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◆自分たちで修正して大勝、優勝。
最初はやや硬かった大内田夏月(おおうちだ・なつき)の動きが、ボールを持つたびに本来のものとなっていった。
初めてのテストマッチだ。普段通りプレーするのは難しい。しかし、結果的に「1試合4トライは初めてです」というパフォーマンスを見せた。
5月15日から福岡・ジャパンベースで始まっていた『女子アジアラグビーエミレーツチャンピオンシップ2025』の最終日が同25日におこなわれた。
女子日本代表×ホンコン・チャイナ代表の一戦は、11トライを挙げたサクラフィフティーンが63-5と大勝。カザフスタン代表戦で挙げた勝利(90-0)と合わせて2戦全勝とし、優勝を決めた。

【写真右上】チームの先頭に立った向來桜子キャプテン
【写真左下】好タックラーのFL細川恭子
【写真右下】右から1番・小牧日菜多、2番・小鍜治歩、3番・町田美陽のフロントロー
カザフスタンと戦った10日前は強い日差しの中での80分となったが、この日は肌寒く、強い風が吹いていた。
サクラフィフティーンは相手の思い切って前へ出るディフェンスに遭い、簡単には前に出られなかった。
そんな中でも安定感あるパフォーマンスを見せたのがCTB小林花奈子だった。9分、17分にトライを挙げる。そして、好タックルも見せて流れを引き寄せた。
9分のトライは味方のキックに反応よく飛び出て挙げたもの。17分には相手陣深い位置でのスクラムから出たボールを受け、鋭く切れ込んで5点を追加した。
その小林の2つ目のトライ、SO大塚朱紗のコンバージョンキックで17-0としたサクラフィフティーンは前半を29-0で終え、後半に6トライを追加して危なげなく勝利を得た。
カザフスタン戦に続いてゲームキャプテンを務めたFL向來桜子は、「試合の入りのところでミスが出て苦しい時間帯が続いてしまいましたが、私たちがやってきたことをシンプルに出すように修正したことで、この結果になったと思います」と80分を振り返った。

【写真左下】安定感のあったFB/SO西村蒼空
【写真右下】初キャップのFL村瀬加純
そして、仲間たちへの感謝の気持ちも忘れなかった。
「ファーストキャップの2人と新しく招集されたメンバーが、(チームが掲げているスローガンの)『爆速』を体現したことで私たちも自分たちらしくプレーできました」
カザフスタン戦の前からチームを鍛え、2試合で指揮を執った今田圭太ヘッドコーチ代行は、「苦しい時間帯にもキャプテン中心に我慢強く守り、立て直す姿が見られた」と話し、「私の中では100点」と、成長した選手たちを愛でた。
向來主将をはじめ、高い運動量を示したPR小牧日菜多、パリ五輪代表(セブンズ)で好タックルとランニングセンスを見せたNO8水谷咲良らが、2試合を通じていいアピールをした。
バックスでもFB、SOと2つのポジションで安定した力を出した西村蒼空を筆頭に、SH妹尾安南、CTB安藤菜緒、WTB香川メレ優愛ハヴィリらが持ち味を発揮し、ピッチに立った誰もが自分の色を出してプレーしていた。
8月、9月にワールドカップを控えている女子15人制日本代表は、今回の大会を戦った選手たち+4月にアメリカ代表に勝った者たちを中心とした選手たちという、2つのグループ、大きなスコッドで活動している。
前者が大会で戦っている間も後者はS&C、フィジカル面を高める期間に充て、合同練習もおこなわれた。
この先、両チームの選手たちからワールドカップスコッドに入る選手を決め、鍛えていくことになる。
アジアを制した選手たちから、誰がさらなる上の舞台に立つことになるか注目される。

◆思い出の地で最高のスタート。
今回のホンコン・チャイナ戦で初キャップを獲得し、4トライと結果も残した大内田夏月も、世界へ向かう力があることをアピールした。
もともとSO、CTBでプレーする選手で、周囲を使うこともできる。今回WTBでも力を出せるところを見せ、首脳陣にとっては魅力ある存在と印象に残っただろう。
大内田は日体大から今春、パールズ(三重)に加わった22歳。この日は11番で先発し、前半24分、27分、後半5分、38分にトライと、走り回った。
味方が作った好機を確実に走り切る、仕留め切る走りを見せた中で、高い能力を見せたのが前半27分に挙げたトライへの走りだった。
ハーフウェイライン付近でパスを受けた大内田は、最初に外へ抜いておいて、カバーディフェンスに迫るディフェンダーを内へのステップで次々と抜き去り、センスある走りを見せた。
本人はそのシーンを、「自分のスピードと強みを活かしてトライまで運べました」と振り返った。
「試合前はとても緊張したし、そのせいで(最初は)硬いプレーになってしまいましたが、前半の後半ぐらいから自分らしいプレーができました。ウイングは初めてで不安もありましたが、自分のスキルとスピードを発揮しようと思いました。仲間が接点でフィジカルに前に出て、つないでくれたボールをいい形でもらい、トライできた。感謝です」
走りながらディフェンダーを見ながらボールを持つ手を変えるのは、幼い頃からの父の教えと言った。4歳の時に、かしいヤングラガーズに入った。同スクールに中学時代まで在籍し、筑紫高校へ。中高時代の試合は、福岡レディースの一員としてプレーしていた。
ラグビーファミリーの中で育った。
長女で2歳上の優月(ゆづき)さんは、山口大医学部に学びながら、昨季まで、ながとブルーエンジェルスでプレーを続けていた。長男で弟の陽冬(あきと)さんは筑波大4年で、医学を学んでいる。ラグビー部ではCTBでプレーする。

今春、修猷館高校から日体大へ進学した葉月(はづき)さんが三女。四女の彩月(さつき)さんは、修猷館でラグビー部所属中。
「姉と弟は文武両道。私は『武』の部分が大きくなっちゃっているので、そこでは絶対に負けないようにしようと思っています」と言って笑う。
姉妹の中でもスピードはいちばん。50メートル走は6秒台で、「もっと速くなって」世界を相手に戦いたいという。
「小さい頃から代表に入るのが夢でした。ワールドカップでもプレーしたいと思っていました。きょう初キャップをとったことで、(その目標が)近くなったと思うので、今年の大会も意識して頑張っていきたいですね」
パールズではまだ1か月ほどしか過ごしていないが、「所属するニュージーランドのトップ選手から学ぶことも多く、成長につながっています」と、刺激の多い環境に身を置けていることに感謝する。
まだまだ進化中。伸びしろはたくさんある。
初キャップを得た『JAPAN BASE』はもともと、ラグビースクール時代から走り回っていた『さわやかスポーツ広場』。そんな想い出のグラウンドで代表選手としての一歩目を踏み出せたことを「嬉しい」と素直に喜ぶ。
家族や祖父母、保育園の先生も応援してくれたこの日が、ワールドカップへと続く道のスタートになったら最高だ。