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ラグビー、そしてリーグワンに未来を感じてくれる人がここにいた。
そしてグリーンロケッツの魂が受け継がれることが決まった。
2025年12月11日は嬉しい日になった。
日本ラグビーを取り巻く環境の変化の中で先の展望を描くことが難しくなり、「自分たちが今後もチームのオーナーであり続けられるのか」と考えたNECがグリーンロケッツ東葛を譲渡する考えを表明したのが8月20日。
その日から約4か月が経ち、同チームの受け入れ先がJR東日本と決まった。
12月11日の夕刻に都内のホテルで開かれた記者会見では下記の3人が壇上に上がった。
東日本旅客鉄道株式会社 喜㔟陽一代表取締役社長
日本電気株式会社 森田隆之取締役代表執行役社長兼CEO
一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン 玉塚元一理事長

3人以外にもそれぞれから今回の契約締結発表会見で語られたことで明らかになった主なことをまとめ、下に羅列する。
□NECからJR東日本へのリーグワン正会員地位の譲渡(リーグワンに参加する資格をそのまま得られる)
□リーグワン2025-26 終了後の2026年7月からJR東日本が引き継ぐ。
□それ以降はJR東日本が正会員としてチームを保有・運営し、前シーズンの成績に基づくディビジョンに参加する。
□ホストエリア(東葛エリア)およびホストスタジアム(柏の葉公園総合競技場)、練習拠点(NEC我孫子グラウンド)等は、現体制から継承される予定。
□JR東日本グループでは野球部(東京と東北)、女子柔道部、秋田バスケットボール部、八王子ランニングチームが企業スポーツチームとして活躍しており、グリーンロケッツもそこに加わる。
□グリーンロケッツの選手、スタッフは現在と同等の実力を保有、リーグワンで戦っていくため、必要な戦力、人員は2026-27シーズン以降もチームの一員として求められる。その際、社員選手、プロ選手(外国人選手も含む)など、それぞれの立場に対応し、転籍、出向、現行の立場のままでのプレー続行など、個々に対応を進める方向性。
譲渡先探しは、リーグワンを通して多方面に打診し、興味を持った企業がいくつかあったようだ。その中で、地域社会への貢献とスポーツ振興に深い理解を示したJR東日本との協議を重ね、最終的に合意に至った。
鉄道とラグビーには深い歴史的なつながりがあり、2025年は、1925(大正 14)年に当時の鉄道省にラグビー部が創部して以来100年目にあたるそうだ。鉄道省ラグビー部を起源とするJRグループのラグビー部は大正時代末期から社会人ラグビーにおいて活動を続け、100年の歴史を刻んできた。
現在トップイーストリーグCに所属しているJR東日本レールウェイズは、国鉄・JRラグビーの歴史の系譜を継承し、仕事とラグビーを両立してきた。同チームの活動も続く。

譲渡会見の翌日、12月12日は、土曜日(同13日)に柏の葉で開催されるリーグワン2025-26のディビジョン2の開幕節の一戦、グリーンロケッツ×レッドハリケーンズ大阪の前取材のため、我孫子にあるグラウンドを訪ねた。
JR常磐線、天王台駅下車。駅のホームで名物、弥生軒の唐揚げそばを食べ、駅とNEC我孫子事業場を往復するバスに乗り込んでグラウンドへ向かう。長く続けてきたこの動きを、これからも続けられることが嬉しい。
チームは午前10時から試合前日のキャプテンズランをおこなった。前日の発表があったからだろうか。雰囲気が明るい。約1時間の練習を終えたLOパリパリ・パーキンソンに話を聞くと、「長いプレシーズンを過ごしたあとなので、ジャージーを着て戦えることが、私をはじめ全員が楽しみにしている。ベストパフォーマンスを出す。ベストエフォートを尽くします」とした。
グレッグ・クーパー ヘッドコーチは「常に相手にプレッシャーをかけ続けるラグビーをする」と、積み上げてきた自分たちのスタイルについて話した。
チームの人気者、PR瀧澤直は別メニューでトレーニングしていた。
「年齢、在籍年数(39歳。2010年度から在籍)とも圧倒的にいちばん上になりました」と笑うベテランPR。同選手は今季、グリーンロケッツがコントロールする環境下では登録名を『タッキー』とすることを先日発表した。ホストスタジアム、柏の葉公園総合競技場での選手登録名やホームページでの表記、グッズをカタカナ4文字にする。
「数年前から考えていました。年齢的にも来年やればいいか、っていう歳でもなくなったし、チームもなくなるかも……ってことで、よし、やろうと」
ちょっとしたブラックジョークを挟んでも、この人が言うと笑って話せる。愛される理由がよく分かる。

12月13日の開幕戦はレッドハリケーンズ大阪をホストスタジアムに迎えての試合。シーズン初戦から「1番、タッキー!」のコールを柏の葉に響かせるチャンスだったが、首や膝、踵が万全ではなく、今回は23人の試合出場メンバーには入れなかった。
前日の譲渡先決定のことを話題にすると表情を崩した。
「詳細はまだ分かりませんが感謝ですね。いろんなことを知りたいところですが、とりあえず喜んでいいのかな、と。ホッとしました」
歴史あるチームが消滅するかもしれなかった。
「先輩たちにも申し訳なさはあったんです。でもこれで、チーム名も変わりますし、会社も変わりますが、チームの遺伝子というかアイデンティティは、この我孫子に残り続ける。(NECの名が消える)寂しさは少なからずあるでしょうが、先輩たちが帰る場所を残せたのはよかった」
「ファンの人たちにも顔向けできる。応援してください、応援してください、とお願いしてきたのに、チームがなくなるというのは申し訳なく思っていました。
そして若い選手たちにとっても本当に良かった。もちろん実力の世界なので全員そのまま(来年もプレーできる)か分かりませんが、チャンスが残せたことは嬉しいですよね」
チームの置かれている状況が不安定なのは薄々感じていた。
その中で6月からトレーニングが始まった。今季こそいい結果を残せよ、と言われている気がしたが、8月にチーム譲渡の判断が伝えられる。「え、今シーズンまで待ってくれないのか」と感じた。
長くチームにいる。会社からの支援に感謝しているし、サポートに応えて体を張ってきた。アメリカのメジャーリーグラグビーやニュージーランドでもプレーし、グリーンロケッツを主将として牽引したこともある。いろんな思い出が詰まっている。たくさんの足跡を残してきた。

「(譲渡の判断をした時には)なんだよ、と少なからず思いました。でも、会社の判断は僕たちにはコントロールできないので仕方ない。自分たちが、そういう判断をせざるを得ない結果を残してしまったとも思いましたし」
いろんなことを考えた数か月だった。チームが終わるなら、自分もこのチームとともにプレーヤーとしての生活を終えようと思っていた。
しかし道が続くことになって、新しい歴史を作るチームに関わっていく楽しみも頭の中に浮かぶ。その前に、タッキーの名を呼ぶアナウンスが柏の葉に響く瞬間を「一度は実現させたいですね」。
JR東日本が譲渡先と世間にアナウンスされた時間の少し前、選手たちは、その事実を我孫子のクラブハウスで知らされた。
その知らせを聞いた瞬間、集められていた選手たちは淡々としていたそうだ。ただ、続いておこなわれたミーティングも終わり、立ち上がるとそれぞれが笑顔になり、選手同士、いろんな話をし始めた。
11月にリーグワンから退会期限の延期が発表され、いい流れがあるとは感じていたけれど不安は残ったままだった。やっと重苦しい空気が解けた。
もうすぐ34歳、2014年度からチームに在籍している後藤輝也は社員選手として長く活躍してきた選手だ。2016年のリオ五輪で4位となったセブンズ代表の一員だったWTBは、今季開幕戦でも14番を背負う。
そのベテランは、譲渡先決定を聞いた時、自分がまだプレーできることより、「チームが続くことが嬉しかった」と話した。
「JR東日本さんと聞き、立派な会社で、おおっと。モヤモヤがなくなって、すっきりしました」
来季以降も相手を抜き去るクールな姿を見ることができそうだ。

開幕戦でゲームキャプテンを務めるFL亀井亮依も2017年度から在籍する生え抜きの選手だ。シーズンが始まる2日前に譲渡先決定の報を受けて「ポジティブな結果をもらいました」。レッドハリケーンズ大阪戦に向けて「良い準備はできているので楽しみです」と語り、ワクワクしている胸の内を伝えた。
昨季の陣容から強力なペネトレーターがいなくなった。しかし亀井は、「(グレッグ・クーパー)ヘッドコーチも言っていますが、(強力な)タレントはいなくてもハードワークするのがこのチーム。それが自分たちらしさだと思っています。自分がその先頭に立って引っ張りたいですね」と言い切る。
6月下旬から、その時点で契約している外国人選手も含め全員で練習を重ねてきた。その成果をピッチ上ですべて出し切る。
JR東日本との縁がまとまったことについては、「ホッとした」と表情を和らげた。
「歴史あるチームが残る。そして特に若い選手たちにとってよかった。まだまだやれるし、これから、という年代が、ラグビーに集中できる状況になった」と後輩たちのことを気にかけた。
自分自身については、「プロ選手としてやらせていただいているので、(どんな状況でも)常にプレーにフォーカスすることに変わりはありません」と前置きして、チームが揺れる中でも次の行き先を考えるわけでもなく、「出し切ろう。その結果、(チームの行方がどうなろうと)いい結果に転がればいいかな、と考えていました」という。

亀井は、開幕戦で20番のジャージー、出場すればグリーンロケッツ初キャップとなる森山雄太の成長に目を見張る。
「プレシーズンでのプレータイムも増え、すごくよくなった。同じポジションで切磋琢磨してきました。お互い持ち味も違います。一緒にプレーできたらいいですね」
そう評価される森山は2023-24シーズンの途中にアーリーエントリーで明大からチームに加わるも、これまで出場機会がなかった。準備はできていても出番がない状況に悶々とした時期もあったが、独自のトレーニング実施、ポジティブ思考への切り替えにより、自信を積み重ねたという。
「プレシーズンの試合では、自分が得意なプレー、コンタクトを活かせるボールキャリーやタックルできる状況を自分から見つけにいくことを意識しました。そうやって自信をつけていった感じです」
昨季出場機会がない中、チームは譲渡の意思を示した。もし、グリーンロケッツがなくなったら、リーグワンでの実績を残せていない自分はプレーの場を失う。そんな思いもあり、「今シーズンはやんなきゃ、と力が入っていた」という。
そんな中で譲渡先が決まり、その知らせを受けた。みんなそれを静かに聞き入れていたが、「おそらくみんな、心の中でヨッシャー、という感じだったと思います。僕はそうでした」。
柏の葉での開幕戦は寒い中での試合となりそうだ。
しかし、全員が燃えている。みんながグリーンのジャージーを見ている。
熱い一日になる。