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ウェールズ戦がおこなわれたカーディフからジョージアの首都、トビリシへの移動は、一度、ロンドンのヒースロー空港に行くしかなかった。
カーディフや近隣のグロスター空港出発となると、乗り換え便となり、時間も金額もかさむものしかなかった。
ヒースローからだと直行便があり、5時間ほどで着く。午後9時30分前に発ち、トリビシには午前6時頃到着。ロンドンとトビリシの間には4時間の時差がある。
飛行機は日本代表の選手、スタッフと一緒だった。左3席、通路を挟んで右3席×37列というコンパクトな便に大男たちがギュウギュウ詰め。古い機体でそれぞれの席にはモニターもなかった。
選手たちは時々トイレ前の小さなスペースで軽く体をほぐしていた。毎週末の試合、日々のハードトレと深夜の移動。ツアーも終盤だ。一人ひとり疲労が蓄積しているだろう。

早朝のトビリシの空港は、日本代表関係者は別として閑散としていた。一般客数よりタクシーの呼び込みの方が多いぐらいだ。何度も声をかけてくる。
悪質なケースもあるそうなので、「友だちが迎えに来る」と嘘をついて危機回避。現地のSIMカードを購入(1か月プランからしか売っていなかったが、データ量使い放題で約3500円)、余っていたポンドを現地通過の『ラリ』(1ラリ=約57円)に変えて路線バスに乗って市街地へ向かう。
ジョージアは広大な国と勝手に思い込んでいた。実は国土面積は7万平方キロメートルと日本の5分の1程度しかない。そこに370万人が暮らしており、そのうち約120万人がトビリシで生活しているそうだ。
バス内やバス停の表示などはジョージア語(英語表記もあるがメインはジョージア語)のため理解できないから、Googleマップの位置情報と睨めっこしながらでないと、降りるバスストップを逃してしまう(iPhone標準のマップ機能は使えない)。なんとかフリーダム広場にたどり着き、予約しておいた宿泊先を見つけ出した。
嬉しいことに、トビリシは物価が安い。バス料金は1時間弱乗っても90円前後の運賃(クレジットカ―ドのタッチ乗車可)。ビールは地元のものなら1パイントほどで300円台。ロンドン、ダブリンよりカーディフの物価が安くて喜んでいたが、さらに半分以下になって嬉しい。
やっと空腹の時間が減りそうだ。

土曜夜に試合を戦い、日曜の深夜便でジョージア入りした日本代表は、到着した日の午後に軽くジムなどで体を動かし、サウナも使ってコンディションを整えたようだ。
グラウンドに出てのジョージアでの初練習は火曜の午後(11月18日)。ジョージア代表や年代別代表、準代表と言っていいブラックライオンが強化拠点としているスタジアムでおこなわれた。天然芝のスタンド付きスタジアムの脇に、人工芝のグラウンドが併設されている。
日本代表は2時間弱のトレーニング。怪我などでツアーから離脱する選手も増えているからか、先週よりはコンタクト練習のボリュームが減った。一方で、特にFWはブレイクダウンへの入り方やモール対策を入念にチェック。パワーあるジョージアから勝利を得る準備を進めていた。
練習後には、先のウェールズ戦で初キャップを得たPR古畑翔、WTB植田和磨と話した。ともに後半37分からの出場とピッチに立つ時間は少なかったけれど、アウェーの地で大歓声を受け、逆転負けの悔しさも味わった。
次のジョージア戦で出場機会があれば、ふたりともウェールズ戦で得た体感を活かしてプレーするだろう。

古畑は「出られたのは嬉しいですし、あそこに立てたのは今後につながるいい経験になった」としながらも、「試合の展開的に最後、相手が逆転しようと勢いをかけてくる時間でした。その中で、短い時間だけど自分のパフォーマンスを上げないといけなかったのに出せずに終わりました」と3分間を悔やんだ。
相手が必死で押してくるモールに全力で対応した。
止まった感覚はあったが、そこから再度、ずらしながら前に出てくる動きに対応できなかった。
自分の武器であるスクラムを組む機会はなかった。今回のツアーで、南アフリカ、アイルランドの強力パックを目の当たりにしていたから、それを自分も体感したかった。
テストマッチ出場こそウェールズ戦まで待たなければいけなかったが、JAPAN XVでのオーストラリアA戦や香港代表戦での実戦、毎日のトレーニングで自分が成長しているのは感じている。
スコッド内や対戦相手と、いろんなタイプのトイメンとスクラムを組む。オールブラックスとして108キャップを持つアシスタントコーチ、オーウェン・フランクスが気づいたことを言ってくれる。その環境で得たものは大きい。
例えば、「芝GO」(膝が芝すれすれになるように低く)で低さへの意識が高まった。個人的な癖の矯正もある。
「ヒットしたあと、肘をおろし気味だったんです。それが崩れる原因になっていた。オーウェンが、そういうところまで気づいて、小さなところまで見直す機会を与えてもらいました」
リーグワン2024-25の出場は4試合だけ。その中で自分を見つけ、代表チームに呼んでくれたチームに感謝する。限られた出場機会と理解し、出る時にはしっかりアピールしようと準備していたことが生きた。
アタッキングに組むスクラムが評価されている。その一方で、相手に柔軟に対応できる力もある。トイメンを分析し、ファーストスクラムから押していくことを理想とする。

ジョージアはスクラムの国。出場機会を得たなら、「相手が強いのは分かっていますが、押されるとか考えず、とにかく自分たちが押すマインドで組みます」。
たくましい下半身はワールドクラス。この12月には29歳。地道に積み上げてきたものを出し切る。
同じく12月生まれ。こちらは22歳で初キャップを得たWTB植田は、ウェールズ戦への出場を「光栄でした。幼い頃から夢見てきた日本代表でプレーできたことを誇りに思いますし、あの場に立てて嬉しかった。ただ、何か爪痕を残したかったけど何もできず、逆転を許してしまった。インパクトプレーヤーとしては改善が必要」と回想した。
ボールタッチはなかった。タックル2発。先発の石田吉平が怪我で外に出て急遽出動となった。
準備はできていたが、あの短い時間では自分の強みを出すのは難しかった。しかし、「もっと長い時間出ることになった時のことを考えたら、すぐに力を出せるようにしないといけない」と話す。
実はヒーローになれそうなシーンがあった。ピッチに入ってすぐ、敵陣でのプレー。SH齋藤直人がラックから出たボールを22メートルライン内にキック。それを追った。
「来た、と思いました。蹴った直人さんに反応した形で走りました」
あそこでボールが跳ね上がるか、もう少し内側だったら勝利を決定づけるトライにできたかもしれない。
しかし楕円球は転がり、外へ出た。
セブンズ代表キャップ6を持ち、2024年のパリ五輪にも出場。大きな舞台で、世界のトッププレーヤーたちとやり合った経験はいまに生きる。五輪ではアイルランド、ニュージーランド、南アフリカと同じグループだった。
しかし五輪の舞台、スタッド・ド・フランスも満員だったけれど、今回のプリンシパリティスタジアムの雰囲気はまったく違ったという。
「今回は声援でアウェー感が凄かった。特に国歌の時の雰囲気は特別でした」
でも萎縮せず燃えた。「やったるぞ。ひっくり返そう。そんな気持ちがみんなにあったと思います」。

7月のウェールズ来日時のスコッドには入っていたが、その後、スコッドから離れた。
その間、コベルコ神戸スティーラーズに戻った。ジョーンズHCからもらった「もっと体を大きく」の指示に従い、出社前などの時間も使ってトレーニング。体を鍛え続けてたくましさを増し、今ツアーから代表に戻った。
強みはランプレー。相手との間合いをうまく使い、スピードある走り、そして強さを出してプレーする。世界相手にチャレンジしていく気持ちは強い。ジョージア戦への出場が叶ったら、「相手にはWTB、FBと、いい選手がいます。そこに対してどれだけファイトできるか。(キック後の)コンテストボールに対しても、アタック時、レシーブ時ともしっかりキャッチしてチームを勢いづけたい」
トビリシは天気がいい。アイルランドやカーディフより気温は高く、穏やかな毎日。ラグビーをプレーするにはいい環境。試合がおこなわれる11月22日は、気温18度、降水確率0パーセントとなっている。
古畑のスパイクのポイントがしっかり芝を噛み、植田が地面を強く蹴って走ることができる条件は整いそうだ。