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【またまた愛情たっぷりコラム】フランス目線で見るブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ ツアー
トゥールーズ所属でスコットランド代表のCTBブレア・キングホーン。写真はライオンズでワラビーズとの第2テストマッチを戦った時の一枚。(Getty Images)

【またまた愛情たっぷりコラム】フランス目線で見るブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ ツアー

福本美由紀

 4年に一度のラグビーの祭典、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(B&Iライオンズ)のオーストラリア遠征は、ラグビーファンにとって見逃せないイベントだ。フランスのラグビーファンの視点から見ると、トップ14で活躍する選手たちの奮闘は、また違った感動を与えてくれる。

 まず目を引くのは、トゥールーズに所属するスコットランド代表FB/WTBのブレア・キングホーン(28歳)のタフさだ。
 6月28日に行われたトップ14決勝で100分間プレーしたわずか4日後に、オーストラリアのB&Iライオンズに合流し、その3日後にはワラターズ戦に先発出場して80分プレーした(21-10)。さらにその4日後にはブランビーズ戦にも先発出場(36-24)。「いち早くチームにフィットさせたいのはわかるけど、それは無謀では…」と心配していたら、24分で負傷退場。幸い、重症ではなかったので、7月22日のファーストネーションズ&パシフィカXV戦で復帰、再び15番をつけて80分戦い、7月26日のワラビーズとの第2戦で後半途中出場した(29-26)。

 キングホーンはトゥールーズでも常に笑顔を絶やさず、プレーできる喜びを全身で表現している。2023年12月にFBメルヴィン・ジャミネの移籍に伴いトゥールーズに加入すると、すぐにチームに馴染み、その順応性の高さを見せつけた。
 彼自身も「トゥールーズのスタイルは独特で、短いパスが多く、多くの選手がボールを持つ。全員が同じゲームプランを頭の中に持っていて、選手たちは本能的にプレーしている。隙を見つけたら、そこを突く。ここに来るまで経験したラグビーとは違うが、僕には合っている」と語る(ラグビーラマ)。

 WTB/FB、時にはSOもこなすポリバレントな能力、ハイボール処理の強さ、飛距離のあるキック、そして魅力的なカウンターアタック。さらに、見た目以上のフィジカルの強さと効果的なディフェンスも持ち合わせている。地元のサポーターが、アルゼンチン代表のFB/WTB/SOフアン=クルス・マリーアやCTBサンチャゴ・チョコバレス、イングランドのFLジャック・ウィリスと並んで、キングホーンを「メイド・イン・トゥールーズ」だと誇らしげに語る姿は微笑ましい。

 昨シーズン、トゥールーズで21試合、スコットランド代表で7試合、合計28試合(1921分)を戦い抜いたキングホーンだが、その疲れを全く感じさせない。ライオンズの試合でも常に動き回り、ゲームをかき回し、ディフェンスでも体を張り、チームにエネルギーを与えている。何よりも、彼自身がプレーを心から楽しんでいるのが伝わってきて、見ている私たちも楽しくなる。

 ウェールズ代表SHトモス・ウィリアムズの負傷離脱により、トゥーロン所属のスコットランド代表SHベン・ホワイト(27歳)もB&Iライオンズに招集された。ホワイトは2023年のシックスネーションズからスコットランド代表でSOフィン・ラッセルと強力なコンビを組んでいるが、トゥーロンではなかなか存在感を発揮できずにいた。

ライオンズ×ファーストネーションズ&パシフィカXV後、ベン・ホワイト(左)とオーウェン・ファレル。(Getty Images)


 しかし、トゥーロンのピエール・ミニョニ ヘッドコーチ(HC)は、ホワイトを高く評価している。今年4月のチャンピオンズカップの試合前会見で、ミニョニHCは「ここでは、ベン・ホワイトに対して誤ったイメージを持たれていると思う。彼は非常にレベルの高い選手だと、私は最初から言い続けている。彼が国際試合であのレベルでプレーするのを見ても私は驚かない。彼はイングランド(ロンドン・アイリッシュ)から来てスコットランド代表でプレーしている9番だ。トップ14に適応する時間が必要だ。彼は言語を学ぶために非常に努力している。守備では勇敢な選手で、チームのために非常に貢献している」とホワイトを擁護した。

 ホワイト自身も、ミニョニHCが自身と同じポジション出身であることをポジティブに捉えており、「リーダーシップを伸ばすのを助けてくれる」と言っている。フランスでの「9番」の役割はガイドのように多く話す必要があり、トゥーロン加入当初は言葉の壁に苦しんだ。「フランス語を間違えるのが怖かった。でも今はどっぷり浸かっているし、毎週フランス語のレッスンも受けていて、FWとコミュニケーションを取るのが楽になった」と話している(レキップ)。

 スコットランド代表とトップ14でのプレースタイルの違いにも適応しなければならなかった。スコットランド代表ではスピードを重視した体系的なラグビーを展開するのに対し、トップ14ではもっとラックの近くでプレーし、1対1の局面が多くなる。ホワイトはトゥーロンでの経験を通して、自身のプレーの幅を広げていると感じている。

 チームメイトであるSHバティスト・セランとのスタイルの違いについても言及し、「僕は速くプレーし、ボールを活かし、FWと連携するのが好き。バティストは非常に才能があり、リスクを恐れず、様々なことにチャレンジし、チャンスを生み出す。僕も自分のプレーにそういうところを取り入れようとしている。ラグビーが好きで、見て、学ぶのが好き。選手としてのキャリアは短いので、成長するためのあらゆる機会を最大限に活用しなければ」と、自身の向上心と謙虚な姿勢を示している。その努力が実を結んできているのが感じられるシーズン終盤だった。今回のライオンズ遠征でも多くの学びを得ることだろう。

 もう一人、B&Iライオンズに参加しているトップ14の選手がいる。正確には、6月30日までトップ14の選手だった。イングランド代表FBエリオット・デイリーの離脱により招集されたオーウェン・ファレル(33歳)だ。鳴り物入りでラシン92に入団した昨シーズン、フランスのラグビーファンにとっては、フランス代表を何度も苦しめてきた鬼のような存在で、そのプレーに注目が集まった。しかし、1シーズンで17試合、984分の出場に留まり、かつての世界屈指の司令塔の面影は見られず、1年の契約期間を残して古巣のサラセンズに戻った。

 ファレルのライオンズへの招集は多くのファンに疑問を抱かせた。ライオンズのHCが彼の父であるアンディ・ファレルであることから、SNS上では「パパ、ありがとう」という書き込みも多く見られた。

 ラシン92での最後の試合から2か月のブランクがあったにも関わらず、ファレルは7月12日のAUNZインビテーショナルXV戦で途中出場し(48-0)、10日後のファーストネーションズ&パシフィカXV戦ではキャプテンを務め80分間チームを率いた(24-19)。ワラビーズとの第2戦でも途中出場し、大舞台での経験値の高さとリーダーシップを発揮し、チームにポジティブな影響を与えた。ラシン92では見られなかったファレルの姿が、ライオンズで輝きを放ったのだ。

 ラシン92での不振は、負傷や、彼を移籍させたスチュアート・ランカスターHCのシーズン途中の解任などのチームの機能不全も影響していただろう。そんな中でもチームメイトや会長からのファレルの評判は良かったが、ピッチでは苦しんでいるように見えた。トップ14のスタンドには、時折ファレルを見守る父の姿も見られた。この招集は、息子にリセットの機会を与えたいという父の愛情だったのだろうかとも想像してしまう。その期待に応えられるところが、さすがファレルなのだが。久しぶりに試合後のファレルのあの笑顔を見た。

FLニック・チャンピオン・ド・クレプニ。WallabiesのオフィシャルInstagramより


 B&Iライオンズだけでなく、対戦相手のワラビーズにもトップ14で活躍した、あるいは活躍中の選手が参加している。その一人が、かつてトップ14のカストルに所属していたFLニック・チャンピオン・ド・クレプニ(29歳)だ。

 彼は数奇な運命の持ち主だ。オーストラリア、キャンベラ生まれ。8歳でラグビーを始め、シドニー大学に進み大学のクラブでプレーしていた。メルボルン・レベルズのエキシビションマッチや、ワラターズのプレシーズンマッチに出場したことはあったが、スーパーラグビーに出場できず、シドニー大学でのプレーを続けていたところ、フランスのカストルの当時のHCであるピエール=アンリ・ブロンカンの目に留まり、2021年カストルに入団した。パワフルでアグレッシブな彼のプレースタイルはカストルにハマった。

 3シーズンで53試合。3年目は怪我が続き14試合しか出場できなかったが、カストルは契約延長をオファーした。しかし、本人は帰国してワラビーズを目指すことを選んだ。今年、ウェスタン・フォースでスーパーラグビーデビューを果たし、出場した12試合すべてで先発だった。B&Iライオンズの第1戦、ロブ・ヴァレティニの欠場によりチャンスが巡ってきた。夢が実現した(19-27)。

 そして、忘れてはならないのが、ラ・ロシェル所属の巨漢LOウィル・スケルトン(33歳)だ。ワラビーズの精神的支柱でもある彼のB&Iライオンズとの第2戦での復帰には、大きな期待が寄せられた。
 この遠征でイギリス・アイルランドのテレビ局「スカイ・スポーツ」で解説を担当しているラ・ロシェルのロナン・オガーラHCは、スケルトンについて、「一人の選手で多くのことが変わるなんて馬鹿げているように聞こえるかもしれませんが、彼はまさに驚異的な存在です。もちろん、私は彼の良いところばかり見ているので、非常に偏った見方をしているのはわかっています。彼はチームを変え、環境を変えます。本当に素晴らしい選手ですが、しばらく休んでいたところです(ラ・ロシェルでの最後の試合が6月7日)。通常は感覚を取り戻すのに1、2試合かかりますが、ウィルはすぐに活躍できるでしょう」と試合前に語っていた。

 その言葉通り、スケルトンは10トントラックのような勢いで突進し、敵をよろめかせ、後退させ、味方のHBがゲインラインでボールを供給できるようにした。23-17でワラビーズがリードして前半を折り返した。後半早々にヴァレティニとともにベンチに下がり、形勢が逆転したとも言えるだろう(最終スコアは26-29)。

ライオンズとの第2テストでのワラビーズLO、ウィル・スケルトン。(Getty Images)


 オガーラHCは、スケルトンの人間性にも深く影響を受けたことを明かしている。
 若手コーチとして勝利にこだわるあまり、選手に厳しく接することもあったオガーラHCに対し、スケルトンは「コーチ、僕は実はそんなに勝利にはこだわらないんです。思い出を作ることにこだわっているんです。チームメイトがより良いプレーをして、より良い気分になるようにすることにこだわっているんです」と語ったそうだ。スケルトンは、ラ・ロシェルのホーム試合の前日には、いつもチームメイトのためにクッキーやブラウニー、マフィンを焼いてくるという。

 オガーラHCはスケルトンとの出会いを、「私がこれまでにしたことの中でベストなことは、ウィル・スケルトンと契約したことです。ウィルのような人物と人生で巡り合い、ラグビーという場で関われたことは本当に素晴らしいこと」とまで語っている。
 勝利に真っ直ぐで、熱く激しく、時には厳しいオガーラHC。スケルトンやウイニ・アトニオのような包容力のあるベテラン選手は、ラ・ロシェルにとって非常に重要な存在となっているだろう。

 昨シーズン、チャンピオンズカップで準々決勝にも進出できず、トップ14でもプレーオフを逃したラ・ロシェルにおいて、オガーラHCの求心力が問われる声も上がっていた。
 チームは7月14日に練習を再開している。なのに、オガーラさん、そんなところで楽しく解説していて大丈夫なの? と疑問に思っていたが杞憂だった。この試合を終えるとオガーラHCは最終戦を待たずに解説の役目を終え、真冬のオーストラリアをあとにした。2日後には真夏の太陽が降り注ぐラ・ロシェルのグラウンドに立つ姿が見られた。

 フランスのトップ14で活躍する選手、さらにコーチの人間性や、彼らの挑戦、そしてそれを乗り越えるための努力をあらためて垣間見ることができる、今回のB&Iライオンズの遠征だった。



【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。









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