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【サニックスワールドラグビーユース交流大会】成長。学び。発見。黄金の時間が流れる日々。
4月30日の宗像・グローバルアリーナでは練習試合が何試合もおこなわれ、若い選手たちが貴重な時間を過ごす。(撮影/松本かおり)
2025.05.01
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【サニックスワールドラグビーユース交流大会】成長。学び。発見。黄金の時間が流れる日々。

田村一博

 インゴールのハドルから、若者たちの声と感情がダイレクトに届く。
 トライを奪われたあとだから、誰も笑っていない。ただ、感情を露わにするバックス。下を向くフォワード。漂う空気は重い。

 4月最後の日、福岡県宗像市は好天に恵まれた。
 開催中の『サニックスワールドラグビーユース交流大会2025』は、4月28日から始まり、2日間連続の試合日を経て、大会3日目は5月1日。4月30日のグローバルアリーナのメインスタンドは、静かに翌日再開される試合を待っていた。

 しかし、人工芝フィールドからはレフリーの吹くホイッスルが響き、選手たちの声、ボールを蹴る音が聞こえてきた。
 参加チーム同士の練習試合がおこなわれていた。その光景は、夏の菅平のようだ。

「ディフェンス、どうなってんだよ」
「ノミネートしたら前に出なきゃ」
「タックルしようぜ」
 1年生チームが立て続けにトライを許していた。
 コーチが、ハドルに遅れるフロントローのひとりに話しかける。
「ここで話さないと、プレーに参加できないぞ」

 あるチームの背番号16のバックスは、「俺も声を出すけん、みんな、外にいるやつはもっと情報を伝えよう」と言っていた。
 BチームやCチームなど、上のグレードを目指す選手たちの姿を見て、近くで声を聞ける機会は、実は大会中の楽しみのひとつ。目の前の下級生たちが、半年後は花園の芝を踏み、1年後には宗像の地で世界と戦っているかもしれない。

大会初日2日目だけでなく、この日もチャレンジと学びの時間。(撮影/松本かおり)


 世界は広い。それぞれの国の文化を持ったチームと戦い、交流できる。
 ラグビーを通して、世界中に仲間ができる。ワールドユースの魅力は、フィールドの中だけでなく外にもあって、ラグビーのスキルが伸びるだけでなく、心が広くなる。

 昨年度の花園と今春の全国選抜大会を制している桐蔭学園の藤原秀之監督は、「チャレンジ」という言葉を使って、自分たちにとってのこの大会の意義を話す。
「いつもは(国内王者として)チャレンジされる立場ですが、ここでティア1(強豪国)のチームと戦う時は自分たちが挑めるし、(普段とは違う)思い切ったことができますね」

 大会2日目にSGS フィルトン カレッジと対戦。イングランドからやって来た相手に43-14と快勝するも、2トライを先行された反省や、海外チームならではの判断などから得るものがあった。

 今大会で戦った2戦で東海大相模に28-25、優勝候補のハミルトン ボーイズ ハイスクール(NZ)に32-29と、クロスゲームを2試合続けて制した御所実の中谷圭部長は、初夏のこの時期に海外チームや、国内ベスト8クラスの相手と体をぶつけ合えることが、「チームを作り上げていく上での糧になる」と話す。

 ハミルトンに勝った試合では、相手の勢いに押されるシーンもあったが、「ここまでディフェンスに力を入れてきました。その成果が相手の球出しを遅らせることにつながったし、それがあったから、そのあとのプレーでプレッシャーをかけられた」。
 積み上げてきたことが、自分たちより大きく、パワフルな相手にも通用した。歩んでいる道に間違いがないことを体感し、さらに接戦を勝ち切れたことは「いい経験だし、力になる」とした。

 4月30日、人工芝フィールドで練習試合を見つめていた東海大相模の三木雄介監督は、「海外勢と戦えることもそうですが、トーナメント制でなく、負けて終わりでなく、最終日まで(順位決定戦を)戦えるのが嬉しい」と話した。

 そしてAチーム以外のメンバーが、普段とは違う、別の地域の学校と練習試合で戦えることも貴重という。
 この日は1年生主体のチームが高校入学後に初めて試合を戦った。
「大阪のチームとの違いを感じたと思います。彼らはうまいですね。ハドルの中の会話も聞けて、それだけでも強さ、弱さを見ることができました」

 一人ひとりの性格がなんとなく分かる。
「ここにいる間、寝食を共にします。うちは寮がないので、ご飯の食べ方や食べる量なども分かる。いろんなことを発見できる機会です」

未来のチームを支える選手たちと、育成する人たち。(撮影/松本かおり)


 東海大大阪仰星の湯浅大智監督も、「国によってラグビーの価値観も違えば、プレーの原理原則も少しずつ違う。世界にはいろんなラグビースタイルがあると知ることが成長につながる」としつつ、プレー以外で得ることが大きい時間とした。

 例えば、ウェルカムパーティー後の片付け。「みんなで片付けようぜ」となれば、全員が協力し合い、動いて、わずかな時間で作業を終わらせる。会ったばかりでも、ラグビーでつながっているというだけで、力を合わせられることの価値を感じられたし、選手たちにもそれを感じとってほしい。

「ラグビーをツールに国籍など関係なく協力しあえる素晴らしさを感じたと思います。どんなラグビーをするかより、どんな人間になってラグビーをするのかが大事。その根本を鍛えてくれる、気づかせてくれる大会だと思っています」

 同監督は、高体連以外の試合でファーストジャージーを着る貴重な機会に、「その誇りを持って戦い、自分たちで歴史を刻むことができる。そういう時間を過ごすことで成長すると思います。また、下級生たちは、上のグレードの選手たちがそういう場のミーティングで話していることを聞き、試合を見て、練習試合で自分たちがチャレンジするというサイクルを大会中に繰り返すことができることも嬉しいですね」と語る。

 宗像で過ごすゴールデンウィークには、まさに黄金の時間が流れている。


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