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【with サクラフィフティーン/RWC2025 ⑤】悔しくても腹は減る。輝いた川村と弘津、エクセターへ希望をつなぐ。
CTB弘津悠(左)とFL川村雅未。敗戦の中で輝いた。(撮影/松本かおり)
2025.08.26
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【with サクラフィフティーン/RWC2025 ⑤】悔しくても腹は減る。輝いた川村と弘津、エクセターへ希望をつなぐ。

田村一博

 試合後に勝利の宴を開くことはできなかった、8月24日の日本×アイルランド(14-42)。
 フルタイムの笛が吹かれた後、ミックスゾーンでの選手取材を終え、同じスタジアムでおこなわれた南アフリカ×ブラジルを見た。

 南アフリカには2022年に来日した時の選手もいて懐かしい(巨大化!)。セブンズでも活躍した、WTBアヤンダ・マリンガの走りもファンを喜ばせた。ブラジルの11番、エドナ・サンティニの走りにもキレがあった。
 この日、フランクリンズガーデンズに集まったファンは1万3053人と発表された。

ノーサンプトンで中華料理。悔しさを忘れるため、飲んで、食べる

 取材を終えてスタジアムから街に戻る。プレミアシップ、ノーサンプトン・セインツの本拠地である同競技場は、徒歩20分と便利な場所にある。
 敗戦は残念も腹は減る。仲間たちと食事へ。イギリスに来て初めての中華料理を食べた。エビ料理がうまい。ビールと美味しい食事のお陰で、悔しさも少しまぎれた。

 それにしても、乾坤一擲のパフォーマンスで勝利をつかみたかったアイルランド戦は、前半に流れを持っていかれたのが悔やまれる。

 サクラフィフティーンのセットプレーや得点力は以前より、確実に高まっている。キックゲームへの対応力も進めてきた。
 しかし、テンポのはやさで相手を慌てさせる要素は常に持っていないといけない。SHの津久井萌は、いつもの自分たちのテンポでは足りないと感じ、ハーフタイムに「もっと上げていくよ」と仲間に声をかけている。

 8月31日(日)にはニュージーランド戦が控えている。サクラフィフティーンのスタイルを最初から全開で出し尽くしてほしい。
 アイルランド戦後のロッカールーム、涙を流す者が多かったという。レスリー・マッケンジー ヘッドコーチは「これがワールドカップ」と選手たちに伝えた。

有料のメディアミールは、これで約2400円


 準備してきたことを、そのまま出せることなんてない、と考えた方がいい。
 すべてのチームが、必死に相手に襲いかかるのがこの舞台。サクラフィフティーンも、次の日曜に対峙する威圧感のある漆黒のジャージーに牙を剥いてほしい。
 徹底的に積み上げてきたものは、必死の中でも自然と出る。エクセターの地を、サクラフィフティーン史に残る場所にしよう。

 敗れたアイルランド戦の中でも、FLの川村雅未(横河武蔵野アルテミ・スターズ所属)、CTB弘津悠(ナナイロプリズム福岡所属)は、輝きを放っていた。両者ともトライを挙げた以外にも、攻守での貢献度が高かった。

 後半3分、トライライン直前のフォワード戦の中でインゴールにボールを置いた川村は、バレーボール仕込みのバネのある身体能力を活かしてラインアウトジャンパーとして貢献したほか、アイルランド戦ではボールタッチも多かった。
 17回のボールキャリーとゲインメーター90メートルはチームトップ。12回のタックルは23人中5番目の数だった。

 試合後の川村は、敗戦を悔やみながらも、「自分ができる役割はしっかりやれた」と話した。
 反省は尽きない。「いいところでラインアウトのミスをしたり、相手にボールを取られてアタックをやり切れず悔しいです」
 ラインアウトではプレッシャーをかけて相手のミスを誘うも、それが相手に入る不運もあった。

ボールタッチが多かった川村雅未。(撮影/松本かおり)


 ボールタッチの多さについてはチームとしてのシステムもあるが、「みんながしっかりボールを外まで運んでくれた」と仲間に感謝する。
 最後はインターセプトから逆襲されてトライを許す結末となるも、後半12分にキックカウンターから敵陣深くまで攻め込んだ時には好ランニングでチャンスを広げた。

「あそこは自分で(回せと)呼びましたし、外に小町(WTB今釘)がいると信じてパスしました。後半が始まってからいい波が来ていたので、あそこでスコアできていたらよかったのですが」
 ラインアウトでは周囲を観察し、コーラーに情報を与える。ジャンパーとしては、「絶対に捕るので任せてください」の心意気でスローワーに安心感を与えている。

 敗戦から得たものを生かして次戦に挑む。「(初戦は)自分たちから、というより、アイルランドにやられてからやる感じになってしまった」点は、絶対に直さなければいけない。
「自分たちがやってきたことを前半は出せなかったので、しっかりスイッチオンすることが大事。後半はできたことがたくさんありました。それを前半からする。出し惜しみせず、自分たちがやるべきことを最初から出していきたい」

 前回W杯(2022年開催)のメンバーにも選ばれたが、その時は最終試合(全3戦)、イタリア戦の後半20分からの出場だけに終わった。
 3年が経ち、今回は大事な初戦のスターターを務めた。「プレータイムをいただける分、結果を出したい」と責任感を口にする。

「もうちょっとできたな、というところがあります。それをゲーム内に修正しないと負ける」と強く感じた26歳は、「(試合中に)感じたものをコールしていきたい」。仲間と情報を共有し、前回王者へ立ち向かうつもりでいる。

ゲインライン突破もトライも。よく働いた弘津悠。(撮影/松本かおり)


 弘津は前半29分のトライシーンをはじめ、タテへのランでチームを前に出した。
 6回のボールキャリーでゲインメーターは35メートルとロングゲインはなかったが、すべて効果的だった。12回のパス、13タックルの数字からも、いかにバランスよく働いたか伝わってくる。

 本人はチーム全体で目指した勝利に届かず、「結果が伴わなかった」と話すも、自分自身のパフォーマンスについては、15人制での初キャップ獲得から2年で階段を駆け上がった背景もあり、「ステップアップしたことを出せた」と話した。

「絶対に勝ちたかったので、その気持ちをプレーに出すことだけを考えました。ここ最近でいちばん緊張し、(前夜は)あまり眠れませんでしたが、ピッチに入った時には落ち着けていて、自分が何をやるべきかクリアになっていました」

 得点を重ねられた前半を悔やむ。大会前、8月9日におこなわれたイタリア戦(15-33)を振り返り、「パンチを喰らった感じで、みんなハッとしました。(その反省を生かして)準備してきたし、(相手は)想像通りでした」と話す。

ロンドンからの列車の中にも犬。2時間の車両スター


 アウトサイドで崩された反省から、そこを重点的に修正してきたけれど、アイルランド戦では大きな歓声に思っていたより声が通らず、結果、コミュニケーションが足りなかった。セブンズ出身選手のスピードも速く、相手FWの想像以上の強さに周囲の選手が「吸い込まれてしまい、コネクションが切れたところがありました」。

 22メートルライン内に入った時のスコア率も反省に挙げた。そのエリアでの攻撃の精度、ラッシュディフェンスへの対応もしなければ。
 ただ、「取り組んできたセットプレーからのアタックでは互角に戦えた」の感触は得たから、ブラックファーンズ相手に、さらに磨きをかけてぶつけたい。

 試合翌日の8月25日、ノーサンプトンからサクラフィフティーンの次の試合地、エクセターへ移動した。ロンドンまで南下すること1時間、そこから西へ約2時間の移動だから、高崎あたりから東京を経由して名古屋へ行く感覚か。

 午前11時頃に出発し、15時過ぎに到着。列車の中には犬同伴の人がいて、エクセター・セント・デイヴィッズ駅には犬を歓迎するオブジェが飾ってあり、ホームには犬の水飲み用食器も置いてあった。
 のんびりしていて、いい感じ。

エクセターに着いて、地元のビールをいただく




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