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チームになろうよ。
みんなで「T」。一人ひとりの個性、各校のカラーが重なって、いい感じ。(撮影/松本かおり)


 部員が集まらない。

 ラグビーという1チームあたりの選手数が多い競技にあって、強豪以外の学校が直面する悩みではないだろうか。少子化が進み、子どもの趣味が多様化した現代は、なおさらだ。

 その悩みを乗り越えようとしている取り組みが、富山県西部にある。

 4月下旬、富山県砺波市を訪れた。東京駅から新幹線と在来線を乗り継いで約4時間。人口約4万6千人の自治体で、少子高齢化はこの街にもあてはまる。

 市中心部にある砺波高校のグラウンドで、城石敦也監督(27)が7人制の大会に向けたアドバイスを送っていた。

「7人制と15人制は考え方が違う。7人制でプレーするときは、後ろに下がりながらでもボールをキープすることが大事」

【写真左上】砺波高校の城石敦也監督。【写真右上】高岡第一高校の吉田治夫監督。【写真左下】T-HAWKSの橋場皓生主将。【写真右下】女子マネージャーも仲間。(撮影/松本かおり)


 話を聞く選手たちは、様々な学校に所属する。砺波高校だけでなく、砺波工業高校(砺波市)、南砺福野高校(南砺市)、高岡第一高校、高岡高校(以上高岡市)から選手が集まり、「合同」チームとして活動している。

 きっかけは3年前、砺波・砺波工業・高岡第一の3校で合同チームを組んだことだった。以前は各校単独で活動していたが、人数がそろわなくなった。

 ここまでならよくある話。ただ、城石監督は「寄せ集め」チームとなることを良しとはしなかった。

 「合同チームのネガティブな印象を変えたい」

 弱そう、単独チームより何となく立場が下、チームに誇りを持てない――。「合同」には、そんなイメージがまとわりついていた。

 まず取り組んだのは、練習の一体化だ。

 城石監督と高岡第一高の吉田治夫監督(59)は、いずれも砺波高の出身で元々接点も多かった。そのつながりを生かす形で、吉田監督が生徒の送迎役を担った。高岡第一高の生徒や高岡高の生徒をマイクロバスに乗せ、砺波高まで送迎。週6日、合同練習をしてつながりを深めた。

 学校が違っても同じ「チーム」、という意識付けにも取り組んだ。

 発足から1年が経った2023年、チームの愛称を作ることにした。砺波高や砺波工業ラグビー部のエンブレムがタカだったことから、「T-HAWKS」と名付けた。

 はじめの「T」は砺波市や高岡市の「T」、県の花であるチューリップの頭文字「T」から取ったという。

 学校をまたいだ「横」のつながりだけでなく、年代を超えた「縦」の連携にも取り組んだ。

富山の夏は暑い。汗だくになりながら、仲間同士声を掛け合って、練習の最後まで力を出し切る。(撮影/松本かおり)


 城石監督は砺波高ラグビー部出身で、教師として働きながら地域のクラブチームでプレーしていた。その縁を生かして、社会人クラブのメンバーが高校生の練習に参加する機会を作った。

 そして、昨年からは砺波市と高岡市の中学生のスクールも巻き込み、社会人、高校生、中学生の3世代を「T-HAWKS」として1クラブに。月に1~2回は「HAWKSデー」と名付け、全世代での練習日を設けている。

 現在は中学生20人、高校生が27人、社会人50人ほどが所属する。T-HAWKSの名がついてから約2年。すでに成果は表れている。

 主将の橋場皓生(18)は「練習メニューの幅が増えた」と話す。人数が多いことでパス練習など基礎的なメニューだけでなく、実戦形式の練習で連係プレーを鍛えられるという。テスト期間などで一部の学校が練習に参加できない日があると、普段の環境のありがたさを感じる。

 進学先にラグビー部がなくても、ラグビーを続けられた選手もいる。南砺福野高に進学した上田紗有彬(しゃあひん)(16)は小学校で始めたラグビーをT-HAWKSで続けている。南砺福野高から通うのは1人だけだが、「このチームを勝たせるために、力になれたら」とやりがいを感じている。

 T-HAWKSで幅広い年代の人と出会えることで、技術的な指導を受けることもできる。それに大人たちとの人脈ができることで、人間として視野も広がる。「縦」のつながりにより、選手のリクルートをしやすいという利点もあるという。

 ただ、学校が違っていても分け隔てなく交流できるものなのか?

【写真左下】高岡第一や、その途中に学校や自宅がある選手たちは、吉田先生の運転するマイクロバスで学校とグラウンドを行き来する。【写真左下】高岡駅前。富山県西部は呉西と呼ばれ、東は呉東。【写真右】ボール、エンブレム、ヘッドキャップと、いたるところにT-HAWKSの文字。(撮影/松本かおり)

 城石監督によると、初めの頃は学校ごとにまとまる雰囲気があったが、一緒に練習をするうちに一見して誰がどの高校の生徒か分からないほどなじんだ。部員たちに話を聞くと、合宿などを通じて人となりを知ることも関係づくりに一役買っているという。

 OBが単独出場にこだわらないのか、とも疑問に思ったが、自身も砺波高出身でT-HAWKSの社会人チームに所属する真栗一嘉(28)は「単独にこだわるよりも、富山県西部のラグビーがにぎやかになってくれたほうがうれしい」と話す。

 もちろん、ここまでうまく回るのは属人的な要素もある。

 城石監督が砺波高ラグビー部OBで、地域の関係者に顔が利いていた。「ラグビーマニア」を自称する吉田監督がマイクロバスを運転するから、高岡市内に通う生徒たちも砺波高で練習ができていた。

 しかし、少子化が進む地域でもあり、何か手を打たなければ満足な練習環境が整わない。一時的に各校が15人以上をそろえられたとしても、継続的にT-HAWKSとして活動を続ける方針だ。

 部員不足対策として生まれた、「合同」の新たなかたち。結果として学校や年代を越えてラグビー好きが集まり、楕円球を追って交流している。そこには、ラグビーがうまくなる、チームが強くなるだけにとどまらない可能性が詰まっていた。

練習拠点となっている砺波高校のグラウンド。(撮影/松本かおり)

【プロフィール】
藤野隆晃/ふじの・たかあき
朝日新聞スポーツ部記者。1994年4月2日生まれ、埼玉県出身。中学ではサッカー部に所属し、進学した県立川越高校でラグビーを始める。ポジションはウィング。一橋大学卒業後、朝日新聞社に入社し、山口、和歌山、東京で勤務。ラグビー以外にはサッカーやパラスポーツも担当している。今も時々、タッチフットで汗を流す。

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