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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ×東京サントリーサンゴリアス】接点と構造が生み出した圧勝劇。
スピアーズのHOマルコム・マークス。ボールキャリーでも目立ったが、13タックルとよく動いた。©︎JRLO

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ×東京サントリーサンゴリアス】接点と構造が生み出した圧勝劇。

今本貴士

 リーグワン、ディビジョン1の開幕から2連勝していた2チームが12月27日に激突するも、その一戦は、大きく点差が開く試合となった。
 クボタスピアーズ船橋・東京ベイが79-20と東京サントリーサンゴリアスを圧倒した。オレンジのジャージーは、開幕からの連勝を3に伸ばした。
 昨シーズンは準優勝だったスピアーズ。サンゴリアスは苦戦しながらも6位以内に入り、プレーオフのステージに立った。今回の試合は、なぜこのような展開となったのか。振り返っていく。

◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのラグビー様相。


〈アタック傾向〉
 今回の試合でスピアーズが相手を圧倒した要因は「接点」と「構造」、その2つの要素が大きかったように感じた。
 接点はさらに、「アングル」と「オフロードパス」という要素に分けることができ、構造は「オプション」と「階層構造」に分けられる。

 ポッドを使ったアタックの多くは、3人1組でのキャリー、または2人1組+サポートのバリエーションだ。そのような選択肢に合わせて、リーグワンでは4人1組のポッドが使われることも多い。

 4人1組のポッドのメリットとしては、アタックの選択肢、バリエーションを増やすことができる点が挙げられる。多くの場合ポッドの中央に立つ選手に出すパスは、4人ポッドであれば中央の2人の選手に対する投げ分けが発生する。それに伴い、パスを受けた選手が出す裏に下げるパスや隣の選手へのパスも、選択肢が増える。

 こういった構造以外にも、ポッドを作る位置に工夫が見られた。スピアーズのポッドは、ラックに対して比較的近い位置、またはSOなどのプレイメーカーから近い位置に作っていた。

 ポッドの位置関係が過度に離れることなく作られていると、相手のディフェンスはそれに合わせてある程度はコンパクトな形を作らなければならない。そうなると、外にはスペースが生まれやすくなり、SOである10番バーナード・フォーリーの判断で外に大きく動かす選択肢が生きることとなる。

 また、ポッドを使ったアタックはフラット、つまりラックに対してある程度浅い位置でボールを受けられるような形をとるシーンが多かった。特にゲインを切って前に出ることができたシーンでは、それが顕著だった。

 ポッドを使った攻撃がフラットな位置関係になると、相手のディフェンスが前に出る時間を潰すことができる。その分、走り込んでの、勢いをつけたキャリーをする難易度も高くなるが、相手に詰められずに接点を作ることができるため、単純な個々人の接点の勝負に持ち込むことができる。そういう場面では、スピアーズの選手たちはリーグ屈指の強さを発揮する。

 また特徴的だったのは、相手のディフェンスに対して差し込むように前に出ることができた際のオフロードパスだ。スピアーズは、「生きたオフロードパス」を出すことができていた。

接点で圧倒したスピアーズ。写真はPR為房慶次朗。©︎JRLO


 オフロードパスを出すこと自体は、多くのチームが導入している。うまく作ることができれば、接点の横ですれ違いの状況を生み出し、ラックを作らないことで、擬似的なアンストラクチャーの場面を作れる。しかし、活用できるオフロードパスもあれば「逃げのオフロードパス」もあり、必ずしもチャンスに繋がるとは限らない。

 この試合でのスピアーズは、非常に高いレベルでのオフロードパスを見せていた。接点で上回ることで、相手のディフェンスラインに対して食い込むことができていた。接点で前に出ることで一つ隣のディフェンスもサポートのために近づかざるを得ず、結果、防御側(サンゴリアス)の選手のノミネートが一人分ズレることになる。そのズレにスピアーズの選手が走り込みながらオフロードパスを受けに行くことで、大きなゲインを実行していた。

〈ディフェンス傾向〉
 一方でスピアーズのディフェンスはどのような様相を見せていたか。
 その動きとしては、サンゴリアスが得意とする階層構造をきっちりと抑えるようなものだった。展開形のラグビーをしたいサンゴリアスのアタックの多くを、封じ込めることができていた。

 ポッドやCTBの選手などをブロッカー、メインのバックスラインの前に立たせ、ダミーの壁として使うアタックは、どのチームでも使われる形だ。サンゴリアスもその例に漏れず、10番の高本幹也やキーになる選手からのパスは裏に立つアタックラインに供給され、アタックを継続しようとする意思が見られた。

 そのアタックに対してスピアーズのディフェンスは、ブロッカーになる選手たちを潜るようにして、裏のラインに対してしっかりプレッシャーをかけていた。ブロッカーで人数が削られることはほとんどないから相手はスピアーズのディフェンスを切ることができず、うまく展開できないシーンが続いていた。

 また、全体的にスペースの埋め方が整っており、セットピースからのディフェンスやショートサイドのディフェンスなど、相手に数的優位を作らせない配置ができていた。

 特にショートサイドはスライドするのが難しい分、1人の数的誤差でも前に出ることができる。しかしスピアーズは、SH藤原忍のカバーなどを使って人数をうまく揃えながらディフェンスしており、結果として前に出ることを抑えていた。

◆東京サントリーサンゴリアスのラグビー様相。


〈アタック様相〉
 サンゴリアスのアタックは、スピアーズ以上に10番が中心になっていることが挙げられる。髙本幹也がラックからボールを受けることが多く(SOなので当然ではあるが)、彼を起点としたアタックの選択肢が多い。そのパスを使った展開と、ラックに立つSHからボールを受けるFWのポッド(9シェイプからのプレー)を多く使うことがアタックの肝だ。

 後述するデータでも示す通り、サンゴリアスは非常に多くの9シェイプを用いている。ラックから折り返して狭い方のサイドを攻める時など、繰り返し近い位置をアタックする時に多く用いられていた。

 ただ、この9シェイプが整っていないような印象を受けた。サンゴリアスのアタック全体のイメージとしては、攻撃的な姿勢とテンポの良いアタックを見せる印象が挙げられるが、ラックからのボール捌きのいい福田健太や流大のようなSHのボール出しのテンポと合っていなかった。
 ラックを起点に折り返すようなアタックをする場合は、ラックに参加していた選手の素早いリロード、アタックの選択肢になる位置に戻る動きが求められる。

 9シェイプではそれ単体でのキャリーだけではなく、スイベルパスというポッドから裏に立つ選手への下げるパスも用いられている。代表的な動きとして、9シェイプから12番のイザヤ・プニヴァイにボールが動き、さらにその近くに立つ10シェイプの選手にパスを出すことで前進を図る動きもあった。
 ただ、前に出ることで孤立。ラックへのサポートを厚目に、4人かける必要が出るなど、勢いと数的な優位性を作る働きのバランスが崩れているシーンもあった。

サンゴリアスは効果的にアタックできるスペースを見つけられなかった。©︎JRLO


 サンゴリアスの10シェイプは、位置的に深い傾向にある。ラックからSO髙本の位置までの角度とほぼ同じような角度で10シェイプが配置されている。
 おそらく10シェイプで勢いを出すため、深い位置からボールを受けながら走り込むことで、接点で押し込むことを想定しているのではないか。

 しかしSOまでの時点でディフェンスラインまでの距離が遠く、そこからさらにパスを下げることによって相手の押し込むペースにやられるリスクがある。実際に、スピアーズのディフェンスラインは過剰な速さではないのに、サンゴリアスの深いアタックラインに対し、適切なプレッシャーをかけていた。

 また、SOやプレイメーカーからの展開の形としては、10シェイプのポッドをブロッカーとして配置し、その裏を大きく動かす選択肢がある。15番の松島幸太朗や13番の尾﨑泰雅といった、ペースと接点で相手を乱すことができる選手を生かす形だ。

 しかしスピアーズは、この裏のアタックラインに強いプレッシャーをかけていた。ブロッカーの選手たちを潜るようにして、裏に立つサンゴリアスのアタックラインに迫って選択肢を失わせたり、キャリーすることを強制したりしていた。

〈ディフェンス様相〉
 接点で相手に負けたことが、ディフェンスに大きな影響を与えていた。シンプルに1対1で相手に押し込まれるシーンが多く、結果、味方のサポートが必要になる。消極的なダブルタックルに入らなければならないシーンにつながった。

 タックルを外されるシーンも複数回見られており、味方ディフェンスがその選手に寄り、外側に空間が生まれる。スピアーズはプレイメーカーに複数のオプションを与えるようなアタックをしてくるため、サンゴリアス側はさらに外のディフェンスが寄り、外のスペースが大きくなるという循環が生まれていた。

 また、ラックから始まるディフェンスにおいても、構造的に不利な状態になっていた。スピアーズのアタックは、ポッドやその周囲に立つ選手がコンパクトで、グラウンドの半分ほどに収まるような幅に選手が立っている。

 そのコンパクトな相手のアタックに合わせ、サンゴリアスのディフェンスもある程度、選手間の幅を縮めるようなディフェンスラインになることが多かった。相手に関係なくスペーシング、距離感を作る動きをしても、密度の薄いディフェンスラインに対し、強いスピアーズの選手に走り込まれる。そんな結果が見えているからだ。

 トランジションディフェンスにも苦戦していた。ターンオーバーを狙われるシーンも多く、アタックからディフェンスにフェイズが切り替わるシーンで、それぞれが個々の判断で動いていた。その結果、選手の判断に乱れがあり(意思統一されておらず)、1対1を崩され続けるシーンが作られていた。

◆ゲームスタッツをチェックする。




 それでは、試合のスタッツを見ていこう。RugbyPassのデータを参照している。

 ポゼッションとテリトリーは相互に相手を上回っていたような形だ。ポゼッションはサンゴリアスが、テリトリーはスピアーズが上回っていた。サンゴリアスとしては、相手に対してボール保持率を上回っていながら、スコアに繋げることができなかった。

 実際に、敵陣22メートルライン内に入った回数はスピアーズが18回、サンゴリアスが4回と、大きな差がある。侵入回数に対するスコアの効率に関してはほぼ同水準。サンゴリアス側から見ると、敵陣深くに侵入する回数の差がそのままスコアにつながっていたといえる。

 キャリー、パス、キックの回数を見ると、キャリーがほぼ同数(スピアーズ:124回/サンゴリアス:126回)である一方で、パスの回数には大きく差が見られた(スピアーズ:164回/サンゴリアス195回)。

 この数値から、サンゴリアスの方がパス優位のアタックをしていたということができる。キャリーに対するパスの比率は、スピアーズが平均値付近、サンゴリアスが平均値を超えるような数値を見せていた。10シェイプを活用しようとしていた様子から、その傾向の理由が想定できる。

 ラインブレイクは、スピアーズが13回、サンゴリアスが3回と、大きな差があった。敵陣深くへの侵入回数にも直結しそうな数的傾向。ブレイクできたか否かが、結果に直結していたとも言える。

◆プレイングネットワークを考察する。


 順番にプレイングネットワークも見ていきたい。
 まずスピアーズだ。




 ラックからのボールを受けるBKの選手は5人と、平均程度の人数を示している。ボールを受ける回数はプレイメーカーでSOのバーナード・フォーリーが11回、15番のショーン・スティーブンソンが7回。他の選手は大まかには似たような数値だった。

 実際には9シェイプからスイベルパスによってフォーリーに繋がれる回数もあるため、ラックからの展開でフォーリーを経由した回数は18回だった。9シェイプの回数がキャリーとパスを合わせて35回となっており、今回の試合では展開ベースだけではなく、9シェイプで接点を多く作った傾向も見られた。

 その一方で10シェイプが用いられた回数は少なく、全体で4回のみにとどまった。プレイメーカーにボールが渡った回数自体がそう多くないこともあってか、ラックから離れた位置で接点を作り出そうとする動きは少なかった。

 15番のスティーブンソンも、様々な働きを示していた。回数自体は少なかったが、自身でのキャリーやキック、パスと、様々なオプションがあることで、アタックに彩りを加えていた。






 東京サンゴリアスは、ボールが動くパターンとしては少なめで、SOの髙本にボールが集まるような形をとっている。ラックから直接渡ったのが21回、9シェイプからのスイベルパスを受けたのが9回と、合わせて30回、髙本起点でボールが動いている。キャリーはほとんど起きておらず、10シェイプに10回、バックスラインに12回、ボールが動いた。

 髙本からのアタックでは、ハイパント系のキックも多かった。ある程度中盤でボールを動かして、ゲインできないようなら蹴り上げるという形が多かった。
 ただ再獲得はそこまで多くなく、効果的なキックになった回数はあまり多くなかった。

 サンゴリアスのアタックで特徴的だったのは、9シェイプの多さだろう。9シェイプでキャリーした場合とパスした場合で、合わせて52回、ボールが9シェイプを経由している。しかし、9シェイプに偏ったアタック傾向に反するように、9シェイプで前進を図ることができたフェイズは少なかった。後半こそ修正して前に出られるようになったものの、全体として苦戦傾向にあった。

◆まとめ。


 開幕2連勝といういい形で始まった両者のシーズンだが、ここで一つ流れが変わることになった。
 スピアーズはペナルティゴールも挟んだいいスコアフローで相手を圧倒し、79点を獲得した。
 サンゴリアスはボールを持ちながらも前進に苦戦し、スコアは取れたものの、ディフェンスを崩されることで圧倒された。

 ただ、本連載で述べてきたことではあるが、この1試合が大勢を決めることはない。序盤での試合であり、ここからシーズンが深まるにつれてメンバー構成が変わる可能性もある。あくまでも現状の試合結果として捉えたい。



【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。



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