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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/静岡ブルーレヴズ×東芝ブレイブルーパス東京】雨中のプレー精度が差となった激戦。
開幕戦から2試合連続でゲームキャプテンを務めた東芝ブレイブルーパス東京のFB松永拓朗。©︎JRLO

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/静岡ブルーレヴズ×東芝ブレイブルーパス東京】雨中のプレー精度が差となった激戦。

今本貴士



 静岡ブルーレヴズにとっては2025-26シーズン最初のホストゲーム。絶対に勝ちたい試合だった。一方のブレイブルーパスは、前節の完封負けの記憶を払拭する勝利が必要だった。
 残念ながら雨の中での試合となった。結果は、26-22とブレイブルーパスが競り勝った。両チームの接点での強さが際立つ試合様相になった。

ゲームスタッツ


◆ブルーレヴズのラグビー様相。


【Point 1/接点重視のアタック様相】
 雨天という気象条件下で接点重視のアタックとなった。後述するように展開は比較的少なめ。ラックから直接FWに供給する、9シェイプと呼ばれる選択肢が多く見られた。

 基本的には、セットピースから順目方向に9シェイプを繰り返し当てるような形。エッジにはFL大戸裕矢のようなバランスのとれた選手を残していた。大まかには1人-3人-3人-1人の比率で、ポッドと呼ばれるFWの選手によって構成される要素を並べているようだった。

 3人で構成されるポッドは9シェイプに配置され、ティップオンと呼ばれる、近くの選手に浮かすようにパスを出すオプションによってアタックの選択肢を増やしていた。エッジに立つ1人の選手は相手のディフェンスに対してダミーになるような、ブロッカーとしての役割を果たすシーンもあった。

 9シェイプは、ラックから比較的近い位置に配置された。雨天のためボールが濡れてハンドリングエラーが起きやすい状況が影響したと予想される。この近さが影響し、ややプレッシャーを受けやすくなっていた。

 アタック全体を見るとフラットベースで、ラックから角度的にあまり下げることなくポッドを当てていた。フラットに選手を当てることでディフェンスの選手が前に出るスペースを潰し、能動的にスペースを使うことができる。

 ただフラットベースのアタックの活用については、走り込みながらボールを受けるフェイズは少し控えめで、多くのシーンではキャッチ&ランと、ボールを受けてから前に出るような動きを見せていた。止まってのキャッチから動き出すと、相手がボール出しに合わせて前に出てくる分、相手にスペースを詰められるシーンもあった。

 フラットにアタックすることを狙った結果、配置につくことを優先した選手との位置的なギャップが生まれ、孤立することもあった。そういった接点に激しくプレッシャーをかけたブレイブルーパスに対し、ペナルティを犯してしまうシーンもあった。

静岡ブルーレヴズのFL大戸裕矢。激しく、堅実なプレーで貢献。©︎JRLO


 敵陣への侵入具合を見ると、相手を上回ることができていた。テリトリーは56パーセントを支配し、敵陣22メートルライン内という「トライが最も生まれやすいエリア」への侵入も相手より多く果たしていた。

 このような傾向の要因には、ブレイブルーパスがペナルティを多く犯したことが一因だ。ペナルティからのタッチキックは、すべての戦略のうち最も効率よく前進することができる手段。スクラムなどでプレッシャーをかけることによりペナルティを誘発し、そこからのタッチキックで前進を果たしていた。

 13回の敵陣侵入シーンに対して最終的なスコアは22点と、1回の侵入あたりの効率性という観点では相手に上回られた。敵陣22メートル内でペナルティを獲得した場合は連続したポゼッションを獲得できるため効率性は悪くないが、ミスでポゼッションを失うシーンも見られた。

【Point 2/安定したセットピース】
 ブルーレヴズは基本的な戦略として、スクラムやラインアウトからのモールといった、セットピースを安定させることに注力する傾向がある。実際の成功率はスクラムが92パーセント、ラインアウトが90パーセント。非常に安定した様相を見せた。

 特にモールに関しては攻撃力が高い。土台、プラットフォームをしっかり作ることができれば、高確率で大きなゲインを獲得することができていた。どのエリアからも効果的なモールを作ることができており、相手にプレッシャーをかけた。押し込むことによって相手のペナルティも誘った。そこからさらに、タッチキックなどのオプションを使えていた。

 一方で敵陣のゴール前など、「確実にモールオプションを使ってくる」と選択肢を絞られるような状況では、ブレイブルーパスの粘りでアンプレアブルと呼ばれる、ボールが出てこない状態に陥ったケースもあった。それでも北村瞬太郎(SH)のトライがあった。モールで完結し切れないシーンにも備え、二の矢の安定感を磨いていきたいところだ。

【Point 3/安定しなかったボールハンドリング】
 今回ブルーレヴズとブレイブルーパスの差となったのは、ターンオーバーの回数ではないだろうか。スタッツではターンオーバー回数は14回。相手よりも多い。

 これらのターンオーバー、主にハンドリングエラーは、自分たちのパスミスで起きたような状況も少なくなかった。相手のプレッシャーを受けたケースもあれば、大きく前に出ることができそうな状況で、最後のワンパスが通らずにポゼッションが終わるシーンが何度か見られた。

 オフロードや相手に接近してのパスが、「生きたパス」ではないことも目立った。悪い言い方をしてしまえば意図的なパスではなく、相手を崩すことができず、ラックの発生を遅らせるだけのパスも見られた。

◆ブレイブルーパスのラグビー様相。


【Point 1/効果的に働いた接点中心のアタック】
 ブレイブルーパスもブルーレヴズ同様、雨天の中で接点中心のアタックを見せた。後述するようにパス回数も少なめで、ミスを極力減らすようなプレイングだった。9シェイプをベースに、接点を比較的ラックから近い位置に作っていた。

 ポッドの配置としては1-3-3-1をベースにしていたように見える。1-3-2-2や1-4-2-1といったオプションを持つ同チームだが、今回の試合に限っては3人をベースにポッドを連続して当て込むアタックが多かった。

 ポッドのキャリーにはさらにオプションがあり、ティップオンのような、接点をずらすパスを使うオプションが見られた。必ずしもパスをするわけではないが、防御の意識の中にパスの選択肢を入れることで相手の足を止め、ダブルタックルを受けないようにする工夫として使われていた。

 このような連続した接点は、フラットなアタックを基準におこなわれていた。セットピースからはFWの選手が順目方向に連続して走り込み、SHの杉山優平らの持ち出しと連係しながら、ギャップに向かって走り込みながらボールを受けていた。

 ブルーレヴズと似たような動きではあるが、ブレイブルーパスのアタックの方が効果的に見えた要因は、走り込みながらボールを受ける、ラン&キャッチを実行できていたからだ。
 ブルーレヴズはキャッチ&ランになるフェイズが多く、ボールを受けるまでの時間にディフェンスに詰められていた。ブレイブルーパスは走り込む動きで先導することで、詰められることなくアタック。ディフェンスラインに差し込めていた。

雨中戦で慎重かつスピーディーに球を捌いた東芝ブレイブルーパスのSH杉山優平。©︎JRLO


 一方で、連続したアタックの中でポッドの人数が少し流動的になるシーンがあった。CTBの選手たちがサポートに入ることでラック自体は安定していたが、アタックラインは薄くなり、ポッドベースのアタックに終始した。ただ、それも織り込み済みかもしれない。好天の日の試合をチェックしていきたい。

 今回キーとなったのは12番のロブ・トンプソンの働きだ。前節(12/14)の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦では後半から投入された。今回は先発として登場し、13番のセタ・タマニバルとコンビを組んだ。

 トンプソンの特徴としては、パスワークを使った崩しにも貢献できる一方で、自身のキャリーで違いを出せる選手でもある。セットピースからは相手の10番、家村健太の立っている位置を目掛けて走り込み、接点を作った。ジェネラルなフェイズではアングルをつけたり、フラットに走り込んで相手ディフェンスを位置的に上回るキャリーをできる。

 雨天によりパス回数の少ない試合展開も、接点ベースで試合を運ぶことができるトンプソンとタマニバルのコンビネーションは、いいカードの切り方だった。どのような位置でボールを受けても接点で前に出ることができるのが大きかった。奪った4つのトライのうち、トンプソンとタマニバルは1つずつトライを取っている。

【Point 2/相手を押さえ込んだ終盤のディフェンス】
 最も白熱した時間は、間違いなく後半の最終盤、ラスト10分の攻防だろう。残念ながら重篤な負傷者も出てしまったが、非常に白熱した時間帯だった。

 この時間帯、ブレイブルーパスはスタッツ上では、ポゼッションを獲得できていなかったとなっている。すべての時間を支配され、4点差をひっくり返そうとするブルーレヴズのアタックを抑え続けたということだ。

 ブルーレヴズのアタックは、基本的に相撲の立ち合いのように、ラックからボールがパスアウトされてから勢いよく前進する。そのシーンでブレイブルーパスの選手たちは丁寧に前に出て、激しく接点を作っていた。そこで相手のミスを誘ったり、アタックを食い止めていた。

◆プレイングネットワークを考察する。


 それでは、順番にプレイングネットワークを見ていこう。




 ブルーレヴズの構成は非常にシンプルで、10番の家村を中心に、4人の選手がボールをラックから受けていた。家村は11回、次いで12番のチャールズ・ピウタウが7回。それ以外の選手は一度きりのレシーブで、あまり展開に関与している様子は見られなかった。

 ピウタウは今シーズン初出場で、昨シーズンは13番をはじめ、様々なポジションに入っていた。12番はヴィリアミ・タヒトゥアが務めており、どちらかというとキックやランニングで違いを見せる選手だった。

 しかし今回の試合では、BKの中で最も接点を作る回数の多いポジション、12番に入った。役割との適合性で考えると、とてもいいプレーをしていた。接点に強く、走力もあるため、突破役としていいキャリーを見せていた。

 また、9シェイプが44回ある一方で、10シェイプは一度もなかった。パス回数を増やすほどミスが起きる可能性が高まるため、安定志向のプレイングをしていたと考えられる。キャリー回数107回に対してパスは123回。極めてキャリーの比重が大きいプレー回数となっていた。




 ブレイブルーパスは、こちらも接点中心のプレイングによって、ラックからの選択肢が非常に絞られていた。前節でも3人のレシーバーに限られていた。傾向的に今シーズンよく見られる動きになるかもしれない。

 前節は多くのボールを受けた10番のリッチー・モウンガだったが、今回は雨天の影響か9シェイプの比率が高まり、結果的にボールを受けたのは10回のみに限られた。トンプソンやタマニバルはそれぞれ3回ボールを受けてそのままキャリーに持ち込んだ。役割が非常にシンプルで、意味のある役割だったと言える。

 9シェイプが25回あったが、ここから下げるパス、スイベルパスで裏側方向に展開するような様子は見られなかった。前述したように、パス回数が増えるとミスが増えやすいので、意図的にパスコースを絞ったのかもしれない。

◆まとめ。


 雨中戦だったこともあり、両チームとも似たような方向性の攻防を見せた。その中で、より効率よくスコアしたブレイブルーパスが勝利を収めた。

 ブルーレヴズは、いい試合展開に持ち込むことはできた。ただ、自分たちのミスを含む決定力の低下により、最後の4点を詰めることができなかった。形は取れている。決定力を修正していきたい。

 ブレイブルーパスにとっては、初戦大敗の影響を払拭したい一戦だった。ブルーレヴズとの白熱した試合を通じて、昨シーズンの強さをあらためて作り始めることができるだろう。
 ただ、セットピースは全体的に不安定だった。改善すべき点はある。こちらも修正を図りたい。



【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。









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