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12月13日に開幕したリーグワン2025-26の第1節より、ブレイブルーパス×ワイルドナイツをピックアップした。
その試合展開はおそらく、ファンの方々の予想を大きく裏切るようなものだっただろう。
両チームの試合で、これほどの点差がつくことは非常に珍しい。それも、2連覇中のブレイブルーパスがこういった展開になるとは想像し難いことだ。
試合を振り返っていきたい。
◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。
ブレイブルーパスのラグビーの基本的な要素として「接点」、「オフロードパス」、「階層構造」が挙げられる。昨シーズンはこれらの要素がハマる試合が多く、相手を圧倒する試合もいくつか見られた。
【Point 1】基本的なアタック構造。
ブレイブルーパスのアタックの柱は、10番でプレイメーカーのリッチー・モウンガだ。後半で数値的な要素にも触れるが、基本的にはモウンガの位置をベースにアタックを作っているといっても過言ではない。モウンガの位置を中心に、ポッドや階層構造を作っている。
FWの集合体であるポッドの配置は、例えばラインアウトからの一連のフローで考えると、ラインアウトに参加していた選手は主に順目方向にそのまま回り込み、1人-3人-3人-1人(以後、1-3-3-1などと記載)の比率を作ってラックの両サイドに配置される。一般的なフェイズの中では3人のポッドを用いている。
一方で、ラインアウトからの一部のポゼッションや、フェイズを重ねていった際に、4人組のポッドを作っているシーンも見られている。
ラインアウトからのダイレクトなフェイズでは、シャノン・フリゼルやセタ・タマニバルといった接点に強い選手を中央に置いた4人ポッドを用いており、中央の2人への投げ分けによって選択肢を活かしたり、ポッド内の位置関係を組み替えて階層構造を作る(画像①)バリエーションが見られた。

【Point 2】アタックがうまくいかなかった要因は。
うまく試合を運ぶことができなかった要因は、アタックの不調が挙げられる。敵陣深くに入ることができなかったわけではなく、そのエリアに侵入してもアタックがミスで終わってしまったことが大きな意味を持つ。ただ「ミスが多かった」という言葉で片づけず、チームの強みや構造的な側面から見ていく。
前述したように、アタックの中心はモウンガだ。15番に入った松永拓朗がラックからのレシーバーになることもあるが、基本的にはモウンガが最初のレシーバーになってボールを動かす。今回の試合では、このモウンガからのオプションに強くプレッシャーを受け、いいアタックをすることができなかった。
(ブレイブルーパスが)最も大きなプレッシャーを受けたのは、10シェイプのポッド自体と、その裏に立つBKの選手だ。本来ならポッド自体の接近戦、もしくは展開によって相手のスペースを攻略したかった。
しかし、そこにプレッシャーを受けることで10シェイプで前に出ることが叶わず、展開もできず、内側に戻るようなキャリーをせざるを得ないシーンが続いた。
10シェイプは、ディフェンスが厚い傾向にあるラックの近くから最も離れた位置に接点を作ることができる。しかし外方向に展開する分(パスする分)、ボールを後方に下げながらのアタックになる。下げたことで生まれた空間をワイルドナイツのディフェンスに詰められ、結果的に「10シェイプを使うたびに下げられる」状態に陥った。
また、10シェイプから動かそうにも、裏に下げるパスをした方向に対し、ワイルドナイツのディフェンスが被るように並んでいた。それによって外方向の展開のコースがさえぎられ、多くのパターンで内側に戻るような動きとなった。

【Point 3】揺れ動いたディフェンス。
取られたトライ自体は4つも、ディフェンスシーンで笛を吹かれたペナルティも少なくなかった。それくらいワイルドナイツのアタックにプレッシャーを受けていた。
基本的にすべての要因になったのは、一つひとつの接点で差し込まれたことにより、ポジショニングがぶれたことにある。接点無双を掲げてきた同チームとしては、この領域で苦戦することは少なかった。しかし今回は押し込まれていた。
接点で押し込まれると何が起きるのか。
ゲインされるということももちろんあるが、それ以上に、その位置に対してディフェンスが寄ってしまう現象が起きる。接点で前に出られると、そのエリアのカバーや、ラックからの動きに反応するポジショニングをするため、寄らざるを得ない。結果、外方向への人数が減り、相手に数的優位性を与えてしまうことになる。
ディフェンス時の全体的なワークレートに関しても、少し修正が必要だった。前半に生まれたワイルドナイツのカイポウリ ヴィリアミアフのトライのシーンが顕著な例だ。エッジ方向に大きく動かしたワイルドナイツのアタックに対して、内側からのカバーが遅れて全体の動きが一瞬止まり、サポートに入ったカイポウリへのオフロードが通ってトライとなった。
また、相手の階層構造によるアタックへの対応でも後手に回った。
階層構造は表のラインのフロントドア、裏のラインのバックドアの2つの要素で構成される。ブレイブルーパスのディフェンスでは、この部分で「誰を」、「どのように」押さえるかが曖昧になっている時があった。結果としてそのノミネートからズレた選手に、大きく動かされる結果になった。
◆埼玉パナソニックワイルドナイツのラグビー様相。
ワイルドナイツの試合運びは、巧者という表現が正しいだろうか。「気がついたら勝っている」、「負けないラグビー」とも評される同チームのラグビーが存分に発揮された試合だった。

【Point 1】基本的なアタック様相。
基本となるのは1-3-3-1のポッドを使ったアタックのように見えた。3人ポッドをベースとして、「当てて」、「相手が寄ったら展開する」といったベースの部分を丁寧におこなっている印象だ。
ポッドの使い方にも特徴があり、単に先頭の選手がボールを受けてキャリーをするといった基本的な形だけではなかった。日本代表と似たムーヴとして、3人ポッドの前に「リードブロッカー」となる1人の選手を走り込ませ、その裏に立つ3人ポッドをより効果的に使おうとする動きが見られた。この動きによってリードブロッカーを警戒した相手選手の位置関係が乱れ、ポッドがスペースを突きやすいという効果が生まれる。
アタックの中では10番の山沢拓也が細かく位置を変えていた。この「ラックに対して反対方向に回り込むような動き」を私はスイングと呼んでいる。その動きを細かくおこなうことで、微妙な数的優位性をいくつも作ることに成功していた。
後述するが、ラックからボールを受ける選手のバリエーションの豊富さもあり、山沢拓がどのような位置にいても、一定の安定性が担保されるアタックができていた。選手ごとの特徴を活かすことにつながっていた。
最も効果的な動きが見られたアタックは、12番のヴィンス・アソと2人ポッドを使った擬似ポッドのローテーションという動きだった。

この動きの特徴は、形として3人ポッドの状態を作りながら、内側に立つアソが裏を回るように動き、ポッドの裏でボールを受けるところから始まる。この状態になると相手の内側のディフェンスが死に体となる。本来より外側の選手を受け持つ選手がアソに対して詰める必要が出てくる。その結果、外方向に大きな数的優位性が生まれ、ブレイクできていた。
【Point 2】手堅いディフェンス。
ワイルドナイツはディフェンスも手堅かった。相手の階層構造がハマって、大きく崩されたシーンはあった。ブレイブルーパスFLの佐々木剛が大きく前に出たことに始まる局面が代表的なものだ。それ以外は、抑えることの方が多かった。
そのディフェンスは、そこまで前に出ない=ラッシュをかけずに、ある程度前に出ながらも人数比に応じて横方向に流す=スライドをする動きを見せていた。
ある程度前に出ることで相手の選択肢を潰しながら、数的に余られている時は、丁寧にスライドする。致命傷になるのを防いでいた。
それによって、相手のアタックラインに対し、ディフェンスラインが1人足りないくらいのバランスでも、カバーすることができていた。ブレイブルーパスが構造的に攻めようとしても人数が余らず、大きく前に出る前にミスが出ていた。
ブレイブルーパスの特徴でもある10番を起点としたアタックに対し、被せるようにディフェンスをしたことも、大きな意味を持った。10シェイプを中心に攻めてくる相手の選択肢を、その動きによって抑え、脅威度を下げた。
◆プレイングネットワークを考察する。
それでは、プレイングネットワークについて見ていきたい。まずはブレイブルーパスのものからだ。

特徴をピックアップすると、次のようなことが挙げられる。
・10番を介したアタックが非常に多い
・ラックからボールを受けるオプションが少ない
・9シェイプよりも10シェイプが多い
この3つの要素は、どれもモウンガを中心の要素とする現象だ。10番を介したアタックの回数は37回(9シェイプから受けたものもカウントすると40回)になり、9シェイプでキャリーをした回数よりも多くの回数がモウンガへのボール供給となっている。
個人的な印象としては、「今回の試合では10番起点に依存しすぎた」という印象だ。
前述したように、10番起点が多いと、前進ができなかった場合、その後、前に出る距離が少なくなることが多い。今回の試合ではまさにそこを突かれ、なかなかモメンタムを作ることができなかった。
10シェイプに対しても、ワイルドナイツは丁寧にダブルタックルを使うようにしており、本来の強みである中盤でのオフロードを使った「すれ違うブレイク」を作ることもできなかった。
10番起点の他の要素でもあまり前に出ることもできず、「手詰まり」の言葉が見え隠れする試合様相となった。
次に埼玉WKのデータについても見ていきたい。

情報をピックアップしよう。
・ラックからのレシーブする選択肢が多い
・10番と12番がトップレシーバー
・9シェイプの頻度が多い
これらの情報をまとめると、「全体的にバランスの良いアタック」だったと言える。どの選択肢にもまんべんなく、効果的な選択肢が選ばれながらアタックを見せていた。
こちらはブレイブルーパスと対照的に、10番のレシーブ回数がかなり少なかった。他の選手もまんべんなくボールを受けており、選択肢としての10番のレシーブに絶対性がないと分かる。
10番以外のボールを受けた選手は、プレイメーカー的な繋ぎをしたり、自身のキャリーに繋げたり、各選手のキャラクターにあったプレーを選択していた。
12番がレシーバーとなるのが多い理由は、アソがキャリアーとして優れていながら、つなぎ役としても働けるからだ。12番としての強さ、CTBとしてのうまさもあり、今回の試合ではFWの選手と擬似ポッドを作り、アタックに参加していた。山沢拓が表にいても裏にいてもアソを介することによって、いい展開となっていた。
◆まとめ。
思わぬ点差となった今回。試合の内容を一つずつ見ると、細かい優位性、ミスの組み合わせがこの点差につながったと分かる。
ワイルドナイツがこの日に焦点を絞って試合に臨んだことも完勝の要因の一つには違いないが、この試合がシーズンのすべてを占うわけでもない。
ここから両チームが修正を重ね、さらに良いチームになっていくことを想像すると、楽しみに思う気持ちは止められない。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
