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【オールブラックス】荒れるNZ。プーマスに2年連続で敗れる。その敗因とセレクション問題
アルゼンチン国内で初めてプーマスに敗れた。その衝撃は大きい。(Getty Images)

【オールブラックス】荒れるNZ。プーマスに2年連続で敗れる。その敗因とセレクション問題

松尾智規

「到底、許せない」
 オールブラックスの敗戦から数時間後、あるラジオ番組の司会者がいきなり吠えた。
「これまで見てきた中で、最悪のオールブラックスのパフォーマンスのひとつだ!」

 いつもの光景と言えばそれまでだが、オールブラックスが敗れるたびに、ニュージーランド(以下、NZ)国内の番組は大騒ぎとなる。ライバルの実力が高まった現代でも、オールブラックスの敗戦は受け入れられない。敗因となったと思われる選手が批判の矢面に立たされる。「ラグビー王国」の宿命と言うべきか。

 8月24日(現地時間)のザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)第2節、オールブラックスは、プーマスに23-29で敗れ、アルゼンチン国内での初黒星を喫した。2年連続の敗戦であるだけでなく、過去5年で4度目の黒星となった。

 南アフリカ代表 、スプリングボックスに負けてもざわつくのに、世界ランクでオールブラックスより下位のアルゼンチンに負ける衝撃は大きかった。試合内容を含めてアルゼンチンが、もはや格下ではないことを示した一戦となった。

◆敗因の分析。


 オールブラックスの先発メンバーは、勝利した第1戦から1人のみの変更だった。前半30分を過ぎたあたりまでは、オールブラックスが良い形で取った2トライを含み13-6とリードを奪った。第1戦と同様に試合を支配していたかに見えた。しかし前半の終盤以降は、殆どの局面でプーマスに上回られた。

【敗因 ①】チームを苦しめた、3枚のイエローカード
 第1戦でも2枚のカードを受けたが、第2戦ではさらに増え、3枚のイエローが試合に大きく響いた。
・1枚目: FBウィル・ジョーダンが相手のキック後に進路妨害と判定。厳しい判定でシンビンに。
・2枚目: ジョーダンのシンビンの数分後に6番トゥポウ・ヴァアイが故意のノックオンの判定。
 ハーフタイムを挟み後半アタマまで13人で戦う事に。
・3枚目: 72分、スコア20-26の場面でWTBセブ・リースがインターセプトを狙ったが故意のノックオンを取られ、ペナルティゴールで3点を追加される。9点差となり勝負が決まった。

2024年10月来日時のスコット・ロバートソンHC。(撮影/松本かおり)


【敗因 ②】レフリーの笛への対応不足
 レフリーは、オーストラリアのニック・ベリー。スーパーラグビーでもお馴染みで、16人目の敵としての見方もあるくらい、NZ側からみると相性が悪い。
 小さな反則でも容赦なく試合を止めるスタイルに、選手たちは最後まで適応できなかった。速いテンポを重視するオールブラックスにとって、フラストレーションの溜まる展開で、最後まで修正できず。対応力のなさがポゼッション(ボール支配率)低下を招いた。

【敗因 ③】空中戦。キック処理の課題
 アルゼンチンはボックスキックやキックオフで徹底的に圧力をかけ、空中戦で優位に立った。その結果オールブラックスは、地域もポゼッションも奪われ、苦しい展開に。2022年のクライストチャーチでの敗戦(18-25)と重なる内容となり、再び空中戦の弱点を披露した。

 さらに疑問を残したのは、後半の選手起用だ。ディフェンス時に最後尾(FB)の位置に入って安定感のあるキック処理を見せていた10番のボーデン・バレットを後半ベンチに下げたことは、結果論になるが、キック処理の不安定さにつながったとの見方もできる。

【敗因 ④】キャプテンシーへの疑問
 試合後、規律と共に話題に上がったのはリーダーシップの欠如だ(キャプテンはスコット・バレット)。反則が続いてもチームを立て直せなかった。就任当初から懸念されていたキャプテンシー問題は、この敗戦を機に再燃。「アーディー・サヴェアに任せるべきだ」との声は一層強まっている。

◆セレクション問題。


 アルゼンチンとの第2戦後、NZ国内では上記に挙げた敗因を踏まえてセレクションをめぐる議論が沸騰した。TRCのスコッドにはノンキャップ4人の新人を追加されたものの、実際に起用されたのは正スコッド入りしたFL/NO8サイモン・パーカーだけに限られた。

 指揮官スコット・ロバートソン(HC)は就任2年目。昨季から一貫しているのは、格下相手以外は、若手にほとんど出場機会を与えていないことだ。
 かつてクルセイダーズを率いた際には積極的な若手起用でチームの底上げに成功し、7連覇という偉業を成し遂げた。しかし、テストマッチの舞台では同様の方針を取れていない。

 NZ国内のファンやメディアの圧力を前に「負けは許されない」オールブラックスでは、勝利を最優先するあまり、選手起用に慎重になっているように映る。結果として昨年は4敗を喫した。国内メディアやファンがセレクションを大きな話題にするのも当然かもしれない。
 メディアやラグビーファンで話題となっているセレクションについて触れてみたい。

働きの幅が広いルーベン・ラブに期待大。写真は2024年の来日時。(撮影/松本かおり)


【バックスリー(WTB/FB)】
 決定力不足とキック処理はここ数年の課題。その中でも特にバックスリーのセレクションは注目を集めている。若手有望株をピックアップした。

●リロイ・カーター(チーフス)
 「今こそ新風を」という声とともに、起用を望む声が高まっている。決定力に加え、セブンズ仕込みの高いワークレート、さらに上背はないながらも空中戦でも強さを見せる。対アルゼンチン第2戦の前から起用論が出ていただけに、今後の抜擢が注目される。

●ケイレブ・クラーク(ブルーズ)
 ハイボールに強い選手として名前が挙がる。今季ブルーズでの活躍は目立たなかったが、代表入りは首脳陣の期待の表れだ。フランスとのシリーズで負傷離脱していたが、今週末のNPC(NZ国内州代表選手権)で復帰予定。9月のスプリングボックス戦で今季初出場の可能性が出てきた。

●ルーベン・ラブ(ハリケーンズ)
 SO/FBだけでなく、WTBもこなすユーティリティ性を持ち合わせている。フランスとの第3戦では、FBで空中戦の強さを含め、インパクトのあるパフォーマンスを見せた。チームの将来を見据えてラブの起用方法を真剣に検討する時期に来たかもしれない。

アルゼンチン戦に出場機会のなかった選手たちは、自分たちが所属するNPCチームでプレーし、試合感覚を保つ。(All BlacksとBunnings NPCの公式『X』より)


【バックロー(FL/NO8)】
 昨年大ブレークしたFL/NO8ウォレス・シティティがケガで出遅れたこともあり、今年のバックローはまだ定まっていない状況だ。首脳陣の基本構想は「サヴェア7番、シティティ8番」という布陣のようだが、6番のセレクションが焦点となっている。

 サヴェアとシティティはいずれも190センチ未満とサイズに欠けるため、ラインアウト強化を狙い、本職がLOのヴァアイを今季は6番で継続して起用してきた。実際、ラインアウトのオプションが増え安定感も増した。しかしアルゼンチン戦のような接戦では課題も明らかになった。

 その象徴的な場面は59分、自陣22メートル内でのスクラムからNO8パブロ・マテーラに大きく前進を許し、最終的にトライを奪われた場面だ。6番ヴァアイのブレイクが遅れたことが要因も、スペシャリストではない選手に、大事な局面でのディフェンスを求めるのは酷ともいえる。スクラムで優勢に立てなかった時の課題が浮き彫りになった。 

 今後はヴァアイをLOに戻すのか、あるいは継続起用するのか。新人パーカーを6番で試すのか。アルゼンチンで見えた課題に、セレクターは頭を悩ませることになりそうだ。

 今週末(8月30日、31日)は、TRCの試合はおこなわれないため、アルゼンチン遠征で出場機会のなかった選手(上記のバックスリーの3名を含む)がNPCに出場する予定だ。その中からスプリングボックス戦のメンバーに名を連ねる選手が現れる可能性もある。
 今後のオールブラックスのセレクションに変化はあるだろうか。


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