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【Just TALK】汚い言葉を一般の人に聞かれては困る。クワッガ・スミス[静岡ブルーレヴズ]
南アフリカ代表キャップ51。セブンズ代表の経験もある。31歳。180センチ、99キロ。(撮影/松本かおり)
2025.05.03
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【Just TALK】汚い言葉を一般の人に聞かれては困る。クワッガ・スミス[静岡ブルーレヴズ]

向 風見也

 復帰戦で光った。

 静岡ブルーレヴズのクワッガ・スミス主将は4月27日、本拠地のエコパスタジアムにいた。ジャパンラグビーリーグワン1部の第16節で途中出場を果たした。後半12分、持ち場のフランカーに入った。

 4月12日の前節は欠場。東京・秩父宮ラグビー場で昨季王者の東芝ブレイブルーパス東京を56-26で下した瞬間は、スタンドにいた。

 それだけに、今度のゲームへは期するものが大きかったようだ。試合後、藤井雄一郎監督は冗談交じりに明かす。

「東芝戦、自分が出ていないところで勝ってしまった。きょうは前半から使ったら(気持ちが入り過ぎるあまり)怪我をするんじゃないかと思って、後半からにしました! …大事な選手。いまはエネルギーをためてくれと話しています」

 本人は「東芝戦で休めたのは、自分にとっていいタイミングだったかもしれません」と口にしながら、こうも述べた。

「あの試合は、出たかった! 皆が本当に楽しそうにプレーしていました。あのようにチャンピオンに勝てたことは素晴らしいことです」

 この午後の相手は横浜キヤノンイーグルスだった。昨季まで2季連続4強入りしており、1月11日の第4節でブルーレヴズと戦った際は53-35で勝っている(神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場)。

 ブルーレヴズのファンがリベンジを期待するカードにあって、スミスは攻守で奮闘した。

 17-21と4点ビハインドの14分には、敵陣ゴール前中央の接点の近くで好突進。同じフランカーのヴェティ・トゥポウの勝ち越しトライをお膳立てした。直後のゴール成功で24-21とすれば、互いに加点するなか要所で好スティールを重ねる。

 31-28とわずかなリードで迎えた31分頃には、自陣中盤右中間でターンオーバー。イーグルスの連続フェーズを14で止めた。

 さらに36分には、トライラインドロップアウトからの防御局面で接点に絡んだ。

 敵陣中盤で孤立した走者の腕にへばりつき、腰を落とし、そのままペナルティーキックを手繰り寄せた。

 身長180センチ、体重99キロと一線級にあっては小柄も、強靭さは折り紙付きだ。巨漢を揃えてワールドカップ2連覇中の南アフリカ代表にあって、51キャップを得ている。

今季は16節までに14試合に出場。ピッチに立てば、必ず体を張ったプレーでチームを鼓舞する。(撮影/松本かおり)


 イーグルス戦での見事な攻守逆転については、具体的かつ慎ましく振り返った。

「イーグルスはクイックにプレーする。私は常に(球をもぎ取る)タイミングを伺っていました。毎回(接点に)突っ込んでしまうと、向こうのアタックラインにオーバーラップ(数的優位)ができることもあります。だから、どこで『いける』のか、しっかり見極めなくてはいけません。…自分の仕事をしただけです。出たら、チームに貢献したい」

 ノーサイド。38-28。今年6月に32歳となるタフガイは、スタンド下のミックスゾーンで組織の状態について述べた。

 チームは現在12チーム中4位。第15節で6傑からなるプレーオフ行きを4番手で決めている。

——あらためて、自身のスティールについて。

「インターナショナルレベルでは、(スティールの姿勢から)少しでもバランスを崩せば私が反則を取られます。変な癖をつけてその舞台に戻るのは嫌。そのためリーグワンでも、常に自分のスタンダードを保つよう意識しています」

——きょうのスミスさんは途中出場でした。

「いまは、チーム全体の層が厚くなっていると思います。誰が試合に出ても、プレーに一貫性を作れるようになってきている。いい競争があります。それはいま急にできたのではなく、ここ2年ほどの積み上げが形になってきたのだと思います。若手、シニアメンバーのバランスもすごくいい」

——スミスさんにとって、入団した2018年度以来の好成績を収められそうです。

「特別なことです。ただ、そこまで先のこと(レギュラーシーズン終了後のプレーオフ)にはあまりフォーカスせず、次の試合(後述)を見据えます」

 この人らしい逸話がある。

 2月22日のことだ。

 この午後は都内のスピアーズえどりくフィールドで、クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの第9節を14-62で落とした。現在2位と好調なグループに持ち味のパワーで苦しめられ、イエローカードを3枚出すなど反則を繰り返していた。

 ここでフル出場していたスミスは、ロッカールームで同僚に檄を飛ばしている。

 その際、いつもその様子を記録するチームの広報担当にカメラを止めるよう指示。張り詰めた空気を作り、思いを伝えた。リーダーの風格をにじませた。

 ある若手選手が好印象を抱いたというこのワンシーンについて、本人が振り返ったのは5月1日。カムバック後初先発となる第17節を、2日後に控えていた。

「あの試合(第9節)はいいプレーができなかった。問題は内部で解決するしかない。それを他の人たちに見てもらいたくない。…そう感じ、(撮影を)止めました。ゲームでしたことを振り返りました。そこから次にすべきこと、さらには『絶対、ああいうことは繰り返してはいけない』といった内容も喋りました。…まぁ、あの時はすごく怒っていて、汚い言葉もたくさん使ってしまった。一般の人に聞かれては困るなぁ、という思いもありました!」

 ちなみに件のスピアーズ戦の次は、静岡・ヤマハスタジアムで三重ホンダヒートと対峙した。44-14で白星をつかんだ。

 静岡の闘将は、ボールを奪うセンスに加え、人の心に火をつけるセンスも有する。日本一を争うノックアウトステージで、その存在感は増すばかりだろう。


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