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李承信は10月25日、ラグビー日本代表のゲーム副将、10番として東京・国立競技場に立つ。世界ランクで6つ上回る7位のオーストラリア代表とぶつかる。
その後の欧州遠征でもリーダー陣に加わるのが濃厚だ。オーストラリア戦で主将を務めるワーナー・ディアンズ、センターのディラン・ライリーらと集団をドライブしそうだ。
まずは、今回のゲームを注視する。
「キックオフから、自分たちでどんどん仕掛けていく。本当に相手を慌てさせるくらいに、しっかりインパクトを与える」
身長176センチ、体重86キロの24歳。コベルコ神戸スティーラーズでも共同主将を務める。
代表デビューを果たしたのは2022年で、2023年にはワールドカップフランス大会に出場した。2024年からのジョーンズ体制下では、コンディションに問題があった時期を除けば司令塔を託される。
即席のインタビューに応じたのは10月14日。宮崎合宿でのメディア公開日だった。
力の源、独自の感性、この組織における役目について自己分析した。

最初は、涙を流したエピソードから。
——以前、SNSにお兄様である李承爀選手(三菱重工相模原ダイナボアーズ)の結婚式に出られた様子をアップされていました。感動した思いとともに。
「…そうですね! 家族の結婚式は初めてだったので。今週の土曜には、長男(承記)も。出席して、また(代表に)帰ってきます」
——家族は本当に大切な存在なのですね。
「一番のモチベーションです。なぜラグビーをするのかと言えば、家族のためというところがあります。エディーさんにも(式の件を)打診したら、『ファミリーファースト。行ってきていい』と。…よかったです」
——その「今週の土曜」とは10月18日。代表のセカンドチームであるJAPAN XVの試合と重なります。その日にジョーンズさんに許諾を得るのは…。
「だいぶ、勇気がいりました! かなり早めに、アメリカで言いました(パシフィックネーションズカップに参加中の9月)」
——上司に大事なお願い事をするタイミングを選ぶのに、「早め」に伝える以外に気を付ける点はありますか。
「あります。大体、顔を伺いながら」
——そのあたり、とても上手な印象があります。違いますか。
「目配り、気配りはできる方だと思います!」
そこからも司令塔としての、もしくはラグビー選手としての特徴がにじむ。
——一般論として、首尾よく交渉を進めるのが得意か、苦手かの差はどこでわかれますか。
「どうですかねぇ…。人の気持ちを考えているか、だと思います。(自身は)相手の考え方、思っていることを気にするタイプなので」
——それは幼少期からですか。
「お母さんが亡くなってからですね。それまでは結構わがままに生きていたんですけど、そこから、変わりました。いかに人に迷惑をかけないように…とか、性格が変わりました」
李は11歳で母と別れている。以前にこう語ったことがある。
「ひとりで練習をするのが、苦ではなくて。母親を亡くしてから、学校の部活が終わると4キロくらい走りにいって、ボールを蹴って…というのが癖づいていった。自ずと、(所属先のなかった時期など)ひとりでトレーニングせざるを得ない時も普通に、いつも通りにできましたね」

今回の問答では、この資質について掘り下げた。
「相手の考え方、思っていることを気にするタイプなので」
——それは、グラウンド上での状況判断にも影響していますか。
「あるかもしれないですね。逆目を攻める時とか、(球を運ぶ)方向を選ぶ時に、流れを読みやすいというか、全体を見る感じには、繋がっているんですかね」
——例えば、一見すると防御が分厚いようで突破しやすそうな場所などを見抜きやすい、とか。
「はい。それは何か、昔から持っているかもしれないです。フィーリング的な」
——あらためて、現在のキャンペーンでもリーダーのひとりとしてジョーンズさんと様々な対話を重ねるでしょう。心がけるべきは。
「ミーティング外のところでコミュニケーションを取っていきたいです。エディーさんも気さくに声をかけてくれますし。アタックコーチがいないぶん、ゲームが重なるなかでプラン、フィードバックについてしっかりリードしないといけない」
その言葉通り、昨年からいた攻撃担当のダン・ボーデンアシスタントコーチは離脱した。プレーメーカーの存在感は増すばかりだ。