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【RWC2025】日本と同組。大会3連覇は成るか。ブラックファーンズ徹底分析
ブラックファーンズの魂のハカ「 Ko Uhia Mai(コ・ウヒア・マイ)」。この瞬間、スイッチが入る。(撮影/松尾智規)
2025.08.24
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【RWC2025】日本と同組。大会3連覇は成るか。ブラックファーンズ徹底分析

松尾智規

◆「奇跡の夜」から3年。再び王座を懸ける戦いが始まる

 女子ラグビーワールドカップ(以下、W杯)の記念すべき第10回大会は8月22日に開幕し、9月27日(現地時間)までイングランドを舞台に開催される。

 前回の王者ニュージーランド(以下、NZ)代表、ブラックファーンズの成績は、他を圧倒している。通算6度の優勝を誇り、1998年、2002年、2006年、2010年大会では前人未到の4連覇。その後も2017年、そしてコロナ禍の影響で1年延期された2021年大会(2022年開催)を制し、再び連覇を達成した。同国の男子代表、オールブラックスの3度の優勝を大きく上回る驚異的な実績だ。

 自国開催となった前回大会では、戦力面でイングランドやフランスに劣ると見られていた。しかし、準決勝の死闘のフランス戦では、ゴールキックが明暗を分け25-24で勝利。決勝では強力FWを擁するイングランドに苦しみながらも、数的有利を生かして最終的に34-31で逃げ切った。
 観客を熱狂させた優勝劇は「奇跡の夜」として今も語り継がれている。

RWC2025のブラックファーンズのスコッド。チームの公式Facebookより。


◆新指揮官の挑戦。セブンズ組の再招集


 前回大会、わずか半年でチームを立て直し、優勝請負人として名を上げたウェイン・スミス(ディレクター兼HC)からバトンを受け継いだのは、アラン・バンティング(ディレクター兼HC)。その手腕がチームを再び頂点へ導けるか、大きな注目が集まる。

 しかし、前回大会以降は苦戦が続いた。
 2023年のWXV1(世界のトップチームが集う女子の最上位グループの国際大会)では、フランスに17-18で敗れ、イングランドには12-33と完敗。さらに、2024年のパシフィック4シリーズでは、FW戦で苦戦して歴史的な初黒星をカナダに献上した(19-22)。
 続くWXV1でも格下と見られていたアイルランドに27-29で足元をすくわれ、イングランドには31-49と2年連続で力の差を見せつけられた。

 苦戦の背景には、前回大会でチームを支えたFLサラ・ヒリニ、CTBステイシー・ワッカ、CTBテレサ・セテファノ、そしてWTBポーシャ・ウッドマン=ウィクリフといったセブンズ代表組の不在があった。加えて、前大会後に引退したレジェンドSHケンドラ・コックセッジをはじめ、経験豊富な選手たちの穴を埋め切れない印象も残った。
 
 ここ数年は若手の積極起用で底上げを進めてきたが、W杯イヤーとなる今年は、再びセブンズ代表組の招集に踏み切るという、前回大会でも功を奏した戦略を選択した。

チームの指揮を執るアラン・バンティング(ディレクター兼HC)。撮影/松尾智規)


◆スコッド選出。大スター、ルヴィ・トゥイの落選


 今回のスコッド選考で最も注目も集めたのは、WTBルヴィ・トゥイの落選だ。前大会での活躍に加え、女子ラグビー界に強烈なインパクトを残したスター選手である。だが、同ポジションの若手の台頭に加え、ポーシャ・ウッドマン=ウィクリフの代表引退撤回も重なった。
 トゥイの今季の代表出場は、怪我人のバックアップとして臨んだ1試合のみ。しかし、スーパーラグビー・アウピキではトライ王(6トライ)に輝くなど、これまでと変わらぬ高い決定力とワークレートを見せていただけに、サプライズの落選だった。

 一方、前回大会でゴールキックの安定感を高く評価されたFBレニー・ホームズは、調子が上がらずシーズン序盤に代表から外れていたものの、W杯直前に復帰を果たし、そのままW杯スコッド入りを勝ち取った。大舞台でキッキングゲームの重要性をあらためて重視した人選となった。
 スコッド全体では、初出場が15人を占めるフレッシュな顔ぶれ。今年代表デビューを果たした選手も複数おり、経験不足の懸念はある。しかし前回大会を知る16人が残り、若手とベテランの融合による、バランスの取れた陣容といえる。
 その中でも、今大会でチームのカギを握る注目選手たちをピックアップしたい。

共同主将を務めるケネディー・トゥクアフ(先頭)とルアヘイ・デマント(2番目)。(撮影/松尾智規)


◆注目のスコッド(キャプテン&注目選手)

【キャプテン】(2人の共同キャプテン制)
●ケネディー・トゥクアフ(FL/NO8)28歳/30Cap ※2回目のW杯

 前大会に続き共同キャプテンを務める。決してサイズは大きくないが、闘志あふれる激しいプレーでチームを奮い立たせる。前大会では怪我で出遅れたが、復帰後は途中出場でインパクトを与えて存在感を発揮した。今大会ではセブンズ代表の新星、ジョージャ・ミラーとのポジション争いにも注目が集まる。

●ルアヘイ・デマント(SO/CTB)30歳/45Cap ※2回目のW杯
 スーパーラグビーでは次元の違うプレーを連発し、ブルーズの連覇に大きく貢献。ディフェンスを切り裂く鋭いランと巧みなオフロードスキルでチームを勢いづける。ゴールキックの精度も向上し、リーダーシップも抜群。まさにチームの大黒柱。

【写真左上から時計回りに】ジョージア・ポンソンビー(HO)、ヴェイシニア・マフタリキ=ファカレル(PR)、ジョージャ・ミラー(FL)、マイア・ルース(LO)。(撮影/松尾智規)


【FW陣】
● ジョージア・ポンソンビー(HO)25歳/31Caps ※2回目のW杯
 前大会途中で成長を遂げ、レギュラーの座を掴んだ。正確なスローイングに加え、機動力を生かした高いワークレートが光る。近年はボールキャリーの力強さも増し、フィジカル面も進化した。控えHOの経験不足を考えると、プレーオフでは80分フル出場もあり得る。チームの命綱となる。

●ヴェイシニア・マフタリキ=ファカレル(PR)20歳/1Cap ※初のW杯
 経験が重視されるPRのポジションながら、20歳にしてW杯に挑む期待の新星だ。元バックロー(NO8)でボールキャリーに強みを持ち、スキルも高い。屈強なイングランド相手にも対抗できるサイズは大きな武器。今大会のFWの隠し玉として、一気にブレイクする可能性を秘めている。 

●マイア・ルース(LO)24歳/33Caps ※2回目のW杯
 前大会で大ブレークし、スターターに定着。ラインアウトの強さだけでなく、バックローもこなす機動力と高いワークレートが持ち味だ。体格もひと回り逞しくなり、フィジカルバトルでの活躍に期待がかかる。いまやFW陣の中心選手だ。

●ジョージャ・ミラー(FL)21歳/2Caps ※初のW杯
 期待の新星、新目玉がミラーだ。18歳でセブンズ代表に抜擢されて一気にスター選手に。W杯イヤーに15人制へ招集されると、爆発的なスピードとパワーで圧巻のプレーを披露した。試合経験はまだ少ないが、ポテンシャルは計り知れない。ゲームチェンジャーとなる可能性を秘めている。

【写真左上から時計回りに】マイア・ジョセフ(SH)、ケリー・ブレイジアー(SO/CTB/FB、中央奥)、ブラクストン・ソレンセン・マギー(WTB/FB)、ポーシャ・ウッドマン=ウィクリフ(CTB/WTB)。(撮影/松尾智規)


【BK陣】
●マイア・ジョセフ(SH)23歳 /11Caps ※初のW杯
 父は元オールブラックスで、前日本代表HCのジェイミー・ジョセフ。2022年からスーパーラグビーで経験を積み、2024年に代表入り。与えられたチャンスを確実にものにし、正9番の座を掴みつつある。長距離パスに加え、SOの経験を生かしたキック力も魅力。レジェンドSHケンドラ・コックセッジの後継者として期待される。

●ケリー・ブレイジアー(SO/CTB/FB)35歳/43Caps ※4度目のW杯
 4度目のW杯出場となる大ベテランで、過去に2度の優勝を経験。メンバー外だった前回大会後はセブンズ代表の合間に、日本の「ブレイブルーヴ」でコーチも務めた。今年7月に4年振りにテストマッチに復帰し、経験を買われてW杯の舞台へ。優れたランニングスキルと正確なプレースキックや戦術的キックに加えてユーティリティ性も持ち、今大会のBKの隠し玉となり得る。

●ポーシャ・ウッドマン=ウィクリフ(CTB/WTB)34歳/ 27Caps ※3度目のW杯
 日本(PEARLS)から帰国後、スーパーラグビーで進化した姿を披露し、代表引退を撤回して再びW杯の舞台に挑む。前大会で活躍した、アイエシャ・レティ・イイガ、決定力のあるケイリトン・ヴァアコロらとWTBの座を争う。豊富な経験を持つポーシャの存在は、チームに計り知れない価値をもたらす。

●ブラクストン・ソレンセン・マギー(WTB/FB)18歳/3Caps ※初のW杯
 BKの超目玉は、この人だ。今季スーパーラグビーでデビューすると、持ち味のスピードと巧みなフットワークを武器に強烈なインパクトを残し、一気に注目を集めた。18歳にして代表入りを果たし、オーストラリア相手のデビュー戦ではいきなり2トライ、続く強豪カナダ戦でもトライを記録した。1年前までは高校生だった新星が早くもW杯の大舞台に挑む。

8月24日に戦う、対スペインのメンバー。チームの公式インスタグラムより。(撮影/松尾智規)

◆プール戦展望。


 プールCに属するブラックファーンズにとって、最大の山場は昨年敗れたアイルランド戦だ。
 初戦のスペイン(8月24日)、第2戦目の日本代表戦(8月31日)でメンバーを見極め、最終戦のアイルランド戦(9月7日)でプレーオフを見据えた布陣を固めることになりそうだ。
 セブンズ代表組の合流により、まだ定まっていないポジションもあり、指揮官のメンバー選考には大きな注目が集まる(日時は、いずれも現地イギリス時間)。

 言うまでもなく、今大会も本命はイングランドだ。前回の覇者であるブラックファーンズは、今大会でも挑戦者として挑む立場にある。格下相手には快勝してきたものの、5月のカナダ戦(27-27)が示すように、フィジカルの強い相手には依然として苦戦を強いられている。このままでは、イングランドを倒すのは容易ではない。

 順調に勝ち上がれば、準決勝ではプールBのカナダと対戦する可能性が高く、プール戦のアイルランド戦に続き、チームの真価が問われるだろう。果たして、前大会のように大会を通じて進化を遂げ、再び頂点にたどり着けるのだろうか。

 イングランドの地で披露されるブラックファーンズの魂のハカ「Ko Uhia Mai(コ・ウヒア・マイ)」は、どのように迎えられるか。そして、日本代表がブラックファーンズに食らいつけるのか。楽しみは尽きない。




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