logo
【with サクラフィフティーン/RWC2025 ⑥】少女たちが大きな夢を目指すきっかけに。
RWC2025初戦でブラジルに66-6と快勝。喜ぶ南アフリカの選手たち。(撮影/松本かおり)
2025.08.27
CHECK IT OUT

【with サクラフィフティーン/RWC2025 ⑥】少女たちが大きな夢を目指すきっかけに。

田村一博

 エクセター滞在2日目(8月26日)は、サクラフィフティーンのスケジュール変更によりメディア対応がなかった。こちらも予定変更、宿舎でのデスクワークと街の散策に出掛けた。

 エクセターはイギリスの南西部にあり、人口は約13万人。デボン州の州都だ。ロンドンのパディントンからは電車で2時間とちょっとの位置にある。
 街の中心には大聖堂があり、その美しさは、イギリス国内にある大聖堂の中でもトップクラス。目の前にある芝の広場(カセドラル・グリーン)は、市民の憩いの場となっている。

エクスターの街と食べ物。(撮影/松本かおり)


 プレミアシップ、エクセター・チーフスのホームタウン。本拠地のサンディーパーク(収容人員/1万5600人)は、今回のワールドカップ会場にもなっており、準々決勝2試合を含む7試合が実施される(すでに8月23日にフランス×イタリアを実施)。
 プレミアシップ・ウィメンズのチーフスには、サクラフィフティーンの加藤幸子(PR)、小林花奈子(CTB)が所属していた。

 大聖堂周辺は賑やかで、ハイストリートには商業施設、飲食店が密集している。多くの人々が行き来する通りにはワールドカップ開催の告知もたくさん。今週末(8月31日)は日本×ニュージーランド、フランス×ブラジルの2試合がおこなわれる。試合が近づくにつれ、人通りは、さらに増えそうだ。

 街の中心部から少し離れた場所にはエクセター大学がある。ハリー・ポッターの作者、J・K・ローリングは、同大学で学んだ。映画の中にこの街の小道をモデルにしたシーンが出てくるのも、学生時代を過ごしたエクセターに愛着があるかららしい。
 キャンパス内にはハリー・ポッター風の衣装を着たファンの姿もあった。

 気温は20度に届くかどうかで湿度も低く、歩き回っても汗が吹き出ないのがいい。ただ、一日のうちに晴れたり、曇ったり、雨が降ったり、天気が変わる。
 坂道は多いけど、住みたい街として人気は高いそうだ。いい雰囲気のパブもある。

参加16チームのメディアガイドの表紙


 散策を終えて宿に戻り、各チームが作った報道用のメディアガイドを眺める。それぞれ工夫を凝らした表紙にしたり、チームによって各選手の情報量に違いがあっておもしろい。
 それぞれの選手のインスタグラムなどのSNSアカウントを載せていたり、話せる言語を記したり、名前の発音が分かる表記も。作り手の熱量が伝わる。

 イングランドのメディアガイドには、ジョン・ミッチェル ヘッドコーチ(以下、HC)からのメッセージがあった。2023年のワールドカップまで日本代表のアシスタントコーチを務めていた人だ。

 冒頭で「今年の大会はこれまで最も待ち望まれ、そして、史上最も多くの視聴者を集める女子ラグビーのイベントとなるでしょう。大会を取材するために400人以上のメディア関係者が認定を受けており、広く報道されることになります」と述べたあとに、こうある。

「私たちレッドローズは、メディアが女子ラグビーを取り上げることの重要性を強く認識しています。世界中の何百万人もの少女たちにとって、ワールドカップに参加する16か国512名の選手たちのように、大きな夢を目指すきっかけとなるからです。メディアの皆さんが、素晴らしいアスリートたちの人間的な魅力を伝えてくださることは、私たちの競技の発展に欠かせぬ力となります。皆さんにとって多忙な期間となることは承知していますが、この経験をわくわくするものとして楽しんでいただければ幸いです。旅路の一瞬一瞬を大切にしてください」

日本代表を指導している頃のイングランド代表、ジョン・ミッチェルHC。(撮影/松本かおり)


 ミッチェルHC同様、男子のトップレベルで指導していた立場から、現在は女子代表に活躍の場を移している例は今回のワールドカップでもいくつかある。
 南アフリカのスワイス・デブルインHCは、以前は男子代表のアシスタントコーチを務め、ライオンズ(スーパーラグビー)のヘッドコーチでもあった。

 同HCは南アフリカ代表が優勝する2019年ワールドカップの直前、開幕3週間前にアシスタントコーチを辞任している。
 本人は当時のことについて、今大会前の南アフリカ紙の取材で「いわゆる燃え尽き症候群でした。幸い今は克服できました」と話している。代表チームのコーチ、スーパーラグビーの指揮官という重責に「ストレスが積み重なった」ようだ。

 同HCは指導の現場から離れ、テレビ解説者として活動。その後、現職のオファーを受け、再びコーチングに情熱を注いでいる。そして、新天地との出会いについて「天からの縁」と表現している。

 現地記者の取材に「今はストレスを感じません。あるのはワクワク感だけ」と答え、「いま男性と女性、どちらのラグビーを指導したいかと問われたら、迷わず女性と答えます。彼女たちは情熱的で、与えられたものすべてに感謝しているからです」。
 両者の間には、互いへのリスペクトがある。

 今大会前、女子代表チームが各地で歓迎されたことに感謝し、「この国のためにプレーすることは特別」と体感を言葉にする。
「(南アフリカの)どこへ行っても、選手たちは歓迎されます。自分たちが特別だと感じられる。女子代表を追いかける女子高生の数をぜひ見てください。選手たちは、彼女たちのロールモデルになっています」

スブリングボックスの公式Facebookより。男女代表揃っての一枚。


 男子代表への思いもあった。シヤ・コリシ主将が何度も練習に顔を出してくれたこと。ラッシー・エラスムス監督から届くメッセージ。そして、7月12日には、男女ダブルテストマッチを開催することに協力してくれたと感激する(ポートエリザベス/男子=南アフリカ×イタリア、女子=南アフリカ×カナダ)。
 その試合の前日の出来事がいい。
「ラッシーが言ったんです。『両チームで写真を撮ろう。我々はひとつの家族だ』と。世界のどこで男子と女子が一緒に写真を撮る光景が見られるでしょう」

 デブルインHCは、現職就任前に抱いていた女子代表指導への不安についてこう話し、選手たちの情熱を伝えている。
「彼女たちは女性としてコーチされたいのではない。ラグビー選手として指導されたいんです。タッチラグビーをしたいのではなく、本気でタックルし合いたいと思っているんです」

 日本×アイルランドに続いておこなわれた南アフリカ×ブラジルで見た、彼女たちの笑顔の理由が分かった。





ALL ARTICLES
記事一覧はこちら