![空白ではない時間。桑山聖生[東芝ブレイブルーパス東京]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/05/20250510_BL-E_05435_2.jpg)
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184センチの体躯を生かしてジャンプいちばん。桑山聖生(としき)が価値あるトライを決めた。
レギュラーシーズン最終節、今季チームにとっての18試合目で今季2試合目の出場、初トライは、決して納得いくものではないだろう。しかし、勝負強さを見せた。
5月10日、秩父宮ラグビー場でおこなわれた東芝ブレイブルーパス東京×横浜キヤノンイーグルスで、ブレイブルーパスの背番号11が試合終了間際に5点を挙げた。
SOリッチー・モウンガが狙い澄まして蹴ったキックは、インゴールの右奥へ。桑山は相手FBの小倉順平と競り合いながらキャッチした後、ボールを芝の上に置いた。
「ボーナス点を取って勝てば(レギュラーシーズンの)1位通過が確定すると分かっていたので、全員が最後までトライを取るマインドセットを持っていました。その中で僕にボールが回ってきました」
モウンガとアイコンタクトは取れていた。
「意思疎通がある中で、いいキックを蹴ってくれました」
42-28とリードしながらも、トライ数は6と4。最後の最後にトライ数差を3にして勝ち点5となった。
最終的には49-28のスコアだった。

今季初出場は2節前の第16節、浦安D-Rocks戦だった。その試合にはベンチから加わる予定だったが、先発のはずだった選手のアクシデントで急遽キックオフからピッチに立った。
しかし今回は「しっかり(先発出場の)準備をしてきていたので自信はありました」。
大役を背負う緊張も感じたし、ミスも出たけれど、トライシーン以外にも積極性が目立ち、本人も「チームの勝利に貢献できた」手応えがあった。
2022-23シーズンの第9節、2023年2月25日のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦に先発出場した以降、丸2年、試合から遠ざかっていた。
怪我もあったが、本人は「チームが求めるレベルに達していなかった」と自分自身に矢印を向ける。
「求められているレベルに到達する。(試合に)出ている選手をどう超えていくのか。そういったことをテーマに、自分を成長させる時間でした」
久しぶりに公式戦の空気をピッチで吸い込んだD-Rocksとの試合のあと、「試合に出ていない間にも、積み重ねてきたものがあります」と話した。
「トライはありませんでしたが、(高めてきた)フィジカルやスキルを試合の中で出せたと思います」
試合メンバーの発表時に「選んでもらえたことに感謝し、成長をサポートしてきてくれた人たちに感謝を伝えるためにも頑張りたい」と覚悟を決めて臨んだ試合だった。
雌伏の時間には、いろんな取り組みをした。
大学時代のゼミの先生のもとに通い、「走りをイチから作り直した」。スピードを高め、フットワークを高めた。それは「仕掛けやワークレートのところに反映されている」と体感している。

パーソナルジムでは、目の使い方を学んだ。立体的にボールが動くアプリを使い、平面的ではなく、奥行きなどを認知する能力を磨いた。目と脳と体(の動かし方)をつなぐトレーニングだ。
イーグルス戦での最後のキックパスレシーブは、高めた能力が発揮されたシーンだったかもしれない。
2023-24シーズンの終了後にプロ選手となった。前述のように個を高めるとともに、ブレイブルーパスの躍進を支える『K9』(ケーナイン/試合メンバー外の選手たち)の中でも自分を高めること、チームスピリットを強くすることを忘れなかった。
試合に向けての準備期間、K9には仮想敵となって相手チームのやってくることをコピーし、試合以上の強度で再現することが求められる。
試合メンバーにとっても、自分にとっても成長できる時間。そうとらえられるかどうかで未来が変わると考えてきたから、多くの人が見つめる舞台に再び立てるようになった。
今季ここまで7戦、昨季も13戦に出場している弟・淳生(あつき/WTB)とは1歳違い。「いい選手。出れば応援するし、活躍すれば嬉しい。彼には彼の強みがあって、僕には僕の強みがあるし、淳生に苦手なことがあればアドバイスするし、その逆もある。いい関係です」と、兄らしい、優しい表情を浮かべる。
連覇まで、残るは準決勝と決勝の2試合だけ。層の厚いバックスリーのポジション争いは続く。
6月には29歳になる。長く伸ばす髪について「20代の最後、一生のうちに一度ぐらい伸ばしてみようと思って」と相好を崩す好ランナーは、「チャンスがもらえる、もらえないのどちらにせよ、全員で(勝つための)準備をするのは変わらない」と自然体でクライマックスの時を迎える。
スポットライトの中にいても外でも、自分次第で成長し続けられる。チームの勝利を心の底から喜べる生き方をしていたい。
