![【上達とコーチングのヒント】石田吉平[日本代表]の抜く技術、闘うマインド](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/08/KM3_4897_2.jpg)
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ことあるごとに「日本のチェスリン・コルビになれる」と言う。
日本代表のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは石田吉平のことを語るたびに、南アフリカ代表として世界を沸かせてきたWTB(東京サントリーサンゴリアス所属)のことを引き合いに出して、今季から日本代表に加わった好ランナーの未来へ期待を寄せる。
167センチ、77キロの石田と、172センチ、77キロのコルビ。同じような体つきに、両者ともセブンズ代表出身。確かに重なるところは少なくない。
そして石田は、初キャップとなった2025年7月5日のウェールズ代表戦、2キャップ目となった翌週、7月12日の第2テストの両試合に14番でフル出場し、世界が相手でもやっていけることを証明した。
自らのトライこそなかったものの、第1テストの前半にはFB松永拓朗へラストパスを送り、5点奪取をアシストする。他のシーンでも防御を翻弄する動きを連発した。
2024年のパリ五輪へ出場した男子セブンズ代表のキャプテンは、2022年度に明大主将としてプレーし、大学選手権準々決勝で敗れて以降はセブンズ代表活動に専念。2023年、そして2024年の夏までは15人制の試合には出ていない。

しかし、大学卒業後から所属していた横浜キヤノンイーグルスで2024-25シーズンの開幕戦から出場機会を得ると、チームの全18試合のうち16戦に出場する。11トライの活躍だった。
長かったセブンズ専念期間を経ての15人制復帰にあたり、石田は「体重は2キロ増(167センチ、77キロ)と、大きな変化はない」という。
例えばウェールズとの2連戦でトイメンに立ったジョシュ・アダムスは183センチ、96キロ。自分と比べて大きな体躯を持っていた。
目の前に立つウェールズの左の翼は63キャップ。その人は経験豊富で、巧みさを感じるシーンはあったけれど、サイズ差による不利を感じることはなかったという。
「むしろ、自分のこの大きさこそ武器になっていて、プラスなのかな、と感じました」と話す。
体の使い方を分かっていることからくる自信だ。
ハイパントに対するプレーでも、その強気は変わらない。
「ディフェンス時でもアタック時でも、積極的に自分から仕掛けていくことによって、どんな相手でも勝てると思います」。
技術とメンタル、その両方が重要になる。
「はじめから引いていくより、強気に、アグレッシブにプレーした方が相手にとって脅威になる」
気持ちの強さを出してプレーすることはサイズの差を消すことにつながる。
ハイボールへの働きかけについて石田は、「先に跳んで、相手に体を当てる。体幹をしっかり使って勝つことを心がけています」と言う。
これらは体の大小に関係なく、ジャンプのタイミング、コリジョンにおいて、技術、スキル面で大事なことだ。跳ぶタイミングが遅ければ、ペナルティを取られるケースも多くなる。
石田は空中戦でも地上でも、相手とぶつかることに恐怖心がない。その理由を「ずっとフォワードだったから」と自己分析する。
5歳の時、尼崎ラグビースクールでラグビーを始めた。当時は太っていたこともあり、中学まで同スクールでプレーを続け、ポジションは一貫してFWだった。
そして小柄ながら、常翔学園高校入学後もポジションはFWから離れなかった。
1年時から2年時の夏まではFL。その後WTB、FBでプレーし、花園予選はCTBで、本大会はNO8。3年時はケガ人の出たSHのカバーをしながらFBでプレーし、花園予選以降はNO8の位置に立った。
当時の野上友一監督からの指示は、「ボールの近くにいて、どんどん抜いて前に出てほしい」。当時からパワーではない力で扉を開ける才を高く評価されていた。

そんな道を歩んできたから、「僕の場合、ぶつかるのが好きでラグビーを始めたようなもの。人それぞれ適正ポジションがあると思うのですが、いろんなポジションをやることで分かってくることはたくさんあると思います」と話す。
7人制と15人制の大きな違いに、スペースの広さがある。15人制は味方も相手も人数が多いため、走るチャンス、抜ける空間が限られるが、「狭くてもキレがあれば抜ける」と言う。
「(ステップの)キレを良くするため、(切り返し時の)反発力を高めることに取り組んでいます」
鋭角な動きを実現するため、基礎的なところを高めることに注力する。
「トレーニングではラダーを使うし(すばやく正確に動く)、ウエートトレーニングでもクリーンアウトやスクワットジャンプなど、瞬発系のものを採り入れています」
アジリティ(敏捷性)を高め、一つひとつの動きが生むパワーを大きくすることが大事だ。
セブンズはトイメンを抜いたり、防御の裏に出ると、追ってくる相手がいなくなるケースも少なくないが、15人制は、ひとり抜いてもカバーディフェンスが追ってくる。後方のディフェンダーも向かってくる。
「それに関しては、大きくフィールドを見るとそういう相手が視界に入ってくる。そのスピード感をつかむことが大事です」
「相手が自分をドミネートしてこようとするなら、それもチャンスです」
向かってくる勢いを活かして抜く。
「相手の足の動きも見ます。タックルに入るタイミングをはかって、小刻みに足を動かしたり、足が揃う時がある。その時に抜く」
同じ局面はない。「練習から繰り返し経験を重ねることが大事」と言う。
7月5日のウェールズ代表との第一テストマッチでは、自分で走り切るのではなく、ラストパスを出し、FB松永拓朗がトライをするプレーがあった(前半16分)。
右ラインアウトからの攻撃だった。ピールオフからボールを手にしたLOワーナー・ディアンズから9番へパスが出る。
何人かのタテへの囮(おとり)で防御の足を止めておいて、ボールはSH藤原忍から外へ。それを開きながら受けたSO李承信はさらに外に走り、タックルを受けつつ、内側に走り込んだブラインドサイドWTB、石田につないだ。
石田はランコースを変えてタテに走り、タックルを受けながらも、左に走り込んだFB松永へ。背番号15が走り切った。

用意したサインプレーではあるけれど、流れの中で「臨機で動きました」。
「もともと僕がスンシン(李承信)の外でもらうはずでした。しかし彼が外に開き、スペースが内にできたのでランコースを変えました。ディフェンスの裏に出た時、右から(ウェールズの)赤いジャージーが見え、視界の中にうしろから拓朗さんが来ているのが分かった。それでオフロードパスをしました」
繰り返し練習したプレーだ。
トレーニング時、設計通りに成功することもあれば、防御側によって予定とは違う動きになることもあった。それでも途中でプレーを止めず、完結するようにしていたから、それぞれの選手がどういう時に、どう動くか分かるようになる。それが生きたトライだった。
自信を持って勝負に挑む。
その自信を支えるものは、練習量の場合もあれば、高めたスキルでも、磨いたキレでもいい。「小さい選手ならでは、の強みでもいい」と石田は言う。
「グラウンドに立ったら、体の大きさに関係なく、ひとりのプレーヤー。臆することなく、でっかい相手を負かす気持ちでプレーすることが大事です」
若いプレーヤーにひと言。
「はじめから負けるつもりなら負ける。自分が主人公、主役と思ってプレーしてください」
身長でいろんなことが決まるなら、石田吉平は最初からここにはいない。