関西の雄×関東の伝統校の構図だった。
今季のそれぞれのリーグ内順位は、前者が2位、後者が5位。この日の80分は非常に白熱し、面白い展開になった。
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〈基本となるアタック構造〉
京産大のアタックを見ていこう。キーになったのは10番の奈須貴大だ。自陣でのブレイクやパント系の再獲得など、単なるプレイメーカーとしてだけではない良さを見せた。
体も強く、コンタクトをしてからのオフロードなど、味方の好パフォーマンスを引き出す、いい働きをしていた。
基本的なアタック構造としては、2人-3人-3人(以後、2-3-3等と記載)の人数比でフェイズを重ねることが多かった。外側の2人のポッドには主将の伊藤森心やシオネ・ポルテレといった、走力と突破力のある選手を置いていた。中盤での3人ポッドで接点を作った後の振り返しの攻撃では、少人数ながら外側での接点にも厚みをもたらしていた。
3人ポッドから裏に立つBKの選手に対して下げるパスを使い、2人ポッドを、ブロッカー、相手ディフェンスに対しての壁として使っていた。結果、機動力のあるバックスラインを有効活用できていた。
エッジにはBKの中でも攻撃力の高いエロニ・ナブラギが入っており、ポッドを使って少しでもディフェンスラインを足止めすることができれば、突破力のあるエッジでのキャリーを使い、前進した。
京産大は、この「ブロック」という動きをうまく使っていた。ブロックとは、1人またはそれ以上の選手が実際にボールを受けることになる選手の前方の空間に対して走り込むことで、相手ディフェンスの足を止める役割を持つ動きだ。
京産大はこのブロックを丁寧に用いており、たとえそれがラックに対して狭いサイドの、少ない人数同士の攻防であってもFWの選手がしっかり走り込むことで相手ディフェンスの壁となる。味方に対して活用できるスペースを作り出していた。
また、パント系のキックも効果があったように見えた。プレイメーカーからのハイパント。そして、SHからのボックスキックなどの種類があった。14番に入った小林修市が高い位置で競り合うことによって、相手がクリアにキャッチできず、ボールがこぼれる。どちらの手にも入りうる状態を作り出していた。

〈アタック傾向〉
一進一退という言葉が相応しい試合だった。交互にリードする状況を作りながら、最後のプレーでスコアした京産大が勝利を収める結果になった。個人的にキーになったと思うフローは、71分に生まれた石橋チューカによるトライ。その影響力は大きかったように思う。
5分ほど時間を遡ると、慶大にトライとゴールを決められ、19-29と10点のリードを許していた。
その状態から、69分にゴール前の連続攻撃からナブラギがトライ、高木がゴールを決めて3点差にまで詰める。そこで71分の石橋のトライが生まれた。
このトライは、自分たちがスコアをした後のキックオフレシーブからそのまま前進を重ね、直前のトライ&ゴールからわずか2分でスコアに繋げている。
キックオフレシーブからは、脱出を試みて相手ポゼッションとなることが多いが、ここでは相手のキックオフを受けた後、そのままポゼッションを渡さずにトライを決めた。スコア効率的にも、精神的なモメンタムという意味でも大きな意味を持った。
一方で、アタックの一部には修正、または向上できる余地があるように感じた。個人的に気になったのはポッドの構築とその裏を走るBKの選手の動きだ。
主にポッドを構成するFWの選手は、必ずしもポッドの構成に熱心ではない。FWの選手が順目に回る動きが少し遅く、ポッドでのキャリーに狙いを絞られていた。慶大の低く、鋭いタックルの狙い目になっている時があった。
また、BKの選手の動きについて。パスの受け手が真っ直ぐすぎるような印象を受けた。
ポッドの進行方向とそう変わりないアングルでボールを受けることにより、ポッドの前に立っていた選手がトイメン(の動きから目)を切ってから、そのままの動きで裏の選手をチェックすることができている。ノミネートのズレを作ることができておらず、また、直線的にプレッシャーを受けることで、オプションの脅威度も下がってしまっていた。
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それではまず京産大のスタッツをチェックしていく。

順番にチェックしよう。
ポゼッションは40回となっており、欄外のデータとしてポゼッション獲得率が59.7%、1回のポゼッションの時間が26.6秒という数値を示した。相手ポゼッションを数値的には上回っており、ボールを支配的に確保して動かすことができたと言える。支配率が均等な数値になっていれば、違う結果になっていたかもしれない。
今回の試合は、単純にボールポゼッションの時間のみを合計すると約30分となり、プロカテゴリーの一般的な水準である35分と比べると短い。両チームともにハンドリングエラーやスクラムの組み直しなどで多くの時間を使った分、1回のポゼッションが持つ意味は大きい。
敵陣22メートル内への侵入回数は11回、侵入率は36.4パーセントになっている。3回半あたり1回の割合で敵陣深くに侵入することができており、相手よりも効果的に前に出ることができていた。11回の侵入回数に対して6回のトライ、5回のコンバージョンゴール成功と、比較的効率よくスコアすることもできていた。
キャリー、パス、キックはそれぞれ104回、133回、24回だった。キャリーに対するパスの割合は1.28と、一般的な水準の1.5付近の数値を下回る結果だ。この数値が意味するのは、ラックからパスを介さずにキャリーすることが多い、つまりFWを主体としたキャリーが多かった。
ゴール前でのFWによる連続キャリーによって、「パス回数が刻まれないキャリー」が増えた。その結果の比率とも想像できる。
ただ京産大は、ポッドでの接点も有効活用しながらキャリーしていた。そういった事実から比率の減少が見られたと想像できる。
一方で、明確なラインブレイクの回数がポゼッション、キャリーの回数の割に控えめな数値にとどまったところが試合内容の全体的な難しさにつながったかもしれない。ある程度数的優位を外方向に作ることができていたが、慶大のディフェンスのエッジの安定感により、大きなブレイクは抑えられていた。
個人のスキルセットやサインプレーによって誘導される中央でのブレイク。そういったチャンスを作るプレーが、最後の逆転トライにもつながった。
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〈基本的なアタック構造〉
構造的な面で言うと、おそらくは1-3-3-1という人数比をベースにしていると考えられる。特殊な人数比でアタックを繰り広げているようには感じられなかった。
エッジに8番の中野誠章や7番の申驥世のような、強く、ある程度の走力もある選手を配置し、折り返しのアタックの際に強みを出そうとしていた。
ただ、時折エッジに3人ポッドを配置する3-3-2に近い構造も作っていた。これは、必ずしも1-3-3-1の比率でグラウンドのレーン(縦方向に分割したエリア)を動かすわけではなく、ラックの位置に対して両サイドに3人ポッドを作るようなイメージだ。15メートルライン付近でのラックで、結果的にエッジ方向に3人のFWの選手が並ぶような形になっていた。
その動きによって期待できる主な効果としては、エッジに近いエリアにラックを繰り返し作ることで相手のディフェンスを誘導できることが挙げられる。必ずしも狙った効果が得られている様子ではなかったが、ポッドをベースにスペースを作り、BKで一気に展開する動きが見られていた。
また、慶大も基本的にはスピードベースでアタックをしたいチームだと感じた。SHの橋本は捌きのリズムが早く、どんどんボール出しをしていた。ボトルネックになるのはSHの寄りのタイミングとブレイクダウンで受けるプレッシャーで、苦戦しながらも一定のスピードをキープしながらアタックできていた。

〈アタック傾向〉
ラインアウトモールといったセットピース起点や、中盤でのブレイク起点でのトライも見られ、持っているカードをしっかりと活かすアタックができていた。サインプレーも効果的にハマり、準備していたことを出せた一戦だったと言える。
一方で、生まれた数的優位を生かし切れなかったり、そもそも数的な優位性を作ることができなかったり、構造的に相手を崩すことに苦戦しているように見えた。個人技によるブレイクなどもあり、良くも悪くもイメージと異なる展開になるシーンもあった。
個人的な印象としては、各選手があまりアタックオプションになりきれていないことも影響していると感じた。孤立とまではいかないが、アタックラインがシンプルな形状となり、ディフェンス側からすると、ノミネートを絞りやすくなっていた。結果的に、一つひとの接点でずれが生まれづらくなり、圧力を受けた。
セットピースで密集したFWの選手の動きも、やや遅れる様相が見られた。それによってアタックラインが薄く、単純なものとなり、特にセットピースからのセカンドフェイズに対して強くプレッシャーを受けた。
〈ディフェンス様相〉
全般的に慶大らしい堅さと鋭さのあるディフェンスをすることができていた。9シェイプという京産大の強みであるFW戦や、エッジに立つ走力のある選手に対し、各選手がいいディフェンスを見せた。中でもエッジでディフェンスをしていたSOの小林祐貴のタックルは、1年生ながら慶大の誇りのようなものを感じた。
細かい接点では少し押し込まれるシーンもあった。受け気味にタックルをすることで相手に差し込まれ、ラックをより前方で作られていた。その結果、ラックに人数をかけなければならなくなり、周囲のディフェンスが引き込まれるように密集に集まる。結果、外方向に有利な状況を作られていた。
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慶大の数値についてもチェックしていこう。

慶大は、ポゼッションが31回にとどまっていた。直近で取得したデータとしては1試合の両チームのポゼッションの合計が70回程度になることが予想され、京産大のデータと見比べると、相手にポゼッション上は支配されたと言うことができる。
ポゼッション獲得率は40.3パーセントという数値になった。
慶大が最も苦戦したのは、「敵陣22メートル内への侵入」だ。1試合を通じても5回という数値に抑え込まれており、なかなか敵陣に入ることができなかった。
ただ、ここでトライ数を振り返ると、慶大には試合通じて5回のトライがあった。実は敵陣深くに入れば必ずトライを取って戻った。
ラインブレイクも約10回のキャリーに対して1回のラインブレイク。相手を上回る効率で前に出ることには成功していた。ラインブレイクの多くが敵陣深くへの侵入につながっており、その侵入に対し、高確率でトライまで繋ぐ攻撃力を見せた。
キャリー、パス、キックの回数は61回、112回、22回。キャリーに対するパスの比率は1.84と、パスの比率が多かった。慶大は接点で少し後手に回ったことで、積極的にボールを動かそうとした様子だ。展開傾向にあるチームは、この比率が1.5を超える傾向にある。
それ以外の気になる点は、反則やターンオーバーか。回数自体はそこまで多くないが、スクラムでのペナルティなどからタッチキックでの前進を許し、ラインアウトから脅威度の高いプレーに繋げられるなど、苦戦した。
◆まとめ。
非常に質の高い試合だった。一進一退の攻防があり、安易なミスではなく、優れたスキルやチーム力で奪ったトライが多く見られた。
京産大としては、この試合展開で勝利できたことは大きい。どのチームに対しても難敵として立ちはだかる慶大を、自分たちの強みを生かしながら下すことができた。改善点はあるが、この勢いを次の試合に繋げていきたい。
慶大は勝利が目の前に見えていただけに、非常に悔しい展開となった。ただ、随所に「慶大らしさ」を見せていた。上級生も多かったが、それを支えた下級生も十分な経験を積むことができた。来シーズンを期待したい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
