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サクラフィフティーンの今回のワールドカップ(以下、RWC2025)の初戦、アイルランド戦の前日、8月23日のノーサンプトンは好天に恵まれ、とても過ごしやすかった。
湿気もなく、日本の初秋のような感じで、試合日も絶好のラグビー日和になりそうだ。
街の中心部の宿泊先から、キャプテンズランのおこなわれるスタジアム、フランクリンズ・ガーデンズまでの約2キロを歩くと、ノーサンプトン駅からスタジアムへと続く道の途中には、大会の歓迎ムードを伝えるものがたくさんあった。
既成のものではなく、手作りの各国ラグビー人形などもあり微笑ましい。試合当日、街は賑やかな空気に包まれるのだろう。

スタジアムは、普段はプレミアシップのノーサンプトン・セインツ、女子プレミアシップのラフバラ・ライトニングの本拠地。収容人員は1万5148人で、約150年にわたって地域のラグビーを支えているそうだ。
RWC2025にも出場しているイングランド代表のスターの一人、エミリー・スカーラットも所属している。
アイルランド代表のキャプテンズランは午前10時からおこなわれた。
ボールを使ったゲームでウォーミングアップをした後は、タックルの連続から、キックカウンターへプレッシャーをかける動きを繰り返していた。
取材可能な15分のうちに見られるのは、そこまでだった。
日本戦で主将を務めるのはFL、7番のエデル・マクマーン。2022年に来日し、サクラフィフティーンと2試合を戦ったスコッドにも入っており、2つのテストマッチに先発した選手だ。

同主将はアイルランドの伝統的スポーツ、ゲーリックフットボールでも優秀なプレーヤーで、13歳の時に同年代のクラブコンペティションで、アイルランド王者になったことがある(ポジションはゴールキーパー)。
ラグビーを始めたのは大学に入ってから。アイルランド国立大学ゴールウェイ校に進学した後、偶然の出会いからラグビーに惹かれた。そして、わずか5年後にはアイルランド代表としてプレーするまでに成長した。
その後、コナート州代表を経て、アイルランド代表に選出された。女子プレミアシップのワスプスでプレーした後、現在はエクセター・チーフスに所属している。
31歳。163センチ、72キロと小柄もブレイクダウンでのボール奪取能力は高い。「ターンオーバー・クィーン」のニックネームを持つ。
リーダーシップも高く、WXV(女子の国際大会)では2022年に3部で全勝したチームを率い、翌年はシックスネーションズで共同主将を務めた後、WXVの1部でニュージーランドを破った試合でも主将として仲間を牽引していた。
サクラフィフティーンとしては、勢いに乗せてはいけない選手の一人だ。

サクラフィフティーンは正午からキャプテンズランで体を動かし、芝の感触など、スタジアムのフィーリングを確認した。
ベリック・バーンズ アシスタントコーチのキックをバックスリーがキャッチ、蹴り返す練習を何度もおこない、SHからのショートサイドへのアタックを繰り返していた。選手たちはリラックスしているように見えた。
約1時間の練習後には、公家明日香(HO)、古田真菜(CTB)と、ベリック・バーンズ アシスタントコーチが記者会見に臨んだ。
今回が2回目の大舞台となる古田は、長くて辛い準備の日々を重ねていよいよ開幕を迎える心境を、こう話した。
「前回(2022年開催)のワールドカップが終わってから、この 3 年間、ずっとこの日を楽しみにしていました。ワクワクした気持ちもありますし、この期間(3年間)、何人もの選手と一緒に同じ目標に向かって積み上げてきたものがあるので、それをしっかり発揮したい。責任も持ってプレーしたいと思っています」
チーム内では、各々がアイルランドと戦う2024年8月24日に自分がどうなっていたいかを紙に書く機会があった。それを持ち寄り、いくつかのグループに分かれて話した。
一人ひとりの思いを知り、描いたことを実現するにはどうしたらいいか話しただろう。
そういう時間がチームを一つにしたと感じたから、思いが結実する日がやって来ることに胸が高鳴る。
古田はアイルランドに勝つための試合展開に関しては、「こっちが少しでもミスを続けると相手の流れに持っていかれてしまうと思うので、やってきたことをしっかり出し、精度高くプレーしたい」と気持ちを引き締めた。
30歳で初めて大舞台を踏む公家も、「アイルランドと対戦すること、そして日程が決まってからは、明日、8 月 24 日をターゲットにしてトレーニングを積んできました。なので、みんなも集中し、そこにフォーカスできていると思っています」と話した。
「私は初めてのワールドカップ出場ですが、そこに対してプレッシャーを感じてはいません。明日の試合が楽しみな気持ちが大きいです。(アイルランドは)本当に挑戦し甲斐のある相手なので、自分たちがいままでやってきたことがどれだけ通用するのか、力を出せるいい機会だと思います」

「数多くチャンスがあるわけではないと思うので、それをいかに自分たちのものにできるかが勝負の鍵になると思います」と予想する公家は、そのような緊張感ある試合展開の中で、「セットプレーでもフィールドプレーでも、 一つひとつのプレーを、試合の流れを見ながら大切にやりたい」とした。
「キックに関しては、どちらのチームにとってもキーになる」と話すバーンズ コーチは、相手にはロングキッカーの10番、ダナ・オブライエンがいて、他にも才能ある選手がいると認めた上で、「自分たちもキックゲームが強みになるように準備してきた」と、準備の日々を振り返った。
最初の10分を思うように戦えないと、厳しい展開になるのではないかという質問に対しては、その時間帯は重要としながらも、「最初の10分ですべてが決まることはない」と言って、選手たちが取り組んできたことに対してリスペクトする思いを言葉に込めた。
「確実に言えることは、他のどのチームより私たちの選手たちは努力を積み上げ、ハードワークをしてきました。ここに関しては、譲ることのないプライドを感じています。確かにジャパンは(過去の成績や体のサイズもあり)他の国から見くびられているかもしれませんが、選手自身、その家族も、自分たちがしてきたことを誇りに思わない者は誰もいない。そこについては、全員が自信にしてほしい」
隣に座る、公家と古田の表情を引き締める言葉だった。そして、2人の胸はきっと熱くなった。
明日は絶対、いい試合になる。