまうと体力を失う。相手は大きいので、それでは相手のペースになると感じたので、僕と森谷(圭介/SO)で蹴っていきました。松島(幸太朗/FB)、コルビが空中戦に強いので、モメンタムを作ろうと(戦術を)切り替えました」
シーズン序盤から調子が上がらず、勝ちが続いたかと思えば、負けが込む。今季のサンゴリアスは最後まで波に乗れなかった。
流はシーズン中から仲間を鼓舞し、正しい方向に進ませようとリーダーシップを強く出した。
「やられてからやり返す姿勢になっている」と、アグレッシブさの足りないことに苦言を呈したこともある。
「勝つためにはゲームの中の瞬間、瞬間に、勝つために何をしないといけないのか、どういうプレー選択をしないといけないのか判断し、それを遂行しないといけない」
それができていないのだから、「(リーダー陣が)コーチ陣とも話し、解決していく必要がある」と言う時期もあった。
そんな険しい道を歩いてきて、準々決勝では「どこで勝ちたいかはっきりしていました」と言った。
「ディフェンスのプライドは特に前半、見せられたと思います。ボールを持ってアタックするのも僕らの強みですが、キックを使うのも、いまのラグビーでは欠かせない。そのへんはうまくいきました。どうやってボールを持ち、攻め続け、いつ手放すのか。そのあたりは、コーチ陣とリーダー陣が同じ絵を見られるようになり、うまく落とし込めていました」
ただ、「そうなるのが遅かった」と悔やんだ。熟成する時間が足りなかった。
チーム全体が足並みを揃えて動き出す時期が遅かったし、短かった。
「(きょうは、いまの力を)全部出し切りましたがスピアーズの方が強かった。それに尽きます。スピアーズ、ワイルドナイツ、ブレイブルーパス(ら上位チーム)には一貫性があった。サンゴリアスは、(やりたいラグビーを)できる試合とできない試合があった。特に序盤戦は、ファンの方も(サンゴリアス)らしくないラグビー、と感じたと思います」
ラストゲームでは本来の泥臭さが見られたが、「見ている方にそう感じてもらえたのはいいことだけど、どうしてそれを(シーズン)最初からできないのか。そこが課題」と自分たちに厳しい目を向けた。
「プレシーズンはすごくうまくいっている感覚がありました。でも、いざシーズンに入ると、うまくいかなかった。(そこから)切り替えるための時間がかかりすぎた。来シーズンは開幕の一発目から、1点差でもいいから、何がなんでも勝つゲームをして(上位に)戻ってこないと」
翌週には準決勝を戦い、その翌週も…と、戦い続けるつもりだったと話し、シーズン後のファンとの集いまでの約20日間、予定がぽっかり空いたと、うつろな表情だった。
「何をしたらいいか分からない。来週はベスト4で戦うつもりだったけど、そうはならなかった。初めての感覚です」
サンゴリアスに加わった2015年度のシーズンこそチームは9位に沈んだが、翌年からは上位チームとしてクライマックスの中に常に身を置いてきた。
シーズンが突然終わった感覚になったのも無理はない。

「6位で終わったことは納得できません。でもチームは(終盤に向けて)少しずつ良くなっていった。諦めずに、みんなで成長した一人ひとりの努力と、チームが最後に見せたプライドは誇ることができる」と前を向いた流は「自分たちのDNAは絶対にアタック。でも、ディフェンスを改善しないといけない」と言葉を続け、貫くべきものと変わらないといけない点を口にした。
本当は自分が戦いの舞台に立っているはずだった翌週末は、ライバルたちのパフォーマンスをテレビで見ていた。
5月24日の『X』には、「今日はめちゃくちゃ悔しい気持ちになりながらセミファイナルを見ます」とポストした。
その週末は他にも、豊田自動織機シャトルズ愛知のSO、フレディー・バーンズのゲームコントロールに感嘆し(0-28から43-42と勝利)、サクラフィフティーンを応援(対香港)。スピアーズの9番、藤原忍のプレーを称えるポストもあった(ワイルドナイツに28-24と勝利)。
興奮の場に自分がいない悶々とした気持ちや悔しさ。リスペクト。そして、あらためて感じるラグビーへの愛。そんな感情のすべては、2025-26シーズンに這い上がるためのエナジーになる。
強くなって戦いの中へ戻る。