実力は、そう離れていなかったように思う。
12月20日におこなわれた全国大学選手権準々決勝から、天理大学×早稲田大学(以後、天理大/早大)の試合をピックアップした。
小さな差が、最終的なスコア差に繋がったような試合だった。
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〈アタック傾向〉
天理大学のラグビーは、接点で上回ることを是としている。もちろんどのチームにも言えることではあるが、構造的に単純な接点での勝負に至る回数が多く、そこでいかに上回るかが勝負の土台となっていた。
FWの選手で構成されるポッドの組み方は、ベーシックな1人-3人-3人-1人(以後、1-3-3-1などと記載)のポッドであるように見えた。基本的には3人で作られるポッドをSHから直接パスを受ける位置、9シェイプに配置し、繰り返し接点を作り、相手を揺さぶる。
その代わり、BKのアタックラインは多くのフェイズでシンプルなラインを作ることが多かった。BKの選手間で構造的なラインを作る様子は少なく、FWを絡めなければプレッシャーを受けることも多かった。
ただ、BKの選手のスキルセットは水準が高い。SOで主将の上ノ坊駿介や12番の和田雄翔、14番の平松麟太郎らは、1対1をスキルと体の強さで押し切れる選手たちだ。1人分でも外で人数が余っていれば、例えそこまでのアタックラインがシンプルだったとしても、前に出ることのできる強さを見せた。
多くの時間で、ポッドを使ったアタックは少し停滞する傾向にあった。ポッド内のパスオプション、ティップオンパスと呼ばれるようなパスオプションがそこまで見られなかったからだ。
このパスタイプがないポッドの場合、基本的にはラックやプレイメーカーからボールを受けた選手がそのままキャリーに持ち込むことになる。そうなると早大としてもどの選手がキャリーをしてくるかを絞ることができる。ダブルタックルがしやすくなり、そうでなくても、プレッシャーをかけやすい状況が生まれていた。
後半にかけて天理大は修正を加え、ポッド内のティップオンパス、ポッド外のスイベルパスといった下げるオプションを使い、相手ディフェンスの攻略を図っていた。早稲田のディフェンススキルも高く大きく崩すシーンは少なかったが、一定量の効果は得られていた。

一連のアタックの中で致命的だったのは、細かいハンドングエラーや判断ミスだ。例えばブレイクしそうなところでボールをこぼしてしまったり、裏に蹴ろうとしたキックが高く上がってマークをされた。もう少しのところでスコアに繋げられないポゼッションが存在した。キーになる場面でそういった要素が絡み、もったいなかった。
早大ディフェンスの動きに合わせたオプションがあれば、より効果的なアタックが見られたかもしれない。
早大はラックの近くから数えて3人目か4人目の選手が強いプレッシャーをかけてくる。その代わり、ラックに近い選手はそのエリアを守るため、あまり前に出ずに引いて守る傾向があった。その結果、前に出た選手と引いた選手の間に「縦のギャップ」が生まれていた。
例えば、そのスペースにSHが味方を呼び込んだり、SOから内に返すようなパスがあれば、効果的だったかもしれない。
〈キック戦略〉
天理大は、キックを起点としたトランジション、つまり、自分たちが蹴り込んだボールを相手がキャッチした後に崩されるシーンが多かった。
代表的な被スコア例としては前半31分の早大のSH、糸瀬真周のトライだ。FB矢崎由高のブレイクが、そのシーンを生み出した。
ここでは天理大が中途半端な距離感で蹴り込んでしまったキックに対し、矢崎が素晴らしいランニングラインを見せてトライをアシストした。
トライやピンチを招いたシーンで起きていたのは、天理大がパント系のキックを蹴った際、競り合うことも、良いプレッシャーをかけることもできない現象。また、キックを追いかけるチェイスラインが整っているわけでもなかった。
そのような状況は、矢崎やSO服部亮太のような、カウンター攻撃時に強みを発揮する選手にランの機会を作り出される。個々で相手を押さえるのではなく、連動し、網を張るようなチェイスラインを作りたかった。
またハイパント系のキックについて、しっかりと競り合える距離、20メートルに少し届かないくらいの距離であれば、再獲得できることもあった。早大側の競り合いが甘く、良いランナーがボールを再獲得、そのままブレイクしたシーンもあっただけに、そんなキックをもっと多くしたかった。
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それでは順番にスタッツについて見ていきたい。
天理大のポゼッション(アタック機会)は40回と、早大よりやや少ないくらいの数だった。両チームのポゼッション数の合計は84回。こちらも一般的な水準内で落ち着いていた。
ポゼッション、その獲得率は、天理大が少し上回ることができていた。獲得率は54.4パーセントと9パーセントほど上回っており、相手よりもボールを持つ時間が長いことが示された。
ポゼッション数が少ないのに獲得率で上回った理由として、1回のポゼッションあたりの継続時間の差が考えられる。天理大は平均28.1秒のポゼッションとなっており、早大より7秒ほど長かった。
敵陣22メートルライン内、つまり最もトライを取る確率が高くなるエリアに入った回数は、1試合通じて6回だった。約7回のポゼッションごとに1回の侵入といった割合で、もう少し高めたかっただろう。
ただ、6回の侵入に対して3回のトライというのは比率として悪くない。ペナルティキックを蹴り出した時のような「最初からゴール前に入ることができるポゼッション」だけではなく、中盤から崩して敵陣深くに入ることができたのは自信にしていいだろう。
キャリー、パス、キックの回数はそれぞれ130回/169回/26回となった。注目したいのはキャリーに対するパスの比率で、この数値は約1.3。大学レベルの一般的な水準が1.5あたりなので、キャリーに対するパスの回数は少ないといっていい。9シェイプといった、パスの少ない接点の作り方が影響しているのだろう。
反則は10回、ターンオーバーは6回。良い結果とは言えないが、致命的に悪かったわけでもない。ただ、起きた局面が痛かった。質的な判断にも関わってくるが、例えば前に出る勢い、モメンタムが出てきたシーンでのペナルティや、ブレイクしそうな場面でのハンドリングエラーなど、「つながっていれば」というシーンでのミスが目立った。
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天理大とは対照的に早大は、圧倒的なプレイメーカーである服部亮太と、日本代表の矢崎由高が躍動する試合となった。接点でももちろん互角に戦っていたが、2人の果たした役割は大きい。
ラインアウトなどのセットピースからは、12番で主将の野中健吾がフェイズの柱になる。
服部を経由するかどうかはその時のラインアウトの人数にもよるが、野中がボールを受け、その周囲にオプションとなるような形で、FW、13番の福島秀法が走り込むことで、いわゆるストライクフェーズを完結させていた。
福島は13番ではあるが、どちらかというと12番に近いようなワークレートを見せていた。エッジ方向に張るというよりは、ポッドに近いプレイングだった。FWの選手と組み合わせて使うことで効果を発揮し、FWの選手からの打点をずらすティップオンのような形でボールを受けていた。オフロードパスにも長けており、外方向で接点を作りながら外側へ選手を走らせる動きが効果的だった。
ポッドの人数は、中央に3人、2人のポッドを置いた1-3-2-2をある程度のベースにしているように見えた。10番の服部がその間を縫うように動くことでボールを供給し、アタックラインのバリエーションを増やしている。
タッチラインに近いエッジのエリアでラックができた時は、構造が変わってくる。このシーンからは4人の選手がポッドを作り、ラックから折り返して供給されるボールを受けている。ボールを受けた4人のポッドはそのままキャリーをしたり、ティップオンを使って接点をずらす。それによって、相手に対して有利な位置状況を作れていた。
早大の強みは、ゲインを繰り返すことで、相手ディフェンスを徐々に減らしていく攻撃的なアタックと、そのアタックを実現する服部のスキルにある。

服部は優れたランニングスキルを備えている。このスキルは縦方向に相手を抜く時にも有効活用されるが、同様に強さを発揮するのが、ラックからボールを供給される時のランニングの時だ。ボールを受ける前後で外に膨らむようなランニングコースを取ることが多い。
直線的なこともあれば、振り子のように動く時もある。いずれの場合でも服部は、横方向の動きで相手ディフェンスを切ることができていた。
その横方向の動きによって服部は、自分をカバーしている選手の一人外側の選手に対して仕掛けることができる。そうなると単純に外側の選手が服部を抑えなければならず、その結果として、少しずつディフェンス側のノミネート(相手を見る動き)をずらすことができる。
また早大は、ゲインを繰り返すことで相手ディフェンスを崩していた。接点で前に出ると、相手はそれを下がりながら、(ラックなどを)跨ぐように移動しなければならず、結果として、ディフェンスラインに乱れや遅れが出ていた。
その乱れに対してどんどんフラットにアタックをしていた。相手は前に出られず、自分たちは前に出る。そんな循環を作り出していた。
〈キック戦略〉
キック戦略を見ると、基本的には服部のキックによるエリアコントロールが効いていた。50/22キックといった、能動的にエリアを獲得することができる選択肢を取ることもできており、視野が広く、選択肢を残していたと言える。
服部が蹴り込むハイパントは、一般的な水準から比べると少し長い傾向にあるが、そのキック力で長い滞空時間を確保することで、味方も追いつくことができる状態を作っていた。
課題になる可能性があるキック種別としては、長い距離を蹴り込むキック後の対応などが挙げられる。
天理大が自分たちのハイパントを再獲得したシーンは、早大がキックを蹴り込んだ後、リターンのキックを蹴った時だった。早大のチェイスラインと裏に立つキック対応の選手の間に大きな空間ができていた。
チェイスラインに参加した早大の選手は後方での現象に対応できず、相手のキックに備える選手は深すぎてサポートに回ることができていなかった。
天理大とのコンテスト時、安定してハイパントを獲得できないシーンも見られた。準決勝までの2週間を使って修正していきたいところだ。
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早大についてもスタッツを確認していきたい。
ポゼッションは44回と、天理大を少し上回っていた。早い段階でキックを蹴り込むフェイズが多かったこともあり、1回のポゼッションあたりの所要時間は21.4秒となっている。相手よりも平均時間が短い中でも、コンパクトにトライを取ることによってスコアを伸ばしていた。
敵陣22メートル内に侵入した回数は試合通じて6回と、やや控えめな数値となっている。こちらに関しても、ある程度キックを主体にポゼッションを手放すような動きをしていたことも影響しているのだろう。敵陣深くに入る回数が少なくても、一つの大きなブレイクを有効活用してトライにまで繋げていた。
キャリー、パス、キックの回数は、94回/190回/26回。キャリーに対するパスの比率は天理大とは対照的に約2となっており、かなりパスを使って展開していたことがわかる。実際の試合の動きを見ても、単純に9シェイプを連続で当てるだけではなく、細かくプレイメーカーが位置取りを変えることにより、アタックにグラデーションを見せていた。
ターンオーバーが13回と、なかなかポゼッションを安定確保できなかったことは試合展開に影響したかもしれない。一方でペナルティは4回と、非常に良い規律で攻防をすることができていた。その精度を準決勝以降にもキープしていきたい。
◆まとめ。
準々決勝ともなると、単純な一発の強さよりも、「大学選手権という環境で、実力をいかに発揮するか」という点が重要になる。その点では、早大が苦戦しながらも実力を発揮したと言っていいだろう。
天理大は、キーになるシーンでのミスが痛かった。来シーズン以降に向け、この経験を活かしていきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
