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試合日朝イチのJR赤間駅発、グローバルアリーナ行きのシャトルバスはいつも満員。熱心なファン。福岡県と近隣の高校生。そして、来日している海外チームの家族たち。バスの中は、「一日中たのしむぞ」の表情でいっぱいだった。
4月28日、29日、5月1日、3日、5日に熱戦が繰り広げられた『サニックス ワールドラグビーユース交流大会2025』は、多くの人たちを幸せにした。
特に今年は雨が本降りとなった日もなく、おおむね好天に恵まれた。
観戦者や大人たちをほっこりさせることがたくさんある大会。その中で得るものがもっとも多いのは、当然、濃密な1週間を過ごした高校生たち。それは、各チームのキャプテンの声からも伝わってくる。
今大会では、大阪桐蔭がワールドユース連覇を成し遂げた。同校の手崎颯志主将(CTB)は、20-17と競り勝った佐賀工とのファイナルを戦った後、「最後は全員でラグビーを楽しんだ」と最高の笑顔を見せた。
大会が始まったときから、「なかなかできない経験を積める場所」とワールドユースについて話していた同主将は優勝の栄光を勝ち取った後、「海外チームのフィジカルの強さを知り、しんどい場面の戦い方を学べたことは今後に生きると思います。ただ、今回の経験を活かすのも無駄にしてしまうのも、自分たち次第」と話した。
昨年度は果たせなかった花園優勝に向けて得たものは大きい。
ファイナルで敗れた佐賀工の長谷川怜生主将(NO8)も、今大会でつかんだ自信を持ち帰って、さらに充実したチームになると誓った。
試合を重ねて「佐工のディフェンスは世界でも通じる」と手応えを得た同主将は、全5戦を終えて「フォワードは日本一」と自信を持った。
「バックス、そして、ディフェンスをもっと高めたい」と、頂点への歩みが定まったことを口にした。

自分たちがさらに強くなるヒントに気づくだけでなく、人生を豊かにするための知見を広めた人たちもたくさんいた。
ハミルトン ボーイズ ハイスクール(ニュージーランド)のアレックス・アーノルド主将(FL)は、優勝候補の筆頭に挙げられながらもプールステージで御所実のモールに苦しみ、敗れ、悔しがった。
最上位トーナメントには進めず、5-8位トーナメントを戦い、そこでは勝ち切ったけれど、すべてが接戦だった。
5位決定戦で桐蔭学園に26-19、死闘となった60分を勝ち切った後に「(最後まで)戦争みたいだった」と話した。
5-8位決定戦の初戦でバーカーカレッジに33-12と勝つも、前半は7-5。残り時間10分となるまで14-12というスコアだったから、「(好敵手の)オーストラリアのチームが相手だったから、こうなる覚悟はできていた」と話した。
激戦続きの大会を終え、「チームの中にタフネスが生まれました。チームスピリッツも高まった」と言った。
同校は強いチームカルチャーを感じさせるチームだった。バーカーカレッジ戦で1番のライアン・ラルフが足首に重傷を負い、救急車を呼ぶ状況となった。
試合を終えたメンバーたちはすぐに医務室の前に集まり、全員でチームメートの無事を祈る歌をうたった。
試合前にフィールドに入る際は、ファーストXVとして25キャップ以上を持つ選手たちだけキャップを被り、ハカの前にそのキャップをピッチの真ん中に置いてから相手と対峙していた。
アーノルド主将は将来、プロ選手になる夢を持っているが、まずは大学で野生動物の生態系について学びながら地域代表チームのアカデミー入りを狙いたいと話した。
気持ちのこもったハカと対峙する。
そんな経験ができる機会なんて、普通に生活していたら経験できないだろう。
しかし、この大会ではハミルトン以外にも、フィジーのラトゥ カダヴレヴ スクールも同国式ハカの『ジンビ』を披露してから試合に臨んだから、多くのチームが自分たちと違うカルチャーを強烈に体感できた。
御所実のゲームキャプテンを務めた津村晃志(LO/FL)、長崎北陽台の山口貴生主将(FL)は、ともにハミルトンのハカと対峙したときの感情を、それぞれ「人生でなかなかないこと。うわぁ、と思いましたが、僕たち(の闘志)もたぎった」、「自分たちの体の中からわきあがるものを感じた」と話した。

【写真右上】長崎北陽台・山口貴生主将
【写真左下】ラトゥ カダヴレヴ スクール・レメキ セニカウ ラヴキヴキ主将
【写真右下】バーカー カレッジのアール・ヴァーアHC
津村ゲームキャプテンは、「大会中はフィールド外では交流を楽しみましたが、試合には絶対に勝つつもりでいました。海外チームの腕の力はめちゃくちゃ凄かった」と話し、オンとオフの切り替え方を学んだようだった。
山口主将も完敗した(10-40)御所実戦後は「気持ちもプレーもだめ。メンタルの弱さが出た。ミスしたあとの反応が悪かった。自分たちから落ちていくことをなくさないと」と唇を噛むも、ハミルトンとの試合(14-47)の序盤には「前に出て、いいタックルができた時間帯もありました」と、自分たちの強みを感じたようだった。
ただ、その試合についても「攻め込んだところでミスして、一気に攻められて落ち込んだ」と振り返り、集中力が続かないことを今後の課題として挙げた。
今後、この大会で気づいたことをチーム作りに活かすだろう。
それぞれの国のラグビースタイルを知る。それは、これまでの当たり前が、そうではなくなること。つまり、自分たちのプレーの幅が広がる。
「海外でラグビーをするのは初めて」というSGSフィルトン カレッジ(イングランド)のゲームキャプテン、サム・モリス(FL)は「日本チームのハンドリングの良さに驚いた。そして、テンポがはやい。新しい人、新しいラグビースタイルと出会える大会」と話した。
モリス ゲームキャプテンは、「将来はプロ選手になりたい。そのためにはいろんなことを知っておくことが大事という意味で、今大会の経験は、その第一歩になると思います」と日本での1週間の価値を言葉にした。
「日本選手は礼儀正しい。お辞儀は、自分たちとは違う文化で新鮮でした」
地元のブリストルベアーズ(英プレミアシップ)のアカデミー入りを狙う。
バーカー カレッジを指導しているアール・ヴァーア ヘッドコーチは元サモア代表選手で、日本のコカ・コーラレッドスパークスでもHCを務めた人。だから、日本ラグビーのことはよく知っている。「以前から大会のことは頭にあったので出たかった」という。
オーストラリアは高校の全国大会はない。この大会にはスクールラグビー協会からの推薦を受けて出場機会を得た。
「選ばれて嬉しかった。日本のラグビーに触れることは、選手たちにとって大きな刺激になることは分かっていたので。過去の大会の映像も見ました。毎年、どのチームもいいラグビーをしている。日本の文化に触れることも含め、得られるものがたくさんあると思っていました」
学びがあるのは、お互い様だ。桐蔭学園の堂園尚悟主将(HO)は、「(海外のチームは)自分たちが考えないようなプレーをやってくるので、こっちとしても、やっていて楽しいです。そういった視点もあるのか、そういう手があるのか、と思いました」と言う。

【写真右上】ベゼ ハイスクールのキム・スギョム主将
【写真下】男子の部に参加した16校のキャプテンたち
東海大大阪仰星の東佑太主将(CTB)も、「国内だけでなく海外のチームとも試合ができる。刺激が多い試合が5試合続くのが、すごくいい経験になるし、チーム力を高めてくれる」と、ハードな日々を前向きにとらえていた。
国内ライバル校との死闘も、秋、冬には続きのストーリーが待っているので、自分たちの現在地を知っておく意味でも貴重な経験。プールステージ最終戦で東福岡相手に28-26と勝ち切った後は、「この試合のテーマ、『やり切る』を最後まで続けられた」とチームのスピリットを感じたようだった。
フィジーのラトゥ カダヴレヴ スクールと韓国のベゼ ハイスクールの2校は試合のない日に東海大福岡高校へ出かけ、文化交流をおこなう機会があった。
東海大福岡ラグビー部の選手たちと余興合戦やバドミントンで距離を縮めたフィジアンチームのキャプテン、レメキ セニカウ ラヴキヴキ(SO/CTB)は極端にシャイな性格で口数は少なかったが、「海外に行くのは今回が初めて。いろんな国のラグビーとカルチャーを知ることができて嬉しいですね。特に日本の高校生と触れ合えてよかった」と微笑んだ。
ベゼ ハイスクールのキム・スギョム主将(FL)はチームメートたちと東海大福岡の一般の生徒たちと交流し、「2時間がアッという間でした」と話した。
日本は初めてではない。以前にも合宿で来日したことはあったが、今回のようにラグビーの外の同世代と触れ合う機会は、これまでになかった。
日本語とハングルと英語を駆使してコミュニケーションをとって会話し、「もともと好きだった日本のことを、より身近に感じられた」という。
同じチームのフォワードがみんなの前に立ち、コミカルな動きをすると女子から黄色い声があがった。
「韓国に帰ればそんなことはないから、いいものが見られましたし、彼にとってもいい想い出」と大笑いしていた。
また来年ね。
大会最終日、そんな挨拶があちこちであった。
卒業していく者たちは、次に会うのはテストマッチやワールドカップの舞台かもしれない。