【リーグワンをアナリストの視点で分析する／東芝ブレイブルーパス東京×クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】戦略、スキル、すべてが最高峰の戦い。

　まさに決勝にふさわしい試合だった。言語化するのも難しい熱量と「やり合い」が試合のすべてだったように思う。
　ただ、そういった試合を分析するのが仕事だ。順番に見ていきたいと思う。

◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。

　ブレイブルーパスはスタッツにも表れている通り、攻撃的なチームだ。得点力で相手を圧倒し、リーグ中は勝利につなげてきた。
　準決勝では同じく攻撃力を特徴とするスティーラーズをノートライに抑えて決勝進出を果たした。シーズンの最後に向けてのピーキングがうまくいっているように見えた。
　今回の試合でもレギュラーシーズンから続く戦略的一貫性と、試合を重ねるごとに向上した強さを見せた。

【Point 1／柔軟なポッド構造】
　個人的な印象として、ブレイブルーパスのポッド構造には、少し柔軟さがあったように見えた。
　決して曖昧ではなく、しっかりと取り決めを考えた上で、状況に合わせて柔軟に構造が変わる、そんな形だ。

　基本構造はおそらく1−3−2−2。9シェイプも好んで用いてはいるが、リッチー・モウンガを中心に回るアタックフローが特徴だ。
　各ポッドの後方にはBKの選手が丁寧に配置されており、どのフローからでも裏にスイベルパスで下げる選択肢を取ることができ、戦略に安定感が生まれる。

　ポッドには13番に入ったロブ・トンプソンが参加することもある。後述する様々なポッドパターンにおいて、どのパターンにおいてもしっかりとポッド構成員としての役割とBKとして展開する役割の両方を器用にこなしていた。
　BKの選手が入ることでスピードと展開力が向上する一方で、キャリアーとしても優れているため、FWのみで構成される通常のポッドと同じ使い方もできていた。

　今回の試合では、ポッドの構成人数が流動的なシーンが何度も見られた。フェイズによって、またはフェイズの中でも流動的に変わっていた。

　基本的にはポッドは3人で構成される。ブレイブルーパスのポッドは3人から最大5人程度まで増減する。5人のポッドに関しては、ポッドの定義をどのように設定するかにもよる。２つのポッドの境界が曖昧にモ見える、大きな集団を作るシーンも見られた。

　同じく特徴的なのは、ブレイブルーパスの4人ポッドだ。基本的にはFWの選手4人で構成される。それに加え、時折トンプソンが参加する形態も見られた。
　この4人ポッドでの特徴としては、単一フェイズの中で構成が動的に変化する点。最初から最後まで4人で完結するというわけではない。

　狙ったものか分からないが、4人が並んだポッドの中の、2人目にパスが渡った際に動きが見られる。一番外に位置する選手が少し後方に位置を切り替え、次の階層構造のフロントラインになろうとする動きが見られた。
　結果的にディフェンスが本来見ようとしていた構造がフェイズ中に変わるため、コミットするのが非常に難しかったのではないだろうか。

　また、ポッドを使う過程の中で、ファーストレシーバーの位置でプレーできる選手が複数いることも大きい。プレイメーカー気質なのはおそらくモウンガと15番の松永拓朗だが、他の選手も、その2人がラインに立っていない時にはしっかりとつなぎの役割をこなしていた。
　あくまでもFWの選手のある程度の理解が前提にはなるが、モウンガや松永がいない状況でもリズムを崩すことなくアタックをすることができていた。

【Point 2／オフロードとエッジの攻略フロー】
　ブレイブルーパスの特徴的なプレーのひとつとして、オフロードパスも挙げられる。近年ではむしろ狙えないと大きくゲインできないシーンも散見される。ブレイブルーパスはリーグワンのチームの中でも随一のオフロードパス数を示している。
　参考までに述べると、リーグ戦中のオフロードパス成功数の上位3人がブレイブルーパスの選手だった（モウンガ、トンプソン、セタ・タマニバル）。

　いわゆるノってきた時のブレイブルーパスは、オフロードパスが非常に多い。内・外関係なくサポートプレーヤーが走り込むことで、コンタクトによって生じるディフェンスの位置関係のずれを的確にゲインすることができていた。
　フェイズの中で1回のみならず、複数回のオフロードパスが見られることも、ブレイブルーパスの強みだ。

　ブレイブルーパスの選手は1対1のシーンで外方向にキャリーを狙うことが多い。基本的にはアタック側の方が少しだけ移動で優位に立てるため、相手に真正面からタックルを受けることがなくなる。それに合わせて片方からコンタクトを受けることにより、もう片方にボールコントロールの余地が生まれる。そこに選手が走り込むことで前進していた。

　また、オフロードを用いることで、全体的にエッジエリアをうまく攻略できていた。
　スピアーズのディフェンスに対し、結果として外側のエリアでの前進効率は非常に高かったように見えた。

◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのラグビー様相。

　スピアーズはプレーオフに合わせたと思われる動きや、シーズン中から見られた堅いディフェンスなど、この試合へ向けての実力のピーキングを実現できていた。
　そんなスピアーズの試合を２つのポイントで見ていきたい。

【Point 1／タイトな戦略フォーマット】
　スピアーズは全体的にタイトで、構造的にも戦略的にも締まったラグビーをしていた。惜しくも勝利にはつながらなかったが、相手に攻守両面からプレッシャーをかけていた。

　アタックでは、きっちりとポッド構造を守りながらアタックをしていた。誰々がどこに入るか、という部分に関してはもちろんその場の判断によるものだと思う。しかし、一度構築されたポッドに不安定な要素は少なかった。

　例えば2人のポッドに対し、後方のポッドに参加していた選手が上がるようなシーン（私はこれを「レイズ」と呼称している）が見られることがある。その逆で、並んでいる選手が過剰と判断すれば、アタックの最中に次のポッドに移る動き（こちらは「ドロップ」と呼称している）を見せることも。
　しかしスピアーズのアタックでは、ポッドの構成員を微調整する動きが、ほとんど見られなかったのではないか。

　ポッド自体の作り方も少し特徴的だ。多く見られたのが、フロントラインに2人のFWの選手、その裏に1人のBKの選手が入るポッド、またはポッドに類するものだ。以前の記事でも紹介したが、この構成はフロントラインの2人の選手に対する投げ分けのバリエーション、裏の選手へのダイレクトパス、スイベルパスの２つのバリエーションを作ることができる。
　通常よく見られる3人と1人の組み合わせで作る階層構造と違い、このポッドでは3人でポッドを構築できる点で省人数化を図れる。

　FW間のプレーに関しても手堅い印象がある。ポッドの中で生まれるティップオンパスなど、動きの精度と強度が高かった。
　スピアーズの選手は体の強さもあり、瞬間的な強度はリーグでもトップ水準だろう。キャリアーがティップオンパスをコンタクトするギリギリまで粘ることにより、相手のコミットを1対1に絞り込むことができていた。

【Point 2／エリアコントロールとゴール前の攻防】
　スピアーズはキック主体でゲームを動かすことが多い。ただキックをするだけでは相手にポゼッションが移る。なので、再獲得を狙ったり、キックを受けた相手にプレッシャーをかけることでテリトリーを前方に移動させながらも、ポゼッションを再度手にしようとすることが多かった。

　今回の試合でもキック主体のコントロールは、一部の状況下で見られた。バーナード・フォーリーを中心にロングキックを蹴り込み、12番に入った立川理道のキックやSHからのボックスキックでは再獲得を狙っていた。
　特にフォーリーのキックは精度と狙うタイミングの質が高く、例えばエッジにBKではなくFWの選手が立っている時など、リターンに不確実性が生まれるようなケースに奥深くに蹴り込むシーンがあった。

　ボールキャリーを主体としたプレーでのエリア獲得では全体的に苦戦していたイメージだ、ラインブレイクも、ほとんどなかったのではないか。
　ブレイブルーパスの適宜スライドしながら前に出るようなディフェンススタイルによって、外の空間は一定の幅以外狙えるような穴はなかった。

　そういった状況の中でスピアーズに敵陣深い位置でのプレーをもたらしていたのは、相手のペナルティで生まれたラインアウトからの攻撃だった。中盤で相手反則を誘うことも多く、しっかりと敵陣深くに入り、スコアを狙った。

　ラインアウトからつながるモールは、スピアーズの武器でもある。強力なFWを中核とする。今シーズンも切り札として、効果的に用いるケースが多々あった。
　今回の試合では直接トライとなったものはなかったが、モールは明確な武器になっていた。ブレイブルーパスも手を焼いた。

　しかし、結果的に敵陣深い位置での攻撃から獲得できたスコアは1回きりだった。2つのペナルティゴールはどちらも比較的中盤のエリアから狙ったもので、敵陣深くに侵入して獲得できたスコアではない。
　特に後半25分頃を起点とする一連のアタックでスコアすることができなかったことは、結果に大きな影響があった。

　ブレイブルーパスに抑え込まれるケースが多かった。好機での正確なスコア効率と、深いエリアを獲得するようなアタックを実現できなかった。

◆プレイングネットワークを考察する。

　それでは今回もプレイングネットワークをチェックしていきたい。
　まずはブレイブルーパスのものからだ。

　以下のようなことが見えるだろうか。

・9シェイプよりも10シェイプの方が多かった。
・10番のボールタッチが最も多く、ついで15番のボールタッチが多い。

　最も特徴的な部分としては、9シェイプよりも10シェイプの方が多い点だ。9シェイプはラックからダイレクトにFWの集団がボールを受けるもの、10シェイプに関してはプレイメーカーからFWの集団がボールを受けるものだ。この試合のブレイブルーパスのアタックでは、後者が多かった。

　実際の試合を見た印象でも、打点、コンタクトする位置は、ラックから比較的遠い位置だった。見た印象では、スピアーズのディフェンスラインは中央付近ほど固く、厚い。それゆえディフェンスの隙を作り、そこを狙うために打点を切り替えながら、アタックをしていたのだろう。

　また、普段の試合以上に15番に入った選手、松永拓朗のボールタッチは多かった。主に10シェイプへのボール供給だったが、松永がラックからのボールを一定数受けることで、機動力のあるモウンガを外のエリアで活用することができたり、リズムを向上させることにつながっていた。

　次に、スピアーズのネットワーク図をチェックしよう。

　以下のようなことが感じられた。

・9シェイプを多く用いている。
・BKのボールタッチは比較的限られている。
・ボックスキックが多い。

　こちらは対照的に、9シェイプがかなり多く、10シェイプは少なかった。FWの強さを武器としているスピアーズだ。納得感がある。
　9シェイプの中でもパスワークなどで動きを作り出していて、苦戦しながらも安定感のあるキャリーを見せていた。

　また、ボールタッチに関しては人数を絞っているように感じた。ほぼ10番のフォーリーによるプレイングで、立川が補助的な立ち位置を取っていた。他の選手もボールタッチはしているが、普段の試合に比べると、積極性のあるボールタッチではなかったように見えた。

◆まとめ。

　ついにシーズンが終わった。
　集大成とも言える、素晴らしい試合を見ることができた。

　ブレイブルーパスは強烈なアタック能力と柔軟性、また相手をロースコアに抑えるディフェンスでリーグワンでの連覇を果たした。ただの強さじゃない、強さのすべてを出した決勝だった。
　スピアーズも、様々な戦略を組み立てて臨んだ試合だったのではないか。培ってきた強みと、決勝という場に合わせたチャレンジングなプレー。それでも届かなかったことが、必ず来年につながるだろう。

　今回の記事でリーグワン2024-25シーズンの連載は一旦終了となる。この１年間、とても有意義な体験をさせていただいた。楽しんでいただけただろうか。
　これからも、より磨いた記事をお伝えしていきます。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で２年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。