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168センチの1年生WTB、信頼を集める。鬼頭慶[東海大]
2006年9月7日生まれの19歳。168センチ、74キロ。春日井ラグビースクール→今池中→中部大春日丘。東海大学体育学部1年。(撮影/松本かおり)

168センチの1年生WTB、信頼を集める。鬼頭慶[東海大]

田村一博

 今季開幕戦から11番を背負ったルーキーは、戦うステージがひとつ上に進んでも同じジャージーを着る。
 12月18日、2日後におこなわれる全国大学選手権、準々決勝4試合の出場予定選手が発表された。

 12月20日、ヤンマースタジアム長居で11時30分からおこなわれるのは、関東大学リーグ戦1部の優勝チーム・東海大と、関西大学Aリーグ3位、全国大学選手権の3回戦で慶大を40-36と破った京産大の一戦。
 リーグ戦を2季ぶりに制した東海大と、粘る慶大に逆転勝ちした京産大の争いは好ゲームが予想される。

 東海大の左WTBには鬼頭慶(きとう・けい)が入った。今季初戦の立正大戦(9月14日)から11月30日におこなわれた流経大戦まで、全7試合に先発出場した。
 5トライを挙げた1年生は、チームにとっての今季全国大会初戦、京産大戦でも同じジャージーを着る。信頼は厚い。

関東大学リーグ戦最終戦の流経大戦ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。仲間に祝福され、照れながらファンへの挨拶に向かう。(撮影/松本かおり)


 168センチ、74キロの小兵は、リーグ最終戦の流経大戦ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
 同賞の初めての受賞に本人は、「悪いプレーもいくつかあったと思いますが、自分の強みのスピードと、キックチェイスで相手にプレッシャーを与えました。いい面も発揮できたと思います」と控え目に喜んだ。

 初の秩父宮ラグビー場でのプレーだったと、目を輝かせた。
「チームの緊張感もいつもよりあったと思います」と体感を口にした19歳は、「ロッカールームから出て、通路からグラウンドに入ると、目の前がパーッと開けた感じでした。すごく気持ちよくプレーできて良かった」と初々しかった。

 リーグ戦優勝を決めたその流経大戦は10点を先行される苦しいスタートとなったが、鬼頭は「チームに焦りはなかった」と話した。
「自分たちのミスから失点したので、それをなくそう」と、シンプルに考えて声を掛け合った。

 鬼頭は派手な活躍はなかった。しかし、強みを出してプレーし、勝利に貢献した。
 起用されてきた理由の一つに、「小さい体ながら、片方の足にしがみついて離さない」(木村季由監督)粘りがある。それを実践する場面もあった。

 流経大の弾丸、NO8ティシレリ・ロケティに弾き飛ばされそうになったシーンに、まさに前述の動きが出る。
「ビッグなプレーはなかなかできないので、細かい要所要所のプレーを完璧にできるように、練習中から意識しています。ロケティさんへのあれ、よかったです」

流経大のNO8 ティシレリ・ロケティに低さで対抗。(撮影/松本かおり)


 愛知県出身。3歳で春日井ラグビースクールに入り、中学では今池中学校のラグビー部でプレーした。高校進学は京都成章を考えていたが、中部大春日丘の宮地真監督に熱心に誘われて決心がついた。

 同校では3年続けて花園の芝を踏んでいる。
 小柄ながら1年生の時から出場機会を得たのは、先輩の怪我で巡ってきたチャンスを掴んだからだ。「キックとスピードでアピールしました」と当時を思い出す。

 大学進学は当初、筑波大を志していた。しかし、最終的に東海大を選ぶ。
 2016年度の全国大学選手権決勝、東海大×帝京大は、東海大が序盤に大きくリードする展開だった(前半17分までに14-0)。最終的に26-33と敗れるも、青いジャージーに憧れた。その記憶が進路を決めた。
 いま、自分の選んだ道が間違いではなかったと感じている。

 ラグビーと並行して野球をしていた時期もあった。
 しつこいディフェンスと並ぶ、もう一つの武器、「小さいのにハイボールに強い」(木村監督)のも、その頃の経験が生きている。
「落下地点に入るはやさと、しっかり相手を見て、最高到達点で取ることを意識してやっていたら取れるようになりました。小4から小6まで野球をやっていたので、ボールの落下点にはやく入れる。跳躍力には自信があるので、相手より高く跳ぶ」

「他の人にない強みをなるべく探すようにしています。ハイボールキャッチは、その一つ。とにかく何度も練習しました」
 すべての試合で自分の持つ力を発揮することがプレータイムを得るための最善の道と考え、実行したことでいまがある。

東海大は、関東大学リーグ戦で2シーズンぶりの優勝。大学選手権でも、こんな写真を撮りたい。(撮影/松本かおり)


 初速と瞬時の加速で勝負する。50メートルを6秒ちょうどで走る。
 本来は右のWTBが得意も、逆サイドの3年生、パワフルさが強みのウェスリー・トンガの特性も考えて左を任されてきた。
「右パスが得意な人も多いので、よく外まで振ってもらえます。そこで(トライを)取り切るのが僕の仕事」
 リーグ戦では、左右にタイプの違うWTBを配置したことも、相手にとっては厄介だったようだ(京産大戦では正木空馬が14番。ウェスリー・トンガは23番)。

 流経大戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれて観客の前で挨拶をする時、照れて、「あまりうまく話せなかった」と頭を掻いた。
「あんな感じで僕、オドオドしていて、気が強いタイプではないんです。でも、試合ではどんどん喋っていきます。コミュニケーションなら、いつもチームに貢献できるので」

 童顔の小柄な走り屋は、なんだか応援したくなるタイプ。相手は、油断してはならない。




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