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バグパイプの音色と真っ青な空、木々の緑がそこにいる人たちを夢の世界へ連れていく。
毎年4月29日、福岡・宗像にあるグローバルアリーナは楽園になる。
前日から競技が始まっている『サニックスワールドラグビーユース交流大会2025』は祝日のこの日、例年通りに開会式が催され、一日の最後には女子セブンズの決勝がおこなわれた。
スコットランドからやって来たジョージ ワトソンズ カレッジ バグパイプバンド(パイプス&ドラムズ)は、世界でも知られる存在。その演奏を聴ける幸せと、セブンズの頂点に立つチームの笑顔が見られるとあって、好天に恵まれたこの日は多くのファンが現地に足を運んだ。


15時40分キックオフとなった女子セブンズの頂上決戦。国際大会ゆえ、試合前には両チームの国歌が演奏される。しかし、この試合では君が代だけが流れた。優勝トロフィーを懸けた14分は、日本チーム同士で争われた。
勝ち進んだのは関東学院六浦(以下、六浦)と四日市メリノール学院(以下、メリノール)。両チームは前日のプールステージでも対戦し、28-17と六浦が勝っていた。
しかし、前年大会優勝の福岡ラグビーフットボールクラブを準決勝で破ったメリノールの勢いに期待が膨らんだ。
試合開始のキックオフを蹴ったのはメリノール。今大会初出場の同チームは、キックレシーブから前に出たい六浦にそれを許さず、ディフェンスで圧力をかけ続けた。
結果、キックを蹴らせてボールを手にする。そこから積極的に攻め、4分頃までほとんどの時間を六浦陣で過ごす試合展開となった。
しかし、全国U18女子セブンズ大会を連覇中の王者は勝負どころを知っている。
中盤でのラインアウトボールを奪って攻め、PKを得ると速攻。左サイドに大きく攻め、大橋愛莉が先制トライを挙げた。展開の途中に見せた、佐藤多恵の加速の効いたランが防御の出足を鈍らせた。
その直後には、相手ノックフォワード後、スクラムから攻めた。
大きく展開し、敵陣深くに前進する。最後は青山羽菜がハンドオフと判断力で走り、トライラインを越えた。
その青山はボールを散らし、周囲を走らせるのが持ち味も、自分で仕掛けることも日頃から意識していた。
「それを大事なところで出せました。自分の体(の強さ)とラインの幅を見て、しっかり判断できました」
自陣で過ごすことが多かった前半も、結局12-0とリードしてハーフタイムを迎えた六浦は、後半に入っても先に点を取って試合を決めた。
最終スコアは19-5。後半、先に得点を奪って反撃に転じたかったメリノールの出鼻をくじいた。

六浦の3つ目のトライは、後半2分。スクラムからのアタックを、キャプテンの浅利那未が仕上げた。
外の選手が短く、タテに入り込む動きをデコイ(おとり)に、自ら回り込み、ディフェンダー間を走り切った。背番号2のリーダーは、「ショートの裏を回るのは、もともとやろうと話していたプレー。それを形にできたのでみんなのトライ」と喜んだ。
浅利主将は試合を振り返って、「メリーさんとは何度もやっていたので、(序盤に開けた圧力など)ああいう展開になることは想像できていました。でも、自分たちのアタックをし続けていれば勝てると信じていました」。
この大会での優勝は、3回目の出場にして初めて。これまでも多くの大会で栄誉を手にしてきたけれど、国際大会で頂点に立つのは格別な味のようだった。
準優勝のメリノールは、またもライバルの壁を崩せなかった。練習試合も含め、年に何度も対戦している相手の背中は、以前より近づいたものの、なかなか指がかからない。
チームを指導する黒須浩二監督は、選手たちの健闘を評価しながらも、勝者の懐の深さを称えた。
「うちの選手たちは必死にやっていますが、六浦さんの選手は、ちょっと余裕があるというのか、その状況に順応しているので、(攻め込んでも)なかなか点を取らせてもらえません。それぞれの選手がラグビーをよく理解してプレーしているように感じます」
目標とするチームは、先へ先へと進んでいく。だからなかなか追いつけないのだけど、そんな関係性は幸せだ。自分たちも、戦うたびに強くなれる。
メリノールはこの大会初出場。「毎年参加したい」の言葉が、監督、選手から聞こえてきた。
女子セブンズは、大会最初の2日間。この日のファイナルで幕を閉じた。
3位決定戦でニュージーランドのハウィックカレッジに27-5と快勝した福岡ラグビーフットボールクラブの西端渚、中園真優佳の共同主将は、「優勝できなかったのは残念も、最後の試合で自分たちのプレーを出せてよかった」と声を揃えた。
参加した8チームが繰り広げた各試合は、それぞれのチームカラーが出ていて見ていて飽きなかった。

各チームの特色が色濃く出ているのは、男子も同じ。こちらは大会2日目にして、それぞれのエンジンがかかって好ゲームが相次いだ。
特に開会式直後のメインスタジアムでおこなわれた桐蔭学園×SGS フィルトンカレッジ(イングランド)は試合前に両国国歌が流されるなど、テストマッチのような空気が流れた。
その試合は、前半風上に立ったフィルトンカレッジがキックをうまく使い、敵陣へ。SHエヴァン・ラッセルの巧みな動きもあり、18分過ぎまでに2トライ、14点を先行するも、ハーフタイムまでに2トライ、12点を返して追い上げた桐蔭学園が最終的には逆転勝ちを収めた。
後半は5トライを挙げて、相手を完封。終わってみれば43-14と快勝した堂園尚悟主将は、「先に点は取られましたが、自分たちのやりたい、スペースにボールを運ぶことができました」と戦いを振り返った。
この試合のテーマは「スペースを共有し続けること」。それを実現するため、喋り続けることを意識した。結果、スピードも大きさも上回る相手を、時間の経過とともに攻略できた。コネクションを保持し続けての快勝だった。

同主将は、海外チームとの戦いの中にある面白さを「自分たちの考えていないようなラグビー、そういう視点もあるのか、と思うようなプレーがあって、一緒にやっていて楽しい」と話した。
例えば最初に奪われたトライは、相手が自分たちのディフェンダーをラック周辺で捕まえておいて、そのスペースを攻めてきた。
そんなやり合いにも刺激を受けている。
この日ビッグゲームを演じたのは御所実だ。優勝候補の一角、ビッグマンもファストマンも揃うニュージーランドのハミルトン ボーイズ ハイスクールを32-29のスコアで破った。
序盤に2トライを挙げて10点を先行するも、前半が終わった時には15-19と逆転されていた。
しかし後半に3トライ、17点を奪う。最後の最後にひっくり返した。
奪った6トライのうち、モールを押し切ったものが4つ。モールでのアドバンテージ中にキックパスを通したものも一つあり、御所実は、大きな相手に結束して立ち向かい、勝利をもぎ取った。
試合終了間際には13人でモールを押し切って逆転トライを挙げた。
ゲームキャプテンを務めたLO津村晃志は、「相手は大きいので上から(かぶさって)くる。なので、低く、固まって、全員で押そうと決めていました。トライは許しましたが、バックスもディフェンスをめちゃくちゃ頑張ってくれていた」と熱い試合の内部を語った。

前日も東海大相模に28-25と辛勝。接戦を続けて制したことはチームを成長させる。津村は、「昨日の相模戦も、きょうも、僕たちの方が小さい。チャレンジャーとして試合に臨みました」という。
昨年度の花園予選、奈良県決勝で天理に負けてからあまりボールに触らず、基本プレーを繰り返してきた。
「(ボールを置く時の)寝方、タックルの入り方、姿勢を反復しました。そして、大会を重ねていくたびに自分たちのラグビーが分かってきた。強みはモールですが、去年のチームより小さいので、展開しながらペナルティを取って、敵陣に入ってから攻める。きょうは、そのラグビーを体現できました」
新緑の季節に、普段対戦しない相手と戦うことで、自分たちに合ったスタイルはこれだとつかむ。
多くのチームが、この舞台に立ちたいと願う理由のひとつが、そこにある。
