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【女子日本代表RWC2025へ】笑顔になる。山本実[SO]
女子プレミアシップのシャークス時代は指導陣の一人、元イングランド代表主将のキャプテンでSOのケイティー・ダリーマクリーンのセッションを継続的に受けて力を伸ばした。(撮影/松本かおり)
2025.08.16
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【女子日本代表RWC2025へ】笑顔になる。山本実[SO]

田村一博

 初めてのワールドカップ(以下、W杯)は20歳で迎えた。
 2017年、アイルランドで開催された大会に出場した。日体大の3年生の時だった。

 スタンドオフの山本実(YOKOHAMA TKM所属)は28歳になった。
 8月22日に開幕するワールドカップの日本代表スコッドにも名を連ね(日本の初戦は8月24日のアイルランド戦)、コロナ禍で開催が1年遅れた2022年大会も含め、今回が3回目の大舞台となる。

 立派な足跡。一生誇れる。
 しかし本人にとって過去2回の大舞台は、決して甘い記憶ではない。
 だから2025年大会こそ、チームにも自分にも納得できる結果を残し、笑顔で帰国したい。

 イングランド行きのメンバーが発表されたのは7月27日。前日夜には秩父宮ラグビー場でスペイン代表とのテストマッチがおこなわれ、サクラフィフティーンは30-19と勝利を収めていた。
 その1週間前、北九州でも同じ相手に32-19と勝った。山本は両試合とも10番で先発し、チームを勝利に導いた。

プレーの精度とともに判断力も高めてきた。(撮影/松本かおり)


 W杯メンバー確定の日を迎えるまでの過程に自信を持っていたからだろう。本人は、選出されることに「手応えはあった」と話した。
 4月26日に敵地で戦い、史上初めてのアメリカ戦勝利(39-33)となった日も先発SOを任された。

 その試合に関して、「チームとしても個人としても自信になった」と振り返る。そして、そのあとに繰り返しおこなわれた合宿の中で、チームのやりたいことを遂行できると示してきたと思えたから、「評価してもらえているのではないかな、と思っていました」。

 前回W杯の直前は気が気ではなかった。
 大会へ向かう前のアイルランド代表との2連戦の初戦は80分間ベンチを温めたままで出番は訪れず、第2戦は後半37分からの途中出場。「そのまま出られないのではないかと思い、S&Cコーチづてにレスリー(マッケンジー ヘッドコーチ)に準備はできているよ、と伝えてもらい、ようやく出られた。なので、評価してもらえているいま、期待に応えたいと思っています」

 ただ、そんな思いを経て臨んだ大会では1勝もできずに3戦全敗だった。
 初戦のカナダ戦ではベンチスタートで後半17分からの出場(5-41)。続くアメリカ戦では12番で先発も、17-30と敗れる。そして、再び12番を背負ったイタリア戦にも8-21と勝てないまま戦いを終えた。

 2021年からイギリスに渡り、女子プレミアシップのウスター・ウォリアーズでプレーした。果たして自分は、その経験を世界の舞台で発揮できただろうか。
 チームが3連敗した結果を噛み締めながら自問自答した。

 2017年W杯では全5試合にSOとして先発した。フランス、アイルランド、オーストラリア、イタリア、香港と戦ったその大会で、勝利は香港戦のものだけ。同じアジア勢相手に勝っただけでは、悔しさばかりが残って当然だった。

 山本自身は試合に出場し続けたものの、痛めていた膝が試合を重ねるごとに悪化。満足できるパフォーマンスを出せなかった。
 その大会のことを回想し、「ディフェンスのとき、体の小さい自分のところを狙われました」と話したことがある。

 オーストラリア戦のことは忘れられない。
「お互いに点を取り合う展開の中で、パワーのある選手を私のところに走らせてきた。それを止められずに負けました」
 大学卒業後はPEARLSに入団し、さらに海を渡ったのは、国際レベルを日常にしたかったからだ。

やまもと・みのり。1996年12月9日生まれ、28歳。神奈川県横浜市出身。169センチ、70キロ。田園ラグビースクール(小2から)/東海大相模中等部→東海大相模高校→日体大女子→PEARLS→ウスター・ウォリアーズ(ENG)→セール・シャークス(ENG)→YOKOHAMA TKM。日本代表キャップ37。ポジションはスタンドオフ。(撮影/松本かおり)


 2025年大会で、チームを勝利に導くパフォーマンスを出す決意は強い。
 ハイテンポと豊富な運動量で勝利を目指す従来のスタイルに加え、強化を進めてきたセットプレーをより活かすためにも、キッキングゲームを採り入れるサクラフィフティーン。山本にとっては力の見せどころだ。

 2023-24シーズンはセール・シャークスに所属。ハードなコリジョンとキックの蹴り合いが当たり前の女子プレミアシップで、3シーズンを過ごした。その舞台で高めた自身の実力と、キッキングゲームへの対応を準備してきたチームの組織力が噛み合えばW杯勝利も近づく。

「試合の中でうまくいかない時も立て直せるようになったと思います」と話す。
 スタンドオフに求められる素養のひとつ。そして自分はいま、その点で評価されていると感じている。

「バンジー(ベリック・バーンズ アシスタントコーチ)からは、試合中のパフォーマンスだけでなく、試合メンバー発表から試合までの準備段階でリーダーシップを発揮してくれてありがとう、と言ってもらえました」
「そこが自分の強み」と言って、相好を崩した。

「私の人生、うまくいってばかりではないんですよ」と言って、「そんな時に、どういう反応や対応をして、振る舞えるかが大事。しんどい立場の人のことも理解できるようになりました」と続けた。

 乗り越えてきた困難は確かに多い。
 例えば、所属していたウスター・ウォリアーズが財政破綻で消滅。「南アフリカでのWXV(女子の国際大会)の最中にその知らせを聞いて驚きました」。
 セール・シャークスのヘッドコーチにコンタクトを取り、話をまとめ、ビザ取得の時間を経て2か月で移籍を完了させた。

 代表活動でもあまり国内での試合がない中で、ジャージーを着てベンチに座っているのに最後まで出番がないことも数回ある。家族や友人が応援に来てくれている中で、それは辛かった。
 でも、その中で強くなった自分がいる。

2022年のワールドカップ、カナダ戦より。(撮影/松本かおり)


「苦しい時間を過ごしても頑張っていれば、私の人生はうまくいく。経験上、いまは、そんな自信があります」
 シャークスでも、父が見に来てくれたラストゲームで、強豪のブリストル・ベアーズに逆転勝利することができた。

 W杯に臨む現チームについて「フォワードはセットピースが強く、バックスも(トライを)取り切る力をつけました」と自信を持つ。
「以前はロースコアに持ち込まないと勝てなかったけど、どこからでも得点できる脅威のあるチームになったと思います。これまでゴール前はピックゴーしかなくて、なかなか得点できませんでしたが、最近は手札が増えて得点力があがったと思います」
 その理由を、「プレーの精度が上がったことに加え、たくさん合宿して、お互いのタイミングや考えていることが分かりあえている」とする。

 司令塔として、強くなった仲間の力を引き出す。人と違う道を歩み、「それを遠回りに感じたことがありましたが、いま、いろんなことがつながって成果を出し始めているように思います」。
 3シーズンを過ごした地に、自国の代表チームの一員として戻る。かつてのチームメートたちも、応援に来てくれる。
 スペシャルな大会を実りあるものにする。



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