伝統の一戦が、優勝決定戦だった。
12月7日におこなわれた関東大学対抗戦の早明戦は、大学選手権でいい山に入る(組み合わせに恵まれる)という点も試合の重みを高める理由の一つとなり、両チームともに熱を込める好ゲームとなった。
分析的に見ていこう。
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〈アタック戦略〉
明大は基本的な考え方として、敵陣で試合を進める点に注力していたように見えた。どのチームでも考えることではあるが、この試合ではある程度こだわりを見せたプレイングを見せていた。
特に前半の明大のアタックイメージとしては、敵陣22メートルまでのいわゆる「中盤」と言えるようなエリアでは積極的にパント系のキックを蹴り込んでいたことが挙げられるだろう。伊藤龍之介からのハイパントや、柴田竜成からのボックスパントなど、高いボールを蹴り上げて、味方選手に競り合わせるというフローを中盤での基本戦略としていた。
ハイボールに対しては両WTBの阿部煌生と白井瑛人がハイボールに強く、同じくハイボールに強い早大の矢崎由高としっかり競り合う様子を見せていた。
話は逸れるが、リスタートのキックからも阿部が競り合うことによって、その時点で相手に余裕を与えることのないプレーを見せていた。
残念だった点としては、ハイボールの競り合いでミスが起きて相手ボールのスクラムになった時に、早大にかなりプレッシャーをかけられていたことだ。本来明大が得意とする領域であり、相手を敵陣に押し込みながらセットピースに持ち込むことで、エリア的に優位に進めることができるはずだった。しかし、結果的にスクラムでの反則が重なることで、エリアを進めることを早大に容易に許していた。
しかし中盤から展開にこだわらずにキックを蹴り込むことで相手にプレッシャーをかけ、それでいて自分たちは選択肢を絞る。その結果、戦略的な余裕を作ることに成功していた。
特にBゾーンと呼ばれるハーフラインから敵陣22メートルラインまでのエリアでキックを使って押し込むことにより、相手は多くの場合、脱出のキックを蹴らざるを得ない。テリトリー、ポゼッション的にゲームを優位に進めることができていた。
エリア戦略の延長線上には、中盤からモールを使って勝負をするイメージを持てたことも大きかった。ラインアウトからのモールは、安定した確保とプラットフォームができれば、パスを介さずに前に出ることができる。強みにできれば安定感が出る戦略だ。3つのトライのうち2つのトライはモールで勝負を仕掛けてからのトライだった。

〈アタック傾向〉
大まかな戦略は前述のとおりだが、細かい戦術については、そこまで特殊な動きは見せていなかったように感じた。ポッドを当てこみ、アタックラインで大きく振るといった、シンプルな動きを見せていた。BKで構成された後方のラインに対して、FWを中心としたポッドなどの構成がフロントラインとして立っているイメージだ。
ポッドの構成としてはタッチライン際から1人ー3人ー3人ー1人(今後は1-3-3-1等と記載する)の比率をベースに配置されているように見え、エッジには最上太尊のような接点と走力のバランスがいい選手が並んでいた。基本的にエッジのディフェンスにはBKの選手が並ぶため、質的優位を作りやすい。
また、時にはラックのSHからパスを受けるポッド、9シェイプが4人になっていたシーンもあった。これに関してはあくまでも予測に過ぎないが、展開のオプションを増やすというよりもラックからのパスの選択肢を増やす形に終始していた。あくまでもキャリーを使う選択肢がメインで、そこから展開する形はあまり見えない。ラックに参加するのはキャリアーも合わせて3人が基本になる。残った1人は、次のポッドへ向かおうとしていた。
難しかった点としては、ポッド内・ポッド外のオプションがそこまで豊富なわけではなかったので、早大の早く前に出てくるディフェンスに対してそこまで前進することができなかった点が挙げられる。早大のポッド戦略とは異なるこの部分により、アタック全体のリズムをつかむことはできていなかった。
アタックラインは非常に安定感があり、10-12-13番のラインが特に強さを見せていた。12番で主将の平翔太がアタックのキーとなっており、接点で前に出ることができるだけでなく、パスとキックのプレーにも脅威があるため、相手としては簡単に選択肢を切ることができなかった。
そのほかの要素として、ラックからのピックによるキャリーや、タックルを受けた選手が再度ボールを持ち直してキャリーを図るという動きが随所に見られた。明大の選手はこのスキルの練度が高く、適時でこのスキルを活かすことによって前進を果たしていた。ラインディフェンスでは精度の高い早大のディフェンスも、ゼロ距離での押し合い、キャリーには明大に一日の長があった。
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それでは明大のスタッツを確認していきたい。
ポゼッション回数は36回、ポゼッション獲得率は約54パーセントと、相手を上回っていた。今回は計測していないが、テリトリーでもある程度前に出ることができており、その上でポゼッションでも上回ることで、相手のスコア機会を減らすことに成功していた。
36回のポゼッションのうち8回のポゼッションで敵陣22メートルライン内に侵入することに成功している。侵入率としては約22パーセントと数値としては少ない比率だった。中盤でのポゼッションの出口がハイパントによるアンストラクチャーだったこともあり、一連のアタックの中で侵入を果たすことができたシーンがそこまで多くなかった、そのことも影響しているかもしれない。
ベーシックスタッツを見ると、キャリー、パス、キックの回数がそれぞれ74回、94回、26回となっている。キャリーに対するパスの比率は1.27と、平均的な水準に比べてパスの回数が少ない。9シェイプがアタックのベースになった時にこういった数値傾向を示す。今回の試合では安易な展開ではなく、接点での勝負を挑んだということだ。
ペナルティとフリーキックを合わせた反則が14回、ターンオーバーが12回。そこは改善していきたい要素だ。反則の半数がスクラムによるものだった。本来は得意としている要素だ、修正を急ぎたい。
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〈アタック戦略〉
早大の基本戦略として、エリアのコントロールや打開の部分で10番の服部亮太と15番の矢崎が中心になっていたと推測できる。エリア戦略に関してこのポジションの選手が中心になるのは多くのチームでも一致しているだろうが、アタック全体を見ても両者の果たす役割は大きかった。
例えば10番の服部がラックに参加したときなどは15番の矢崎が最初のレシーバーとなり、12番で主将の野中健吾がプレイメーカーの外側、10シェイプの裏に立っていた。プレイメーカー起点でボールを動かしてアタックしようとするイメージが見て取れる
また、勝負を仕掛けたいシーンでは10番と15番の距離感をコントロールし、服部の内側に矢崎を走らせたり、内側のポッドからボールを受けた服部を経由し、矢崎を相手の最も崩れているポイントに差し込むようなプレイングを見せていた。早大の唯一のトライも、個人技の要素も大きかった。矢崎という大学屈指のランナーを、相手の崩れたポイントに投入したからこそ生まれたトライだった。
基本的なイメージとして、BKのアタックで崩したいように感じた。早大のアタックの主たる現象として、アタックラインとポッドのラインの分離が見られる。勝負どころではBKが人数をかけて崩そうとする様子が見られた。
その過程として、あと出しでアタックラインの人数を増やす「スイング」と呼ばれる動きを好んで用いていた。主にラックなどの停滞した環境の裏、または逆サイドからキーとなる選手がアタックラインに対して回り込むように参加する仕組みだ。
スイングで動くのは10番、15番、WTBの選手が中心となっており、プレイメーカーが回り込んでボールを受け、同時に回り込んだWTBがアタックオプションになっていた。あと出しで人数を増やすことでディフェンスラインのノミネートがブレたり、乱れたりする。結果として相手と人数の合っていない選手が生まれ、前に出ることができる。
戦略性の部分では、キックを使った動きも忘れることはできない。ロングキックでは、日本でもトップクラスの飛距離を誇る服部のキックで50/22メートルキックをはじめとしたエリアの取り合いで優位に立つことができていた。
ただ、ハイパントを中心とした競り合うキックの領域では明大に少し上回られていたように感じられた。ハイボールに強い矢崎も裏を守っていたが、ハイボールに強い手札の数で明大が上回り、かなりプレッシャーを受けていた。

〈アタック傾向〉
ポッドのベースとしては、1−3−3−1の人数比で並べている形が多く見られた。中央の3人ポッドが9シェイプや10シェイプに入り、1人のFWがエッジに配置される。ただ、1人のFWは思ったよりもエッジに近い位置には立っておらず、プレイメーカーの位置に近い、その次のパスの先に立っていることが多かった。
1-3-3-1の3人ポッドを連続して当てた後、同方向に12番や13番とバックローの1人で2人の擬似ポッドを作る。その2人のポッドのうち、CTBが最初のレシーバーとなり、バックローの選手はダミーのランナーとして走り込む形だ。プレイメーカーは短く回り込む形でこの2人の擬似ポッドの裏に周り、CTBから下げるパスを受ける形をとっていた。
1-3-3-1の人数比以外にも、時折1-4-2-1の人数比も見られていた。9シェイプに4人の選手を立たせてパス先のオプションを作る。この人数比が好んで用いられていたのはエッジでゲインを果たしたシーンで、主に8番の粟飯原謙がボールを受ける形が多かった。ボールを受けた粟飯原はそのまま下げるパスで裏に立つ服部などのプレイメーカーにボールを回し、さらなる展開を図っていた。
4人ポッドのオプションとしてはティップオンという隣の選手に小さくポップするパスを使っている。ティップオンを使うことで接点をずらすことができ、そうすることで相手との1対1を能動的に作ることが可能だ。早大の選手はこのスキルの水準が高く、相手ディフェンス2人の間に上手く角度をつけながら最初の選手が走り込むことで、ティップオンを受ける選手が位置的に優位な状態でボールを受けることができていた。
それ以外の要素としては、セットピースが試合に影響をもたらしていた。スクラムは大筋で優勢に立つことができていたように見えた。レフリングとの相性もあり全体的に不安定だったが、高確率でペナルティを獲得することができた。そこからペナルティキックで敵陣深くに侵入することに成功していた。
ただ、敵陣深くで得たラインアウトのチャンスを上手く活用することができなかった。細かい数字は後述するが、獲得できたトライは1つ。スコアを重ねることができなかった。相手を分析した結果かラインアウトからモールを作るシーンも少なく、ボールを動かしながらスコアを図るも、ターンオーバーで終わるポゼッションも少なくなかった。
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早大についても、スタッツを確認していく。
ポゼッションに関しては、明大とほぼ同数の37回のポゼッションになった。ポゼッション獲得率は約46パーセントと、相手に上回られる結果となった。積極的にボールを動かし、キックも少なめにして展開する一方で、相手よりもボールを動かすことができた時間は少なかった。ポゼッションとエリアコントロールのバランスを見据えていく必要がある。
敵陣22メートル内への侵入回数は6回と、少ない数値を示した明大よりもさらに少ない数値を示した。侵入率は約16パーセントと6回強のポゼッションに対して1回という結果。スクラムを支配的に進めることができていて、かつ相手以上にペナルティを獲得できていた割に、あまり前でポゼッションを持つことができなかった。
ベーシックなスタッツは、キャリーが68回、パスが143回、キックが19回。キャリーに対するパスの比率は2.1と、平均的な水準に比べて大きな数値をとった。この数値の大きさは、1回のキャリーに対して多くのパスを見せているということを示す。前述したBKを使った展開型のアタックをしていたことの裏付けとなる。
反則とターンオーバーはそれぞれ10回、7回となっており、そこが致命傷となりうる試合展開において、比較的少ない回数で抑えることができていた。ただ、明大のトライの中には早大のペナルティを受けて敵陣に侵入し、ラインアウトからモールを起点にして奪ったものもある。エリアごとに、シビアにペナルティを抑えていきたい。
◆まとめ。
大学選手権の決勝に次いで盛り上がる試合、とも言える早明戦の勝者は、今年は明大となった。接点に注力し、ラインアウトからチャンスを作り出すアタックフローが、早大のディフェンスを突き崩した。ただ、スクラムは終始不安定な様子だった。肝になる部分であり、改善を図りたい。
早大としては、思った以上に相手ディフェンスを崩すことができなかった。アタックの過程で見せた工夫の数は明大を上回り、個々のスキルセットも高水準で揃っている。それでもチャンスでトライを取り切るシことにはつながらなかった。ペナルティゴールを狙った堅実な選択も、勝利には届かなかった。
全国大学選手権では、明大は2018年度以来、早大は2019年度以来の優勝を狙う。対戦するチームは、どのチームも武器を持っている。ここからさらに、修正と改善を図ってチーム力を磨き上げていきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
