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【日本代表候補合宿】どん底から再び。メイン平[リコーブラックラムズ東京]、スピードアップ。
菅平合宿を見学に来た子どもたちと。2000年9月5日生まれ、24歳。178センチ、90キロ。宮崎ラグビースクール→御所実→ノースハーバーマリスト→リコーブラックラムズ東京(2020~)。日本代表キャップ1。(撮影/松本かおり)
2025.06.11
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【日本代表候補合宿】どん底から再び。メイン平[リコーブラックラムズ東京]、スピードアップ。

田村一博

 約700日も沈黙していた。
 そんな日々から這い上がって、リーグワン2024-25の第6節以降はシーズン終了まで13試合に連続して先発出場。そのパフォーマンスが認められ、シーズンオフも代表候補として活動を続けている。

 リコーブラックラムズ東京のバックスリーで活躍するメイン平の姿が、菅平でおこなわれている日本代表候補合宿(6月4日〜11日)にあった。
 リーグワンでの最終戦を終えた後、大分でのJAPAN XVの活動に招集された。同地でNZU(ニュージーランド大学クラブ選抜)、ホンコン・チャイナ代表との試合、2試合に出場した。

 その2戦にはWTBとして出場したメインは、今季のブラックラムズではWTB、FBの両ポジションでプレー。菅平合宿ではCTBに入ることもあった。

 FBのポジションを狙っていきたいけれど、複数ポジションでレベル高くプレーできるのも自分の強み。エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)との面談時も、自分のユーティリティープレーヤーとしての能力をアピールした。
「それはシーズン中のプレーも見ていてくれたようで、知っていました」と頬を緩める。

 日本代表キャップ1。それは、2022年6月18日に来日していたウルグアイ代表と秩父宮ラグビー場で戦った際に得たものだ。
 しかし、その半年後に開幕したリーグワン2022-23のシーズン中に負傷する。2023年3月4日のNECグリーンロケッツ東葛戦だった。

 次の公式戦が2024-25シーズンの第6節(2025年2月1日)、コベルコ神戸スティーラーズ戦になると、誰が思っただろうか。
 左足ハムストリングの怪我から始まり、右膝の前十字靭帯断裂を負う。リハビリからやっと復帰したと思ったら、2024-25シーズン開幕前のプレシーズンマッチ最終戦で右膝半月板を痛めた。不運続きだった。

NZ人の父・マーティーさん、母・美紀さんの間に宮崎で生まれた。少年時代も小学校入学前の1年間と、同3年生時と6年生時の半年間、父の故郷でもあるウェリントンの祖母の元で暮らした。高校卒業後ニュージーランドへ。ノースハーバー協会のアカデミー、ノースハーバー・マリストクラブでプレーした。(撮影/松本かおり)


 どん底を味わい、少しずつ階段を昇ってきて、いま再び日本代表が視野に入る位置まで来た。
「シーズン中は考えていなかったことですが、いまここにいて、自分次第でチャンスをものにできるかどうか決まると、あらためて感じています」と話す。
 充実の毎日を過ごす。

 ジョーンズHCのラグビーに初めて触れ、「自分に合っている」感覚を得た。
「相手より自分たちの方が小さいことをメリットに、走り勝つ、スピードで上回るラグビー」と理解する。

 求められていることはシンプル。しかし細部にこだわり、妥協を許さない。
「オフ・ザ・ボールの間にたくさん動き、セイムウェイ(順目)に動き続ける。難しいことは求められていないのでやりやすい」一方で、ディテールにこだわる。

「ブレイクダウンの入り方や、アタックシェイプの形は細かいところまで決まっています。しんどい中でも正しいポジショニングを求められる。そこは神経を尖らせ、気をつかっています」

 バックスリーに求められていることを理解して動く。
「ボールを持っていない時にどれだけ走り、ボールに絡めるか。合宿でもミーティングでも、その点を言われています。どれだけボールに触れるかが見せどころ。待っていてはダメ。自分から取りにいかないと」

 これまで取り組んだことがないスタイルの中で、もっとスピードを高めないといけないと感じた。
 2024-25シーズン途中での復帰は、実は、「ラグビーから離れすぎていたので、とにかく早く戻りたかった」との思いから見切り発車だった。

 メディカルチームの協力も得て、プレーしながら調子を上げていく道を選んだ。高校(御所実)時代も前十字靭帯断裂、復帰をしている。その経験もあった。

 そんな状況での復帰だったから、本格的なスピードトレーニングに取り組めぬ状態のままシーズンを乗り切り、代表活動に加わった。

「S&Cコーチのジョン・プライヤーさんとランニングフォームを確認したら、(自分の動きは)よくなかった。なのでいま、ドリルに取り組み、修正しているところです。そのお陰で状態は上がってきています」

 足の接地に気を配っている。
 これまで足裏全体で接地していた。それでは地面からの反発が弱まる。足首を固めて爪先で接地すると、地面からの反発もあってバネの利いた動きとなり、前へ進むスピードも出ると教わった。

「その動きを徹底しようとしています。足首を意識する。最初は慣れないけど、自然にやっていけるようになると逆に疲れなくなるそうです」
 GPSで計測するスピードも高まっている。

 久々にシーズンを通してプレーしたことで、経験値が高まった手応えがある。
 今季はキッカーも務めた。責任の比重が高かったハイボールへの対応でも期待に応えた。3T25G8PGで挙げた89得点は、ディビジョン1の中で11位にランクされた。

 2022年6月以来、3年ぶりに近づいた代表への思いについて、「チャレンジャー。自分のベストを尽くしたい、という点では(以前と)変わらない」と話すも、代表選手たちの中での振る舞いには変化がある。

日本代表合宿の地、「宮崎には行けたらいいですね。思い入れがあります」。少年時代はキャンプ見学が楽しみだった。(撮影/松本かおり)


 24歳。スコッドには年下も増えた。
「中堅になりました。リーダーシップも発揮していかないといけないと思います」と言って、「ウルグアイ(戦の日本代表)の頃は、乗客ではありませんが、集団のうしろの方にいる感じでした。でも、いまはミーティングで積極的に話しています」と続けた。
 姿勢でも示す。「自分がやらないと、というハングリー精神もあります」。

 ブラックラムズでのTJ・ペレナラ(NZ代表89キャップ)の日常に感じることがあった。
「オフ・ザ・フィールドでもいちばん練習して、ミーティングでも積極的。あれがインターナショナル(プレーヤー)のスタンダードだと思いました」

 ワールドクラスのSHは、意識してそれを伝えようとしたわけではないけれど、同じ空間にいて参考になることはいくらでもあった。
 雌伏の時間が長かった分、溜め込んだ学びをすべて吐き出して、もう一度代表ジャージーをつかみ取りたい。

「ウェールズ戦(7月5日、12日)、出られるものなら出たい」と言葉は控え目も、「勝ち取れるようにしたい」と静かにターゲットを定める。
 先は見ず、毎回の練習で力の限りアピールをする。菅平合宿の4日目に、そう話した。

 毎日、それぞれの練習を「全力でやるだけ」。そうしない限り、JAPAN XVで戦うマオリ・オールブラックス戦(6月28日)も、レッドドラゴンとの対峙もないと知っている。
 日本代表ジャージーの重さも、どん底も経験したから分かる。





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