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不敗神話継続なるか。
ニュージーランド(以下、NZ)の最大都市オークランドにある、ラグビーの聖地イーデンパークで、オールブラックスがそこで試合をするたびに、繰り返し取り沙汰されるフレーズだ。積み重ねた『51』の連勝、そして31年に及ぶ無敗記録が、その背景にある。
直近のイーデンパークでの試合は9月6日、最強ライバルの南アフリカ代表スプリングボックスを24-17で下し、アーディー・サヴェアの100キャップに華を添えた。そのわずか3週間後、9月27日に再び同地で試合を迎える。対戦相手は、長年の『ご近所ライバル』オーストラリア代表ワラビーズだ。両国の間で争われる伝統のブレディスローカップ(※W杯での対戦を除く)を前に、NZ国内は再び熱気に包まれている。
しかしその直前、オールブラックスは、9月13日にウエリントンでスプリングボックスに第2戦で10-43と大敗。国内のメディアやラグビーファンから信頼の回復には、ブレディスローカップの確保と合わせて、ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)トロフィーの獲得も必須となる。
◆ワラビーズ復調の背景にNZ人トリオ。
ワラビーズは近年低迷を続け、2023年W杯では初のプール戦敗退という屈辱も味わった。しかし今季は復調の兆しを見せている。7月にオーストラリアで開催された、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとのテストシリーズは、前評判では「大敗必至」とまで言われた。しかし結果は1勝2敗ながら、内容は予想を覆すものだった。第2戦では勝利寸前まで迫り、第3戦では見事な勝利。ライオンズと互角に渡り合ったことは大きな収穫だった。

ワラビーズの復調の裏側には、3人のNZ人コーチの存在がある。指揮官ジョー・シュミットHCを筆頭に、長年オールブラックスのスクラムを支えたマイク・クローン、そして今季から加わった元オールブラックスのLOトム・ドネリーがラインアウトを担当。
シュミットは2022年、低迷していたオールブラックスに強く要請されアシスタントとして加わり、翌2023年W杯では数々の予想を覆して決勝進出に導いた立役者の一人だ。さらに、アイルランドを率いていた2016年には、チームを史上初のオールブラックス撃破(シカゴで40-29)へと導いた強烈な実績がある。
クローンの加入後、長年課題だったスクラムが改善しつつあり、ドネリーの手腕によりラインアウトも安定。セットピースの強化はワラビーズ復調の大きな要因となっている。皮肉にも、この立役者たちは全員NZ人であり、NZメディアもかなり注目している。
◆オールブラックス、キャプテン欠場も待望のロイガード復帰へ。
9月25日、スコット・ロバートソンHCは、TRC第5節(9月27日/オークランド)、対ワラビーズ戦の23人の登録メンバーを発表。キャプテンのLOスコット・バレットが前戦で肩を負傷で欠場し、代わってアーディー・サヴェアがキャプテンを務める。前戦から先発が4人入れ替わり、いくつかのポジションにシフトがあった。
【フォワード】
脳震盪で前戦を欠場したHOコーディー・テイラーが先発復帰。スコット・バレットの欠場によりLOには、スプリングボックス戦ではベンチスタートだった新人ファビアン・ホランドが再び先発入りし、トゥポウ・ヴァアイとコンビを組む。
注目のバックローは、新人のサイモン・パーカー(6番)、サヴェア(7番)、ウォレス・シティティ(8番)の布陣が継続となった。

【バックス】
待望の復帰となったのはSHキャム・ロイガード。7月のフランス戦後に疲労骨折で戦列を離れていたが、先週のNPC(NZ国内州代表選手権)で実戦復帰すると即座にテストマッチ先発復帰となった。ロバートソンHCは「キャムは私たちにとって本当に重要な存在だ」と信頼を寄せ、約2か月ぶりの代表復帰戦も心配はないようだ。
注目のバックスリーは、前戦での弱点を補う布陣となった。
左WTB(11番)には空中戦に強いケイレブ・クラークが今季初登場。前戦11番で代表デビューを果たしたばかりのリロイ・カーターが右WTB(14番)にシフトして2キャップ目を迎える。FB(15番)にはWTBからシフトしたウィル・ジョーダンが入り、新しいバックスリーが再編された。
【ベンチ】
顔面骨折から復帰したLOパトリック・トゥイプロトゥが入り、後半からフィジカルを活かしたインパクトあるパフォーマンスに期待がかかる。これまでコンスタントに起用されてきたFLデュプレッシー・キリフィが外れ、代わってハリケーンズのチームメイトのFL/NO8ピーター・ラカイが今季初のメンバー入りとなったのも注目点だ。

バックスでは、コルティス・ラティマが復帰してベンチ入り。一方、NPCで調子を上げていたCTB/WTBレスター・ファインガアヌクは、今回も選外となった。
今回のメンバーは、復帰選手を組み込んだ以外は大きな驚きのない顔ぶれで、無難な選考といえる。ただし、左WTBの主力だったイオアネに代わりクラークが先発する点は、大きな見どころになる。
メンバー発表後の会見でロバートソンHCは、「イーデンパークの試合もフルハウス(完売)になった事を喜んでいる。週末の皆さんの応援を楽しみにしている」と大敗から気持ちを切り替えて比較的リラックスした様子だった。
◆注目マッチアップ。
・バックロー(FL/NO8)対決
どのポジションも白熱しない訳がない。ブレイクダウンは要注目だ。
・ボーデン・バレット×ジェームズ・オコナー 10番対決
今季クルセイダーズで試合の終盤から出てきてゲームを引き締めたオコナー(35歳)と、まだ衰え知らずのボーデン(34歳)のベテラン対決は、見応えがある。
・ビリー・プロクター×ジョセフ・アウクソ・スアーリイ 13番対決
リーグ(13人制)のスターから15人制のスターとなったアウクソ・スアーリイの突破をプロクターだけでなく、チームとしても対応できるか注目になる。

◆カギはセットピースと後半の得点力。
オールブラックスの前戦のスプリングボックス戦の大敗に大きく影響したのは、言うまでもなくセットピース(スクラム、ラインアウト)の破綻から始まった。修正できなければ、今回も苦戦は必至だ。
ワラビーズには有望なNZ人コーチ陣がいるため、セットピースバトルは試合の最大の焦点になる。また、ブレイクダウンを含むコリジョン戦(接点)での優位性、オールブラックスの課題であるキック処理も引き続き重要になってくる。
ワラビーズはブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦を経て、TRCに入っても後半の粘りを見せている。一方オールブラックスは前回立て直せなかったため、後半の得点力改善が必須。イーデンパーク不敗記録とブレディスローカップを背負い、直近の大敗から信頼回復が求められる。
◆歴史とプレッシャー。
ワラビーズは1986年以来イーデンパークでオールブラックスに勝利していない。ブレディスローカップは2003年以来22年間奪取できていない。モチベーションは相当高い。
現在ブレディスローカップ保持者はオールブラックスで、奪取側は勝ち越しが条件。
※今年は2試合。ワラビーズが奪取するには、2勝か1勝1分のどちらか。
初戦でオールブラックスが勝利すれば今年もオールブラックスが保持決定。ワラビーズは初戦を絶対に落とせない。オールブラックスも大敗後だけに負けは許されない。
互いに譲れない一戦。間違いなく熱い。