フル出場していたら、6つ目もあったかもしれない。
後半16分までの56分の間に5トライを奪った。関西学院大のNO8小林典大(てんた)が12月14日に花園ラグビー場でおこなわれた全国大学選手権の3回戦、対福岡工業大との試合で5回もトライラインを越えた。
53-21と完勝したその試合で小林はゲームキャプテンを務めた。
主将のPR中田偲響は怪我で欠場。ピッチに立つ選手たちに、スタンドから他の部員たちと熱烈な応援を送っていた。
小林は2人いる副将の一人(もう一人は武藤航生)。中田主将とは普段から仲が良く、いつもいろんなことを話す。
しかし今回、特別な言葉はなかった。小林は「いい意味で、全然気にかけてくれていない」と笑う。
「やってくれると信じてるから」の一言だけもらい、「気楽にプレーできました」という。
小林も足首に捻挫を抱え、約1か月ぶりの試合だった。
今季の関西大学リーグには4試合しか出場していない。最終戦の対近大は欠場し、11月16日の京産大戦以来の出場だった。

福岡工業大戦の小林は暴れ馬のように豪快に走り、相手を吹っ飛ばした。
1つ目のトライは前半12分。キックレシーブからフェーズを重ねて前進した仲間たちからのボールを左端で受け、目の前のスペースを走り切った。2つ目は25分。スクラムでPKを得ると、すぐにボールを手にして突進し、トライライン前のディフェンダーたちを置き去りにした。
36分にモールを押し切って3つ目。4つ目は前半終了のブザーが鳴る中で、チームのキックカウンターからの攻撃を仕上げた。
5トライ目は後半7分、ラインアウトから大きく左右にボールを動かす攻めの最後にパスを受けた。
トライシーンはフリーで走るシーンが多かった。本人も、「まずフォワードがゲイン。そのお陰で外が空き、バックスが信頼して僕にボールを渡してくれたから、しっかり取り切れた。チームとしてのトライです。そこがよかった」。
自らの得点シーンより、「自分の強みであるジャッカルもできた」と防御の局面を喜んだ。
小林の真骨頂はこの日、トライへと続くフェーズの途中に見せた爆発力に見られた。
コリジョンで全開。倒れてもまた、突き進んでチャンスを広げる。トライシーンはソフトでも、その前に暴れた。本人も、「自分のキャリーのあとにバックスがいいアタックをしてくれました」と話した。
2年生、3年生時は、関西大学リーグの全試合にフル出場したから、「メンバー外やバックアップメンバーの視点でチームを見たことがなかった」けれど、今季は外からチームを見る時間も長く、その結果、「チームを俯瞰して見ることができました」。
自分の内面の成長を呼んだ。

福岡工業大戦前の準備の間、仲間たちに「(準々決勝の相手)明治を意識せず、まず目の前の相手」と強調し、「フィジカルバトルで勝つ」と意識して準備を進めた。
過去3年間このチームで戦ってきて思うのは、「Aチームだけでなく、チーム全体が強い組織でないといけない」ということ。そうでないと最後まで勝ち抜けないと思っている。
そんな意識で過ごしてきて、次戦の明大戦に闘志を燃やす。積み上げてきたものの集大成を出す時だ。
チームは長い歴史の中で全国のトップ4となったことはない。次戦の勝利は、歴史を変えることを意味する。
FWが看板のチームとの決戦に気持ちが入る。
「U20(代表)で一緒だった最上太尊、利川桐生は同期で、いいライバルです。あいつらとやりあえるのは楽しみだし、(試合の鍵は)フォワード勝負になると思う。2人とのマッチアップもあるでしょう」
「僕が絶対に勝つ」と強気な言葉を口にした。
185センチ、106キロ。サイドを刈り上げた髪型もあり、ワイルドに映る風貌が、いかにも強そうだ。
U20日本代表やジュニア・ジャパン、JAPAN XVなども経験。大学卒業後は強豪でプレーを続ける予定。リーグワンでの活躍を認められて日本代表へ。その先にあるワールドカップにも出たい。
そんな未来へ突き進む前に、この3年間、ともに歩んできた仲間たちと少しでも長くプレーし続けたい。
キャプテンの中田だけでなく怪我でピッチに立てていない選手もいる。戦列に戻ってはいても、万全ではない選手もいる。
自らと重ね合わせて、「僕も怪我をしていました。でもいない間もチームはしっかり勝って、帰ってくる場所を作ってくれた。いまは逆の立場になったので、しっかり勝ち切ってベスト4まで行って、(怪我をしている)みんなが帰って来られる場所を作りたいですね」

精神面についても言及する。
「僕らはずっと、(どんな相手でも)チャレンジャーマインドで挑もうって言っています。ただ、確かにチャレンジャーではあるけど、2年前の帝京戦もそうでしたが、(強豪と戦う時は)どこかで、『ええ勝負できたらええな』とか、『どこまでやれるか試してみよう』のような気持ちがあったと思う。明治も対抗戦1位で、強いとは分かっていますが、倒さないといけない。僕らの目標はベスト4。相手をリスペクトしていますが、僕は、絶対に倒してやると思っています」
この人、馬力があり、バランス力も高いけれど、勝者となるために何より必要な闘争心にあふれている。
12月20日の14時5分、秩父宮ラグビー場。そこには殺気立った8番が立っている。