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【上達とコーチングのヒント】流 大[サンゴリアス]のスクラムハーフ考。
子どもたちと触れ合った青森・弘前での2日間。コミュニケーションの取り方がうまい。(撮影/松本かおり)

【上達とコーチングのヒント】流 大[サンゴリアス]のスクラムハーフ考。

田村一博

 日本代表からは離れたものの、この人のスクラムハーフとしての力を疑う人はいない。
 特に、グラウンドを上から見ているようにゲームを動かす力が印象的だ。仲間には頼もしく、対峙する相手にとっては厄介だ。

 その人は6月21日、22日、青森・弘前にいた。子どもたちとタグ・ラグビーで対決したり、触れ合い、話す。
 トップ選手との時間は少年、少女の胸に大きな思い出となって残るはずだ。

 イベントの空き時間、その職人系スクラムハーフにミニインタビューをおこなう時間に恵まれた。
 9番についての哲学を訊いた。

——流さんは、「いやらしい」とか「強気」とか、いろんな表現をされますね。自分では、表現としてどれが合っていると思いますか。

「相手から嫌われるスクラムハーフを目指しています。それがいいプレーヤーだと思っているので、相手から嫌われている、と言われるのが一番の褒め言葉だと思っています」

——「嫌われるプレー」とは。

「相手が想定していないようなプレーをする。言葉でもプレッシャーをかけますし、いやらしいプレーをするのが、僕の中ではいいハーフの大前提。そこを意識しています」

相手に「いつもと違う」と思わせることが大事。写真は2023年ワールドカップのイングランド戦。(撮影/松本かおり)


——相手に嫌われるスクラムハーフになることをいつから意識しましたか。

「中学生くらいまでは純粋に、ラグビーが上手くなりたい、いいパフォーマンスを出したいと思っていました。高校生の時(熊本・荒尾高校/現・岱志高校)、恩師の徳井(清明)先生に『相手に嫌がられるハーフになれ』と教えていただきました。相手を痛めつけたり、反則をするのではなく、『これをされたら嫌だな』というプレーをやり続けろ、と。それが、いまの僕の基礎になっています」

——相手が嫌がるプレーをどうやって見つけ、身につけていきましたか。

「まず、ラグビーはいっぱい見ろ、と言われ、いろんな試合を見ました。そして、いやらしいハーフの代表、田中史朗(元日本代表/ワイルドナイツ→イーグルス→グリーンロケッツ)に学びました。日本代表でチームメートになったり、相手チームとして何度も戦いましたが、あんな人は、(それ以降)出てきていないと思います。(対戦時は)試合中、本当にイライラさせられるんです。嫌なことを言ってきたり、ちょっとしたちょっかいを出してくる。これが世界や日本を代表するハーフなんだ、と感じました」

——「ちょっとしたちょっかい」を教えてください。

「パスをしたあとに少し押してきたり、スクラムのボールインのときにちょっと足で小突いてくる。子どもたちにそれをやった方がいいというわけではありませんが、そういう戦い方もあるんだなと、知りました」

——自分も同じようなプレーをするようになって変化はありましたか。

「相手に気持ちよくプレーをさせないことが大事です。気持ちよくプレーさせてしまうと、どんな選手、どんなチームでも強い。だから、『普段と違うな』と感じさせる。ルールの範囲内で常に、しっかりとプレッシャーをかけ続ける」

——流さんは、高いところからグラウンドを俯瞰して見ているかのように、「ここに蹴られたら嫌だな」というスペースにキックを蹴ることも多い。そういうプレーは、どのように身につけましたか。

「仲間としっかりコミュニケーションを取ることが大前提で、いろんなスペースを自分の目で見る。この2点が大事です。日本のスクラムハーフは、練習だけなら、本当に上手い。パスもキックも超一流です。ただそれはテクニックであってスキルではない。プレッシャー下、相手も味方もいる状況の中で、持っているものを発揮できなければ何の意味もない。なので、普段からチーム練習でも個人練習でも、常にそうした状況を意識して作っています」

キックは不可欠。さりげなく、相手の嫌がるところに蹴り込む。(撮影/松本かおり)


——例えば原理原則や構造面から、「(ディフェンスの)裏に誰もいない」など、見なくてもわかる場面があると思います。

「確かにラグビーには構造があるので、こういうボールの動かし方をすれば、うしろのバックスリー(ウイングやフルバック)がこう動く、ということはある程度頭に入っています。ですが、基本的には必ず(相手の状況を)見る。見ずに蹴ることはほとんどありません。ただ、相手に見ていると気づかれたら(空いたスペースを)カバーされてしまう。違うところを見ているふりをしながら(も、ちゃんと見て)蹴る。そういうことも、僕の強みだと思っています」

——世界と日本のスクラムハーフの差は、そういうところにありますか。

「いろんなタイプのハーフがいて、強みもそれぞれ違うので一概には言えませんが、世界のトップ選手は、スペースをしっかり見て、コミュニケーションを得て判断し、それを実行する。日本のハーフにもそうできる選手が増えていて、9番はすごく層が厚い。大きな壁にぶつかった時の実行力をつけていけば、世界のトップになれるポテンシャルを持っていると思います」

——流さん自身、現在のスタイルに到達する途中に転機もあったと思います。

「サントリー2年目に沢木(敬介)さんが監督になられ、キャプテンに選んでいただきました。その時、キャプテンでありハーフだったとしても、結局はパフォーマンスで示さなければ、誰にも響かないと常々言われました。パフォーマンスが悪ければ試合では使わないとはっきり言われたこともあり、結果を出すことを重視するようになった。
(日本代表で)ジェイミー(ジョセフHC)と出会ってからは、ハーフはチームのボスであってほしいと言われました。そこから、オフ・ザ・フィールドでの仲間との関係性もすごく意識するようになった。グラウンド外で信頼できない選手が、グラウンド内で指示を出しても誰もついてきません。お前が言うなよ、と思われるのはよくないハーフです。指示を出した時に動いてくれるような関係性を築くことを意識しました」

——スタンドオフとの意思疎通も重要なポジションです。

「まずはよく喋ることですね。足りないことがあったらしっかり要求します。年下と組むことも多いですが、(こちらに)足りないことがあれば言ってくれとも言います。(日本代表では)田村優さんと組んでいた時期も長かった。優さんにモノを言える選手は少なかったのですが、僕は正直に『もっとこうしてほしいです』とか『優さんのいまのプレーはダメだったと思います』と伝えるようにしていました。そうしているうちにより信頼関係が高まり、いいコンビネーションになりました。
 年上、年下は関係なく、そういうリレーションシップ、関係性を(ハーフ団が)持つことはチームにとっても大事だと思います。サントリーでも1年目の髙本(幹也)には伸び伸びとプレーさせましたが、今シーズンはけっこう厳しいことも言いました。サントリーの顔になってほしいし、日本代表でも活躍してほしいと思っているので。お互いが本音で喋れる関係性が、9番と10番には必要です」

——スクラムハーフとしての練習ではパスとキック、どちらの割合が多いですか。

「僕はキックが7割、パスが3割くらいの感じです。世界で戦うには、キックが蹴れないと絶対に戦えないので。日本のハーフはボールを捌くことに関しては世界一と言えるほどレベルが高いですが、キックを蹴れて、コミュニケーションをとり、リーダーシップを発揮することは、まだ課題かなと思います。(フランスのトゥールーズでプレーしている)ナオト(齋藤直人)を中心に(日本のSHたちを)引っ張っていってほしいですね」

SHはチームのボスで心臓。(撮影/松本かおり)


——キックはどのような練習をしていますか。

「練習のはじめに5分から10分くらい、テクニック面にフォーカスする練習として、何のプレッシャーもない状態で蹴ることもありますが、ただ蹴るだけ、というものはあまりしません。例えばブロディ・レタリック(スティーラーズ/204センチ)のような相手を想定してコーチに大きなパッドを持ってもらい、プレッシャーをかけてもらう中で蹴る、といった練習をします。動きながらのキックもやりますね。スキルとして試合で成功させるために、ゲームに近いプレッシャーをかけた中で練習することが重要です。
 ユニット練習時、パスを投げるメニューの際にも、プレッシャーをかけ合ったりします。他のハーフの選手が投げるタイミングでボールを蹴ったり、手をはたいたりする工夫をしています」

——すでに完成された選手に見えます。まだ伸ばせる部分はどこでしょう。

「ここからプレースタイルを大きく変えたり、なにか新たなものを増やすことは正直考えていません。今のレベルをもう少しずつ上げていきたい。ただ、サポートプレーでもう少しトライは取れると思っています。自分で相手を抜いたり飛ばしたりはできませんが、仲間のことを把握し、ラインブレイクした時にいちはやくサポートに入ることで、トライは取れるはずです。次のシーズンはそこにもチャレンジしたいですね」

——プレーする上でのマインドとして、「強気」と「冷静さ」のどちらがより大事ですか。

「両方ですね。ただ強気というか、自信を持って挑むことが僕の中では一番大事だと思います。だからこそ、練習が大事。完璧な準備をしたり、とことん準備して試合を迎えられたら、不安なく挑める。自信が7割、冷静な頭が3割。僕は、それくらいでプレーしている気がします」

——将来指導者になった時、スクラムハーフの選手には、なにがもっとも大事だと教えますか。

「ハーフによって強みも性格も違うのでアプローチは選手ごとに変えると思いますが、『9番がボスであり、チームの心臓であり、勝ち負けは9番で決まる』というものは僕自身の軸にある。そのことは伝え続けていくと思います」




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