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キックオフから79秒で先制を許した。
8月9日にイタリア・カルヴィザーノでおこなわれた同国女子代表と日本代表のテストマッチは、立ち上がりのトライを含め、5トライを挙げたイタリア代表が33-15のスコアで快勝した。
両代表は、8月22日に開幕するワールドカップに出場する。大会前最後の試合だった。
日本国内でのスペインとの2連戦に連勝してヨーロッパに向かったサクラフィフティーンはこの日、ラインアウトの獲得率が高く、自信を持つモールでのトライを2つ挙げたものの、ディフェンスに綻びが出てしまった。
キックオフ直後に許したトライは、自分たちが蹴ったキックから攻撃を重ねられて奪われた。最後はタテに出たFLアリッサ・ラアウッシーニのオフロードパスを受けたWTBアリッサ・ディンカーに50メートルを走り切られる。
コンバージョンキックも決まり、早々に7-0とされた。

しかし、サクラフィフティーンにも積み上げてきたものがあるから、簡単には崩れなかった。スコアボードが次に動いたのは前半28分だった。
赤×白のジャージーは6回のラインアウトをすべて獲得して試合を落ち着かせた。規律高くプレーし、反則は3回だけだった。
前に出て止めることはなかなかできなかったが、粘り強く守り、相手のペナルティを5つ誘発した。モールで圧力を掛け、コラプシングを誘ったシーンもあった。
惜しまれるのは、相手キックを確保できずノックフォワードを取られたり、ハンドリングエラーで相手にボールを渡したことだ。
28分に奪われたトライは、イタリア陣ゴール前に攻め込みながらもラインアウトでボールを奪われ、そこからバックスに外へ回され、WTBディンカー、FBフランチェスカ・グランゾット(この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ)のコンビにアウトサイドを攻略される。約80メートルを攻め切られた(0-12)。
前半7回あったマイボールラインアウトで、ボールを失ったのは、この時だけ(イタリアボールのラインアウトも2度奪う)。それだけに、勝負どころで力を発揮できなかったのが痛かった。
相手が競りにこなかったことも、高獲得率を呼んだ。さらに精度を高めて大会に挑みたい。

前半33分の失点もミスがきっかけとなった。
相手反則を誘い、得たPKがタッチに出ずに攻められる。自陣でのラインアウトからショートキックを使って攻められ、オフロードパスを重ねられる。トライラインを越えられた。
0-19で迎えた前半終了間際にはキックを効果的に使って相手のミスを誘い、敵陣深くでスクラムを得た。
そこから近場を攻めてディフェンスを寄せた後に左へ大きく展開、WTB畑田桜子が左スミに飛び込んだ。5-19としてハーフタイムに入ったけれど、後半も先手、先手を相手に取られてしまった。
後半は11分にイタリア、14分に日本、25分にイタリア、29分に日本と、交互に2トライずつを挙げた。そして、その4トライのうち3つはモールで奪ったもの。サクラフィフティーンは2つともFWで押し切った。
自分たちの強みを出してトライを連ねたことは自信になるも、スペイン戦でも見られた、ゴールラインを背負ってのディフェンスに粘りを出したい。
後半11分のイタリアのトライは、ラインアウトからモールで前に出られた後、近場ですぐにトライラインを越えられた。
サクラフィフティーンは後半のラインアウトも9回中8回でボールをキープしたが、反則が増え(6つのうち攻撃時のノットリリース・ザ・ボールが3回、ハイタックルが2回)、相手から得た7つのPKも効果的に生かすことができなかった。
8月24日にワールドカップの初戦、アイルランド戦を迎えるサクラフィフティーンにとっては、課題が多く見つかった。この日は2度のPKノータッチがあるなど、精度高くプレーできないシーンもあった。残る時間で細部を高めてエリアを獲得し、自分たちの強みを出せる展開に持ち込みたい。

望む結果が得られなかった試合の中で、実力を出し、チームへの貢献度が高かったのがNO8の齊藤聖奈だった。
この日で50キャップ。節目の試合で勝利をつかむことはできなかったものの、周囲の祝福を受けた。
今回で3度目のワールドカップ出場となる背番号8は、この日はディフェンスで高いボール感覚を見せた。
前半23分過ぎ、相手がフェーズを重ねながら自陣深くに攻め込む途中、倒れた相手が抱えたボールに瞬時に手を掛け、反則を誘った。
2トライ目を許した直後、相手がボールを大きく動かし、勢いに乗って攻めてきたところでも鋭くボールに手を掛けてPKを得た。
試合前にもチームメートから祝福の声を掛けられ、ピッチにも先にひとりで入るなど、特別な時間もあった齊藤は、「いつもと変わらずプレーできた」と、後半14分までの戦いを振り返った。
「相手がラック周りを狙ってくると分かっていました。日本の低さ、はやさは、どこの国にも負けていない。なので、誰かがいいタックルをしたら、すぐにジャッカルに入ろうと狙っていました」
2017年大会では主将も務めるなど、経験豊富な者として、大会初戦までの2週間の過ごし方について、「この試合で自分たちの課題が浮き彫りになりました。もう一回気を引き締めないとアイルランドに勝てないと、みんな分かったと思う」と言って、「リラックスするところはリラックスして、練習では気を引き締め、コリジョンをもう一段階アグレッシブにしていきたいと思います」と、やるべきことの焦点を絞った。

レスリー・マッケンジー ヘッドコーチは、「試合の結果、スコアは悔しい。もっとできた。しかし、プラスになる面もあった」と前を向いた。
「エラーから痛手を負いましたが、いいレッスンを受けた。学びにつなげられる、いい糧になるものも多かったと思います。残り2週間、その糧に取り組むし、そこが自分たちのフォーカスポイントになる」。
プレー間の時間の使い方も含め、様々な手を使ってゲームをスローダウンさせようとする相手への不満も口にした指揮官は、大会中は、自分たちの武器を使えるような流れを作っていかないといけないと言って、あらためて自分たちのスタイルを明確に示していくことを選手たちに徹底していく。
「勝ち切れずに悔しかった」と話し出したFL長田いろは主将は、「相手からのプレッシャーを受けて、うまくいかないことがあったが、スコアするところではフォワードのモールや、どこにスペースがあるかスキャンして、そこにボールを運べた。ワールドカップにもつながるプレーでした。プールステージで戦う相手もこの試合を見ていると思うので、必ず修正して大会に臨みたい」。
このイタリア戦の結果で、ここまで積み上げてきたことが否定されるわけでもない。自分たちの強みが通用することは、あらためて分かった。
そして、スピードと運動量をもっと前面に出して戦う展開に持ち込まないと勝てないこともあらためて体感した。
残り時間でやれることは限られている。初戦勝利のための完璧なルートマップを描き、やり切ること以外に道はない。
サクラフィフティーンのスタイルを色濃く世界に発信する80分を演じることが求める結果に直結する。
