logo
渕上裕、決勝でトライ! クライストチャーチボーイズ高を地区優勝に導き、POMにも選出
2025.08.11
CHECK IT OUT

渕上裕、決勝でトライ! クライストチャーチボーイズ高を地区優勝に導き、POMにも選出

松尾智規

 嵐のクライストチャーチ。多くの観客が見守る中、高校生ラガーたちが熱い戦いを繰り広げた。

 ニュージーランド(以下、NZ)では、8月に入り高校ラグビーがクライマックスを迎える。8月9日、南島クライストチャーチの強豪校であるクライストチャーチ・ボーイズ・ハイスクール(CBHS)とクライスト・カレッジが、クルセイダーズ地区の高校大会「Miles Toyota Premiership」の決勝で激突。結果は52-0でCBHSが圧勝し、2年ぶりとなるクルセイダーズ地区の高校のチャンピオンに輝いた。

 今年で高校ラストイヤーとなる渕上裕(ふちがみ・ひろ)所属のCBHSは、レギュラシーズンを1位通過し、準決勝(8月2日)では昨年の覇者ネルソン・カレッジ相手にシーソーゲームの末、残り時間1分を切ったところでPGを決めて逆転し、37-35で辛くも決勝進出を決めた。

【写真左上から時計回りに】決勝戦前のプログラムのようなもの→優勝後のお祝いポスターのようなもの→CBHSのメンバー表。(CHBSのFacebookより)

 対するクライスト・カレッジは、レギュラーシーズン6位で辛うじてプレーオフに進出。しかし、準々決勝(7月26日)では、レギュラーシーズン3位通過のセント・トーマス・カレッジを46-24の大差で破り、準決勝(8月2日)では、同2位のマルボロー・カレッジに激戦の末、36-34と勝利する。格上のチーム相手に2試合連続でアップセットを演じ、決勝の切符を掴んだ。

※プレーオフ6チーム中、レギュラーシーズン1位と2位はシードで準々決勝を戦わず準決勝へ。
準々決勝は、レギュラーシーズン3位×6位、4位×5位が戦い勝者が上位2チームと準決勝で対戦。

 両軍のレギュラーシーズンの対戦は、渕上が3年連続で出場した6月3日の伝統の一戦(通称カレッジマッチ)だった。その際は、クライスト・カレッジが終盤に猛追を見せたものの、CBHSが粘り48-38で激戦を制した。
 プレーオフで快進撃を続けて勢いに乗るクライスト・カレッジは、6月の伝統の一戦のリベンジに燃えていた。一方、準決勝でミスの多かったCBHSが、どこまで修正してくるかが注目された。

ころころと変わる天候と、両校の熱心な応援。(撮影/松尾智規)

◆嵐の決勝。渕上のトライを含む8トライの猛攻でCBHSが決勝を制す


 冬の終わりが近づき、天候が安定しつつあったクライストチャーチ。しかし決勝当日は、あいにくの嵐となった。雨は降ったりやんだりを繰り返し、身を切るような強風が吹き荒れた。体感温度は氷点下に達し、選手にとっても観客にとっても厳しいコンディションの中での試合となった。

 そんな悪天候にもかかわらず、両校の生徒や保護者、OB、そして多くのラグビー愛好家たちがピッチをぐるりと囲んだ。この光景は、まさにラグビー王国を象徴していた。
 レギュラーシーズンでおこなわれる伝統の一戦を再現するかのような盛り上がりを見せ、生徒たちの熱い声援が試合前から響き渡っていた。
 選手入場とともに、会場の熱気は一段と高まる。決勝という事もあり、試合前のハカには選手たちの気迫がいつにも増してこもっていた。観客すべての視線を集めたそのハカで、会場の雰囲気は最高潮に達した。

両チームのハカがおこなわれると、会場のボルテージが一気に上がる。(撮影/松尾智規)


 嵐の中で試合が始まると、選手たちのジャージはあっという間に泥まみれになっていく。滑りやすいピッチに足を取られ、ボールも手につかず、ハンドリングエラーが多発した。それでも選手たちは懸命に楕円球を追い、激しいタックルを繰り返した。
 試合の主導権を握ったのはホームのCBHSだった。悪天候を考慮し、シンプルな攻撃を選択。ファーストレシーバーが力強く突進してラックを作り、確実にゲインを超えるプレーを徹底していた。

 その結果、CBHSがファーストクウォーターで2トライを挙げ、幸先の良いスタートを切った(12-0)。その後、危険なタックルでCBHSにイエローカード(10分間の退場)が出されるも、試合の流れは変わらなかった。24分には渕上がラックサイドを潜り、2、3人のディフェンスをかいくぐりトライを決めリードを広げた(19-0)。
 前半だけで合計4トライを挙げたCBHSが24-0と大きくリードした。
 ハーフタイムには、伝統の一戦の際と同様に、両校の生徒によるハカの競演が会場を盛り上げた。

 後半に入り、何とか流れを変えたいクライスト・カレッジだったが、前半から多発したハンドリングエラーは改善されなかった。
 CBHSは63分にレッドカードで退場者を出したものの、数的不利を感じさせない猛攻を続け、後半も4トライを追加した。ディフェンス面でも鋭いタックルを連発し、クライスト・カレッジを寄せ付けずシャットアウト。ファイナルスコアは、合計8トライを奪ったCBHSが52-0と圧勝し、クルセイダーズ地区の頂点に立った。

 優勝を決めた瞬間、CBHSの選手たちは歓喜の雄叫びを上げながら、真っ先に応援団の待つサイドラインへと駆け寄った。勝利の喜びを全身で分かち合うその光景は、まさに選手と生徒が心を一つにして掴んだ栄光の証だった。

思わぬスコア(正しいファイナルスコアは52-0。NZあるある)となるも、試合内容は熱かった。写真上は泥だらけの渕上。写真下は、選手たちが勝利の報告をしたシーン。(撮影/松尾智規)

◆準決勝の課題を見事克服。SKY Sport のPOMは渕上


 この決勝は、NZスポーツ専門チャンネルの『SKY Sport』で生中継があった。実況が「最悪のコンディション」と伝えたように、ラグビーをするには過酷な条件だったが、優勝したCBHSは、丁寧なハンドリングとミスの少ない堅実なプレーで、見事にこの難局を乗り切りった。フォワードを中心とした手堅い攻撃に加え、バックスに展開してトライを奪うなど、正確なプレーを披露した。

 その中で背番号9をつけた渕上のボール捌きは、この悪天候でも見事だった。積極的にランプレーを仕掛ける場面もあり、チームに勢いをもたらした。その活躍が評価され、試合を中継したSKY Sport のPOM(最優秀選手)に選ばれた。
 試合後の渕上は、「いつも通りに楽しんでプレーができた。ボーイズハイ(CBHS)のホームグラウンドでの最後の試合で、良い勝ち方ができて良かった」と語った。

試合後の渕上。両親も優勝と活躍を祝福。(ご家族提供)


 チーム全体でミスが多く苦戦をした準決勝からの気持ちの切り替えについては、「コーチからはチーム一丸となって戦うようにとの指示があった」と話し、チームとして気持ちを切り替えて決勝に臨んだことを示唆した。
 表彰式では、あふれるばかりの笑顔で優勝の喜びをかみしめる姿が印象的だった。

 来週は、全国大会(Top4)の出場権をかけて、南島代表決定戦でサウスランド・ボーイズ・ハイスクールと対戦する。渕上は、「2年前に悔しい逆転負け(28-29)をしたので、今回リベンジできる機会を持ててラッキー」と決戦への意気込みを語った。
 2年前と同じ相手、同じ場所(サウスランド・ボーイズ・ハイスクールのホーム)での対戦となり、まさにリベンジを果たす絶好の機会となる。

 毎試合応援に駆け付ける渕上の両親も息子の優勝を心から喜んだ。試合後、両親と3人で笑顔で撮影した写真が決勝の喜びを表現している。

 試合後、チームのスポンサーのひとつである『LONE STAR』(レストラン)では、選手、保護者が参加する簡単な祝勝会がおこなわれたようだ。その後はチームメイトの自宅で、ラグビー部以外のYEAR13(高校3年生)の同級生も交えた祝勝会も楽しんだ。
 高校ラストイヤーを迎えた渕上の活躍は、まだまだ続く。

【動画】クライストカレッジの生徒たちのハーフタイムのハカ。劣勢でも最後まで声援を上げていた。(撮影/松尾智規)


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら