logo
【明大 25-19 早大】紫紺が5季ぶりの対抗戦王者に。「本当はトライ」にも切り替え、FW奮闘。
勝利の瞬間。明大SO伊藤龍之介が喜びを爆発させる。(撮影/松本かおり)

【明大 25-19 早大】紫紺が5季ぶりの対抗戦王者に。「本当はトライ」にも切り替え、FW奮闘。

田村一博

 3万9084人が詰めかけた国立競技場は何度も沸いた。
 早大は前半18分にエースのFB矢崎由高が先制トライを挙げ、明大は3トライのうち2トライをFWでゴール前に迫り、背番号6の最上太尊(もがみ・たいそん)がボールをトライラインの向こう側に置いた。

 12月7日におこなわれた関東大学対抗戦Aの今季最終戦、早大×明大は、25-19で明大が勝った。
 その結果、明大は5年ぶりに対抗戦Aの優勝となり、敗れた早大は3位となった(他に2位の筑波大、4位の帝京大、5位の慶大が全国大学選手権に出場)。
 また、今回が101回目だった両校の通算成績は明大の43勝、早大の56勝、2引き分けとなった。

明大6番、最上太尊が挙げた前半31分のトライ。仲間が駆け寄り、祝福。(撮影/松本かおり)


 勝った明大は、FWとディフェンスで強みを発揮して勝利を得た。
 前半18分、早大にラインアウトから攻められ、BKのアタックからFB矢崎を止められず走り切られたものの、許したトライはその1つだけ。早大BKに振り回されて崩されかけたり、自陣深い位置まで攻め込まれるも、よく粘った。

 プライドを持つスクラムこそ思うように組めず、そこで圧力をかけることはできなかった。
 しかし、FWが何度でも接点に前に出て、ゴール前へ行けば攻め切る力を出した。BKではSO伊藤龍之介がうまくゲームを作り、防御ラインもよく前に出た。CTB平翔太主将も2G2PGと安定感があった。

 前半31分、FL最上のトライ、CTB平のGで10-10とした明大は、後半の立ち上がりに早大に攻め込まれ、FB矢崎にインゴールに入られるもオブストラクションでピンチを逃れた。
 そしてその直後、早大陣でSO服部亮太のキックをPR田代大介がチャージ。弾んだボールをCTB東海隼がつかみ、トライとしたのが大きかった(15-10)。

明大主将、CTB平翔太がタックルを受けながらも前進。チームに勢いを与えた。(撮影/松本かおり)
早大CTB野中健吾主将は正確なキックで明大との差を詰め続けた。(撮影/松本かおり)


 明大・平主将が1PG、早大・野中健吾主将が2PGを決めて18-16となって迎えた後半26分あたりから、紫紺のジャージーは早大陣深くに入った。
 PGを決められた後のリスタートのキックオフ後、明大はしばらく敵陣で過ごす。相手SO服部に精一杯の圧力をかけ続けたことが実った。

 後半27分過ぎにFB古賀龍人がパスをファンブルしながらもボールを保持し続け、インゴールに持ち込んだプレーはレフリーのホイッスルが鳴り、認められなかったものの、31分には最上がトライを奪って(ゴールも決まり)25-16とした。
 ラインアウト後のモールをそのまま押し込むことはできなかったが、最上はすぐに左にボールを持ち出して腕を伸ばし、試合を決定づける5点を追加した。

 早大は後半35分にPGを決めてスコアを6点差に詰めるも、最後の猛攻も届かなかった。
 1G4PGと14得点を挙げるも勝利できなかった野中主将は試合後、「負けてしまいましたが、(シーズンは)まだ終わっていないので、残り(の大学選手権の試合)を勝つだけ。荒ぶるまで一戦一戦、チーム一丸となって戦っていきたい」と悔しさを飲み込んだ。

 大田尾竜彦監督は、春季大会で12-45と敗れたところから差を詰めた選手たちを「よく戦った。成長を感じた」と称え、伍すことができた理由を「スクラムの安定とブレイクダウン(の激しさ)」とした。
 その一方で、「やや硬いゲームになってしまった」とした。

早大はスクラムで優位に立ち、明大のコラプシングを誘うことも少なくなかった。写真は早大NO8粟飯原謙の咆哮。(撮影/松本かおり)
大学選手権を勝ち抜くためにはスクラムの再整備が求められる明大。フロントローの左から山口匠、西野帆平、田代大介。(撮影/松本かおり)


 キックの蹴り合いに付き合うシーンが少なくなかったことに理解は示すも、「判断の中で、いけるところはもう少し思い切って、大胆に攻めてもよかった。ハーフタイムでは(後半はもっと)強気に、と指示しました」と話した。

『たられば』の話と前置きした上で、「トライを取り切っていたら、というシーンはいくつもありました。そこまで(崩しかけてトライ寸前というシーンを何度か作れる力はついている状態に)はきている。(この先は)そういったシーンの回数をいかに増やせるか。スクラムもラインアウトもよくやっているので、そこをベースにもっとアグレッシブなゲームをしていきたい」と、大学選手権に向けての展望を口にした。

 明大の平主将は、「1週間チーム全員で準備してきたことを体現できてよかった。ただ(目指すところへの)通過点。切り替えて、選手権、日本一に向けて頑張っていきたい」と落ち着いていた。

 後半27分過ぎのFB古賀のトライが認められなかったシーンについては、「レフリーに確認したところ、あれは本当はトライ、と」と明かし、会見場の空気を和ませた。
 リーグワンでは試合中に何度もあるTMO(テレビ・マッチ・オフィシャル)での確認に「またかよ」と思うファンも、この日はTMOがあれば……と感じたことも多かったかもしれない。
 しかし、結果的に勝ったから笑顔で「あれは本当は〜」と言えるにせよ、学生ラグビーは大らかでいいな、と感じるやりとりだった。

早大SO服部亮太はロングキックと積極的な仕掛けでスタンドを沸かせた。(撮影/松本かおり)


 2トライを挙げたFL最上は、前半31分にFWで攻め込み、最後に自分が防御に割って入って挙げたトライについて、「(全員で)一丸となって取れたトライなので、チームのトライだと思っています」と振り返った。
 後半に腕を伸ばして決めたトライについては(31分)、「いけると思って(前へ)出ました。取り切る気持ちでした」とした。

 10-10で迎えたハーフタイム、ロッカールームで「絶対に勝つと信じて、自分たちがやってきたことをやり切ろう」と話したという。
 相手がPGを重ねて追ってきても、「最後に自分たちが1点でも上回っていればいいんだ」と落ち着いてプレーし続けた。

 父がボクシングの元ヘビー級世界王者、マイク・タイソンが好きだったことで、太尊(たいそん)と名付けられた。
 秋田の出身。小1から小6まで相撲に打ち込み、小4時には県の王者にもなった。将軍野中でラグビーを始め、仙台育英を経て明大ラグビー部の一員となった。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた明大FL最上太尊。(撮影/松本かおり)


 以前はボールキャリーの強さを前面に出すプレーヤーだった。しかし、神鳥裕之監督は、「高校時代は相手を吹っ飛ばすプレーをしていました。しかし大学に入ってオフ・ザ・ボールの動きを高める努力を重ねてくれた。今日も(相手SOの)服部くんに対してキックプレッシャーをかけていました。献身的な努力がきょうのトライにもつながったと思います」と愛でた。
 本人もフィジカルだけで勝負するのではなく、ボールを手にしていない時の動きを意識するようになったことでプレーの幅が広がったと感じている。

 4年生。紫紺のジャージーで頂点に立って卒業したい。「(21-17と勝った)帝京大戦に続いていいクォリティを出せた」という早明戦での勝利により、「フォワードで取り切れる自信をあらためて得られた」と充実を感じている。

 初戦の筑波大戦に敗れ、始まった今シーズン。「何度もミーティングを重ねました。それで、どんな展開にも対応できるようになった」と手応えがある。
 残り1か月。「明治が一番大事にしているプライド」と言い切る「前へ」を貫くつもりでいる。

ゲームをうまくコントロールした明大SO伊藤龍之介が外にボールを蹴り出し、明大に歓喜の瞬間が訪れた。(撮影/松本かおり)
5季ぶりに関東大学対抗戦を制した明大。大学日本一を目指す。(撮影/松本かおり)


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら