logo
【Just TALK】「勝てばいいんです」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]
今季は17節までに10試合に出場。出場した試合は、すべて1番で先発してきた。©︎JRLO
2025.05.08
CHECK IT OUT

【Just TALK】「勝てばいいんです」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]

向 風見也

 1万5000人超のファンが見守った劇的な首位攻防戦について、プレーしていた看板選手のひとりは何を思ったか。

 埼玉パナソニックワイルドナイツの稲垣啓太は5月3日、東京・秩父宮ラグビー場でのジャパンラグビーリーグワン1部・第17節に左プロップとして先発。後半7分までフィールドに立ち、スクラム、タックルで奮闘した。

 戦前12チーム中1位の状態で、同2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイと激突。29-29と引き分けた。上位6強からなるプレーオフで再戦しうる一昨季王者との関係性について、稲垣はしみじみと言った。

「是非とももう1回、やりたいですよね。ま、お互いそういう感情はあるでしょうし、この関係が続けばいいとも思います。(それ以外に)どこがどうというのは、いまはちょっと控えますけど」

 日本代表としてワールドカップに3度出場の34歳は、フィールドでの所感をクリアに語ることでも知られる。この日も報道陣に囲まれ、激戦で感じた課題について口にした。

——試合運びについて。

「まだまだだと思います。エリアマネージメントという部分で。自陣で戦う時間が長かった」

 確かにこの日は蹴るか、走るかの判断がわかれるミッドフィールドで攻める機会が多く、その他の局面でもスクラムで反則を犯したり、自陣深い位置からの脱出に苦心したりもしていた。

 後半24分頃には、自陣10メートル線付近右の接点で相手スクラムハーフの藤原忍のキックチャージを浴びる。

 ルーズボールがスピアーズに渡り、同22メートルエリアに進まれた。27分、22-24と一時勝ち越しを許した。

 その後逆転に成功。最終的には引き分けるも、3季ぶりの日本一奪還へ稲垣は伸びしろを見つけたようだ。

クライマックスへ向けて研ぎ澄ましていく。(撮影/松本かおり)


「うちの選手は視野が広く、いろんなスペースが見えるので、そういう(ランとパスで打開を図る)選択肢を取ってしまう…。それは我々の強みではありますけど、(今回を経て)シンプルなところに戻りました。

 ファイナルラグビー。すごく、シンプルになる。

 1点でもいいから勝てばいい。どのエリアで戦うか? 時間帯によってどうスコアを重ねるか? スコアできれば、トライじゃなくてもいいんです。1点差でも勝ちなので。そこへ、チームで立ち戻れたら。

 きょうは自陣でアタックして、ミスして、ターンオーバーされて、スコアまでいかなかったにせよ何度もピンチになりました。あのシチュエーションをいかに減らすかが大事です」

 さらに…。

——29-24と5点リードで迎えたラストワンプレー。敵陣で攻め急いだためか、球を失いました。ここからスピアーズの逆襲を食らい、同点にされました。

「あの時間帯で、フィニッシュまでいく必要はなかったんです。最後、残り1分半もなかった。それならタッチライン際でボールキープをして、もし万が一ターンオーバーが起きてもリスクは生まれにくい」

 試合全体を通しての所感も明瞭だった。

——持ち場のスクラムについて。試合中盤以降は苦しみましたが、稲垣選手が出場していた時間帯は相手の反則を奪うなど首尾よく組んでいました。南アフリカ代表フッカーのマルコム・マークス選手ら強力なパックに、どう対峙しましたか。

「悪くなかったです。毎回、毎回、思った通りに組めるわけではないですが」

——看板の防御については。少し、破られたシーンもあったような。

「個人のミスですよね。きょうの最初の失トライ(前半16分、対するフランカーのタイラー・ポールの突破を許した)も、個人のミスタックルから。個人が責任を追及してやっていけばいい。システム的に崩れたわけではない。唯一あるとしたら、疲れた時のちょっとしたコミュニケーションが取れずに、1歩、2歩の誤差でスペースができる。そこを見られる選手が、このレベルになると(ライバルに)多い。苦しいんですけど、頑張って、声を出して、予測してスペースを埋める。その作業をすれば最終的に楽になると、皆、もっと理解しないといけない」

 勝点2を得て、合計66に積み上げた。他会場の結果により2位となるも、トップ2であれば5月中旬からのプレーオフでシード権を得られる。準々決勝のある週を休息に充てられる。

 その状況について稲垣は、「全部、勝てばいい。細かい勝点の取り合い(を考えるの)は、僕の仕事ではない。チームの一員として考えてはいますけど、僕の一番やるべきことは、そこじゃない」。あらためて「ファイナルラグビー」の肝を伝えた。

「1点差でもいいから、勝てばいいんです。そうなると、テストマッチ(代表戦)みたいなシンプルなラグビーになる。そこで、自分たちが用意してきたことをいかに発揮できるか。(接点などで)リスクを取ってペナルティを獲りに行くのか、リスクを冒さずペナルティをしないのかの判断も難しくなります」

 リーグワン初年度以来となる優勝を果たすべく、タフで、クールな戦士でありたい。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら