2日続けてタックルの嵐を見た。
10月25日は東京、国立競技場。日本代表がオーストラリア代表にタックル、またタックル。15-19で敗れるも、4万超の観客の心をつかむ好ファイトだった。
翌日は栃木の足利へ。足利ガスグラウンドでおこなわれた関東大学対抗戦A、帝京大×筑波大は、18-14のスコアで筑波大が勝利を手にした。
4年連続大学日本一の帝京大は4点を追う試合最終盤、筑波陣深くに入り、攻め立てた。
トライラインから約10メートル、左サイドのラインアウトから攻めた帝京大。真紅のジャージーは30フェーズの攻撃を重ね、31フェーズ目にはラックからボールを持ち出して大きく前進した。
筑波大は最終的にそれも止め、ノックフォワードを誘って歓喜の時を迎えた。
30フェーズ目、帝京大の作ったラックは、10メートルの手前まで後退していた。ラインアウトの投入からボールロストまで約3分20秒。水色のジャージーは狂ったように体を当て続けた。
この試合、筑波大は先制点を奪われた。開始3分、帝京大のCTB上田倭士に自陣でインターセプトされ、長い距離を走り切られる。コンバージョンキックも決められて0-7とされた。

ただ、その直前のスクラムで相手に圧力をかけたのは筑波大の方。得たFKから展開する途中、パスをかっさらわれたから、失点は痛かったけれど序盤から戦える手応えはつかんでいたかもしれない。
12分にはラインアウト後のモールを停滞することなく押し込み、5点を返した。
筑波大は32分、相手ドロップアウト後のキックレシーブから攻めた。ハイパントを蹴って再獲得後、ラックからPR湯浅大心がピック・ゴー。クイックな球出しからCTB東島和哉、WTB内田慎之甫とボールは渡り、内田が好ステップでディフェンダーをズラす。
大外のFL中森真翔が左タッチ際を走り切った(10-7)。
前半終了間際、自陣深いところに入られた筑波大は、強いボールキャリアーをタックラーが前で止められず、攻め切られてトライラインを越えられた(PR森山飛翔トライ、CTB大町佳生ゴール)。
しかし10-14で入った後半、帝京大に与えた得点はゼロ。自分たちは3分にPGで差を詰め、13-14で迎えた29分にはPKで帝京大陣に入り込み、ラインアウトから攻めた。
前半のトライシーン同様、モールで圧力をかけて押し込んでおいて、左に待つ深田衣咲へパス。背番号21がインゴール左隅に飛び込んで18-14とする。
そこからスコアが動くことはなかった。
前述のように試合の最後の数分間、帝京大の猛攻を凌ぎ切って勝利を手にした筑波大。記者会見に出た嶋﨑達也監督とSH高橋佑太朗主将は、敗れた前戦、対早大(13-39)で得た体感が、この日の勝利の根っこにあると話した。
日本一を目指している。早大に敗れ、自分たちの接点強度の基準では、今季終了時に手にしたいものが掴めないと気づいた。
その日から2週間、練習時の接点強度をより高めて帝京大戦を迎えた。
高橋主将が言う。
「早稲田戦に出た23人が他の部員たちに、その時の強度を伝えることから始めました」
新たに求める自分たちの接点での強度基準を、赤黒ジャージーと対した23人が練習で、Bチーム以下の選手たちに体を当てて部全体で共有したのが第一歩。それを2週間の準備期間に重ねた。

『よりハードな練習に取り組む』と言葉や文字にするのは簡単も、同じ人間がやるのだ。簡単ではない。しかも僅かな期間で結果を出さないといけない。どうやってレベルアップを実現したのか。
主将は、短期間で体をサイズアップするのは無理でも、コリジョンの練習時のボールキャリアーのヒットや寄りのスピード、意識は高められるから、「もっとはやく、低くと、接点でのプレーの質を上げた」と言う。
号令をかけただけでなく、日々、一つひとつのプレーが求めている基準に達しているのか目を光らせた。帝京大に挑む自分たちの戦いのテーマを「接点」とした。
FWに前に出られたら、チーム全員で襲いかかってくる。そんな相手と戦うとなれば、注力する点は明らか。高橋主将は、「ゼロからイチを作らせないことが大事だった」と言う。
個々が「ファーストタックラーが低く入り、全部(敵側に)返す」意識を徹底した。「やり切れたら勝てる」と確信していた嶋﨑監督も、選手たちを愛でた。
それだけのハードプレーを80分続けるためのゲームメイクも奏功した。
早大との雨中戦でエリア取りに後手を踏んだことも活かし、雨の予報を受けてキックも多用した。状況を見ながらハイパント、奥へのロングキックを使い分ける。
それは、終盤にもフィジカリティで負けないことにもつながった。
高橋主将は、「アタックでずるずる体を当てて攻めていたらFWも消耗するので、(有利な状況でなければ)早めにボールを手放すことを考え、ハイボールや奥へのキックを使いました。ディフェンスに体力を残すことを意識しました」。
30次攻撃を守り切ったラストシーンは、その結果だった。
描いたプランを遂行して勝利を得た選手たちは、激闘のあと、気持ちよさそうな表情をしていた。
足の怪我で早大戦には出られなかった1番の湯浅大心は、スクラムで奮闘した。この日も万全なコンディションではなかったが、要所で相手に圧力をかけた。

トイメンは昨年日本代表も経験している森山飛翔。そんな強敵をドミネートするイメージを頭に準備期間を過ごし、この日を迎えた。ファーストスクラムで好感触を得た。
1対1では手強いのは分かっている。8人でまとまって、相手の押しの傾向に対抗した。
真紅の3番はこちらの1番と2番の間を割ってきながら突き上げてくる。「それを自分の肩と首で抑えながら、上げようとしてくるところを狙いました」。
股関節がやわらかく、力をかけられても姿勢が崩れない強みを持つ。それを活かして仲間に体側を寄せて隙間を作らなかった。
自分たちのFWの一体感には自信がある。この日はモールでも押し込めたシーンがあった。
「全員で意思統一し、声と感覚で押す方向も決める」
よく喋るモールは、試合を重ねるごとに力強さを増している感覚があるという。
湯浅はスポットコーチとして指導してくれる日本代表PR、竹内柊平と同じ宮崎ラグビースクール出身。その先輩にはスキルだけでなくマインドの持ち方についてのアドバイスも受け、それが自分を支えてくれているという。
早大戦欠場の時も「出られるようになった時に筑波のスクラムを出そう」と言われて励まされた。この日は、その延長線上にある。
1年生WTBの内田もいい働きをした。
前半32分のFL中森のトライを呼んだ鋭いステップとタイミングのいいパスだけでなく、キックへの対応でも奮闘。「小さいので取られたものもありましたが、雨でハイパントが多くなると分かっていたので、最初から意識していました」とした。

スピードを活かし、キックをチェイス。キャッチはできなくとも、相手にプレッシャーをかけて、イーブンボールにすることが何度もあった。
そして、ボールを手にすればアジリティーとスピードを使いかき回す。
「早稲田戦では一つミスした後に消極的になってしまったので、きょうはボールキャリーの回数を意識して積極的にボールを呼び込めたと思います」
168センチも、常に自分から仕掛けていくからプレーは大胆。高い確率で好機を作る。
後半37分でベンチに下がり、クライマックスをサイドラインの外から見た湯浅と、最後までピッチで働き続けた内田が、同じことを言った。
「今シーズンのスローガンは『ROCK YOU』(揺さぶれ、驚かせ)、そして狂う、なんですけど、みんな本当にそんな感じでタックルしていましたね」(湯浅)
「ずーっとノーオフサイドって言いながら守っていて、狂うを体現できたと思います」(内田)
ハードな準備。周到なゲームプラン。そして、試合当日は自然に、狂ったように体が動いた。
水色のジャージーがこのサイクルを続けていくなら、シーズン終盤、充実はさらに高まるか。