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久しぶりに乗り継ぎなしでヨーロッパへ。ロンドン行きの便は日本代表の選手、スタッフたちと同じ便だった。
10月29日の午前中に日本を発って、同日夕方前にヒースロー空港へ到着。約14時間の長いフライトだけど、いつも乗り継ぎ、丸一日近い時間をかけて渡航してきた身にとっては楽チン、楽チン。機内での仕事もそこそこはかどり、見た映画2本も当たりでよかった。特に韓国映画『市民捜査官ドッキ』は、フライト終盤の辛さを忘れさせてくれる内容だった。
空港、機内で見る選手たちは、グラウンドで見るより際立って大きく見えた。当然、空港でも目立つ存在で、リーチ マイケルは多くの人たちに応援の声をかけられていた。写真撮影に応じる姿も慣れたもの。同選手はこのツアーで全試合に出場すると94キャップになり、来季中の100キャップ到達が濃厚になる。
機内では選手たちがビジネスクラスとプレミアムエコノミーに座り、コーチ、スタッフはエコノミークラス。巨漢のギャリー・ゴールド、オーウェン・フランクスの両アシスタントコーチも、大きな体を狭いシートに押し込んでいた。
9月上旬、女子ワールドカップのプールステージ取材のために訪れたイギリスは、その時からすでに肌寒い日が多かった。そして今回、降り立ったロンドンは寒い。特に曇天の日、風が吹くとその冷たさが肌を刺す。15時過ぎにはヒースロー空港に着いたのに、荷物をピックアップして空港の外に出る頃にはすでに暗くなり始めていた。


ロンドン市内中心部はホテルも高いので、今回は市内西部、地下鉄セントラルラインのノース・アクトン駅近くに宿泊することに。駅周辺は目立ったお店などはなく寂しいが、小さな駅舎や穏やかな雰囲気がなんだかいい。東京で言うと、西武線沿いの駅の感じに似ていると思った。
便利なのは、ノース・アクトン駅前から出ている路線バスに乗ると、11月1日の試合会場、ウェンブリー・スタジアムまで30分前後で行けること。今回は、ロンドン中心部に行くことはなさそうだ。
到着した夜は駅近くの小さなレストランでビールを軽く飲む。その小麦色の飲み物は日本で飲む時とあまり金額は変わらないのだが、フードは驚くほど高い! 今回も食事には苦労することが初日に決定した。
現地での2日目には、夕方から試合メンバーの発表会見がおこなわれる日本代表の滞在先へ向かう。ロンドンの北、20キロ超のところにあるセント・オールバンズは、テムズリンクという列車に乗って約30分。静かな街だった。
代表チームの滞在先は駅から2.5キロほど。Googleマップを頼りに歩いてみた。人の家の軒先や自然あふれる遊歩道などを歩いて30分あまり。多くの木々に囲まれたところに瀟洒なホテルはあった。

メンバー発表記者会見には、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチとワーナー・ディアンズがキャプテンとして出席。ジョーンズHCに確認すると、ディアンズはこの試合のゲームキャプテンというわけではなく、今回のツアーでキャプテンを務めるということを明確にした。そして、「キャプテンは毎試合役割が同じというわけではない。その試合ごとにやらないといけないことがある」とした。
今回の南アフリカ戦での、RG・スナイマン、ルード・デヤハーといった相手の強力LOとのマッチアップについて、「試合の中でも重要なコンテストとなる。そこでフィジカル的に(チーム全体を)リードしてほしい。本人も世界有数のロックを目指しているのでやってくれるでしょう」と期待を寄せた。
ジョーンズHCは、今回の試合を「歴史的対戦」と表現し、「世界のベストと対戦する大きなチャレンジだということを、チームとしても自覚しています。しかし萎縮するわけではなく、しっかり挑む」と言った。
若い選手にとって世界一の選手たちと戦う機会は「試練やチャレンジになる」としながら、「自分(の持つ力)を試すこともできるし、それは選手たちが望むことでもある」とした。そして10年前、2015年のワールドカップで日本代表が南アフリカに勝った歴史的な試合があるとはいえ、「(いまの選手達自身が)自分たちで歴史を作る機会でもある」と期待を込める。
ピッチ上の予想については、フィジカルな試合になることは避けられないが、「試合の場面場面でスピードを持って展開し、何よりも賢くプレーすることが大事」と話した。
そして、これまででいちばん一体感を持って戦うと誓う。超速ラグビーは、単なる速さだけでなく、瞬時の意思疎通が武器と考えている。

強力なパックで圧力をかけてくる相手に対し、ベンチ8人中FWを6人入れた。23番にバックローが主戦場のティエナン・コストリーを置いたことについては、「フォワードのバトルになるのでベンチに6人のFWとしました。コストリーは、(いまチームにいる)他のウイングの75パーセントの素速さがある。身体能力も高く、空中戦にも強いので、バックローだけでなくウイングとしても活躍してくれると期待しています」。
ワラビーズ戦後に日本でおこなった練習で少しコンディションを崩した矢崎由高については、「火曜の練習を休ませ、移動もでき、きょうも軽く動けたので」と話し、見通しは明るいとした。
ワーナー主将は、初めて南アフリカと対戦する。子ども時代、オールブラックスと南アフリカの試合を、朝の3時に起きて父親と一緒に見た記憶がある。
そんな強大な相手と対戦する日を迎え、「楽しみですね。お父さんと2人で見ていたトップのトップといっていいチームと戦える。チャレンジします」と話し、リラックスした表情を見せた。
同主将はビッグゲームを迎える自覚は全員が持っているものの、特別な言葉掛けなどはしていないという。「ルーティン通りというか、いつも通りにいい練習をして、いい準備をする。それがいちばん大事かな」という考えからだ。
自然体。リーチ マイケルとは違う、新たなリーダーシップに期待がかかる。
10月31日の午前中には、チームが試合会場のウェンブリー・スタジアムでキャプテンズランをおこなった。
小雨の降る中、ウォーミングアップから始めて約1時間。選手たちは各々、芝の感触を確かめたり、9万人を飲み込む巨大スタジアムの中で、翌日の試合に向けて頭の中のイメージを膨らませていた。
取材対応には1番の小林賢太、12番のチャーリー・ローレンスが現れた。
世界最強とも言われるスクラメイジャーたちと対峙する小林は、「相手はフォワードパックを強みとしていてスクラムでプレッシャーをかけてくると思いますが、我々の強みは低さ、8人のまとまりで対抗したい」と自分たちのやるべきことに集中する強い気持ちを口にした。


トイメンのザック・ポーセンは21歳。今回デビューすればスプリングボックス史上最年少PRとなるから注目されている存在だ。189センチ、124キロのサイズを誇り、所属チームや年代別代表でキャプテンを務めてきたリーダーシップもある。
小林はそんな相手のことは研究済みで、南アフリカ国内での試合の映像を見て、「機動力があり、サイズを活かしてくる」。しかし、ここでも「やることは変わらず低くプレーする」とした。
ローレンスは、BKにも大型ランナーが多い相手に対しても強気でいく気持ちを見せた。
「(日本代表は)ディフェンスが強化されています。ギャリー・ゴールドが落とし込んだシステムに選手たちがフィットしていて遂行できている。世界から見てもアタックが得意なチームと見られていると思いますが、ディフェンス面の強さも見せていきたい」
171センチの体躯で弾丸になる。
新たな歴史を作ることが期待される一戦は、11月1日の16時10分にキックオフ。ロンドンの天候は曇りか小雨、最高気温17度、最低気温10度の予想となっている。

【2025年11月1日 vs南アフリカ/日本代表メンバー】
①小林賢太(東京サントリーサンゴリアス/早大/181、113/26/5)
②佐藤健次(埼玉パナソニックワイルドナイツ/早大/177、108/22/5)
③竹内柊平(東京サントリーサンゴリアス/九州共立大/183、115/27/20)
④ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ/クインズランド大/195、110/31/25)
⑤ワーナー・ディアンズ◎(東芝ブレイブルーパス東京/流経大柏/201、117/23/28)
⑥ベン・ガンター(埼玉パナソニックワイルドナイツ/ブリスベンボーイズカレッジ/195、120/28/15)
⑦下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス/早大/188、105/26/19)
⑧リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京/東海大/189、113/37/90)
⑨藤原 忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/171、76/26/17)
⑩李 承信○(コベルコ神戸スティーラーズ/大阪朝高/176、86/24/25)
⑪長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ/早大/179、90/25/22)
⑫チャーリー・ローレンス(三菱重工相模原ダイナボアーズ/ハミルトンボーイズ高/171、90/27/5)
⑬ディラン・ライリー○(埼玉パナソニックワイルドナイツ/ボンド大/187、102/28/34)
⑭石田吉平(横浜キヤノンイーグルス/明大/167、75/25/6)
⑮矢崎由高(早大3年/桐蔭学園/180、86/21/6)
⑯平生翔大(東京サントリーサンゴリアス/関西学大/174、103/23/-)
⑰祝原涼介(横浜キヤノンイーグルス/明大/184、115/29/3)
⑱為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/明大/180、108/24/16)
⑲タイラー・ポール(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/ネルソン・マンデラ大/195、111/30/1)
⑳マキシ ファウルア(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/187、112/28/20)
㉑福田健太(東京サントリーサンゴリアス/明大/173、83/28/6)
㉒サム・グリーン(静岡ブルーレヴズ/ブリスベングラマー高/178、85/31/4)
㉓ティエナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ/IPU環太平洋大/192、102/25/10)
※カッコ内は所属チーム、出身校、身長・体重、年齢、キャップ数の順。◎はゲームキャプテン、○はゲームバイスキャプテン