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【Just TALK】「しますよ、ラグビーは。(引き際は)自分で決めます」田村優[横浜キヤノンイーグルス]
今季の全18試合に出場した田村優。そのうち17試合が先発で、12番で出た最終戦以外はすべて10番でプレーした。(撮影/松本かおり)
2025.05.11
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【Just TALK】「しますよ、ラグビーは。(引き際は)自分で決めます」田村優[横浜キヤノンイーグルス]

向 風見也

 36歳で日本代表70キャップの田村優が、5月10日、横浜キヤノンイーグルスの一員として今季のリーグワン最終節(第18節)に先発した。

 東京・秩父宮ラグビー場で、前年度王者の東芝ブレイブルーパス東京と対戦。本職のスタンドオフと異なるインサイドセンターとして、後半14分までプレーした。本来の自身の位置には、東海大出身で実質1年目の武藤ゆらぎが立った。

 チームは局所的に粘りの防御と攻めの繋がりを披露しながら、28-49で敗れた。試合後のミックスゾーンでは、田村が武藤とともに取材に応じた。

「(試合は)ハードに行きました、最初から。ただ、基本的にプレッシャーを受け続けていて…」

「悔しいですね。ただ、終わっちゃったら、終わっちゃったので、次に行くしかないかな」

 2人は13学年も離れているものの仲が良く、田村は「(帰りは)一緒のタクシー」と笑っていた。 

武藤ゆらぎ(左)と田村優。(撮影/松本かおり)


——きょうはスタンドオフ(10番)に将来性のある武藤選手、インサイドセンター(12番)に田村選手が入りました。

「楽しかったですよ。成長も間近で見られましたし。迷惑かけないようにやりました」

——田村選手が12番でプレーするのは久しぶりのような。

「そうですね。もう12番が怪我でいなくて。緊急策です。本当は10番がしたいですけど、チームのためなら何でもします」

 イーグルスは一昨季から2シーズン続けて4強入り。もっとも今年度は、進出枠が4から6に広がったプレーオフ行きを逃した。

 5月4日の第17節でコベルコ神戸スティーラーズに29-47で敗れた直後、秩父宮のスタンド下で田村はこう述べている。

「僕自身、まだ何も決まっていないですが、大好きなチームメイト、大好きなクラブがある。お世話になった以上、きっちりと(退団者を)送り出したいです。(ブレイブルーパス戦まで)若い選手のお手本となるような準備をしたいです」

 変化の兆しを感じさせたようなブレイブルーパス戦後、田村は自身の発言について聞かれて応じた。

「(来季以降のことは)一応、考えてはいます。(報道を受けてか)『引退するの?』ってめっちゃ連絡が来ましたけど、しますよ、ラグビーは」

——イーグルスにいるのかどうかは…。

「契約事なので…。ただ、彼(武藤)が日本代表としていっぱしになる前に見捨てたら、友達いなくなっちゃうんで! そうですね、それは、見たいですね。だから、今回(シーズン後のキャンペーンで)入らないと『ないぞ』と伝えています。ワールドカップ(2027年のオーストラリア大会)まで日数は少ないし、10番でいきなり…というのは(特性上)難しい」

——では、来季以降も一緒にプレーして伝えたいことはありますか。

「…何かある?」

 武藤が「ありますね」と頷く傍ら、田村はこう繋いだ。

「舞台は、場数を踏まないと」

 これから武藤が圧力のかかるゲームで進歩するのを、近くで見たいと言いたげだった。

センスを感じさせるプレーを見せた武藤ゆらぎ。今季は4試合に出場。この日が2度目の先発、10番だった。(撮影/松本かおり)


——きょうの武藤選手の動きはどう見ましたか。

「よかったです。頼もしさもあったし。こういうオープンな試合になると、力を発揮すると思う。タフな試合は、経験しないとどうにもならない。それも経験してほしい。それで(重圧を)受けたなら立て直せばいい。土永(旭=この春京産大から加入のスクラムハーフ)もいますが、若手の成長は僕の成長でもあります。(武藤には)ラグビー選手として、食っていけるようになってほしいです」

 ラリーを続ける合間に「ゆらぎへの質問はないんですか?」と挟みながら、この日で引退するチームメイトの嶋田直人に関する問いかけにも反応。武藤に「な?」と確認を求めながら、周りを笑わせた。

「シマ(嶋田)がさぁ、試合前最後のミーティングで泣かせに来たよね? 何と言っていたかはわからないですけど、一発目にべそをかいた顔をして、(自分と)目が合ったんですよ。見事に泣かされました。頑張んなきゃなと。モチベーションの難しい試合ではありましたけど。…本当はプレーオフに行っていい状況で送り出したかったけど、これもラグビーかなと」

——あらためて、田村選手は何歳まで現役生活を送りたいですか。

「そういうのはないですが、キヤノンで優勝したいですね。ただ、これ以上うまくなれる領域はなくなってきた。これ以上、足も速くはならないですし。いいところを見て、辞めようかなと…。(引き際は)自分で決めます!」

 武藤も所感を口にした。

「思うようなゲームメイクはできなかったですが、10番で試合に出たことで、次のシーズンに活かせる。(田村は)だいぶ、心強かったです。スタンドオフとしてのチームへの(指示の)伝え方は、一緒に試合に出ないとわからない。そこはすごく勉強になりました」

 後半16分頃、敵陣22メートル線付近の左中間で好突破も、同ゴール前の右隅で相手に捕まった。

追いかけてきたのはブレイブルーパスのスタンドオフで、ニュージーランド代表56キャップのリッチー・モウンガだった。

 武藤は「全然、気づかなくて。急に後ろから来て…。リプレイを見て、びっくりしました」と述懐。それを隣で聞いていた田村は「あれを抜けるのは、本当、能力ですよ」。武藤のランそのものを讃えているようだった。

ミックスゾーンで取材を受ける師弟コンビ。(撮影/向 風見也)


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